
近年、「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」という言葉が広まり、職場における態度や感情の表出が周囲に与える影響に注目が集まっています。
本人に悪意がなくても、イライラした態度や言動が職場の雰囲気を悪化させ、生産性の低下や人間関係の悪化につながることがあります。
こうしたイライラは個人の性格によるものと捉えられがちですが、実際には体調やストレス状態、さらには職場環境の影響を大きく受けています。
本記事では、イライラが生じる医学的な背景を整理するとともに、環境が感情に与える影響に着目し、フキハラと受け取られないための工夫について、個人と職場の両面から解説します。
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イライラはなぜ起こるのか|医学的にみた感情のしくみとフキハラの背景
まずは、フキハラの位置づけと、イライラが生じる背景について整理します。
フキハラとは何か|公的定義と位置づけ
「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」とは、不機嫌な態度や言動によって周囲に心理的な負担を与える行為を指す言葉で、近年広く使われるようになっています。*1
ただし、フキハラは厚生労働省などの公的機関が定めた正式なハラスメント区分ではありません。
一方で、現在一般的に用いられている職場におけるハラスメントの類型のなかで、フキハラは「精神的な攻撃」に該当するケースがあると考えられます。*2
例えば、業務上のやり取りの中で強い口調で責める、不機嫌な態度で対応するなどの行為は、受け手にとって心理的負担となります。
このように、フキハラは明確な定義がある言葉ではないものの、職場環境や人間関係に影響を及ぼす行動として捉えられつつあります。
ストレスが慢性的にかかると人はイライラする
ストレスと人の気分には密接な関係があります。
例えば、人間関係や金銭的な不安、仕事などの生活上のストレスが原因となり、イライラが生じることがあります。*3
医学的には、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸というものがストレス反応の中心的な調整因子となっています。
この軸が、神経や内分泌、免疫、代謝、行動などの反応に関与しています。
一方で、慢性的な心理的ストレスはHPA軸の機能障害を引き起こし、不安や不眠、イライラ、体重増加などの症状を引き起こす可能性があります。*4
これからわかるように、ストレスが慢性的にかかるような状況ではイライラがつのり、ひいては職場においてフキハラが発生しやすくなってしまう懸念があるといえます。
フキハラを生みやすい職場環境とその影響|見えないストレスの正体
次に、ストレスがかかりやすくなり、フキハラが生まれやすくなってしまう職場環境についてもう少し詳しくみていきましょう。
有害な職場環境
嫌がらせやいじめ、仲間はずれがみられる職場では、燃え尽き症候群、うつ病、不安などが引き起こされたり、ストレスが過剰にかかってしまうことが報告されています。*5
人は自分の意思で行動しているように感じていても、実際には周囲の環境から大きな影響を受けています。
そのため、周囲にハラスメントが横行しているような場合、自分にもストレスがかかり、自分がハラスメントと捉えられる行動をとってしまうという悪循環が生まれてしまう恐れがあるのです。
このように、環境が連鎖的に行動へ影響する点も重要です。
仕事量や業務の影響
常にプレッシャーが高く、コミュニケーション不足があるような職場はストレスが高くなりがちです。
長時間労働や過剰労働、人手不足なども、職場でのストレスの原因になります。*6
自分がこなせる以上の仕事を常に求められるような職場では、必然的にストレスがかかる状況になってしまうことが想定されます。
物理的な環境
労働環境もストレスの要因となるケースがあります。
例えば、オフィスが騒がしい、窓がない、狭い、快適な温度よりも低すぎるあるいは高すぎるといったこともストレスが高まりやすくなる要因です。*6
こうした小さな負担は、一つひとつは些細でも、積み重なることで大きなストレスとなります。
こうした見えにくいストレスが蓄積すると、感情の余裕が失われ、イライラとして表出しやすくなります。
フキハラとして表出したときの職場への影響
フキハラが起こるような有害な職場環境は、個人の安心感を破壊し、幸福感に悪影響を与えます。
職場でのハラスメントや職場でのいじめ、職場で孤独感を感じることは、従業員の仕事のパフォーマンスや従業員のエンゲージメントの低下にもつながることが示唆されています。*5
なお、従業員のエンゲージメントは企業などへの所属組織への貢献意欲のことを指しています。*7
エンゲージメントの低下は、ひいては、離職のリスクを高める要因にもなります。
中小企業で働く人を対象とした調査では、同僚の離職理由として「人間関係のつらさ(いじめやハラスメントを含む)」が約24%を占めると報告されています。*8
一方で、管理職に対して部下に対する適切な接し方を指導することで、従業員の離職率の低下につながることが示唆されたデータもあります。*9
この取り組みは一例ですが、上司の部下への対応は、従業員の働きやすさや離職率に関わる要因の一つと考えられます。
イライラを減らすためにできること|オフィス環境と個人の工夫
最後に、イライラを減らし、フキハラなどのハラスメントが生まれにくいオフィス環境の整え方についてのヒントを紹介します。
オフィス設計でできる工夫
ストレスの原因になるような物理的な環境を取り除くことが重要です。
例えば、騒音が気になる環境では、吸音材の設置やパーテーションの活用によって音のストレスを軽減することもできるでしょう。*10
また、温度や照明の調整も、集中しやすさや快適性に影響します。
さらに、視線が気になりやすい配置では、座席の向きや間仕切りの工夫によって心理的な負担を軽減できる場合があります。
一方で開放感がなくイライラするようであれば、オープンスペースを設けるということもよいでしょう。
さらに、動線を整理し、移動や作業の負担を減らすことは、日常的なストレスの軽減につながります。
