
GMOインターネットグループが在宅勤務を完全に廃止した。熊谷正寿代表が2026年7月14日朝にXで公表し、廃止は前日の7月13日付。2020年1月29日に始めた制度が、6年半で終わった。
投稿は熊谷代表本人によれば同日のYahoo!ニュースでコメント数・アクセス数の1位になり、7日後、表現について謝罪した。ただし、原則出社という方針は変えていない。
一方で、公的統計は「テレワークは増えている」と言っている。総務省の調査では企業の導入率が前年から上がり、国土交通省の調査ではテレワーカーの割合が減少から増加に転じた。数字と現場の実感が食い違っている。
この食い違いは何なのか。そして、社員をオフィスに戻した会社が次にぶつかるのはどこか。読み解いていく。
「タイピング数」の7日間

出来事は1週間で完結している。順に見ると、論点がどこで入れ替わったかがわかる。
熊谷代表は7月14日朝の投稿で、「2020年1月29日からパートナーの命を守るべく、日本で一番早く在宅勤務を開始致しました」と経緯を振り返ったうえで、「グループとしての推奨」の完全廃止を告げた。同日夕方には「在宅で生産性が上がる方もいる。否定しない」と断りつつ、「データ上時間当りのPCタイピング数は確実に減少。トータルで在宅勤務はマイナス」と述べている。
- 7月13日付:在宅勤務の「グループとしての推奨」を廃止
- 7月14日:熊谷代表がXで公表。2020年1月に約4,000人の従業員を在宅へ切り替えたところからの完全撤収にあたる
- 7月17日:介護・育児・通院など個別事情には柔軟に対応すると補足
- 7月21日:「『表現の過剰性』で誤解を生み、お騒がせしたことにつきまして、心よりお詫びを申し上げます」と謝罪
GMOの在宅勤務は、今回が初めての縮小ではない。2023年2月に「原則、週3日出社・週2日在宅勤務」から出社原則へ切り替えており、今回はそこに残っていた週1日の在宅勤務という最後の一枚を外した形になる。コロナ後も、採用やパートナーのQOLを考慮して認めてきた「グループとしての推奨」だったと報じられている。段階を踏んで畳んできた話で、突然の方向転換ではない。
炎上の的になったのは「タイピング数」という一語だった。7月21日の謝罪を読めばわかるとおり、謝ったのは表現であって、方針ではない。
なお、この一連の発信について、GMOが企業として公式のリリースを出した形跡は見当たらない。公表も謝罪も、熊谷代表個人のXアカウントで行われた。約4,000人規模の働き方の変更が、会社の発表ではなくトップの個人発信で世に出たことになる。
「フルリモートは廃止しません」と言った会社
同じ日に、真逆の表明をした会社がある。さくらインターネットだ。
田中邦裕社長は7月14日、フルリモートを廃止しない方針をXで明言した。どちらが正しいという話ではない。事業の形も、採用の戦場も、オフィスの床の持ち方も違う会社が、同じ問いに別の答えを出しただけである。
ただ、この2社が並んだことで、論点は「在宅か出社か」という二択から一段ずれた。決めているのは制度ではなく、その会社が人と場所をどう見ているかのほうだ。
統計は「増えた」と言い、現場は「出社が増えた」と言う

ここで数字を並べると、世間の空気とは違う絵が出てくる。
総務省の令和7年通信利用動向調査(2025年8月末時点、常用雇用者100人以上の企業6,040社が対象)では、テレワークを導入している企業は50.1%。前年の47.3%から2.8ポイント増えている。国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査(2025年10〜11月、雇用型36,391人)はもっと踏み込んでいて、「コロナ禍後は、減少が継続していたが、令和7年度調査において増加に転じ、安定基調で推移」と書いている。
- 企業のテレワーク導入率:50.1%(前年47.3%、+2.8ポイント)
- 雇用型テレワーカー割合:25.2%(令和2年度23.0%→令和6年度24.6%→令和7年度25.2%)
- 導入目的で前年から最も伸びたのは「障害者・高齢者・介護育児中の社員などへの対応」(27.3%→33.4%、+6.1ポイント)
最後の一行が効いている。テレワークの位置づけが「全社の働き方」から「事情のある人のための手段」へ移りつつある。GMOが7月17日に付け足した「介護・育児・通院など個別事情には柔軟に対応」という補足と、統計が示す方向はそろっている。
ところが働く人の実感を聞くと、真逆の数字が出る。Job総研の2026年 出社に関する実態調査(2026年3月25〜30日、有効回答327人)では、2026年度の出社頻度が前年より「増える」と答えた人が75.5%。見込みを聞いた設問で、回答者も327人と少ないので断定はできないが、方向は明確である。
- 2026年度の出社頻度が「増える」:75.5%
- 週5日出社:48.3%
