
今回は人気Webライター、マダムユキさんに寄稿いただきました。
テーマは「仲間づくり」と「人望」。少年漫画的な“仲間”の理想と、現実の職場で仲間が生まれない理由を対比しつつ、二代目・三代目経営者にありがちな“薄さ”と、現場に入り汗をかくリーダーの圧倒的な求心力を描き出します。
人望は「好き・楽しさ・信頼」の総和であり、社員が「この人と一緒にいたい」と思えるかどうかが、組織を動かす最も強力な経営資源である——。
“社員が社長に恋する状態こそ最強の経営”という挑発的な命題を、具体的なエピソードと等身大の観察で提示する一本です。
「人生は仲間づくりの旅だ」とか、「仕事は仲間との遊びだ」と同世代の男性たちが語るのを、これまで何度も聞いてきた。
男の人って、本当に“仲間”が好きだと思う。
だからジャンプコミックの王道は、仲間と冒険し、仲間と成長し、仲間と共に戦う物語なのだろう。みんなそれが好きだから。それとも、子どもの頃からジャンプコミックに親しんで育つうちに、すっかり洗脳されるのだろうか。
ともかく、男の子の理想の人生は、いつだって仲間との物語の中にある。
とはいえ、少年時代の遊び場でならともかく、職場での「仲間づくり」はそう簡単ではない。しかも、仲間づくりに失敗すると、最悪の場合は居場所をなくしてしまう。
それは、経営者の世界でも同じだ。
経営者がどんなに良い人でも、立派な理念を掲げていても、自分を支えてくれる仲間に恵まれなければ、事業は長続きしない。
そして、良い仲間ができるかどうかは、運ではないのだ。その人に「仲間を率いる魅力」があるかどうかにかかっている。
私は地方に住んでいるが、身の回りには地元企業の二代目・三代目社長がけっこう居る。彼らは、跡取りとしてお金をかけて育てられているため、育ちが良く、学歴も良い。中には遊び人もいるが、基本的には真面目で、責任感が強く、「親が大事にしてきた商売だから、自分が継いで、続けていかなくては」と口にする。
けれど、残念ながら人望のある人は少ない。
事業を始めた初代というのは、精力的で、頭のキレが良く、人間的にも魅力のある人が多い。商売の世界で一から顧客をつかむには、人としての愛嬌や胆力が必要だからだろう。
それが、次の世代になると、すでに商売の仕組みができあがっており、多少ボケっとしていても、会社はすぐには潰れない。
実際に日々の事業を回しているのは、先代の時代から勤めているベテラン社員だったりするからだ。
だいたいにおいて、二代目・三代目社長には親から教わった経営ノウハウの知識はあっても、知恵がない。現場で苦労してきた実体験がないから、知恵がつかない。
知恵の足りない経営者は薄っぺらく、そうした薄さを見抜かれてしまうと、社員はついてこなくなる。社長が見栄っ張りなら、なおさらだ。
裕福な家庭で育っているので、もともと選民意識が強く、プライドも高い。そこへ 「お坊ちゃんだと侮られまい」という意識が働くため、つい自分を大きく見せようとしてしまう。
けれど、見栄を張れば張るほど薄っぺらさを見透かされてしまうので、墓穴を掘る結果に終わる。
私の幼馴染に、土建会社を起業し、成功した人がいる。
彼は昔から「金儲けが好き」と公言していたが、彼の会社が一貫して成長してきたのは、社員たちが彼を慕い、彼のやることに喜んでついてくるからだ。
そんな彼は「俺は昔から何も変わらんぞ。ずっと、ただ仲間を集めて遊んでるだけや」と笑う。
子どもの頃から、いつも人の輪の中心に居るタイプだった。女の子にもモテていたけれど、それ以上に男友達から人気がある。「カノジョよりツレ(友達)」を大事にする人だからだろう。
基本的には人が好きで、どんな相手が寄ってきても面白がり、頼られれば面倒を見る。
特別ハンサムではないし、喋りが面白いわけでもないけれど、彼と一緒にいると、なぜか楽しい気分になれるのだ。だから、彼の周囲には自然と人が集まってくる。
彼は、会社が大きくなってからも、自ら現場に出ていく。
