
同じように働いているはずなのに、特定の人だけがひどく疲れやすかったりミスが多かった従業員の健康のためにジムの割引券や健康アプリを用意・導入したものの、利用率が伸びないケースは少なからずあると思われます。
実際、厚生労働省の調査によると、運動習慣がある人は男女とも3割前後にとどまっています。特に30代・40代の男性、および20代~40代の女性では、運動習慣がある人の割合が2割前後にとどまっており、働き盛りの世代で健康習慣が続きにくい現状が浮き彫りになっています*1。
図:運動習慣がある者の割合

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
では、なぜ健康習慣は定着しないのでしょうか。その理由は、「本人の意思が弱い」からではありません。健康習慣が、特別な努力をしないと続けられない「非日常的なイベント」になっているからなのです。
物事を習慣にするには、個人の努力に頼るのではなく、自然と体が動くような「仕組み」が必要です。本稿では、健康習慣が続かない根本的な原因を解き明かし、企業が導入しやすい「仕組みとしての健康習慣」を提案します。
この音声コンテンツは、記事の文脈をAIが読み取り独自に対話を重ねて構成したものです。文章の読み上げではなく、流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。※AIで作成しているため、一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
健康習慣が続かない根本的な原因
健康習慣が続かない背景には、人間の心理や働く人の環境に共通するいくつかの理由があります。
健康リスクを「自分のこと」としてとらえられない
健康リスクは、痛みや不調が出るまで実感しにくいものです。
例えば、高血圧や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病は、多くの場合、初期には自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断などで指摘されても、未治療のまま放置される場合が少なからずあります。
たとえ治療を始めても、「忙しい」「今は困っていない」と受診を後回しにしたり、服薬を怠ったりする方も相当数います。忙しいビジネスパーソンにとって大切なのは目の前の業務であり、将来の健康リスクは「自分ごと」としてとらえにくいからです。
また、現代は健康情報があふれすぎています。真偽を確かめないまま都合の良い情報だけを拾い上げ、リスクを過小評価してしまうことも、健康習慣を遠ざける一因です。
このように、健康リスクを「自分のこと」としてとらえにくい環境では、健康習慣は定着しません。
行動のハードルが高い
目標設定が現実的でなく、行動のハードルが高すぎる場合も、健康習慣の継続は難しくなります。
「毎日1万歩歩く」「30分以上運動する」といった目標は理想的に見えますが、働いている人にとって現実的とはいえません。スポーツ庁の調査でも、運動習慣を妨げる理由として「仕事や家事が忙しくて時間がない」が上位に挙げられています*2。
このように、まとまった時間が必要な行動は、仕事が忙しくなると後回しになりがちで、再開にはより大きなエネルギーが必要になります。結局、続けられなくなる場合も多く、健康習慣が根づきにくい理由の一つになっています。
表:運動・スポーツを実施する頻度が減ったまたはこれ以上増やせない(増やさない)理由[現在の運動頻度に満足していない者に対して]

https://www.mext.go.jp/sports/content/20230324-spt_kensport02-000028561_1.pdf
成果が見えず、続ける理由が見つからない
取り組みの効果を実感しにくいことも、健康習慣が定着しにくい原因の一つです。
運動や食生活の改善をしても、体重や体脂肪などに反映されるまでには時間がかかります。成果が見えないと努力する意義を感じられず、健康習慣を続ける理由を見失いがちです。
そもそも健康のための取り組みは、短期間で大きな変化が期待できるものではありません。だからこそ、日々のわずかな変化を可視化する仕組みがないと、挫折するリスクが高まるのです。
努力に頼らない!企業が提供できる「仕組みとしての健康習慣」
健康習慣を定着させるには、「最初の一歩を踏み出しやすいこと」と「無理なく続けられること」が大切です。
その点、職場は多くの人が長時間過ごす場所であり、行動を促す仕組みさえあれば、従業員は意識しなくても体を動かす機会を増やせます。
では、具体的にどのような仕組みを用意すればよいのでしょうか。取り入れやすい具体策をいくつか紹介します。
「疲労回復タイム」の設定
健康習慣の土台となるのは、何よりも「疲労を溜めないこと」です。疲労が蓄積した状態では、「仕事のあとに運動をしよう」「健康に良い食事を作ろう」といった意欲が湧きにくく、睡眠の質も低下しがちです。そのため、業務時間内に短いリフレッシュタイムを組み込むことは、健康習慣の第一歩を踏み出しやすくするうえでも大変重要です。
例えば、「毎日午後2時から15分間はパソコンの画面から離れる」といったルールを設定すれば、「自分だけ休むのは申し訳ない」という心理的ハードルがなくなり、安心して休息を取れるようになります。また、経営側が時間を明確に指示することで、個人任せにならず、参加率も自然に高まるでしょう。
「午後の決まった時間(3時など)に、1~3分程度のストレッチを全員でする」といった取り組みも効果的です。小さな行動でも、「時間が空いたらやる」のではなく決まったタイミングで繰り返すことで習慣化しやすくなり、業務の一部として定着していきます。
加えて、毎日短時間でも体をリセットできる仕組みがあると、行動のハードルが下がり、ほかの健康習慣にも取り組みやすくなるという波及効果も期待できます。
「ながら健康習慣」の導入
業務の流れを変えず、仕事のついでに体を動かす仕組みを整えれば、従業員の意思に頼らなくても健康につながる行動が日常の業務に組み込まれていきます。
例として、立ちミーティングの導入があります。立って会議を行うことで足腰の筋肉が適度に刺激されるだけでなく、会議時間の短縮という副次的な効果も期待できます。
また、複写機やゴミ箱などをデスクから離れた場所に配置し、歩く機会を意図的に増やすレイアウトにするのも有効です。
このような「ながら健康習慣」は、特別な準備がほとんど不要であることから行動のハードルが低く、組織全体にも浸透しやすいのが特徴です。
さらに、オフィスの改装・移転のタイミングで動線を工夫すれば、歩く・立つといった動作が自然に増え、健康につながる行動を続けやすくなるでしょう。実際、オフィスの改装(リノベーション)で、1日当たりの座位行動が40分減少し、低強度ではあるものの身体活動が24分増加した、という研究報告もあります*3。


