地域とともに生きる施設へ―清瀬喜望園が挑んだ“開かれた福祉”のかたち

東京都清瀬市にリニューアルオープンした清瀬喜望園は、社会福祉法人まりも会が掲げる“地域共生”の理念を体現する新しいかたちの障害者支援施設です。単なる建て替えにとどまらず、地域とのつながりを重視した開放的な設計や、多様な人が交わる“場”づくりが大きな特徴となっています。

本記事では、施設運営に携わった職員の方や、空間設計・家具選定などを伴走支援したウチダシステムズとの対話をもとに、清瀬喜望園がどのように“地域にひらかれた福祉”を実現していったのかを紐解きます。

社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園

事業内容:障害者支援施設
所在地:東京都清瀬市竹丘3丁目1番72号
目的:施設の改築(家具・備品の納品)
HP:https://marimokai.jp/facility/kiyose-kibouen/

社会福祉法人まりも会 理事長 浅野 正裕
社会福祉法人まりも会 理事 法人本部事務局長 中野 公広
社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 施設長 内田 学
社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 管理課施設設備・建物営繕 小松 操
社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 コミュニティキャスト 笈川 信子


株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 部長 大畑 智夫
株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 特命部長 山本 朗弘
株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 太田 翼
株式会社ウチダシステムズ デザイン室 市川 志穂(設計)

地域にひらかれた福祉を実現するために―清瀬喜望園建て替えの背景と構想

ー まりも会の成り立ちについて教えてください。

浅野様: まりも会は1960年、創設者の田中豊が、重度の身体障害者が自宅にこもりきりになる状況を変えたいという思いから、自宅に数人を引き取って共に暮らすことから始まりました。当時は社会福祉制度も未整備で、生活保護法しかない時代でした。そうしたなかで、医師と協力して土地を確保し、東久留米に施設を建てたのが出発点です。

その後、身体障害者福祉法の整備に伴って事業を拡大し、高齢者や他の福祉分野へも展開してきましたが、基本にあるのは“人とのつながりを大切にする”という理念です。福祉制度という枠内でサービスを提供するのではなく、人との関係性の中でその人らしい暮らしを支えることが本質だと考えています。ですから、まりも会の理念も“人を大事にし、人と繋がり、その人らしく生きる”とシンプルな言葉でまとめ直しました。

ー 清瀬喜望園をまりも会が運営することになったきっかけは何だったのでしょうか?

中野様: もともと清瀬喜望園は他法人が運営していて、建て替えの計画が進んでいましたが、途中で辞退されました。その土地は既存施設の清瀬療護園とも隣接しており、施設用駐車場不足の問題なども抱えていたことから、法人内で『私たちがやったらどうか』という話が持ち上がったのがきっかけです。東京都から公募があり、計画書を作って正式にプロジェクトが始動しました。

ー その際に、大切にされた視点とはどのようなものでしたか?

浅野様: やはり“地域との関係性”ですね。障害者施設は、どうしても“閉じた空間”になりがちです。しかし、本来は地域の一部であるべきですし、地域にとっても財産であるべきです。だからこそ10年先、20年先を思って“地域と交わる” “地域にひらく”ということを強く意識してきました。

社会福祉法人まりも会 理事長 浅野正裕 様

“地域と交わる”設計思想――施設づくりに込めた多様な視点

ー 設計や空間づくりにおいて、“地域と交わる”という視点をどのように反映されたのでしょうか?

小松様: たとえば敷地をフェンスで囲わず、開放感のある空間を意識しました。門扉がないと最初はセキュリティ面で心配する声もあったのですが、理事長の方針もあり“人と人との関係性で安全をつくる”という考えで通しました。フェンスがないことで見晴らしが良くなりましたし、夜は街灯のおかげで明るくなったので、人の目が施設に向きやすくなり、結果としてセキュリティ対策にもつながっています。

中野様: フェンスがあると、どうしても“内と外”という境界ができてしまいますよね。あえてそれをなくすことで、地域の人がふらっと入ってこられる雰囲気にしたかったんです。

ー 実際の設計では、どのような工夫を取り入れたのですか?