集中するエリアとコミュニケーションをとるエリアを分けるなど、目的に応じた空間設計も重要です。
働きやすい環境作りの取り組み
ハラスメントが起きにくい環境を整えるために、管理職が後輩や部下への指導方法の周知・啓発を行うことも重要です。*11
しかし、こうした取り組みが現場で十分に実践されているとは限りません。
筆者が以前働いていた病院では、常にイライラし、特に部下に対し不機嫌な態度で接する医師がいました。
こうした行為は周囲のスタッフに威圧感を与え、周りの雰囲気を悪くしていました。
振り返ると、「フキハラ」に該当していたかもしれません。
ただし、その医師は、さらに上司から常にパワハラにあたるような要求をされていたようでした。
そのため、本人の性格のほかにもそうした背景からの行動だったのかもしれないと今では思います。
ただ、医師のオフィスに該当する医局の雰囲気も、窓もなく閉鎖的だったこともあり、筆者を含め他の職員も知らず知らずのうちに高ストレス状態に置かれていたのではないかと感じます。
このように、個人の性格だけでなく、組織の構造や環境が重なり合うことで、不機嫌な態度が生じやすくなる場合もあります。
個人でできる対処法
体調管理や十分な睡眠、こまめな休憩は、感情の安定に直結します。
特に、部下を管理する立場の方は、普段から自分のメンタルを整えることを意識しておきましょう。
自分の状態に気づき、言葉にして整理することも、イライラのコントロールに役立ちます。
また、深い腹式呼吸やヨガなどは、リラクゼーションを促す方法として有用です。*12
特に呼吸をゆっくり整えることは、副交感神経を優位にし、過度な緊張状態を和らげる効果が期待できます。
まとめ
イライラは個人の性格だけで生じるものではなく、体調やストレス状態、さらには職場環境の影響を受けて生じます。
特に環境による影響は大きく、日常の小さな負担の積み重ねが、感情の不安定さにつながることがあります。
オフィス環境を整えることは、働きやすさの向上だけでなく、感情の安定や職場全体の雰囲気改善にもつながります。
イライラは「個人の問題」として切り離すのではなく、「環境によって調整できるもの」として捉えることが重要です。
個人の工夫に加えて、環境の視点からの取り組みを進めることが、イライラが過度に募った結果のフキハラを防ぐ一助となるでしょう。

この記事を書いた人

木村 香菜
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医、日本人間ドック・予防医療学会認定医。
資料一覧
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoffamilysociology/34/1/34_16/_pdf/-char/ja
*2 資料シリーズNo.216「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/216.html
PDF:本文 資料シリーズNo.216全文「職場のパワーハラスメントに関する ヒアリング調査結果」 p50
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/216.pdf
*3 Feeling Irritable? Why You’re Irritated and What To Do About It|Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/irritability
*4 Melinda Ring,An Integrative Approach to HPA Axis Dysfunction: From Recognition to Recovery.The American Journal of Medicine.2025;138(10):1451-1463.
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*8 「働きやすい・働きがいのある職場づくり」に役立つ各種ツール(ポータルサイト、事例集、調査報告書)を作成しました|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000047324.html
PDF:働きやすい・働きがいのある 職場づくりに関する調査 報告書 p11
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/houkoku_zentai.pdf
*9 「働きやすい・働きがいのある職場づくり」に役立つ各種ツール(ポータルサイト、事例集、調査報告書)を作成しました|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000047324.html
PDF:働きやすい・働きがいのある 職場づくりに関する調査 報告書 p56
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/houkoku_zentai.pdf
*10 騒音対策[安全衛生キーワード]|職場のあんぜんサイト-厚生労働省
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo73_1.html
*11 資料シリーズNo.216「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/216.html
PDF:本文 資料シリーズNo.216全文「職場のパワーハラスメントに関する ヒアリング調査結果」 p26
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/216.pdf
*12 Understanding the stress response|Harvard Health
https://www.health.harvard.edu/healthy-aging-and-longevity/understanding-the-stress-response
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