
番頭多くして船山に上るー
バブル世代に、あまりに多くの管理職世代が発生し均等に肩書を与えなければならないという不思議な事情から、そんな組織になっているところは多くあるものです。では、有り余る役員が全員イエスマンだったら?なんのための高給か、と思ってしまうことでしょう。
そんな中、2020年に役員の大幅削減を発表していたのがトヨタ自動車です。その削減率は半数以上にまでのぼります。
さすがにそこまで減らして大丈夫なのか?そんな疑問も出てきそうですが、「肩書き」とは何なのかを考えた時、豊田会長の考えを理解し実践できそうです。
この音声コンテンツは、記事の文脈をAIが読み取り独自に対話を重ねて構成したものです。文章の読み上げではなく、流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。※AIで作成しているため、一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
役員を半数以下に
豊田章男会長が自身と22名からなる「執行役員」を半分以下の9人まで減らすと発表したのは2020年6月末のことです。*1
新たな執行役員9人は、最高経営責任者(CEO)でブランディング担当の豊田社長のほか、ものづくりを担う河合満氏、番頭役でリスク担当の小林耕士氏、プロジェクトなどを担う寺師茂樹氏、情報・セキュリティ・生産などを担当する友山茂樹氏、最高財務責任者(CFO)の近健太氏、技術担当の前田昌彦氏、デジタル担当のジェームス・カフナー氏、総務・人事担当の桑田正規(全て当時)にまで絞り込まれました。
同時期に豊田会長が中日新聞との対談に応じたところでは、さらに興味深いエピソードが語られています。
「肩書き」よりも「役割」を重視
先日、Youtubeのショート動画をぼんやりとスクロールしていたら、久々に豊田章男会長が若手であろう社員に語りかける様子が出てきました。
| 今さ、「上の者・下の者」って言ったでしょ?その感覚をまず無くすこと。仕事をやる上では肩書きもあるけど役割でやってんだから。だから役割で仕事やってんだ、ってことを、やっぱりね、思ってほしい。 |
豊田会長が「役割」の大切さに気がついたのは新型コロナの時期だと言います。*2
「一に安全、二に地域の復興、生産の復旧は三番目」と言い続けてきたものの、そう言わなくても現場の人が動いている現実を目の当たりにしました。
こうした事態を見て「肩書き」についてこう語っています。
| 現地現物で一番モノに近い、お客様に近い、市場に近い人に発言権があるべきだというのが私にはあるんです。それがいつの間にか、企画部門や肩書きをつけた人の意見を聞くようになっていると感じていました。 上の人には「肩書き」を「役割」として使ってほしいんです。担当者にも、上の人にも「役割」がある。ただ、上の人には「役割」に加えて「肩書き」があるじゃないですか。その「肩書き」を何に使うかですよ。 |
「市場に近い人に発言権があるべき」という、それが本来のトヨタの姿だったはずだといいます。
「肩書き」で名刺を作ってみた
その思いから、豊田会長は社長就任後に、就任時は取締役29名、常務役員50名の合計79名だった体制を、2020年には取締役9名、その他の役員が5名と、役員を計14名まで削減しました。
トヨタほどのグローバル大企業にしては、一般的な感覚からすれば驚くほどスリムな体制です。

https://toyotatimes.jp/spotlights/newspaper_interview/087.html
また、「肩書きは役割」というのを実践すべく、執行役員がユニークな名刺を作成しました。

出所)トヨタイムズ「豊田の経営哲学 中日新聞×豊田章男【後編】」
https://toyotatimes.jp/spotlights/newspaper_interview/087.html
小林氏の肩書きは「番頭」。河合氏の肩書に「おやじ」。
| 「おやじ」なんて言ったら、どう見ても息子より(立場も)、歳も、経験も上。自然な感覚で物を言える関係を大事にする気持ちの表れですね。 |
受け取った時にちょっと吹き出してしまいそうな要素も兼ね備えています。
執行役員が突然「話を聞くよ」と若手に語りかけても萎縮しがちな若手からしても、「おやじ」であれば少し身近に感じられそうです。そして、これはあくまで役割を示した名刺でもあるのです。
「リーダー」と「フォロワー」
似たような議論ですが、上司にあたる人が「リーダー」という役割を持つのであれば、部下はただその指示に従うだけでなく、そのリーダーをどう支えるかという「役割」を持っているという話は以前からあります。上司に「リーダーシップ」が必要なのと同じように、部下には「フォロワーシップ」という働きが必要というものです。

