紙の時代は終わる?ペーパーレス化はどこまで進んでいるのか

企業のデジタル化が進むなかで、ペーパーレス化は珍しい取り組みではなくなってきました。

しかし、紙を減らせばそれで業務がうまくいく、というほど単純でもありません。

今回は、企業や公的機関の動向や各種調査や研究をもとに、ペーパーレス化のメリットと注意点を考えます。

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ペーパーレス化が進む背景

ペーパーレス化という言葉を耳にすることは当たり前になりつつあります。

なぜこのようにペーパーレス化が叫ばれているのでしょうか。

コロナ禍をきっかけにペーパーレス化が加速

ペーパーレス化が一気に現実味を帯びた大きなきっかけのひとつが、新型コロナウイルス感染症の拡大です。*1

これまで紙を前提に運用してきた企業でも、出社が難しくなったことで紙の書類を回覧する、押印のために出社する、紙資料を見ながら会議をするといった従来のやり方が難しくなりました。

こうした状況のなかで、企業は書類の共有や承認、保管の方法を見直さざるを得なくなり、紙ではなくデータで業務を回す必要性が一気に高まったのです。

電子帳簿保存法や電子契約の普及

もうひとつ、企業のペーパーレス化を後押ししている大きな要因が、制度面の変化です。

2015年から2016年にかけての電子帳簿保存法の規制緩和で企業のペーパーレス化は本格的に広がりました。その後2024年1月の改正で、電子取引の取引情報は紙での保存が認められず、電子保存が義務化されています。*1

制度が整ったことで、企業にとってペーパーレス化は「できれば進めたいこと」ではなく、「実務上、避けて通れないこと」になりつつあります。

公的機関でも進むデジタル化

ペーパーレス化の流れは、民間企業だけのものではありません。

例えば、東京都は「5つのレス徹底推進プロジェクト」の一環としてペーパーレス化を進めています。2022年度のコピー用紙調達量は約5,695万枚で、2016年度比で72%削減し、目標としていた70%削減を上回ったと公表しています(図1)。*2

図1:コピー用紙調達枚数の推移(累計値)
出所)シン・トセイ「進捗状況(2023年1~3月):5つのレス徹底推進プロジェクト」
https://shintosei.metro.tokyo.lg.jp/2022_4q_cp2/

中小企業にしか勤務経験のない筆者からすれば、約5,695万枚という調達量にも驚いてしまいました。

しかし、東京都という大きな集団で、しかも行政という多くの書類が行き交うであろう業務を行う場所であれば、この調達量になるのも納得できます。年間約2億枚だった2016年から、わずか6年で約1億4,305万枚も削減した実績には驚くばかりです。*2

また、2026年5月21日からは、民事裁判手続のデジタル化が始まります。訴状や証拠等のオンライン提出や訴訟記録の電子化、オンライン閲覧などが実施される予定です。*3

このように、行政や公的機関のデジタル化が進んでいることは、ペーパーレス化が一部の企業だけの流行ではなく、社会全体の基盤変化になっていることを示しているといえるでしょう。

ペーパーレス化で変わるオフィス

では、実際にペーパーレス化が進むとどのようなメリットがあるのでしょうか。

株式会社日立ソリューションズが実施した「ペーパーレス化の進捗状況に関する意識調査」によると、図2に示すように「紙の削減による廃棄物の減少」、「オフィススペースの有効活用」「印刷代などの紙関連費用の削減」などが上位になっています。*4

図2:ペーパーレス化の成果
出所)株式会社日立ソリューションズ「ペーパーレス化の進捗状況に関する意識調査~業務効率向上のカギは?スムーズなシステム連携で実現するペーパーレス改革~」
https://www.hitachi-solutions.co.jp/katsubun/pltb/wp/wp4.html

筆者が以前勤務していた会社でも、入社当初は製品情報の管理を紙で行っていたため、年々、保管場所が圧迫されていました。キャビネットが増えるたびに人が座るスペースは少なくなり、オフィスは少しずつ窮屈になっていきました。

実際に、書類を保存していた棚が倒れかけ、けが人が出てもおかしくない場面もあったほどです。

また、紙中心の運用では、書類の修正や差し替えのたびに印刷が発生しやすくなります。

筆者も、差し替えのたびに刷り直しが必要で、そのたびに大量の紙ゴミを出してしまっていました。もちろん、印刷するコストもかかりますし、ミスが重なるほど「またやってしまった…。」と自己嫌悪につながることもありました。

個人的に勤務先のペーパーレス化で一番嬉しかったのは、社内手続きの心理的なハードルが下がったことです。

以前の勤務先では、当初、有給休暇の申請も紙の所定書類を作成し、上司に印鑑をもらう方式でした。有給申請そのものに後ろめたさを感じる必要はないはずですが、実際には「休みたい」と言い出すことに少なからず気を遣い、申請のたびにやや憂鬱な気持ちになっていたことを覚えています。

