あなたのオフィスは大丈夫?ハザードマップを見てみよう

近年の豪雨災害は、もはや「異常」ではなく「日常」になりつつあります。夏場になると頻繁に豪雨のニュースが取り上げられています。

「事務所が浸水した」「帰宅できない」こうした事態は、もはや珍しいことではありません。

あなたのオフィスは、どの程度の災害リスクを抱えているかご存知ですか?

「災害リスク」という視点

オフィスを構える際、多くの経営者や担当者は立地の利便性、賃料、面積などに目を向けがちです。

しかし、近年の気候変動や世相の変化を踏まえると、災害リスクという観点も忘れてはいけません。

近年の気候変動による災害の増加

線状降水帯という言葉を聞かない夏はなくなりました。

気象庁の統計によると、1時間降水量80mm以上の「猛烈な雨」の年間発生回数は、1980年ごろと比べると約2倍に増加。もはや想定外では済まされない状況です(図1)。*1

図1:全国(アメダス)の1時間降水量80mm以上の年間発生回数
出所)気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

例えば、2019年の台風19号では、東京都心部でも多摩川が氾濫危険水位を超え、武蔵小杉のタワーマンションやJR武蔵小杉駅構内などが浸水被害を受けました(図2)。*2, *3

図2:冠水したJR武蔵小杉駅構内
出所)経済産業省「令和元年台風第19号による被害等」P.18
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/11_R1T19niyoruhigai.pdf

都市部のオフィスビルも浸水リスクがあることを、目の当たりにした方も多いのではないでしょうか。

事業継続計画(BCP)

近年、企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)に対する意識は向上しています。

内閣府の「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の BCP 策定状況によると、大企業では 76.4%が「策定済み」、中堅企業では、45.5%が「策定済み」と回答しています(図3)。 *4

図3:BCP策定状況
出所)内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」P7
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/chosa_240424.pdf

 BCPを策定している企業の割合も年々増加していることがわかります。

従業員の安全確保

労働契約法第5条では、使用者は労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮する義務があると定められています。 *5

この義務は日常の職場環境だけでなく、自然災害など緊急時にも問われます。

例えば、台風により交通機関が麻痺し、多くの人が帰宅困難になっているニュースも珍しくありません(図4)。 *6

図4:名鉄新名古屋駅で一夜を明かす人々
出所)国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」P43
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/shinsuihigai/pdf/171225_zentai_lo.pdf

テレビを通して見ていると、自分には関係ないと思ってしまいがちですが、決して他人事ではありません。帰宅困難者があなたの会社の従業員である可能性も十分に考えられます。

筆者が社会人になりたての頃は、「会社に出社することが大切」という雰囲気があり、なんとかして会社にたどり着こうとしていました。

過去には、珍しく雪が積もった日でもノーマルタイヤの軽自動車で出勤したこともありましたし、台風が接近していても、出社したこともあります。

今思えば、運転テクニックもない人間が無謀なことをしていたと恐ろしくなります。

筆者の場合は、会社から強制されたわけではなく「会社に行かなくては」という先入観から自ら出社していました。

しかし、企業が従業員に台風の中出社を強制し、ケガを負ったり命の危険にさらされたりすれば、企業は安全配慮義務違反に問われる可能性もゼロではありません。*7

従業員を守ることは企業の義務であると同時に、組織を存続させるためのリスクマネジメントでもあります。

ハザードマップで確認すべき5つのリスク

そもそもハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図のことをいいます。その地域でどのような災害リスクがあるかを視覚的に把握できる重要なツールです。*8

本章では、洪水・浸水リスクを中心に、オフィスの安全性評価で見逃せない5つの災害リスクを解説します。

洪水・浸水リスク

最も身近で、かつ発生頻度が高いのが洪水・浸水リスクです。

ハザードマップでは、想定される浸水深が色分けで表示されます。

図5は渋谷区の洪水ハザードマップです。0.1~0.5mの水深(明るい黄色)と予想されている地域が意外に多くないでしょうか。*9

図5:渋谷区ハザードマップ
出所)渋谷区「渋谷区洪水ハザードマップ」
https://bosai.city.shibuya.tokyo.jp/assets/assets_anzen_000063823.pdf

浸水すれば、地下にサーバールームや重要書類の保管庫がある場合は致命的です。

国土交通省の資料によると、わずか10~30cmの浸水でも自動車のブレーキ性能が低下し、30~50cmでエンジンが停止。50cm以上になると、パワーウィンドウ付きの車内に閉じ込められる危険性があります。