小松様: 建物の外周には小道を設けて、地域の方が自由に通り抜けできるようにしました。また、建物の中にはカフェやイベントホールなど、地域の方も利用できるスペースを設けています。施設の中に“居場所”を用意することで、利用者と地域の方が自然に交流する機会が生まれます。

内田様: 建物だけでなく、導線や光の入り方など、使う人の感覚に寄り添う工夫を重ねています。たとえば家具の選定でも、職員が実際にショールームに足を運んで“座ってみてどうか”などを体験して選びました。小さなことの積み重ねが、居心地の良さや使いやすさにつながると思います。

USS山本: 実際に体験して選ぶこともそうですが、部屋のレイアウトを決めたり家具を選んだりする際に、職員の方々への説明の場を重要視されていたことが印象的でした。「執務スペースの運用ルールをわかりやすく伝えたいので、そのための準備をお願いします」といったご依頼もいただき、その説明の機会が、職員さんとの対話の場になっていたように思います。

社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 管理課施設設備・建物営繕 小松操 様

ー 現場の声を反映するプロセスを踏みながら丁寧に進めていかれたのですね。

小松様: 建物が完成する前に、仮設施設で試しに家具や配置を実験することもできました。廊下にテーブルを置いたら、自然とそこに利用者さんが集まるようになったんです。そうした“実験”を通じて、配置や使い方の感覚を事前に掴めたのは本当にありがたかったですね。

USS市川: 通常、新しい施設には家具を一括で納品することが多いのですが、今回は3~4回に分けて段階的に納品する必要がありました。さらに、納品先となる新しい施設がまだ完成していなかったため、仮置き場所の確保にも工夫が必要でした。
仮施設に事務所があったので、そこに新しい家具を先に入れて、これまで使用していた旧家具を順次処分していく対応を取りました。ただ、仮施設のスペースは非常に限られていたので、「このロッカーだけ先に新しくしましょう」というように、小さな単位で組み替えながら対応しました。普段の家具提案業務とは異なり、段階的な対応や仮設スペースのやりくりが求められた点が、特に印象に残りましたね。

USS太田: 確かに、どこに何を持っていくかというのはかなり難しかったですね。それに、職員さんの定例会や家具選びの検討会にも参加させていただいたのですが、いろんな意見が出てきて、それをまとめるのもなかなか大変でした。
ただ、そこは小松さんと進捗を共有しながら対応できましたし、常に担当者として小松さんがついてくださっていたので、非常にありがたかったです。

株式会社ウチダシステムズ デザイン室 市川志穂(左)
株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 太田翼(右)

コミュニティキャストの挑戦―交流の起点となる人の力

ー 施設構築と同時期に、地域交流の起点となる「コミュニティキャスト」という役割もつくられたそうですね。コミュニティキャストについて教えていただけますか?

内田様: コミュニティキャストは、福祉職とは異なる視点で地域との関わりを担う役割として設けました。地域と施設をつなぐ“つなぎ役”が必要だという思いからスタートしています。たとえば地域の団体や保育園、学校などに足を運び、施設の活用方法を提案したり、イベントの企画を調整したり。制度に縛られない立場だからこそ、柔軟に動けるんです。笈川は元々カフェ勤務の経験があって、地域の方との接点づくりに長けていたので、まさに適任でした。

笈川様: 私は以前、療護園のカフェで働いていて、地域の方や利用者さん、職員が気軽に集まるような場所づくりに関わっていました。これまでの仕事を発展させて何かできるかもと思い、コミュニティキャストという役割にチャレンジしました。施設の外でも中でも、人と人をつなぐ場をどう作っていけるかを考えながら動いています。

USS山本: 他の法人にも是非こういった取り組みを紹介したいと思うくらい、非常に意義のある活動だと感じています。今、笈川さんがどのような関わりを地域の中でつくっておられるのか、ぜひ教えてください。