その後、電子申請に切り替わると、非対面で申請できるようになり、心理的な負担はかなり軽くなりました。

こうした心理的変化は、筆者個人の実感だけではありません。

実際に、ペーパーレス化の効果として、コスト削減や空間活用にとどまらない副次的なメリットを感じている企業も少なくないようです。

前述の調査では、予想外の副次効果として「ITリテラシーの向上」が29.8%挙げられています。*4

デジタルツールの利用が日常業務に組み込まれることで、従業員が自然とデータ共有や電子文書の扱いに慣れ、業務全体のデジタル対応力が底上げされる可能性があります。

ペーパーレス化は、紙を減らす取り組みであると同時に、オフィス全体の働き方や情報の扱い方を変えていく一歩でもあるのです。

ペーパーレス化の落とし穴

ここまで見てきたように、ペーパーレス化には多くのメリットがあります。

ただし、紙を減らせばそれだけで業務がスムーズになるとは限りません。

読み・書きの利便性の低下

紙の書類を電子化すると、いつでも検索・共有できるようになる一方で、見やすさや扱いやすさが損なわれる場合があります。

特に大きな資料や複数ページにまたがる文書は、画面上では全体像をつかみにくく、スクロールしながら確認する必要があります。

また、紙であれば余白にメモを書き込めますが、電子データに書き込むには、その都度デバイスを立ち上げる必要があります。*5

タブレットや手書き入力対応デバイスの活用で補える面はあるものの、手軽に書き込めるのは紙とペンではないでしょうか。

システム障害の影響を受けやすい

電子化した文書は、システム障害や通信障害によって必要な書類を閲覧できなくなるリスクがあります。社内サーバーやクラウドに保存している以上、データ消失や一時的な閲覧不能が起こる可能性はゼロではありません。*5

筆者は、データが消失した経験はないものの、システムのメンテナンスで必要な申請ができなくなりイライラした経験が何度かあります。

導入にはコストも手間もかかる

パソコンやタブレットの購入費、データ管理体制の構築費、従業員向けの研修費などを考慮する必要があります。*5

既存システムからの切り替え費用も含めると、想像以上に負担が大きくなるケースもあるでしょう。 

すべての書類を電子化できるわけではない

事業用定期借地権設定のための契約書といった一部の書類は、紙で保存する必要があります。

また、電子保存が可能な書類であっても、e-文書法(電子文書法)や電子帳簿保存法などのルールに沿って適切に管理しなければなりません。*5

誤りの確認では紙のほうが向いていることもある

ある研究では、紙と液晶ディスプレーで問題文に含まれる誤りを探す作業を比較したところ、以下のような結果が出ています(図3)。*6

  • 問題文Aでは、紙の方が誤りを見つけやすい(有意差が認められた)。
  • 誤った回答の数については、有意差は認められないものの液晶ディスプレーの方がミスが増える傾向が見られた。
図3:誤り発見数の比較(上)/誤回答数の比較(下)
出所)松山麻珠, 池内淳「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」情報処理学会研究報告 情報処理学会研究報告 Vol.2015 P.4

実際に、筆者も電子申請する前に書類を印刷してチェックすることがあります。上記の研究結果と同様、印刷したほうが間違いに気が付きやすいという体感があります。

印刷する書類が大量になればなるほど「ペーパーレスといいつつ、こんなことをしては本末転倒では?」と思わなくもありませんが、最終チェックだけは紙に頼りたくなってしまうのです。

記憶力や脳活動に差が出ることも

別の研究では、スケジュールを書き留める際に、スマートフォンなどの電子機器よりも紙の手帳を使ったほうが、記憶の想起に関わる脳活動が定量的に高くなることが示されました。

同研究では、紙には紙上の場所や書き込みとの位置関係といった空間的な手がかりが豊富にあるため、より深い記憶の定着が起こりやすいと考察しています。*7

覚えることが重要な場面や、考えを整理しながら発想を広げたい場面では、紙のノートや手帳が力を発揮するかもしれません。

紙をゼロにすることを目的にしない

ペーパーレス化は、紙の削減によるコストカットだけでなく、オフィススペースの有効活用や情報共有の効率化、社内手続きの負担軽減など、働き方そのものを見直すきっかけになります。

一方で、ペーパーレス化には今回紹介したような注意点もあります。

だからこそ大切なのは、「紙をゼロにすること」そのものを目的にしないことです。どの書類を電子化すると効果が大きいのか、逆にどの業務では紙を残したほうがよいのかを見極めながら、自社に合った形で進めていくことが重要です。

ペーパーレス化は、単なる経費削減策ではなく、オフィスや業務のあり方を最適化するための取り組みとして捉えるべきなのかもしれません。

この記事を書いた人

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。

参考資料

*1
出所)株式会社日立ソリューションズ「日本企業のペーパーレス化の現状とDXへの道 ~DXに貢献できる仕組みに変えるには何が必要か?~」
https://www.hitachi-solutions.co.jp/katsubun/pltb/column/col4.html

*2
出所)シン・トセイ「進捗状況(2023年1~3月):5つのレス徹底推進プロジェクト」
https://shintosei.metro.tokyo.lg.jp/2022_4q_cp2/

*3
出所)裁判所「民事訴訟手続のデジタル化」P.1
https://www.courts.go.jp/assets/dejitarukasekou2.pdf

*4
出所)株式会社日立ソリューションズ「ペーパーレス化の進捗状況に関する意識調査~業務効率向上のカギは?スムーズなシステム連携で実現するペーパーレス改革~」
https://www.hitachi-solutions.co.jp/katsubun/pltb/wp/wp4.html

*5
出所)コニカミノルタ株式会社「ペーパーレス化によるデメリットとは?必要な対策や注意点を解説」
https://www.konicaminolta.jp/business/solution/space-design/blog/?p=7937

*6
出所)松山麻珠, 池内淳「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」情報処理学会研究報告 Vol.2015 P.4

*7
出所)東京大学大学院総合文化研究科「紙の手帳の脳科学的効用について~使用するメディアによって記憶力や脳活動に差~」P.1~P.2
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/files/20210319sakaikunisobun01.pdf


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