意外に難しい「社員の家族が亡くなった時」にかける言葉… あなたが上司ならどうする?

社員の家族が亡くなったとき、上司(以下、マネジャー)はどのような言葉をかければいいのでしょうか。
大切な人の喪失にともなう深い悲しみ、「グリーフ」は非常にデリケートな問題で、よかれと思って口にした言葉が、かえって相手を傷つけてしまうこともあります。

また、見落とされがちなのが、流産や死産など、「周囲から見えにくい喪失」です。本人が語らない限り職場では気づかれにくく、周囲も何と声をかけてよいか分からないまま時間が過ぎてしまうことがあります。

こうした「見えにくい悲しみ」も含め、職場には多様な喪失を抱えた社員がいます。

本コラムでは、グリーフケアの視点を中心に、マネジャーや職場は深い悲しみを抱えた社員にどのように寄り添えばいいのか、考えていきます。

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グリーフ(悲嘆)とは

まず、「グリーフ」とは何かをみていきましょう。

喪失に伴う深い悲しみと反応

「グリーフ(悲嘆)」とは、大切な人を亡くした時に起きるさまざまな反応のことです。*1

配偶者、子ども、両親、兄弟姉妹など、生活や時間を共有してきた大切な人を失うと、やるせない、どうしようもない悲しみに包まれます。
そうした深い悲しみがストレッサーとなり、さまざまな不調が引き起こされます。

一方で、残された現実の生活に向き合い、「なんとか日常を保たなければ」と懸命に立ち直ろうとする気持ちも同時に存在しています。

多くの人は、そうした「喪失にまつわる思い」と「現実に対応しようとする思い」の間を揺れ動きながら、不安定な状態を経験します。
さらに、身体的な不調や違和感が現れることもあります。

こうした心身の反応全体を「グリーフ」と呼びます。

図1 グリーフの反応
出所)一般社団法人 日本グリーフケア協会「グリーフケアとは」
https://www.grief-care.org/about.html

グリーフは、感情や考え方、ものの見方などにさまざまな影響を及ぼす反応です。
心の大きな負担が身体の不調として表れることも珍しくありません。

グリーフの影響は、日常生活や行動面にも現れます。
集中力が低下して物事に身が入らなくなったり、ふとしたきっかけで涙がこみ上げてきたりすることもあります。
また、「なぜこんなことが起きたのか」「これからどうすればよいのか」と考え続けることも少なくありません。

こうした反応は、どれか1つだけが現れるわけではありません。
さまざまな感情や体調、行動の変化が入り混じりながら、時や場所を選ばず起こります。
何年も経った後でも、何かをきっかけに、再び悲しみが強く蘇ることもあります。

グリーフとは、それほどまでに、人の心の深い部分に関わる悲しみなのです。

ただし、一般的に、グリーフは特殊な反応ではなく、深刻ではあるけれども、あくまでも人として正常な反応であると考えられています。

見落とされやすい「見えない喪失」

職場で特に難しいのが、周囲から見えにくい喪失です。
その代表的なものが、流産や死産でしょう。

流産は決してまれではなく、妊娠の約15%は自然流産となります。*2
流産率は年齢とともに上昇し、40歳を過ぎると妊娠しても40%以上が流産するといわれています。さらに、妊娠したことがある女性のうち、38%が流産を経験しているという報告もあります。
また、2024年の死産数は 1万 5,323人に上りました。*3

厚生労働省の報告書によると、流産・死産などの「妊娠喪失」を経験した女性のグリーフは深く、その影響は長期にわたります。*4
死産の場合は、同僚が最後に会ったとき、妊婦姿で周囲に祝福されていたかもしれません。

本人だけでなく、パートナーの苦しみにも配慮する必要があります。*5
男性は、妊娠喪失の後、パートナーのサポート役としてみられることが多く、自分自身の悲しみや嘆きを受け入れる余裕がないまま、周囲からのサポートもほとんど得られないことが調査からわかっています。

流産や死産は、深刻な状況にもかかわらず職場に共有されないことも多く、本人も「説明したくない」「知られたくない」と感じている場合があります。
妊娠喪失に起因するこうしたグリーフを抱えた社員が、もしかしたらすぐ隣りにいる可能性もあるのです。

