「自分のことがわかってない」「なんでも人のせいにする」「偉そう」な人のお世話係になって見えてきた現実

あぁ、急に現実が見えてきた。
そうか。そういうことだったんだ。

あれは、入社初日に、社長夫人であるマナミさんからランチに誘われたときのことだ。
二人で会社の近くのカフェに入り、本日の日替わりランチ定食を待っている間に、マナミさんから「うちの会社について、ちゃんと話しておかなくちゃね」と切り出された。

「ユキさん、これからよろしくね。
言いにくいことだけど、うちの会社は歴史がある代わりに体質が古いというか、問題だらけなのよ。だからユキさんには、これから改革を手伝って欲しいと思ってる。
まず、課長の中村さん。この人は何かと問題がある人。実力はあるんだけど、社長や私に対して態度が悪くて、突然キレることがある。うちとしても持て余しているの。
それから、事務員の田中さんは、ものすごく意地悪。仕事に積極性がなくて、とにかく余計なことはしたくない人。そのくせ一人で仕事を抱え込んで、教えようとしないから困るわ。
他にも、ストーカーかっていうくらい、こちらの一挙手一投足を見張って、理不尽な言いがかりをつけてくる古参社員たちがいるから、気をつけてね。
でも、大丈夫よ。私もなるべくサポートするから、一緒に頑張りましょう」

初日からずいぶんと不穏な船出だったが、この時点ではまだ、私はマナミさんの言うことを信じていたし、例え困難だろうと組織改革をやり遂げる気合いに満ちていた。

とはいえ、入社して1週間もたたないうちに、「なにかおかしい」という感触はあった。
私はマナミさんの下で働くのだから、まずは彼女から商品や顧客サービス、業務フローについてレクチャーがあるものと思っていたが、何もないのだ。

これはどういう商品で、誰にどのくらい売れているのか、聞いてもマナミさんは答えられない。
私が担当することになっている業務についても、いっさい説明がない。マニュアルも資料も指導もないまま、いきなり「これやっといて」と仕事を振られる。

「どうやってやればいいんですか?」
と聞いても、
「やり方は自分で調べればいいでしょう。それを含めてあなたの仕事なんだから」
と突き放される。

上司であり、指導役であるはずのマナミさんが何も教えてくれないので、仕方なく私は「意地が悪い」という田中さんや、他の社員たちに頭を下げ、教えを乞うて回った。

マナミさんからは「田中さんに手伝いを頼むと怒る」とか、「田中さんは一人で仕事を抱え込んで、周りに教えようとしない」と聞かされていたが、話してみると田中さんは親切で、面倒見もよいことがすぐに分かった。
確かに口は悪いし、いつもツンとすましているが、実は他人から頼りにされるのが嫌いではないのだ。

そのことを見抜いた私は、積極的に彼女を頼ったし、何かしてもらうたびに「さすが頼りになるね! ありがとう! ホントに助かる!」と、大袈裟なくらいに感謝を伝えた。
加えて、出張に行くたび「いつもお世話になっているから」と、田中さん用に特別なお土産を買って帰るのも忘れなかった。

すると、始めはツンツンしていた田中さんの態度も次第にやわらぎ、いつからかこちらが頼まなくても仕事のフォローをしてくれるようになった。
おかげで私はずいぶん働きやすくなったが、マナミさんにはそれが面白くなかったようだ。

「田中さんは、どうして私に対する態度とユキさんに対する態度が、こうも違うの?」
と怒るマナミさんに対し、私は
「私と田中さんは同じ社員同士ですから。マナミさんは社長の奥さんで、経営者一族だから打ち解けにくいんじゃないでしょうか。立場の違いのせいですよ」
と言って誤魔化していたが、本当の理由はそうじゃないと分かっていた。

「田中さんは、私が買ってくるお土産はちっとも喜ばないのに」
それは、あなたが“自分が好きなもの”ばかり買ってきて、自分の好みを押し付けるからです。私は相手を観察して、日頃の言動から好みを把握した上で、喜ぶと分かっているものをお土産に選んでます。

「私が仕事を頼むと嫌がるのに、なんでユキさんの仕事は頼まれなくても手伝うの?」
だって、あなたはいつも偉そうで、人にものを頼む態度じゃないし、何かしてもらってもお礼も言わないじゃないですか。

「田中さんは、私にだけコーヒーを淹れてくれない」
いやいや。あなたは、田中さんが事務所に常備してくれてるドリップコーヒーのアソートパックを見て、「私はこんなの飲めない。ちゃんと豆から挽いたコーヒーでないとダメなのよ」って言いましたよね? 忘れたの?

