
「また今日も、あの人の視線を感じながら仕事するのか……」
「オフィスにいるだけで、なぜかずっと体がこわばっている」
マネジャーという立場でチームを見ていると、こうした違和感を抱えながら出社しているメンバーの存在に気づくことがある。
人間関係の悪化は、本人たちの性格や相性の問題だと思われがちだ。しかし、もっと原始的でフィジカルな要因が深く関わっていると感じている。
精神論で「もっとコミュニケーションを取ろう」と呼びかけるより、物理的な環境を変えるほうが、はるかに効果的な場合がある。その手段のひとつが「席替え」だ。
「右側だけ、肩が痛くて頭痛もするんです」
当時、私は10名ほどのチームを率いていた。チームの成績は良く、数字は順調に伸びていた。しかし、どうもチームの雰囲気が良くない。手を打ちたいが、決定的に何かが悪いわけでもなく、モヤモヤと過ごしていた。
そんなある日、入社2年目の若手である部下が、早退したいという。彼女は、少し気だるそうな表情を浮かべ、こう言った。
「最近、右側だけ肩が痛くて、頭痛もするんです。右手も痛くて、マウスを持つのもつらくて」
腱鞘炎やデスクワークによる肩こりかもしれないが、体の右半身だけに症状が集中しているのが引っかかった。すぐに受診するよう勧めた。
彼女はいくつかの病院を回ったが、とくに異常は見つからなかった。その後、話を聞くと、連休中などオフィスから離れている期間は、症状がすっかり消えるという。
となると、仕事のストレスだろうか。業務量が多すぎないか、負担をかけすぎていないか。それまで以上に注意して見るようになった。
右側にいた、ベテラン社員のAさん
それから少しして、あることに気づいた。オフィスで自席にいるその部下を後ろから見ると、わずかに左へ傾いているのだ。
最初は単なる姿勢のクセかと思った。しかし、よく観察すると、彼女はまるで意図的に体を左へ傾けているように見えた。右側の何かから距離を取ろうとしているかのように。
彼女の右側、ちょうど彼女の視界に入る位置には、ベテラン社員のAさんが座っていた。
Aさんは仕事は非常にできるが、かなり厳しい物言いをするタイプだ。若手に対して威圧的な態度を取ることがあった。彼女に対しても、ミスを指摘する際の口調が厳しく、周囲が気まずくなることもあった。
彼女自身は気づいていなかったが、無意識に右側にいるAさんを避けようとして、体が左に傾いていたのだ。右側の肩や頭、手が痛むのは、その身体的なストレス反応だったのだろう。
人間の体は正直だ。頭では「気にしないようにしよう」と思っていても、体は無意識にストレス源から遠ざかろうとする。彼女の体調不良は、まさにその典型例だった。
この出来事で、私は痛感した。物理的な配置が、ここまで人の心身に影響を与えるのかと。
そうだ、席替えをしよう
チーム内で今すぐできることは何か。そう考えた結果、「席替え」をすることにした。
この部下の問題だけでなく、少しずつ、チームのほころびが大きくなっているように感じている時期だった。
具体的には、特定のメンバー間でのコミュニケーションが極端に減っていた。デスクの配置上、物理的に離れているメンバー同士は、ほとんど会話をしない。必要な情報共有もチャットやメールで済ませ、顔を合わせて話すことがなくなっていた。
いっぽうで、近くの席に座っている年次が近いメンバー同士は、頻繁に雑談する。この偏りが、チーム内に見えない壁を作っていた。派閥といったら大げさだが、物理的に近いグループと遠いグループで持っている情報の量や質に差が生まれ、一体感が失われている。
加えて、マネジャーである自分自身のデスクの位置にも問題を感じていた。当初は「チーム全体を見渡せる場所がいいな」と考えて決めた場所だ。しかし、若手メンバーが増えた今では、その “見渡せる” 配置が、「常に監視されている」というプレッシャーになりかねない。
席替え後に起きた変化
席替えの方針はシンプルだ。第一に、マネジャーである私の席を死角になる角へ移動させる。「見張っている」という印象をなくすためだ。第二に、普段あまり話さないメンバー同士を隣接させる。第三に、年次が離れているメンバーを交互に配置し、気軽に相談できる距離感を作る。
そして、右側の体調不良を訴えていた部下は、Aさんから離れた位置に配置する。視界に入らない対角線上の位置へ。
これらの方針をもとに、新しい座席表を作成した。
── 席替え後の変化は、想像以上だった。「あれっ、席を変えただけなのに???」と、こちらが戸惑うほど。
まず、席替えから2週間ほど経った頃、体調不良だった部下との1on1で「最近、右肩の痛みも頭痛も、ほとんどなくなったんです」と報告された。彼女自身、なぜ体調が良くなったのか完全には理解していなかった様子だったが──。たしかに、以前のように体を左に傾ける姿は、もう見られない。
チーム全体の雰囲気にも変化が表れた。メンバーが明らかにリラックスしている。これまで会話がなかったメンバー同士が、自席でざっくばらんに相談し合う場面も増えた。マネジャーとしては複雑な気持ちもあったが、「監視されている感」がなくなり、メンバーたちがのびのびと働けるようになっていた。
物理的な環境が人間関係に与える影響
この経験を通じて、マネジャーとして痛感したことがある。人間関係の問題を、精神論だけで解決しようとするのは限界があるということ。「もっとコミュニケーションを取りましょう」「チームワークを大切にしましょう」と呼びかけても、物理的な環境がそれを阻害していれば、改善は難しい。
相手への印象がフラットであれば、物理的に近い場所にいる人ほど好意を持ちやすく、関係が深まりやすい。隣の席の人とは自然と会話が増えるが、遠く離れた席の人とは意識的に話そうとしない限り、接点は生まれない。
と同時に、視覚的・空間的なストレスも軽視できない。常に誰かの視界に入る席に座っていると、無意識のうちに警戒してしまう。あるいは、その空間の居心地が悪ければ、緊張が蓄積されていく。あの部下の体調不良や、マネジャーの監視による萎縮は、まさにこのようなストレスの問題だ。
席替えはコストがかからず何度でもできる
席替えの良いところは、ほとんどコストがかからず、すぐに何度でもできることだ。大掛かりなオフィス改装や高額な研修プログラムは不要。それでいて、効果は大きい。
「なんだか、チームの雰囲気が良くないな……」と感じたとき、マネジャー自ら、明るく声かけして回ったり、1on1で悩みを引き出したりと、奮闘している方も少なくないだろう。
そんなときに、「席替え」という技を使ってみてほしい。誰がどこに座っているか、その配置がチームにどのような影響を与えているか。客観的に観察してみると、新たな気づきがあるはずだ。
もちろん、席替えだけですべてが解決するわけではない。根本的な人間関係の問題や、組織の構造的な課題は、別のアプローチが必要だ。だが、環境を整えることは、あらゆる改善の土台になる。良い環境があってこそ、良いコミュニケーションが生まれ、良い関係が築かれる。
物理的な配置を変えるだけで、人間関係はここまで変わる。マネジャーの仕事は、メンバーの心だけでなく、メンバーの“居場所”にも目を配る仕事なのだと思う。

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この記事を書いた人

三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
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