オフィス移転で「昭和」を持ち込む!?地方中小企業のジェンダー観と働き方改革の難しさ

今回は人気Webライター、マダムユキさんに『地方企業に根強く残る“昭和的価値観”と、それが働き方改革やジェンダー平等にどう影響しているか』をテーマに特別寄稿して頂いたコラムの掲載です。

「ユキの新しい勤め先って、どんな会社?」
「どんなって、どこにでもある地方の中小企業だよ。古い」
「古いの?」
「うん、古いよ。色んな意味で。まあ、地方の中小企業はそんなところばっかりだから。考え方もシステムも、何もかもが古いことを含めて、地方ではごく普通の会社かな」

天王洲にあるブルワリーレストランのテラス席は、海をわたる風が気持ちよかった。クラフトビールも美味しい。食べ物の分け前をもらおうと、さっきから人懐っこいスズメが一羽、テーブルの上をウロチョロしている。

「景色いいね。天王洲がこんなにオシャレな街になってるって知らなかった。私たちが大学生だった頃は、まだ何もなかったのにね」
「そうねー。今じゃすっかりデートスポットだよ。オシャレなお店や施設が色々あるし、景色も綺麗だし」

デートスポットと言われて周りに目をやると、確かに女二人で海辺のテラス席に陣取っているのは私たちくらいで、ほとんどの客は若いカップルだ。ついでに店のスタッフも若い子ばかりで、視界の中の平均年齢が若い。
高齢者比率の高い地方に住んでいる私には、まるで別世界みたいな景色である。

スズメにサラダのクスクスを分け与えながら、大学時代の同級生である私とマユミは、お互いの近況を報告しあった。

「ユキの今度の仕事は、東京に来ることが多いの?」
「そうね、営業職だから出張がある。と言っても、小さい会社だから業務は限定されてないの。要するに、何でもやらなきゃいけないのよ」
「へぇ、でもいいよね。この年齢で正社員として採用されて、新しいチャレンジができるんでしょ?」
「はは。今や地方は人がいなさすぎて、多少歳を取ってても、正社員として就職すること自体は難しくないんだよ。どこの会社も、いくら募集しても応募がなくて、困ってるところばかりなんだから」
「へぇー、いいね。うちらの世代ってさ、就職に苦労したじゃん。こっちでは、ずっと非正規の仕事にしか就けなくて、キャリアがない。結婚もできない。子供もいないまま歳をとって、自己肯定感がめっちゃ低い同世代の女子がいっぱい居るよ」
「そうなの? 私が住んでいる地域では、本人が望んで非正規の仕事を続けてたり、フリーランスで働いてる人は居るけどね。地方って高齢化が進んでるせいで、アラフィフになってもまだ若者扱いだし、スキル不足の労働者が多いから、私レベルでもシゴデキ扱いしてもらえる」
「羨ましい。めっちゃ自己肯定感が上がりそう」
「非正規だろうと都会で働き続けてきた人なら、田舎の平均レベルの労働者よりスキルもスペックも高そうだよね。
今からでも正社員になりたい人は、地方に来ればいいのに。歓迎してもらえるよ。
ただし、住むところと仕事には困らない代わりに、出かけるところは無いけど」

地方の暮らしでは、休日に出かける場所はイオンしかない。わけではないが、まともな商業施設はイオンくらいしかない。アウトドアや家庭菜園が趣味なら問題ないけれど、文化的刺激には乏しい生活となる。

「あと、都会でずっと生きてきた人が田舎に来ると、文化の違いに驚いちゃうかも」
「文化って?」
「私の就職先、古い会社だって言ったじゃん? 実はね、いまだに女子社員がお茶汲みさせられてるの」
「嘘っ! 何それ?」
「一般職も総合職も関係なくて、来客時に女子社員だけがやらされてる。
お茶なんてさ、お客さんを呼んだ本人がペットボトル渡せばいいじゃん? 実際、田舎の会社でもコロナをキッカケに来客用のお茶はペットボトルに変えたところが多いのに、うちの会社はいまだに急須でお茶を淹れてるの。ヤバイよね?」
「え? は? 何時代なの?」
「いまだに昭和を引きずってるんだって。もっと驚くことを教えてあげようか?
なんと、うちの会社では女子社員だけが、お客さんが来ると全員起立して、『いらっしゃいませ』って言ってお辞儀をして、お客さんが帰る時にも起立して、『ありがとうございました』って言いながら、又お辞儀をしないといけないんだよ」
「はぁ〜〜〜〜???!!! やだ、ちょっと、ヤバすぎ。 ユキの勤めてる会社って、SDG’s知ってるの?」
「知ってるどころか、SDG’s認定証とってるよ。ウケるでしょ?」
「そうなの? それなのに、そんなヤバイことやってるの? マジで?」