グリーフケアとは

グリーフの状態にある人に、さりげなく寄り添い、援助することを「グリーフケア」といいます。

グリーフにより苦痛を抱えている時期は、「人生の危機」ともいえる時間です。
しかし一方で、適切な支えや関わりがあれば、ものの見方や価値観、生き方そのものを見つめ直すことができるかもしれません。
新たな一歩へとつながっていくエネルギーや可能性も秘めている大切な時期でもあるといえるでしょう。

グリーフの状態にある人は、突然、それまでとは異なる不慣れな現実の中に置かれます。
そんな時、自分の思いを否定せずにじっくり耳を傾けてくれる人や、さりげなく寄り添ってくれる存在は、大きな支えとなります。

そのような関わりを通して、本人が少しずつ自分自身の歩む道を見つめ直し、確認していくきっかけが生まれていきます。

グリーフケアとは、大きな喪失によって生じる苦痛や混乱に際して、当事者の思いや感情に寄り添う。そして、その人が喪失と向き合い、生活や人生を再構築していく過程を支援する営みであるといえるかもしれません。

マネジャーにできること

グリーフを専門とするサイコセラピスト、ジュリア・サミュエル氏は、マネジャーがグリーフを抱える社員と信頼関係を築くことが、その社員の回復の柱になると述べています。*6

では、マネジャーには具体的にどんなことができるのでしょうか。
『大切な人の死を悼む社員にマネジャーができること』(ハーバード・ビジネス・レビュー論文)の記述を中心に、3つの段階に分けてみていきましょう。

忌引き制度は今のままでいい?

家族を亡くした直後には、どのくらい休むのか、休めるのかという問題に直面します。

日本では、忌引き休暇は企業に義務づけられていません。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査結果によると、「慶弔休暇制度」、「慶弔見舞金制度」を導入している企業は、それぞれ90.7%、86.5%に上ります。*7
ただ、非正規従業員に対しては、「慶弔休暇制度」が導入されている企業は 46.6%、「慶弔休暇制度」は 44.3%にとどまるという気になるデータも示されてます。
同じ職場で働く従業員のグリーフに寄り添うためには、雇用形態にかかわらず公平な対応が求められるのではないでしょうか。

アメリカの連邦法でも忌引きを与えることを企業に義務づけていません。*6
ただアメリカでは、組織の90%近くが有給の忌引き休暇を与えているという報告があります。
平均すると、配偶者や子どもの場合には4日、その他の近親者には3日、遠い縁者には1、2日の休暇を与えていました。

これで十分でしょうか。
Facebook初の女性役員になったシェリル・サンドバーグと心理学者のアダム・グラントは、ほとんどの企業で忌引き休暇が十分に与えられていないと厳しく指摘しています。

Facebookとマスターカードでは、肉親が死亡した場合の忌引き休暇を最長20日まで延長しました。
また、アメリカでは、休暇を必要としている社員に自分の休暇を寄付できる「休暇シェア制度」が、中小企業を含む多くの組織で一般的なものになっているということです。

忌引き休暇や弔慰金の制度が現状で十分かどうか見直すことも、マネジャーの大切な役割ではないでしょうか。

復帰する社員の希望を他の社員に伝え、心の受け入れ準備をしてもらう

喪失後まだ日が浅く、悲嘆にくれている段階では、人事方針そのものより、マネジャーによる運用や、職場にもどったときの同僚の接し方に不満をもつ人が多い傾向があるという報告があります。

「忌引き休暇は〇日間です」とだけ告げられ、それ以外のフォローがなかったらどうでしょうか。

悲しみを抱えた人の行動には個人差があります。
悲しみから逃れるために職場復帰を急ぐ人もいれば、復帰するまでに長い時間を必要とする人もいます。
喪失経験のタイプによっても、個々人の反応は異なります。
いつ職場復帰をするか決める際には、こうしたさまざまな要素を考慮しなければなりません。

そして、社員が職場に復帰する気持ちになったら、マネジャーには重要な役割があります。
それは、復帰する社員の希望を他の社員に伝え、その社員を受け入れるための心の準備をしてもらうことです。

