人は必ずミスをする|医療の現場に学ぶヒューマンエラー対策を薬剤師が解説

どのような職場でも、ヒューマンエラーを完全になくすことはできません。そして、多くの人的ミスは「個人の不注意」とされがちですが、実は企業の生産性や安全性に大きく影響する重要な課題といえます。

とはいえ、人の集中力には限界があるため、注意喚起や精神論だけでミスを減らすことはできません。

引用)厚生労働省「生衛業向け 生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのマニュアル(基礎編)」*1P.2
https://www.mhlw.go.jp/content/000962924.pdf

一方、調剤薬局などの医療現場では、ミスが重大事故につながる可能性が常にあるため、ミスが発生しにくい「人に依存しない仕組みづくり」が徹底されています。調剤薬局は転職者や派遣薬剤師が少なくない職場ですが、それでも安全性が保たれているのは、ヒューマンエラーを防ぐ仕組みがうまく機能しているからでしょう。

この記事では、筆者の薬剤師としての経験をもとに、調剤薬局で実際に行われているヒューマンエラー対策を紹介し、それらを企業でどのように活かせるかを解説します。

調剤薬局におけるヒューマンエラー対策の例

まず、実際に調剤薬局で取り入れられているヒューマンエラー対策を見ていきましょう。

業務手順書による業務の質の均一化

調剤薬局では、医療事故を防ぐために「医薬品の安全使用のための業務手順書」の作成・設置が義務づけられています*2
作業手順が明文化・標準化されているため、新しく入った薬剤師でも迷わず作業することが可能で、どの薬剤師が担当しても同じように業務を行えます。

これは、属人化を排除し、再現性の高い業務フローを保つことで、経験の差によるミスを防ぐ取り組みといえます。

ダブルチェックの徹底

調剤薬局では、調剤者と監査者を分けるなど、複数人で業務を確認する仕組みが徹底されています。これは、思い込みや見落としによるミスを防ぐために欠かせない取り組みです。

このような第三者によるチェック・補正は、「人は必ずミスをする」という前提に立った安全策といえるでしょう。

薬剤配置の工夫

通常、調剤薬局には数百~千種類以上もの薬剤がありますが、名称や見た目が類似している薬もあるため、配置を工夫して取り間違いを防いでいます。例えば、間違えやすい薬剤をあえて隣に置いたり、逆に離れた位置に配置して注意喚起ラベルを貼ったりするなどして、「確認せずにはいられない」状況を作り出しているのです。

これは、配置を最適化してミスを未然に防ぐ仕組み、すなわち、環境で正しい判断を後押しする設計といえます。

バーコードシステムによる照合

来局者の多い薬局では、同姓同名の方や処方内容が似ている方が同じ時間帯に来ることもあるため、人の判断だけに頼るとミスが起きやすくなります。また、薬剤師が一人だけの薬局では、ダブルチェックができません。このような状況を踏まえ、患者情報と調剤する薬剤をバーコードで照合するシステムを導入している薬局もあります。

機械によるチェックを組み合わせると、人の判断に依存せず正確性を担保することが可能になります。これは、ヒューマンエラーをシステムで補完する方法の一つです。

ミスを起こしにくい施設設計

調剤薬局では、調剤室内でスタッフ同士の動線が交差しないよう棚の位置を調整したり、薬剤のある場所が一目でわかるように配置や表示を工夫したりしています。また、散剤(粉薬)を計量するエリア・錠剤が置かれているエリアなどが明確に分かれており、作業に集中しやすい環境が整っています。

このような「ミスを起こしにくい環境」を設計によって作り出すという考え方は、あらゆる職場に応用できるはずです。

ヒヤリハット・インシデント事例の共有

調剤薬局では、ミスを個人の責任として責めるのではなく、「未然に防げた事例(ヒヤリハット)」や「実害のなかった事例(インシデント)」を積極的に共有しています。これは、ミスを単なる「失敗」で終わらせず、改善につなげるための貴重な「学び」としてとらえているためです。

