オフィスの影響力を最大限に!クリエイティブな働き方をサポートするインテリア戦略

オフィスはそこで働く人に身体的、心理的な影響を与えます。
意識するしないにかかわらず、その影響は積み重なり、大きなものとなっていきます。

知的生産性が重視される現在、企業の経営戦略のひとつとして、知的創造を誘発する「クリエイティブオフィス」が注目されています。

クリエイティブな働き方を支えるオフィス・インテリアとはどのようなものでしょうか。

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※AIで作成しているため、読み上げ内容に一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。

オフィスは人の行動を変化させる

オフィス研究者の仲隆介氏は、
これからのオフィスを考える際のキーワードは「知的生産性」だと指摘しています。*1

知的生産性とは、主にオフィスで行われる知的作業の効率を表す概念です。
仲氏はなぜ知的生産性をキーワードだと考えているのでしょうか。
2つの事例をみながら考えていきましょう。

同じ人が同じ組織で働いても

仲氏はかつて、3つの係をもつ部門の部長から、係と係の間のインタラクション(相互作用、交流)を活性化したいという依頼を受けたことがあります。
多様な人とのコミュニケーションは組織の知的生産性に影響を与える重要な要素だからです。

そこでオフィス環境を変え、その前後で「係の中だけのコミュニケーション」と「係を超えたコミュニケーション」の割合を比較するという実験をしました。

すると、オフィス環境を変える前と後とでは、係内と係間のコミュニケーション比率が8:2から6:4に変化したというのです。
同じ人たちが同じ組織構成でこれまでと同じように働いているにもかかわらず、です。

「トイ・ストーリー」のアイコンがイノベーションの種に

もう1つの事例をみてみましょう。
スティーブ・ジョブズがピクサーで「トイ・ストーリー2」を作った時のエピソードです。

1作目よりも2作目の方が難しいとされる映画の世界で、その2作目を作るにあたってジョブズは「計画外の共同作業」が必要であると考えました。
しかし計画外なので、前もって出会いを設定することはできません。

ではジョブズはどうしたのでしょうか。
すべての部署が接する大広間をつくり、そこに「トイ・ストーリー」のアイコンをちりばめたのです。

そうすれば、多様な社員が出会う確率が格段に上がるからです。
出会いの確率が上がれば、それが「計画外の共同作業」につながる確率も上がるでしょう。

こうして、空間にちりばめられた「トイ・ストーリー」のアイコンは、偶然出会った社員同士のコミュニケーションを産むきっかけとなりました。
そして、ふんだんに設けられたコミュニケーションスペースはアイコンから生まれたコミュニケーションを「計画外の共同作業」へと誘う場となったのです。

このように、オフィス環境によって知的生産性を上げる行動を促すように影響を与えることができれば、生産性は実際に上がるのだと仲氏はいいます。

知的生産性はなぜ重要なのか

ここで、「知的生産性」についてもう少し考えてみましょう。

効率化と付加価値

グローバル化が進んだ1990年代以降、企業は熾烈な競争を勝ち抜くために、付加価値の高い物やサービスを常に産み出さなければならなくなっています。*1

さらに2019年には「働き方改革」が掲げられました。
働き方改革というと、多様な働き方や労働時間の短縮が頭に浮かびますが、その目的の1つが知的生産性の向上です。*2

知的生産性を向上させるためには、短い労働時間で効率的に働くことと、付加価値を創出することの両方を実現させなければなりません。
では、ワーカーは職場でどのような取り組みをしているのでしょうか。

職場での取り組みはまだ「効率化」に偏っている

日本生産性本部が2025年1月に行った「第16回 働く人の意識に関する調査」の結果をみてみましょう(図1)。*3

図1 最近1年間における職場での生産性向上の取り組み
出所)公益財団法人 日本生産性本部「第16回 働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」p.7 
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/16th_workers_report.pdf

この調査では、職場で最近1年間にどのような取り組みを経験したかについて質問しました。
その回答割合をみると、上位3項目は「業務の進め方の効率化」「情報共有の推進」「コストの削減」でした。
これらは「効率化」にあたる取り組みです。

では、付加価値を高める取り組みはどうだったのでしょうか。
それに該当する「商品やサービスの改善」「新商品や新サービスの導入」は効率化に関連する項目より割合が低いことがわかりました。
また、このどちらの取り組みに対しても、行われているかどうかを「知らない・わからない」との回答が20%を超えていました。

以上のことから、職場での生産性向上は効率化に偏り、付加価値を高める取り組みはまだまだ推進の余地があることが窺えます。

では、こうした状況はどうやって改善したらいいのでしょうか。
その答えの1つがオフィス環境の整備です。

クリエイティブオフィスのインテリアは多様性が鍵

次に、空間デザインが知的生産性に大きな影響を与えることを確認したうえで、クリエイティブな働き方を支えるインテリアとはどのようなものかみていきましょう。

オフィスの影響は絶大

仲氏はオフィスが知的生産性に与える影響力を次のように図示しています(図2)。*1

図2 ワークスペース(オフィス)の影響力
出所)仲隆介「日本のワークプレイスのこれまでとこれから ―働く空間と働き方の関係及びその社会的背景に着目して」p.9
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2019/08/pdf/004-015.pdf

図2でワークプレースと知的生産性の間の矢印に「?」がついているのは、ワークスペースは直接、知的生産性に影響をおよぼすわけではないという仲氏の考えを表しています。

ワークスペースが直接、影響を与えるのは「人」です。その影響を受けて人の行動に変化が生じ、それが知的生産性向上につながるという構図なのです。
オフィス環境は働く人が思っている以上にその行動に影響を与えると仲氏は指摘しています。