笈川様:たとえば、地域の方に気軽に来ていただくきっかけとして、玄関前での移動販売を実施しました。パンや野菜を販売することで、ただ通るだけだった場所がちょっとした交流の場になっていくんです。最初のハードルを下げて、「施設って入りやすい場所だ」と思ってもらえることが何より大切だと感じています。
他にも、この施設にはホールやスペースがいくつもあります。地域の法人や保育園などに自分から出向いて「こういう場所がありますよ」とお知らせして、実際に使ってもらえるように調整しています。

社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 コミュニティキャスト 笈川信子 様

ー さまざまな取り組みをされているのですね。

内田様: 先ほど浅野が話していたように、“人を中心に考える福祉”を実現するために、私たちは一般企業のように戦略的な視点を取り入れていこうと考えて始めました。まずは清瀬喜望園が地域にとって当たり前の存在になるというミッションステートメントを策定し、それに基づいて行動指針を定め、年間計画を立てていきました。
福祉の世界の中だけにとどまるのではなく、民間の手法や視点も取り入れることで、より柔軟で実効性のある施設運営を目指したいと思ったのです。

USS大畑:こうした取り組みは、まさに社会福祉法人が今後進むべき方向性の一つだと感じています。コミュニティキャストのような存在があれば、地域のニーズを的確に拾い、支援のリーチも自然と広がっていく。少し経営的な表現になりますが、これまではサービスが行き届かなかった方々にサービス提供ができるようになれば、結果的に法人の価値や存在意義にもつながっていくと思います。

株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 部長 大畑智夫

ー 全く新しい視点からの取り組み、福祉という枠外での発想が求められる中で、新しいものを考えていいよと言われたとき、どう進めていいか戸惑いもあったのではないかと思います。どのように方向性を見出していかれたのでしょうか?

内田様: たとえば、休日にどこかへ出かけるとしますよね。これまでなら新しい建物を見ても「へえ、きれいだな」くらいで終わっていたんですが、最近では「この建物はどんな目的で設計されているんだろう」「この構造にはどんな意図があるんだろう」と考えるようになったんです。実際に、ミッションステートメントの発想も、そんなところからヒントを得ました。

こうした考え方に自然とスイッチできるようになったのは、やっぱりまりも会だったからだと思います。挑戦させてくれて、職員の声も聞いてくれる。そんな自由さがある場所だからこそ、“人を中心に考える福祉”という理念を実際に形にすることができたと思います。小松さんのように、それを現場で実現していくのは本当に大変だったと思いますが、そうした挑戦の積み重ねが今の清瀬喜望園に繋がっていると感じます。

社会福祉法人まりも会 清瀬喜望園 施設長 内田学 様

ウチダシステムズの伴走支援―利用者と地域をつなぐ空間の実現

ー ウチダシステムズとの関係のなかで、特に印象に残っている出来事や、清瀬喜望園の取り組みに影響を与えたと感じているエピソードがあれば、ぜひお聞かせください。

内田様: ウチダシステムズさんの本社を見学させていただいたときのことが、とても印象に残っています。細かいことかもしれませんが、会議を効果的に進行するためのマグネットシートのアイデアには驚かされました。あの発想は福祉の現場に取り入れたらどうなるんだろうとか。
本が読めるスペースがあったのですが、それが私たちの“ブックカフェ”の発想のもとになった部分もあると思っています。自分たちの中にはなかったアイデアを取り入れられたのは、私たちにとっても有益な経験でした。

さらに、施設の引っ越しの際には太田さんと私の2人で、もう満身創痍の状態で対応していたことを今でもよく覚えています(笑)雨の中で荷物を運んだり、トラブルにも対応してもらって、一緒に歩んでくださったり。会社は違えど、共に取り組んできたという実感がありますし、本当にありがたかったです。

ー 地域福祉営業部は「場づくり支援」を掲げていますが、“支援”というより“伴走”ですね。ただ企画したものを納品するのではなく、最後まで一緒に走るという姿勢を強く意識してのことだと思います。