そうなのだ。これが普通の反応だろう。来客が来るたびに、いちいち多忙な社員たちに業務の手を止めさせて、起立させ、挨拶とお辞儀をさせているだけでも十分ヤバイ。
業務の効率化と合理化を求める時代に、来客対応で社員の集中力を途切れさせ、本来やるべき仕事に注力させないのだから。

しかも、それを女子社員だけに課しているとあっては、SDG’sの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の観点から見ても、完全にアウトである。

「私が居る部署は奥まった場所にあって、お客さんの出入りが分からないから、今のところ私は挨拶対応やってない。
けど、年内にオフィス移転の話が出てるの。移転先のオフィスは、女子社員全員がお客さんと顔を合わせる作りにするんだって。だから、移転後は私も立ち上がって挨拶するよう言われてる」
「全力で断りなよ! 今の時代にそんなことさせるのおかしいって、ちゃんと言わなきゃダメじゃん!」
「そうなんだけど、社長夫妻は『うちの女子社員たちの来客対応は素晴らしい。時代が変わっても、絶対に守っていかなきゃならない我が社の美風だ』って、真顔で言ってんだよ。
そんなズレた人たちに、ジェンダー平等から説明しなくちゃいけないのがダルすぎてさ…」
「なんでそんなことになってるの? その社長夫婦に、誰も『ヤバイですよ』って教えてあげないの? 挨拶されるお客さんたちの方では『この会社ヤベー』って、きっと内心ドン引きしてると思うよ」

都会の感覚では、そうだろう。けれど、田舎は違うのだ。令和になってもまだ昭和を引きずっている地方の企業は、残念ながら珍しくない。

「何でそんなことになってしまうかと言うと、褒められるからなのよ。
経営コンサルしてる東京の知り合いが言ってたけど、地方の企業を訪問すると、社員を起立させて、来客に挨拶させる軍隊みたいな会社って、今でも結構あるんだって。
そういう会社に行くと、『いやぁ、社長。御社は社員教育が行き届いてますねー。流石です!』って、とりあえず褒めちぎっとくって言ってた。田舎の社長はそういうところを褒めてあげると、めっちゃ得意げになって、喜ぶんだってさ。
もちろん、『やっべぇな、この会社』って、心の中ではドン引きしてるそうだけどね。そういうコンサルや取引先のおべんちゃらを真に受けてしまう、ナイーブな経営者が田舎には多いんだよ」

私の説明を聞いて、マユミは大袈裟にため息をついた。

「そういうコンサルって戦犯だから。ホント許せない。
そういう奴らがそんなことをするせいで、私ら女性がいつまでも割を食うのよ。戦っても戦っても、台無しにされちゃう」

東京生まれで東京育ち。そして、大企業の第一線で働いてきたマユミの言うことは、もっともだ。けれど、そうした「もっとも」な理屈が通用しない場所で私は生きており、もはや「戦う」よりも「諦める」方が簡単だと思える年齢になってしまった。

それに、昭和な社風を変えようと立ち上がるよりも、若い労働者に見限られて、会社が倒産するか、変わらざるを得なくなるのを待つ方が早いのだ。

せっかくオフィスを移転するのに、それを機に効率的で合理的な働き方を目指すどころか、古い因習を守らせるために動線を改悪するような会社が、令和の若者に選ばれるわけがない。
そもそも、地元では優良企業と目される会社でさえそんな有様だから、若者たちは都会を目指し、先を争うように出ていってしまうのである。
新陳代謝できなくなった地方の企業は、もはや寿命が尽きるまでいくばくもないだろう。

「 会社がつぶれちゃったら、困らないの?」
「困らないよ。さっきも言ったけど、田舎は人手不足が極まってるから、仕事はいくらでもあるもの」
「こっちとは別世界だね」
「そうだね。どんなことになるか報告するから、またこうして飲もうよ」

太陽が沈むと、空気が冷えて肌寒さが増してきた。ビールを飲みすぎると体が冷えてしまいそうだ。
お腹がいっぱいになったのか、クスクスを食べ残して、スズメは飛び去ってしまった。

この記事を書いた人

マダムユキ

note作家 & ライター
https://note.com/flat9_yuki

※本稿は筆者の主観的判断及び現場観察に基づく主張であり、すべての読者に対して普遍的な真実を保証するものではありません。


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そしきLab編集部

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