オフィス空間のデザインが知的生産性に与える影響

オフィス環境は知的生産性にどのような影響を与えるのでしょうか。
ワーカーに対する大規模なWeb調査から得られたデータを使って、その影響について分析した研究があります(以下、「Web調査研究」)。*2

その分析結果から、オフィス環境がワーカーの行動やストレス、モチベーションに影響を与え、それがさらに知的生産性に影響することが確認できました。
上述の仲氏の指摘と合致する結果です。

この研究では、オフィス空間のデザインに対する好みを4つのタイプに分けて分析していますが、どのタイプにも共通するのは、「リラックス・リフレッシュ」に関連する環境要素が重要だという点です。
その要素のうち「空間満足度」はワーカーに高度の影響を、「自然環境満足」は中程度の影響を与え、そのことによってストレスが軽減されていることが示唆されました。

その一方で、タイプによって異なる影響があることもわかりました。
それは、コミュニケーションやリラックスなど、知的生産性に関連する活動のしやすさ、あるいはストレスに与える影響です。

多くの人が集まるオフィス空間で個々のワーカーが知的生産性を高めるためにはどのようなオフィス設計をしたらいいのか―それは難しい問題ですが、それを検討する際に、こうした研究結果は有益なナレッジとなるのではないでしょうか。

知識創造を促す「クリエイティブオフィス」

次に紹介する研究の目的は、「クリエイティブオフィス」の特徴と変遷を明らかにすることです。*4

「クリエイティブオフィス」とは「ワーカーの感性と創造力を高め、知識創造を誘発するオフィス」のこと。

対象は、「日経ニューオフィス賞」の受賞作品を紹介する書籍です。
この賞は日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会が1988年から開催し、経済産業省と日本商工会議所が後援しています。

写真のキャプションが示す特徴

この研究では、受賞作品の写真に添えられたキャプション(見出し)を分析し、共用空間の特徴を把握しました。

その頻出語からわかったことはどんなことでしょうか。
それは、共有空間はカフェや食堂など飲食の場が多いことでした。
また共有空間を打合せや交流をおこなう協議・協創の場としながら、その一方で個人の集中空間やリフレッシュ空間としても機能させていることが窺えました。

さらに、アイデアを書き留める壁面ホワイトボードや、異なるフロアをつなぐ吹き抜け階段、ソファ席などを備えているという特徴も把握できました。

下の図3は、キャプションの分析結果によって描かれたネットワークで、共起していた言葉によって12のサブグラフが抽出されています。

出所)伊藤孝紀・岡田亮汰・原希望「クリエイティブオフィスにおける共同空間の特徴と変遷」 p.25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssdj/69/3/69_3_21/_pdf/-char/ja

こうしたネットワークを分析することで、インテリアの方向性がみえてくるのではないでしょうか。

空間デザインは多様化している

この研究では、別の分析もしています。
空間デザインを把握するために、対象の書籍に掲載されている共用空間を写した写真、計592枚を分析し、5年毎の年代別に集計したのです。
その結果、次のような特徴が把握できました。

以下の要素は年代を追うごとに多様化する傾向が見られた

  • 植栽レイアウトや打合せツール(TV・モニター)
  • 椅子の種類、デスクの天板の色など
  • 天井の形状・外見・色

木質・木質調のインテリア素材が増加している

  • 椅子やデスクの天板が金属製から木製や樹脂製に変化
  • 床・天井ともに木質調が増加

同一空間におけるインテリアの種類が増加している

  • 2種類以上の家具などを設置

以上のような状況の背景として、次のようなことが指摘されています。

インテリアの素材として木が多用される傾向があるのは、オフィスをカフェやリビングのような空間にしようとしているからだろう。
それは、現在のナレッジワークでは集中作業が減少し、その代わりにリラックスして作業やコミュニケーションができる環境が求められているためではないか。

年代を追う毎にインテリアが多様化する傾向があるのには2つの理由が考えられる。
1つは空間の選択性を高めること。そしてもう1つは、雰囲気を変えることによってワーカーの感性を刺激し、創造性を高めようとしているからではないか。

これらの調査結果や分析は、上述の「Web調査研究」の分析結果と合致するものが多いことがわかります。

おわりに

クリエイティブなオフィスのインテリアについて検討する際のポイントは、オフィス空間の環境がワーカーに影響を与え、そのことがワーカーの行動を変化させ、その行動が知的創造につながるという仕組みを理解することです。

また、オフィスはさまざまな人が集う場所であり、その多様性に対応することも重要です。

付加価値を持続的に産み出すためには、オフィスをその源泉と捉え、戦略的に投資していく必要があるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
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資料一覧

*1 出所)仲隆介「日本のワークプレイスのこれまでとこれから ―働く空間と働き方の関係及びその社会的背景に着目して」(『日本労働研究雑誌』No.709)p.8, 9, 12
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2019/08/pdf/004-015.pdf

*2 出所)王紫葉・劉子勍・助田ひなの・長澤夏子・佐藤泰・小島隆矢・田辺新一「オフィスのデザイン選好による知的生産性への影響構造の違い」(『日本建築学会環境系論文集』第86巻 第784号 
2021年6月)p.567, 574
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/86/784/86_567/_pdf/-char/ja

*3 出所)公益財団法人 日本生産性本部「第16回 働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(2025年1月30日)pp.7-8
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/16th_workers_report.pdf

*4 出所)伊藤孝紀・岡田亮汰・原希望「クリエイティブオフィスにおける共同空間の特徴と変遷」 (『デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD』Vol. 69 No.3(2023)pp.21-22, 25, 28, 29
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssdj/69/3/69_3_21/_pdf/-char/ja


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そしきLab編集部

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