- 増えた理由の1位:会社の方針が変わった(39.7%)
- 通勤時間を非効率に感じる:62.8%
- それでも「出社は必要」:76.8%(理由は「すぐに質問しやすい」61.4%、「リモートより意思疎通できる」52.6%)
矛盾ではない。制度としてのテレワークは残っている。減っているのは、それを使える頻度のほうだ。週1回が週0回になっても、統計上は「導入率50.1%」のままカウントされる。増えているのは制度で、絞られているのは運用。この2つを分けて読まないと、自社の議論が空回りする。
そして通勤を非効率と感じている62.8%と、出社は必要と答える76.8%が、同じ集団のなかに同居している。働く人自身が、まだ割り切れていない。
サボる人は、どこにいてもサボる
在宅勤務が広がったころから、私はひとつの見方を持っている。人間は本能的に楽をしたい生き物だから、楽な環境では楽をする。身も蓋もないが、あながち外れていないと思っている。
もちろん、サボる人はオフィスにいてもサボる。場所の問題ではない。ただ在宅は、楽ができる余地が大きく、しかも誰にも見られていない。サボりやすさの分だけ、差が開く。
在宅の日に掃除機をかけ、洗濯を3回まわす。その時間でAIに成果物を作らせている人は、むしろ生産性が上がっている。けれどAIをチャットで少し触って終わりの人は、浮いた時間をそのまま家事に充てているわけで、それは生産性が落ちる。同じ「在宅勤務」という言葉で括られていても、中身は正反対になる。
当社と長くお付き合いいただいている、ある中堅企業の社長から聞いた話がある。コロナ禍のさなか、その社長自身が感染して自宅療養になった。療養明け、体を慣らそうと近所の公園まで歩いていったら、平日の昼間なのに人がやけに多い。スーツ姿の外回りではない。私服で、けれど学生でも高齢者でもなく、どう見ても普段は平日の日中に働いているだろうという年格好の人たちが、ベンチやテーブルにばらばらと座っている。在宅勤務の日に、こうして外に出ているのだと察したという。その足で会社に戻り、「うちは絶対に在宅勤務はさせない」と改めて心に決めた。
雰囲気が見えなくなった会社は、何かを測りたくなる
この社長の反応を、経営者の狭量さだと切り捨てるのは簡単だ。ただ、失われたものを言葉にすると、もう少し込み入っている。
コロナ禍の前、私たちは同じ部屋にいる人の雰囲気を見ていた。今日は元気そうだな、あいつ最近落ち込んでいるな、あの若手は頑張っているな。成果物が出てくる前の、途中経過のようなものを、なんとなく全員が共有していた。在宅勤務で遠心力が働いて、真っ先に見えなくなったのがそれである。
見えなくなったものを、それでも見ようとすれば、測れるものを測るしかない。熊谷代表がタイピング数を持ち出したのは、雰囲気の代わりに置いた計器だったのだと思う。成果ではなくプロセスを見ようとした、という点では筋が通っている。伝わり方が「監視」に寄ってしまっただけで、見たかったものは監視ではなかったはずだ。
ただ、計器の選び方は難しい。私自身、AIを使うときはほとんど音声入力で、この1年でタイピング数が激減した。あの指標で測られたら、間違いなく「生産性が落ちた人」に分類される。プロセスを測る指標は、仕事のやり方が変わった瞬間に意味を失う。
戻ってきた人は、集中できているのか

ここからが、オフィスづくりの側の話になる。出社に戻す判断そのものより、戻した後の床のほうが手強い。
ザイマックス不動産総合研究所の大都市圏オフィス需要調査2025秋(2025年11月25日〜12月7日、有効回答1,555件・事業所単位)を見ると、すでに出社は戻っている。平均出社率は71.0%。ところが同じ調査で、執務環境の課題の第1位は「会議室・Web会議スペースが足りない」の57.7%だった。
- 平均出社率:71.0%
- 執務環境の課題1位:会議室・Web会議スペースが足りない(57.7%)
- 不足しているスペース:1人用ブース47.5%/2〜4人用会議室46.9%
- 今後2〜3年の面積意向:拡張したい18.0%/縮小したい5.5%
人を戻したのに、戻ってきた人が座って集中できる場所と、静かに1人で話せる場所が足りない。しかも足りないと言われているのは大会議室ではない。1人用ブースと4人以下の小さい部屋である。出社の目的が「すぐ質問しやすい」「意思疎通できる」ことなら、必要なのは大箱ではなく小さい箱だ、という話と符合する。
私はセミナーでよく、いまオフィスは最も集中しづらい場所になっている、と話している。話しかけられ、会議に呼ばれ、通りかかった人に相談される。MicrosoftがBreaking down the infinite workday(2025年6月公開、Microsoft 365のテレメトリと31市場31,000人の調査)で出した数字は、その体感とほぼ一致する。
- 就業時間中、2分に1回中断される
- 会議の50%が、生産性の高い時間帯(9〜11時・13〜15時)に入っている