また、徒歩での避難も想像以上に困難です。

過去の水害事例を見ると、東海豪雨(平成12年)では膝の高さ程度の浸水でもゴムボートでの救助が必要となり、関川水害(平成7年)の調査では、浸水深が膝(50cm)以上になると、ほとんどの人が避難困難に陥りました。

3.0m以上の浸水が想定される地域では、2階以上のオフィスでも孤立する可能性があり、より慎重な立地選定が求められます。*10

また、都市部では「内水氾濫」のリスクが高くなります。

内水氾濫とは、市街地に降った大雨が下水道の処理能力を超え、河川から離れた場所でも浸水が発生する現象です。

実は、1993年~2002年の東京都における洪水被害額の約80%は、この内水氾濫によるものです。堤防の整備が進んだ都市部だからこそ、内水氾濫が新たな脅威となっているのです。オフィス街でも、河川から離れていても決して安心はできません(図6)。*11

図6:外水と内水の被害額の割合
出所)国土交通省「都市部で顕在化する『内水氾濫』」
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-3-2.html

土砂災害リスク

土砂災害といえば、山間部をイメージしますが、都心部でもリスクがあります。

図7は渋谷区の土砂災害ハザードマップです。一見安全に見える都心部でも、地形によっては思わぬリスクが潜んでいることが、このマップから読み取れます(図7)。*12

図7:渋谷区の土砂災害ハザードマップ
出所)渋谷区「渋谷区土砂災害地図面」https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/05555cde6e804e0d89ab5a1631d6df11/assets_com_000047768.pdf

地震による液状化リスク

埋立地や河川の近くでは、液状化リスクの確認も欠かせません。2011年の東日本大震災では、千葉県浦安市で大規模な液状化が発生しました。*13

図8は東京の液状化予測図です。*14

図8:東京の液状化予測図
出所)東京都建設局「東京の液状化予測図」
https://doboku.metro.tokyo.lg.jp/start/03-jyouhou/ekijyouka/top.aspx

ピンクの部分が液状化の可能性が高い地域です。沿岸部のみならず、内陸部であっても液状化のリスクが潜んでいます。

津波リスク

沿岸部のオフィスでは、津波のリスクもあります。

南海トラフ地震では、太平洋沿岸の広い範囲で10m以上の津波が想定されています。津波は河川を遡上することもあり、海から離れていても安心はできません(図9)。*15

図9:津波の遡上
出所)日本気象協会「津波のしくみ」
https://tenki.jp/bousai/knowledge/6ddf920.html

高潮リスク

台風の大型化に伴い、高潮リスクも無視できなくなっています。

2018年の台風21号では、大阪湾で過去最高潮位を記録し、関西国際空港では滑走路が浸水。港湾施設でも甚大な被害が発生し、コンテナの流出や浸水した車両の火災など、企業活動に深刻な影響を与えました(図10)。*16

図10:台風第21号による高潮被害
出所)大阪管区気象台 「平成30年(2018年)台風第21号」P5
https://www.data.jma.go.jp/osaka/kikou/kakojirei/kakojirei_2018_t1821.pdf

高潮は満潮時と重なると被害が拡大します。高潮ハザードマップで想定浸水深を必ず確認しましょう。

ハザードマップポータルサイトの活用

ハザードマップは市町村で作成されています。このハザードマップをより便利に、より簡単に活用できるようにまとめられたのが、ハザードマップポータルサイトです(図11)。*17

図11:ハザードマップポータルサイト
出所)国土地理院「国土交通省ハザードマップポータルサイトとは」
https://www.gsi.go.jp/common/000207356.pdf

重ねるハザードマップ

地図上に、洪水、土砂災害、津波、高潮といった様々な災害リスクを表示し、それらを重ねて確認することができます。

例えば、オフィス周辺の「洪水ハザードマップ」と「土砂災害ハザードマップ」を同時に表示すれば、複合的なリスクを視覚的に理解できます。*17

わがまちハザードマップ

「わがまちハザードマップ」は、各自治体が作成したハザードマップへのリンク集です。国土交通省の統一的な情報に加えて、地域特有の詳細情報を確認したい場合に重宝します。*17

PDFでハザードマップをダウンロードできる自治体も多く、印刷して社内に掲示したり、防災マニュアルに添付したりすることも可能です。

定期的に更新されているかも確認し、常に最新の情報を入手するよう心がけましょう。

リスクが判明した時の対策とは?