https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
セルフチェックで体調を可視化
その日の疲労度を「〇・△・×」でチェックしたり、睡眠時間や体調を簡単に入力したりするセルフチェックは、負担が少なく取り組みやすい方法です。行動のハードルが低いため、健康習慣の「最初の一歩」を踏み出しやすく、無理なく続けられます。
自分の状態が数値やグラフで客観視できるようになると、「早く寝た次の日は、調子が良い」などの気づきが生まれ、日々の行動を見直すきっかけになるでしょう。このような小さな積み重ねが、健康的な行動を続ける動機づけにつながります。
セルフチェックは、スマートフォンのアプリを活用して朝礼時に入力タイムを設けるなどの工夫をすると、業務に取り入れやすくなります。このような仕組みを整えることで、従業員が無理なく続けられる健康習慣が職場に根づいていきます。
企業向けの健康アプリを利用すれば、経営側も従業員の状況を把握しやすくなり、職場全体のコンディションを可視化することも可能です。部署単位でデータを集計すれば、「最近この部署は疲労が蓄積している」といった傾向も把握でき、業務量の調整や働き方の改善など、組織的なアプローチにも活かせます。
チームで支え合い継続率を向上
歩数などの記録は、個人で順位を競う形式にすると、低順位の人の意欲を損なうおそれがあります。そのため、個人ではなくチーム単位で取り組み、競争ではなく「目標達成」をゴールに設定する方法がおすすめです。
目標を達成したチームには、「社食のランチ代を無料にする」「夕食代を補助する」など、努力をたたえる仕組みを設けると、連帯感が生まれ、互いに励まし合いながら行動を続けやすくなります。
職場全体で参加するイベント形式にすれば、普段あまり運動をしない人たちも「チームのために」と最初の一歩を踏み出しやすくなるでしょう。さらに、管理職が率先して参加する姿を見せると、「やらされている」という感覚が薄れ、職場全体の参加率が高まります。
このようにチームで支え合う仕組みを整えることで、「最初の一歩」と「継続しやすさ」がともに実現可能となり、健康習慣が職場文化として定着しやすくなります。
まとめ|健康習慣を「文化」へ。今日から始める小さな一歩
経営者の提供する健康施策が従業員に浸透しないのは、「業務」という日常の中に健康につながる行動を促す「仕組み」が用意されていないためです。企業に求められるのは、従業員に健康になるための努力を強いることではなく、「普通に働いているだけで、いつの間にか健康につながる行動をとっている」という環境づくりです。
「週に1回、スタンディングミーティングを取り入れてみる」「業務フローに休息を組み込む」「オフィス動線を工夫して活動量を増やす」など、健康習慣につながる仕組みはいろいろありますが、短期間で劇的な変化を生むものではありません。しかし、こうした小さな積み重ねがやがて企業文化となり、離職率の低下やパフォーマンスの向上といった形で、組織全体にも良い影響をもたらしてくれるはずです。
従業員が健やかに、そして生き生きと働けるオフィスを目指して、新しい働き方をデザインしてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。
参考資料
*1
出所)厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」P.19
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
*2
出所)スポーツ庁「「令和4年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」結果の概要」P.4
https://www.mext.go.jp/sports/content/20230324-spt_kensport02-000028561_1.pdf
*3
出所)厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」P.22
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
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