USS山本: 正直なところ反省点も多いですけど、私たちとしてもすごく勉強になりました。

中野様: 少し話がさかのぼりますが、私たちとウチダシステムズさんとの関係は実は10年ほど前にさかのぼります。当時、近隣の清瀬療護園の建て替えを行った際に、山本さんをご紹介いただいて以来の付き合いです。
当時、山本さんは「モノを売るだけじゃなく、施設づくりを伴走したい」という話をされていて。実際に家具見学にも全て同行してくれたし、サイズの確認やレイアウト案の作成まで一緒にやってくれた。その後も定期的に「何か困っていることはありませんか?」と声をかけてもらっていて、「実は今、清瀬喜望園の建替えを当法人でやろうとしているんです」と話したところ、すぐに「ぜひ提案させてください!」と動いてくれました。清瀬療護園での信頼関係があったからこそ、今回の清瀬喜望園のプロジェクトも自然とお願いしたという経緯があります。

USS山本: お客様との信頼関係が築けているという評価をいただく一方で、まだ信頼関係が築けていないお客様には、場づくり支援の“価値”が具体的にイメージしづらいこともあり、その“価値”を伝えることの難しさを感じることもあります。

中野様: たしかに最初「私たちに計画づくりを支援させてください」と言われても不安はありました。「物を売る会社がここまでやってくれるなんて、何か裏があるのでは・・」と思っていました(笑)でも、実際にやってもらってよかったと感じた法人が「あそこは本当に良かった」と伝えることが、最も信頼してもらえる手段なのかもしれません。ですから、うちのような法人からの実体験の声を、ぜひ広く使っていただけたらと思います。

社会福祉法人まりも会 理事 法人本部事務局長 中野公広 様

10年、20年先を見据えて―施設が地域に根ざすということ

ー 清瀬喜望園の運営が始まり、日々の活動の中で地域との関わりが少しずつ深まっているかと思います。10年後、20年後を見据えたときに、どのような存在でありたいと考えておられますか?

浅野様: 地域の財産になることが何よりも大切だと思っています。社会福祉の枠にとらわれず、地域に空間を開放し、自由に使ってもらえるような場所を目指しています。もちろん制度的な制約はありますが、それを前提にした上で、新しい関係性を築く努力を重ねてきました。
大切なのは、作って終わりではなく、日々の積み重ねです。だから「こうしたい」という具体的なゴールを決めるのではなく、地域との関係の中で自然と生まれてくる新しいかたちを大事にしたいと思っています。私自身にもその未来のかたちは分かりませんが、だからこそ、日々のルーティンの中にこそ価値があると信じています。

ー ありがとうございます。コミュニティキャストとしての今後の展望については、どのようにお考えですか?

笈川様: 私のコミュニティキャストとしての理想は、地域の方々に「何かあったら清瀬喜望園に相談してみよう」と思っていただける存在になることです。また、小松からもよく言われるのですが、地域の方が来るだけではダメなんです。地域の方と利用者さんが交流することで、初めてこの施設の価値が完成すると考えています。ですから、そうした“交わり”を大切にする企画や取り組みを、今後も意識的に進めていきたいと思っています。

ー 地域共生を掲げる中で、清瀬喜望園のような取り組みは、他の施設や法人にとっても大きなヒントになるのではないかと感じました。

USS山本: まさにそう思います。私たちとしても、清瀬喜望園の事例は、他の法人さんに「こういうやり方もあるんだ」と知ってもらうきっかけにしたいと思っています。福祉の現場にこそ、もっと自由で柔軟な選択肢があっていい。そのためにも、今後も現場の皆さんと一緒に、より良い“場”づくりを支えていきたいです。

株式会社ウチダシステムズ 地域福祉営業部 特命部長 山本朗弘
施設正面
外構

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そしきLab編集部

ウチダシステムズのスタッフを中心に、組織作りや場づくりについて議論を交わしています。業務の中で実際に役に立ったことなどを紹介していきます。


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