このような「ミスを学びに変える文化」は、一般企業でも積極的に取り入れるべきでしょう。

なお、薬局での対策をエラーの種類ごとにまとめると、以下のようになります。

表:エラーの種類と調剤薬局が行っているヒューマンエラー対策

エラーの種類調剤薬局での対策ミスを防ぐ仕組み
記憶エラー業務手順書の作成記憶違い・経験不足をカバーする。
認知エラーダブルチェック薬剤配置の工夫バーコードシステム施設設計の工夫複数回のチェック・視認性の向上・機器による照合・物理的な隔離などにより、ミスを構造的に防ぐ。
判断エラー業務手順書の作成ダブルチェック判断基準を統一し、第三者のチェックで思い込みや誤判断を補正する。
行動エラー施設設計の工夫動線改善により、操作ミスや作業中断によるミスを減らす。
あえて型業務手順書の作成薬剤配置の工夫自己流のやり方や省略を防ぎ、ミスを防ぐ。慣れや横着による取り間違えを物理的に防ぐ。
すべてのエラーミス事例の共有組織全体で学び、ミスの再発を防ぐ。

企業が取り入れやすいヒューマンエラー対策

調剤薬局で行われているヒューマンエラー対策は、一般企業のオフィス業務や現場作業にも応用することが可能です。

業務手順の明文化と業務の標準化

調剤薬局の「業務手順書」は、従業員個人の経験や記憶に頼らない「組織の基盤づくり」に応用できます。

・業務フローの見直し
業務フローが複雑だと迷いが生じ、ミスにつながります。直感的に進められるフローに改善することが重要です。

・手順書やチェックリストの整備
手順やチェック項目が明確になれば、自己流による省略や思い込みによるミスを防げます。また、誰でも同じ手順で作業できるようになれば、業務の属人化解消にもつながります。

・業務の標準化
文書のテンプレート化や入力項目のプルダウン化などで作業の「ゆれ」を減らし、誤入力や表記漏れを防ぎます。業務の標準化は、業務結果の「再現性」の確保にも有効です。

ダブルチェック体制の導入

調剤薬局で行われているダブルチェックは、特にミスが許されない工程に絞って導入するとよいでしょう。

・ダブルチェックを導入すべき工程
契約書、見積書、請求書など、金銭や信用に直結する業務については、必ず第三者がチェックするルールを作ります。

・データ入力者と検証者を別に設定
「作成者」と「検証者」を分けることで、見落としや思い込みによるミスを防ぎます。

・チェックポイントを明確化
「金額はあっているのか」「宛先は正しいか」など、具体的な確認項目を指定すると、チェックの形骸化を防げます。

情報・物品配置の最適化

薬剤配置の工夫は、デスク周りやデータの管理に応用できます。

・ファイル名の命名ルール・共有フォルダのルール統一
「最新」「コピー」といったあいまいな名称を禁止し、日付や版数、IDの付与などでファイル名の付け方を統一すると、古いデータの誤使用を防げます。さらに、どこに何があるか一目でわかるフォルダ構造にすることで、情報の取り違えを防げます。

・混同しやすい物品は離して配置
間違えやすい備品・物品や似たコードの製品を離して配置することで、無意識の取り違いを物理的に阻止できます。

・ラベルや色分けで誤認を防止
注意を喚起するラベルや、グループごとの色分けで視認性を向上させると、視覚からも正しい判断ができるようになるため、ミスが起きにくくなります。

ITツールやシステムによる自動チェック

企業でも、バーコードシステムの導入や単純作業の自動化などで、人の判断に依存しない仕組みを構築できます。

・出荷品と伝票のバーコード照合
バーコードシステムを導入すると、現物とデータの不一致を瞬時に検知できるため、ミスを予防するだけでなく、作業効率向上やコスト削減にもつながります。

・入力フォームの自動エラーチェック
申請フォームや業務システムに自動エラーチェック機能を組み込めば、必須項目の未入力や形式違いを早い段階で防げます。結果として、後工程での修正作業が大幅に減り、業務全体の正確性と効率が向上します。