ハザードマップで自社オフィスに災害リスクがあることが判明しても、「移転しかないのか…」と途方に暮れる必要はありません。リスクレベルに応じて、段階的な対策を講じることで、従業員の安全確保と事業継続の両立は可能です。

まず、「インフラの配置見直し」です。サーバールームや電気設備が地下や1階にある場合、上層階への移設を検討しましょう。物理的な移設が困難な場合は、クラウドサービスへの移行や、安全な立地にあるデータセンターへのアウトソーシングも有効な選択肢です。*18

次に、災害時の行動指針を明確化し、全従業員が迷わず行動できる体制を整えましょう。安否確認の方法、対応マニュアルの作成などが有効です。
水害は地震と異なり、気象情報によってある程度の予測が可能ですから、事前に準備を開始できます。

ただし、どんなに準備をしても、完全にリスクをゼロにすることはできません。

そこで、頼りになるのが保険です。
事業中断による利益損失を補償する「利益保険」といった企業向けの保険を賢く活用しましょう。*18, *19

さらに、取引先との契約条件の見直しも忘れてはいけません。不可抗力条項の内容を確認し、災害時の責任範囲を明確にしておくことで、無用なトラブルを避けることができます。*20

さいごに

オフィスは、単なる「働く場所」ではありません。従業員の安全を守り、事業の継続性を高める重要な経営資源です。災害大国・日本において、リスクをゼロにすることは不可能ですが、リスクを正しく認識し、適切に対策を講じることは可能です。

あなたのオフィスが、従業員を安全に守れる場所であるか。災害時にも事業を継続できる拠点として機能するか。まずは現状を知ることから始めてみましょう。

この記事を書いた人

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。

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参考資料

*1
出所)気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

*2
出所)経済産業省「令和元年台風第19号による被害等」P.18
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/11_R1T19niyoruhigai.pdf

*3
出所)日経クロステック「武蔵小杉の超高層住宅街を多摩川の濁流がのみ込んだ理由」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01027/102200019/

*4
出所)内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」P7
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/chosa_240424.pdf

*5
出所)厚生労働省「労働契約法のあらまし」P8
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/13.pdf

*6
出所)国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」P43
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/shinsuihigai/pdf/171225_zentai_lo.pdf

*7
出所)株式会社マネーフォワード「台風で有給取得させるのはおかしい?強制取得の禁止や無給のルールなどを解説」
https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/85576/#i-4

*8
出所)NHK「ハザードマップで災害リスクを知る 地域の危険を調べる方法は」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/basic-knowledge/basic-knowledge_20190604_08.html

*9
出所)渋谷区「渋谷区洪水ハザードマップ」
https://bosai.city.shibuya.tokyo.jp/assets/assets_anzen_000063823.pdf

*10
出所)国土交通省「浸水深と避難行動について」https://city.river.go.jp/kawabou/reference/index05.html

*11
出所)国土交通省「都市部で顕在化する『内水氾濫』」
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-3-2.html

*12
出所)渋谷区「渋谷区土砂災害地図面」https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/05555cde6e804e0d89ab5a1631d6df11/assets_com_000047768.pdf

*13
出所)浦安市液状化対策技術検討調査委員会「平成23年度 浦安市液状化対策技術検討調査 報告書」P6
https://www.city.urayasu.lg.jp/res/projects/default_project/_page/001/002/934/lasthoukoku01.pdf

*14
出所)東京都建設局「東京の液状化予測図」
https://doboku.metro.tokyo.lg.jp/start/03-jyouhou/ekijyouka/lhmap2.aspx

*15
出所)日本気象協会「津波のしくみ」
https://tenki.jp/bousai/knowledge/6ddf920.html

*16
出所)大阪管区気象台 「平成30年(2018年)台風第21号」P5
https://www.data.jma.go.jp/osaka/kikou/kakojirei/kakojirei_2018_t1821.pdf

*17
出所)国土地理院「国土交通省ハザードマップポータルサイトとは」
https://www.gsi.go.jp/common/000207356.pdf

*18
出所)NTTファシリティーズ「水害被害を最小限にするための基本対策とは | ビジネスコラム」
https://www.ntt-f.co.jp/column/0062.html

*19
出所)三井住友海上火災保険株式会社「企業費用・利益総合保険のご案内」P6
https://www.ms-ins.com/pdf/business/cost/kigyo-hiyou.pdf

*20
出所)株式会社マネーフォワード「不可抗力条項とは?法律の意味や契約書の例文を紹介 」
https://biz.moneyforward.com/contract/basic/8583/#i-2


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そしきLab編集部

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