そして今、私がマナミさんに仕事を教える立場となって、ようやく分かったことがある。
田中さんはマナミさんに仕事を教えなかったのじゃない。教えることを諦めていたのだ。
マナミさんには、壊滅的に理解力がないから。

本人に悪気はないし、意欲はある。苦手なことでも取り組もうと努力していることは分かる。けれど、能力がないのである。

どんなに丁寧に教えても、間違いや抜けが多い。
手順を細かく書いた資料を渡しても、ちゃんと読めない。タスクを分解して順番に説明しても、根本的なところが分かっていないから、何度でも間違える。
彼女には、物事の前後関係、因果関係、背景にある文脈が、まるで理解できないのだろう。

でも、それだけならまだいいのだ。
知的レベルが求められる水準以下でも、それを理由に冷たくするほどみんな鬼じゃない。
実際、そうした理由から簡単な仕事しかしていない社員なら他にもいる。

マナミさんの問題は、能力の低さではなく、他責思考と、実力が伴わない尊大さなのだ。

自分の理解力のなさを棚に上げて、
「教え方が悪いし、資料が分かりにくい。だから間違えてしまうのよ」
と他人のせいにする。

「うちの社員たちはチームワークができてない。一つのチームとして、助け合って仕事をするってことが分かってない人ばかり」
いや、待って。それは、一方的に助けられるばかりで、お荷物になっている人が言っていいセリフじゃないですよ。

あげく、
「私はクリエイターだから。事務的な仕事をするために会社に来てるんじゃないの」
えーっと。あなたが企画・開発・デザインした商品は、どれも鳴かず飛ばずで売れていません。
会社の儲けのほとんどは中村課長の手柄です。彼が稼いで、あなたが作る赤字をカバーしてくれているのですよ。
それなのに、上から目線で「もっと真面目に働け」なんて言われたら、さすがに課長もブチ切れるでしょうね。

マナミさんに対し、私は頭を抱えつつ、哀れにも思っている。

「私はママ友問題とは縁がなくて、子育て中は誰にでも好かれて、誰とでも仲良くなれたのに、どうして会社では嫌われるのか分からない」
とマナミさんは悩んでいるが、それは、会社と子育てコミュニティーでは評価軸が違うからである。
生まれつきと思われる理解力と学習能力の低さは、本人のせいではないとも言えるし、ママ友の中では天然キャラとして愛されもするだろう。複雑なタスクをマルチにこなせなくても、家庭の主婦であれば問題にならない。

社内での尊大な態度も、彼女がクリエイターとして才能を示すことができていれば、一目置かれて、許されたはずだ。

人並みのことが人並みにできないだけでなく、人と違う才能を見せることもできない中途半端さ、それに対する自覚のなさ、謙虚さのなさがトラブルの原因である。
マナミさんが意識と態度を改めない限り、これからも社員たちとの軋轢が絶えないだろう。

本来なら、彼女のような人を会社に入れてはいけないのだ。
けれど、マナミさんを採用しないという選択肢は、夫の会社である以上なかった。
誰かが厳しく指導するにも、社長夫人という立場がそれを阻む。かといって、本人が自分の限界を認めて役割を縮小するには、自己認識能力が欠けている。
この問題は、入り口で詰んでいたのだ。

必要なのは、組織改革ではなく、マナミさんの意識改革だったという現実を前に、私は立ちすくむばかりである。

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この記事を書いた人

マダムユキ

ブロガー & ライター
https://note.com/flat9_yuki


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そしきLab編集部

【この記事は生成AIを利用し、世界のオフィスづくりや働き方に関するニュースをキュレーションしています】