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192161/201921006A_upload/201921006A0028.pdf p170
もちろん、上記のように互いの役割を認識して日々業務をしていれば双方に信頼関係が生まれチームとして良い仕事ができることでしょう。
しかし、これだけで足りないのは、リーダーという肩書きを奢ってはいけない点があるという点です。フォロワーシップという概念を提唱したロバート・ケリー博士は、リーダーとフォロワーについてこのように指摘しています。
| ・ほとんどの組織において、成功に対するリーダーの貢献度は20%に過ぎず、フォロワーは残りの成功の80%の鍵を握っている ・リーダーでいる期間よりフォロワーとして働く期間が長い人がほとんどである ・組織改革を始めるのはリーダー、完遂させるのはフォロワー |
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192161/201921006A_upload/201921006A0028.pdf p169
つまり、チームの成否のほとんどは、リーダーが握っているわけではないということです。
宇宙飛行士選抜テストでの「毎日役割変更」
ちなみに、こんな話もあります。
宇宙飛行士はこの世の中でもかなり過酷な職業ですが、その選抜試験も相当なものです。あまり外に出る話ではありませんが、ISSでの生活を想定して、チームがISSを模した閉鎖空間で長期間過ごすというものもあります。*3
普通の人ならそれだけで精神的な不調をきたしそうですが、それでは宇宙飛行士はつとまりません。
かつその中で、定期的にミッションを与えられます。
そのなかに「ロボット作り」という課題があり、リーダーは日替わりです。*4
その中で、事前の中間プレゼンテーションで徹底的にダメ出しを受けながらも、その日のリーダーである油井亀美也氏に、理論的に意見を述べたのが大西卓哉氏でした。チームがひとつの意見にまとまりかけた最中のことです。
他のメンバーもためらったことでしょう。
しかし油井氏は自らの判断・責任で大西氏の意見を受け入れるという「役割」を果たしたのです。
周りに流されず自分の意見を述べた大西氏、リーダーでありながら多数派の意見に流されることなく自分で決断をした油井氏の行動は評価され、2人は最終的に宇宙飛行士に選抜されました。
これは、違いが「役割」を認識して起こした行動だと筆者は考えます。大西氏は現実的なフォロワーとして、油井氏は、のちに他のメンバーから嫌われかねない状況を無視しての自分の役割である自分の「決断」を貫いた(宇宙飛行士になるくらいの人には、あとで逆恨みするような人はいないと思いますが)ということです。
肩書きを勘違いする毒管理職を排せよ
冒頭にも述べましたが、「船頭多くして船山に登る」。
管理職や役員の乱立にはそのような悪影響があるのはその通りですが、肩書きを「役割」ではなく、メンバーを縛り付ける「権力」と勘違いしている管理職が日本企業では多く見受けられます。
それ以上に、管理職や役員が社長・会長というリーダーに対して全員がイエスマンだったとしたら?であればその人たちは組織に必要ありません。会議室で首を縦に振るだけのお気楽な仕事にどれだけの金銭的価値があるでしょうか。
筆者が一度お話を聞いたことのあるプライム上場企業の社長も、「意見は全て聞くが、決めるのは自分でありそのことは社内に周知してある」と述べています。一方でプライベートなどで接しやすい機会を作り、自分の根本にある考えを共有するのだといいます。
どんな立場であれ、各々がきちんと「役割」を認識していること、おかしいと感じたら「番頭」「おやじ」に直接ものを言えること、これこそが健全に成長する組織と考えます。

この記事を書いた人
参考資料
*1
ロイター通信「トヨタ、「執行役員」9人体制 7月から半分以下に 社長と経営担う」
https://www.reuters.com/article/business/97-idUSKBN24111F/
*2
トヨタイムズ「豊田の経営哲学 中日新聞×豊田章男【後編】」
https://toyotatimes.jp/spotlights/newspaper_interview/087.html
*3
ヨミドクター「「宇宙飛行士のストレス」測定実験…密室に13泊「宇宙滞在」体験」
https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20160304-OYTET50035/
*4
光文社新書「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」p156-159
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