
良好な対人関係には、適度な距離感が必要なのは言うまでもありません。
なかでも「パーソナルスペース」は職場づくりにおいて考慮したい要素のひとつです。
パーソナルスペースとは、他人が自分の体から一定以内の距離に近づくと人はストレスや不快を感じるという概念です。まさに物理的な「距離」です。
では、具体的には他人と何メートルの距離があれば人は快適で、逆に何メートル以下になるとストレスや不快を感じるようになるのでしょうか?
ここでご紹介します。オフィスづくりの参考にしてください。
この音声コンテンツは、そしきlabに掲載された記事の文脈をAIが読み取り、独自に対話を重ねて構成したものです。文章の単なる読み上げではなく、内容の流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。
※AIで作成しているため、読み上げ内容に一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
コミュニケーションの「バーバル」と「ノンバーバル」
わたしたちは日頃、様々な形でコミュニケーションを取っています。
言語はそのうちのひとつですが、他にも視線や仕草、声のトーンなど「非言語的」なコミュニケーションも存在し、実はわたしたちは情報の約65%を非言語的なものから受け取っていると言われています。

(出所:一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会「ノンバーバルコミュニケーション NVCとは?」)
https://nca-japan.or.jp/non-verbal-communication
かつ、1971年に心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」では、コミュニケーションの93%は非言語情報の影響を与えるとされています。

(出所:一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会「ノンバーバルコミュニケーション NVCとは?」)
https://nca-japan.or.jp/non-verbal-communication
メラビアンの法則は「3Vの法則」とも呼ばれています。
「視覚情報(virtual)」「聴覚情報(vocal)」「言語情報(verval)」の3つのうちどれか1つでも一致しない矛盾した状況では、人は視覚情報>聴覚情報>言語情報の順番に優先し、それらの影響力の割合は55:38:7であるというものです。*1
なお、言語でのコミュニケーションは「バーバルコミュニケーション」、非言語コミュニケーションは「ノンバーバルコミュニケーション」と呼ばれます。
コミュニケーションとしてのパーソナルスペース
互いの身体的な距離の取り方もまた、ノンバーバルコミュニケーションのひとつです。
家族など親しい相手であれば私たちは直接体が触れ合ってもあまり不快は感じませんし、逆に苦手な相手とは身体的な距離も取りたくなってしまいます。混雑した電車が不快なのは、全く知らない人と身体的距離を取れないことも関係しているでしょう。
パーソナルスペースは様々な言葉で定義されており、
- 個人が積極的に自分自身のまわりに獲得し、他者が不快を起こさずには侵入できない領域
- 対人スペーシングを規定するために役に立ち、個人を取り巻く、持ち運びのできる球状のなわばり
などとされています。*2
京都の風物詩に見る他人との許容距離
他人との物理的な距離の限界について、面白い研究があります。*3
京都市内を流れる鴨川の四条大橋付近には、地元では「鴨川等間隔の法則」と呼ばれる現象があります。河原に座るカップルどうしが必ず等間隔で座っているという光景のことですが、人が多く集まる場所ですから、曜日や時間帯によっては混み合います。
では、カップルどうしは何メートルの間隔まで許せるのか。昭和62年に日本建築学会で発表された論文があります。
調査は祇園祭の宵山(山鉾巡行前の3日間)に当たる日に、河原の様子を午後4時から午後10時までの間、観察するという方法で行われました。
その結果、三条大橋と四条大橋にかけての区間では、座る人の数と互いの距離は下のようになっていました。

(出所:森田孝夫「京都・鴨川河川敷に坐る人々の空間占有に関する研究」昭和52年10月 日本建築学会講演梗概集 p746)
論文は、カップルどうしの距離が1.5メートルになると後から来たカップルは他の空いている場所に移動するようになり、また混み合いのピーク時の平均接近距離は「1.2メートル」だと結論づけています。1.2メートルが他人どうしの距離の限界ということでしょう。
「1.2メートル」はマジックナンバー?
この研究結果が面白いのは、他の学説や実験と結果が酷似している点です。
アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールは「対人距離」を具体的な数字で分類しています。*4*5
それによると、
- 家族や恋人のような非常に親しい間に許される「密接距離」:~45センチ
- 親しい友人や知人との間の「個体距離」:45~120センチ
- 職場の同僚や取引相手などに適応される「社会距離」:120~360センチ(会話や商談をする際は120~200センチ)
- 面識のない相手同士に適した「公衆距離」:360センチ~
であり、1.2メートル以内を「パーソナルスペース」としているのです。
また、1.2メートルを「複数の相手を見渡せる距離」の境界線にもしています。
さらに大学生を対象にした別の研究では「広場に立っている人に近づいていき、それ以上近づきたくないと思ったら立ち止まらせる」という実験が行われています。
その結果、パーソナルスペースは相手の性別や前後左右の位置関係によって異なるものの、知らない相手への前方からの接近に対して同性間では男性の場合124.0センチ、女性の場合は117.7センチという平均値が得られています。

(出所:渋谷昌三「パーソナル・スペースの形態に関する一考察」山梨医大紀要第2巻,41-49(1985) p44)
混雑ピークの鴨川でのカップルどうしの距離も1.2メートルです。偶然の一致でしょうか。あるいは何かマジックナンバーのようなものなのでしょうか。興味深い数字です。
対人距離を使い分けたオフィス設計を
オフィスでは日々、様々なコミュニケーションが交わされています。人間関係を円滑にするための最低限のコミュニケーションもあれば、個人的な密接なコミュニケーションもあるでしょう。
オフィスを使う人たちの関係性も様々です。
そこで、どのようなシチュエーションにも対応できるよう、フリーアドレスならば様々な座席距離を使い分ける、そうでない場合は隣同士の席に最低限の距離を設けるといった配慮をしてみるのはいかがでしょうか。
またコミュニケーションにおいて「視覚」が人間の大きな判断要素になっていることを考えると、他者からの視線の有無もストレスや不快の要因になりそうです。複数の相手を見渡せる場所なのか、特定の人の顔しか見えない距離なのか。
パーソナルスペースや対人距離を考慮したオフィスづくりは、物理的な物差しを使えば可能になるものです。比較的すぐに導入しやすいと言えるでしょう。
この記事を書いた人

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。

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参考資料
*1 朝日新聞ツギノジダイ「メラビアンの法則とは 「第一印象が大切」は誤解 実験をわかりやすく解説」
https://smbiz.asahi.com/article/14874957
*2 鈴木晶夫「パーソナル・スペースの基礎的研究(1)」早稲田大学人間科学研究 第1巻第1号
https://core.ac.uk/download/pdf/144453314.pdf p23
*3 森田孝夫「京都・鴨川河川敷に坐る人々の空間占有に関する研究」昭和52年10月 日本建築学会講演梗概集 p745
※確認用です、アップの必要はありません。
https://drive.google.com/file/d/15qbt458JmYX2WSxH7_P3kzhp8A_AN34r/view?usp=sharing
*4 日経クロステック「相手が意見を出す意欲を高める 「聞き方」のスキルで興味を伝える」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/010500334/081800009/?P=2
*5 日経クロステック「フリーアドレス空間で「教職協働」を推進」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00077/101800001/
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