遠方の現場では、社員と一緒にオンボロ旅館に泊まり、大浴場で風呂に入り、夜は酒盛りをして、雑魚寝する。
“同じ釜の飯を食う”とは、こういうことだ。
ある社員が「俺、刺青入ってるんで大浴場ムリっすよ」と言えば、「うるせぇ、ならお前は公園で水でも浴びとけ!」と笑いながら、旅館の女将に掛け合って、1時間だけ貸切にしてもらうなど、さりげなく手をまわす。
また、休日を返上して、社員たちのプライベートな相談に乗ることもしばしばだ。そうしたことを恩義せがましくなくやれるのが彼のすごいところだが、まったく苦ではないらしい。
目に見える見返りはないし、なんなら面倒を見たところで恩を仇で返すような不届き者もいるのだが、本人は「かまわんよ。だって、いろんな奴がおるのが面白いやんか」と、本気で面白がっている。
そして、腹心の社員たちも「まったく、うちの社長は仕方ねぇなあ」と言いながら、彼の背中を追いかけ、どんな現場でも文句を言わずについていく。彼の人間的な魅力と、社員を大切にする姿勢が、彼らを「仲間」へと変えていくのだ。
社長が好きだから支える。 社長と一緒にいると楽しいから頑張る。
そこに理屈はない。
対照的に、家業を継いだ“お坊ちゃん社長”は、自分だけがハイクラスなホテルに泊まったり、洒落たレストランで豪華な食事をしたりする。
そのくせ、社員には「経費削減だ」などと言って、節約を強いる。
そうした社長の姿勢に、白けた気持ちにならない社員はいない。
「そういうとこやぞ?!」という日々の言動が積み重なって、人の心は離れていくのだ。
けれど、本人にはまるで悪気がないうえに、なぜ社員の心が離れていくのか、その理由を理解できない。自分の言動が社員の目にどう映っているのか、想像することさえできないのだ。
会社とは社長個人の所有物ではないが、親から譲られた会社は自分の所有物だという意識が強い。
社員に対しても「俺が雇ってやっている」という考え方なので、思い通りにならず、自分についてこない社員のことを反抗的だととらえる。
そういう社長の元で働いている社員は、「こっちは、ただ給料をもらうために働いているだけで、社長に人生を預けたわけじゃない」と思っているので、働く意欲は低く、できる限り楽をしようと考える。
社長と社員が感情的に対立し、社員たちが「あの社長の元で一生懸命に働くなんて、バカバカしくてやってらんねぇ」と考えるようになったら、業績が上がるわけないし、逆境にも弱くなる。
結局、人望というのは、“好き”、“楽しさ”、“信頼”の総和だと思う。
好きな人の言うことなら聞くし、一緒にいて楽しい人なら、しんどい時でもついていく。「うちのボスは頼りになる」と信じられるから、自分も支えたくなる。
「この人と一緒にいたい」という気持ちが、苦しくても踏ん張る力になるのだ。
それは、恋に近い感情かもしれない。
社員が社長に恋をしている状態——それが、最強の経営だ。
先代が残した会社と、その商売の仕組みは、事業環境が変われば通用しなくなる。
時代の変化に晒された時、最後に会社を救うのは、社長個人の人望ではないだろうか。
社員たちが「もっとこの人と一緒にいたい」と思う限り、その会社は潰れない。社員にとっては、社長と苦楽を共にすること自体に大きな価値があるのだから。
逆に、社長が社員たちから「この人と一緒にいたくない」と日頃からうっすら思われている会社は、事業の調子が良い時はいいが、危機に瀕した途端、あっという間に傾いてしまうだろう。いざという時に一緒に苦労してくれる仲間がいないのだから。
二代目・三代目で、自分に人望がないと悩んでいる社長は、「社員が言うことを聞かない」と愚痴をこぼす前に、ぜひ自分の日頃の言動を振り返ってみてほしい。社員の態度は、社長の言動の写し鏡でしかないのだから。
この記事を書いた人

マダムユキ
note作家 & ライター
https://note.com/flat9_yuki

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