・RPAによる単純作業の自動化
定型的な作業をRPA(Robotic Process Automation)*3に任せれば、ミスを防ぎつつ、担当者はより重要な業務に集中できます。

業務がスムーズに進む環境設計

調剤薬局と同じように、オフィスでも動線やゾーニングを整えることでヒューマンエラーを大きく減らせる可能性があります。

・動線とゾーニングの工夫
人の出入りが多い場所で作業をすると集中力が途切れやすいため、動線を整理し、集中エリアとコミュニケーションエリアを分けて作業に集中できる環境を整えます。

・物品の定位置管理
必要なものが常に同じ位置にあれば、「探す」という無駄な作業がなくなり、「場所を覚えておく」という認知負荷も抑えられるため、作業に集中しやすくなります。

ミス事例の共有

重大なトラブルを防ぐために、企業が重視すべきなのは「誰がやったのか」ではなく「なぜ起きたのか」です。そのためにも、ミスを共有する文化を育むことはとても大切です。

・定期的な共有ミーティング
ミス事例を定期的に持ち寄り、原因や背景を共有します。情報をオープンにすることで、他部署や他メンバーにも気づきを広げられます。

・匿名報告フォームの用意
気づきやミスを気軽に報告できる環境を整え、情報を集めやすくします。匿名にすることで心理的な安心感が広がれば、より多くの情報が集まるようになるでしょう。

・ミスを改善の材料ととらえる文化づくり
ミスをした人が明らかであっても、責めるのではなく、組織の弱点を見つけてくれた「貢献者」として扱う姿勢が大切です。こうした文化が根づくことで、組織全体の安全性と品質が向上します。

企業が取りうる対策を、対象となるエラーごとにまとめると以下のようになります。

表:エラーの種類と企業が取りうる対策

エラーの種類企業が取りうる対策ミスを防ぐ仕組み
記憶エラー情報・物品配置の最適化定位置管理・命名ルール統一により、記憶に依存しない作業環境になる。
認知エラー情報・物品配置の最適化ITツールやシステムによる自動チェックラベル化・色分け・離隔配置、バーコード照合などで、誤認や取り違えを防ぐ。
判断エラー業務手順の明文化と業務の標準化ダブルチェック体制の導入手順の明確化で判断基準が統一され、第三者チェックで思い込みによるミスが補正できる。
行動エラー業務手順の明文化と業務の標準化ITツールやシステムによる自動チェック業務がスムーズに進む環境設計チェックリストで手順の抜けが防げる。機器によるチェックで客観的にミスを検知できる。動線改善やゾーニングで中断や接触によるミスを減らせる。
あえて型業務手順の明文化と業務の標準化ダブルチェック体制の導入標準化された手順で自己流の省略を防げる。第三者によるチェックが抑止力となり、横着や自己判断によるミスが起きにくくなる。
すべてのエラーミス事例の共有ミスを責めずに共有し、学び合うことで再発を防ぐ。

まとめ|ヒューマンエラーは「個人」ではなく「組織」で防ぐ

ヒューマンエラーは、「あってはいけないこと」ではなく「起こり得るもの」です。だからこそ、個人の注意力に頼るのではなく、組織全体でミスを防ぐ仕組みを整えることが大切です。

ミスの発生率が下がれば、企業の生産性や信頼性を高めることにもつながります。事業の永続性のためにも、組織としてミスを減らす取り組みを進めていくべきでしょう。

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この記事を書いた人

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

参考資料

*1
出所)厚生労働省「生衛業向け 生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのマニュアル(基礎編)」P.2
https://www.mhlw.go.jp/content/000962924.pdf
*2
出所)厚生労働省「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルについて(医政総発第0330001号/薬食総発第0330001号)」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6171&dataType=1
*3
出所)日立ソリューションズ「ソリューション・商品>ラインアップ>RPA業務自動化ソリューション>お役立ち情報>ルーティン業務を効率化するには?RPAを用いた効率化方法をご紹介!」
https://www.hitachi-solutions.co.jp/rpa/column/rpa_vol27.html


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この記事を書いた人

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