マネジャーはグリーフを抱えた社員に、望んでいることや必要なことを尋ねるべきだとサミュエル氏は述べています。

  • 同僚にどのように対応してもらいたいか
  • まず、1~2時間出社して、同僚と会ってみるのはどうか
  • 2週間ほど半日出社にしたら、助けになるか

喪中の社員に、そんなことをきいてみて、どんな対応を希望するか選んでもらい、その希望を他の社員に伝えるのです。

その際、どうするのが一番いいのかはっきりしなければ、もっと時間をかけてゆっくり決めてもらうのが望ましい方向性です。

職場復帰をした社員には忍耐づよく対応する

ほとんどの社員は、数日あるいは数週間後に職場復帰しますが、職場復帰したからといって、すべてがすぐに平常に戻ると想定するのは危険です。

グリーフは最初の数か月は過酷ですし、数年たってから悪化する場合もあります。
また、最初の数か月は相反する感情の間で揺れ動くことも多いのです。

しかも、そのことを本人が意識しているともかぎりません。
そのため、それが行動のムラとして現れ、周りを混乱させることがあるかもしれません。
マネジャーは、それがグリーフの正常な反応であることを理解し、耳を傾けるゆとりをもち、その社員が深い悲しみの渦中にあることを受け止めることが大切です。

こうした時期には、柔軟性が必要です。
しばらくの間、リモートワークやフレックスタイムを認め、定期的な査定を延期して、今以上のサポートが必要かどうかについて話し合うといいでしょう。

ただし、喪失後、数か月たっても、まだ苦悩が続いている場合には、通常のグリーフとはプロセスの異なるグリーフである可能性もあるため、専門家への相談をそっと勧めてみることも有益です。

オープンに接する

喪失とグリーフを経て、やがて希望が湧いてくる瞬間が訪れるかもしれません。
人生に意味を見出し、人生を再構築しようとする時期にさしかかった社員をマネジャーはどう支えるべきでしょうか。

そんなとき、マネジャーが自身の喪失経験や痛みをともなう苦しみを耐え抜いた経験を話すのが効果的だと指摘されています。

「社員が喪失について話せる職場環境をつくりたいと思ったら、最善の方法は、それをみずから実行し模範となることだ」と、自らの経験を語るCEOもいます。
これは、心理学の専門家による研究結果とも合致しています。

マネジャーがそうしたオープンなマインドを示すことによって、「見えにくい喪失」について自ら開示する社員が出てくるかもしれません。

おわりに

優れたマネジャーとは、社員が困難な経験を乗り越えながら新たな意味や方向性を見いだそうとするとき、その声に耳を傾け、必要な支援を提供できる存在である―組織行動学の研究者はそう指摘しています。*6

家族との死別は、社員にとって大きな人生の転機となる出来事です。その影響は仕事にも及びますが、適切な理解と支援があれば、社員が少しずつ日常を取り戻し、自分らしい歩みを再開する力につながります。

グリーフに向き合うことは、単に一時的な配慮を行うことではありません。社員1人ひとりを大切にする組織文化を育み、信頼関係を深めることにもつながります。

そしてその過程で、マネジャー自身も、人の可能性を最大限引き出すリーダーとして、成長していくことができるでしょう。

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この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
X:よこうちみほこ Facebook:よこうちみほこ

資料一覧

*1
出所)一般社団法人 日本グリーフケア協会「グリーフケアとは」
https://www.grief-care.org/about.html
*2
出所)公益社団法人 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
https://www.jsog.or.jp/citizen/5707/
*3
出所)厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」(2025年9月16日)p.3
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/dl/15_gaikyouR06.pdf
*4
出所)厚生労働省「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 流産や死産等を経験した女性に対する心理社会的支援に関する調査研究 事業報告書」(2021年3月) p.12, 17(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)
https://warp.ndl.go.jp/web/20231113223135/https://www.mhlw.go.jp/content/000823660.pdf
*5
出所)Harverd Business Review Sally Maitlis and Gianpiero Petriglieri “Going Back to Work After a Pregnancy Loss” (2019年12月5日)
https://hbr.org/2019/12/going-back-to-work-after-a-pregnancy-loss
*6
出所)DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文 ジャンピエロ・ペトリグリエリ、サリー・メイトリス スコフィールド素子/訳『大切な人の死を悼む社員にマネージャーができること』(2020年11月4日)ダイヤモンド社、電子書籍 No.76, 125, 136, 147, 166, 174, 187, 218, 230, 239
*7
出所)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査 ―企業/従業員アンケート調査結果―」(2020年7月31日)p.13, 19
https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/documents/203.pdf


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そしきLab編集部

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