2分に1回止められ、会議の半分は頭が冴えている時間帯に集中して入ってくる。この環境で深い仕事をしろというほうが無理がある。出社を義務にした会社が「それでも生産性が上がらない」と言うとき、原因は働く場所ではなく、こちら側にある可能性が高い。
出社を決める前に、床の話をしたほうがいい
出社率を上げる判断は、経営が決めれば明日からできる。難しいのは、増えた人数を受け止める床のほうだ。
コロナ禍で面積を縮めた会社は多い。そこへ出社率71%が戻ってくると、席は足りているのに会議室と1人用ブースだけが枯渇する、という形で歪みが出る。ザイマックスの調査で拡張意向18.0%が縮小意向5.5%を大きく上回っているのは、その反動である。
ただ、床を増やせる会社ばかりではない。東京のオフィス空室率は2026年第1四半期で1.5%。賃料も上がり続けており、平均の想定成約賃料は24,230円/坪と1年で9.9%、グレードAに限れば15.5%上がった。移転で解くのではなく、いまの床の中でつくり変えるしかない会社のほうが多い。
そうなると問いは「どこを潰すか」に変わる。前回の記事で書いたとおり、真っ先に候補に挙がって、そして真っ先に聖域になるのが、収納と偉い人の独立席である。内閣人事局の「オフィス改革ガイドブック」がスペース創出効果「大」とした2つの手法の一つに管理職席の見直しを挙げ、財務省・文部科学省・厚生労働省の3省庁が実際に管理職席を半分以下に減らしているのは、この順番の話でもある。
出社回帰は、働き方の議論の顔をして始まる。けれど着地するのは間取りの議論だ。「明日から原則出社」と決めた翌日に総務へ降りてくるのは、会議室が取れないという苦情である。
ただ、集中できる席を作れば済む話でもない
ここまで書いておいて言うのも何だが、集中スペースを作れば人のパフォーマンスが上がるのか、私は正直なところ疑っている。
AIを使えば、これまで1ヶ月かかっていた仕事が1〜2時間で片づくことがある。その横で、同じ仕事を人力でやり続けている人がいる。そして、その人力の作業をはかどらせたいから集中できる席がほしい、と言う。席を用意して実際にはかどったとして、それはパフォーマンスが高まったと言えるのか。本人に手応えが生まれただけではないのか。
出社か在宅かの前に、AIを前提に仕事の進め方を組み替えられているか。会社としてプロセスを変えられるか。生産性への効き方は、そちらのほうがはるかに大きいと思っている。
ただ、これはオフィスがいらないという話ではない。プロセスを組み替えるのは人で、その人が考える時間と、考えたことをぶつけ合う場所は要る。手を動かす席が減った分、頭を使う場所と、話す場所の設計がむしろ重くなる。
まとめ
GMOの判断は、6年半かけて段階的に畳んできた話の最後の一歩だった。さくらインターネットは別の答えを出した。どちらも、その会社が人と場所をどう見ているかの表明である。
統計はテレワークが増えたと言い、働く人は出社が増えたと言う。矛盾ではなく、制度は残したまま運用だけを絞る会社が増えた、ということだ。自社がいまどちらを動かそうとしているのかを分けて考えると、議論の焦点が定まる。
そして、出社を増やすと決めた会社に必ず起きるのは、会議室と1人用ブースの不足である。人を戻す判断と同じ熱量で、戻ってきた人が何をする場所なのかを決めておきたい。出社は目的ではない。集まる価値のある仕事が残っていて、それができる場所があってはじめて意味を持つ。
この記事を書いた人

吉田 学
ウチダシステムズのスタッフを中心に、組織作りや場づくりについて議論を交わしています。業務の中で実際に役に立ったことなどを紹介していきます。
参考資料
GMO・さくらインターネット
- GMOグループが「在宅勤務を完全廃止」表明 代表は「トータルで在宅勤務はマイナス」主張|J-CASTニュース
- GMO、在宅勤務を完全廃止|ITmedia NEWS
- GMO熊谷代表、原則出社の投稿について謝罪 「タイピングという説明が一人歩き」|ITmedia NEWS
- GMO熊谷氏が謝意を示した「表現の過剰性」 在宅勤務廃止表明、7日後の軌道修正|汐留PR塾
- さくらインターネット田中社長の発言|ITmedia NEWS
公的統計
民間調査
- 全国空室率・想定成約賃料 2026年第1四半期|CBRE
- 2026年 出社に関する実態調査|Job総研
- 大都市圏オフィス需要調査2025秋|ザイマックス不動産総合研究所
- オフィス改革ガイドブック(掲載ページ)|内閣官房内閣人事局
- オフィス改革ガイドブック 本体PDF(令和7年3月)|内閣官房内閣人事局
- Breaking down the infinite workday|Microsoft WorkLab
- オフィスマーケットビュー 2026年第1四半期|CBRE
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