札幌駅前に「東京ドーム6個分」の新オフィス なぜ札幌?「大札新」の狙いと、AI時代の拠点進出で予想される効果は?

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2026年7月15日、JR北海道は札幌駅前「北5西1・西2地区」の再開発計画の見直しを発表した。商業施設とバスターミナルが入る西2丁目街区が2030年度、高さ約230mの高層棟が建つ西1丁目街区が2034年度の竣工予定だ。一方、この再開発が待っていた北海道新幹線の札幌延伸は、概ね2038年度末頃の見込み。新幹線より先に、ビルが建つ。

それでも札幌市は呼ぶ手を緩めない。市は「大札新」の旗を掲げ、2020年から2030年までに供給される東京ドーム6個分・約30万平米のオフィス床に、主に首都圏の企業を迎えようとしている。

なぜ札幌なのか。そして企業の側は、この誘致にどう乗るのがよいのか。拠点進出を検討する経営者にとって、ここから読み取れる札幌の魅力と、AI時代の拠点進出で予想される効果は、どのようなものか、読み解いていく。

「大札新」ってなに?

大札新(ダイサッシン)は、札幌市が市制100周年の2022年度に始めた官民連携の企業誘致プロモーションだ。スローガンは「札幌が、大きく、新しく、変わる。」。運営は札幌市経済観光局が担う。狙いは、再開発で生まれる大量のオフィス床に道外の企業を呼び込むこと。その先には、20歳代が就職を契機に首都圏へ大幅な転出超過となっているという積年の課題がある。

行政のプロモーションに初音ミクの妹分キャラクターを起用するあたりに、この誘致の本気度と間口の広さが出ている。

札幌ってどんな街?

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札幌市は人口約196.7万人(2025年9月1日現在)を抱える道庁所在地だ。観光や出張で訪れたことのある読者は多いはずで、拠点進出の文脈で押さえると、こんな顔をしている。

雪と食と観光の街というイメージが強いが、196万人の都市には人材も大学も商圏もそろっている。この「みんなが知っている札幌」に、ビジネス拠点の集積地という新しい顔を足そうというのが大札新である。

なぜ、いま札幌に床が一斉に生まれるのか

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理由は3つ重なっている。1つ目は新幹線という締め切りだ。札幌延伸(当初2030年度末予定)に駅を直結させる形で、駅周辺の再開発が逆算でスケジュール化された。象徴が北5西1・西2地区で、延床面積約38.7万平米、容積率の最高限度1500%という道内最大級の計画である。

2つ目は、ビルの寿命だ。1960〜70年代に建った街の顔が、築50年前後で一斉に更新期を迎えた。

3つ目は、市の政策だ。札幌市は「都心における開発誘導方針」(2018年策定、2024年7月改定)で「高機能オフィス整備ボーナス」「脱炭素化推進ボーナス」といった容積率緩和を設け、オフィス床を増やすこと自体を誘導してきた。締め切り・寿命・政策の3つが重なった結果が、約30万平米という供給量である。ただし需要を運ぶはずの新幹線は概ね2038年度末頃。箱が先に完成するこの時間差が、市の誘致をいっそう本気にさせている。

前回の「長野」と今回の「札幌」 ── 同じ本社誘致でも、構図が違う

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本社誘致というテーマは、前回の記事「企業の本社が『長野』へ集まり始めた」と地続きだ。長野県は2025年、転入22社に対し転出6社で16社の転入超過。若い世代の流出という痛みを起点に、助成制度と実例と、JLLという不動産プロのネットワークまで揃えて「呼ぶ側」に回った自治体が、実際に企業を集め始めている──これが前回見た構図だった。

札幌も同じ「呼ぶ側」だ。実例はすでに積み上がっている。

ただし、数字と地理は長野と大きく違う。帝国データバンクの調査では、2025年の北海道は道外転出22社・道内転入14社で、8社の転出超過。2年連続で、転出先の最多は東京都だ。そして距離。長野は東京から新幹線1時間17分の「地続きの地方」で、だからこそ綿半ホールディングスの2本社制のように、本社の置き方ごと選び直す動きが主役だった。札幌は羽田から約1時間半のフライトで、新幹線の到達は概ね2038年度末頃。経営の重心ごと動かすというより、「何の機能を、なぜ札幌に置くのか」という役割の定義が、長野以上に問われる場所である。

長野の示唆のうち「痛みを起点に、制度と実例を揃えて呼ぶ」という自治体側の型は、札幌にもすでに揃いつつある。変わるのは企業側の入口だ。本社ごと動かす長野型に対して、札幌は機能を選んで切り出す型。では、何を切り出すのか。その答えを考える前に、札幌の「人」の数字を見ておきたい。

「札幌なら人が採れる」は本当か

画像:sapporo job openings ratio

誘致の売り文句としてよく使われるのが人材だ。数字を見ると、答えは職種で正反対に割れている。ハローワーク札幌圏の事務職の有効求人倍率は0.32倍(2026年3月、フルタイム)。求人1件に対して求職者が約3人いる計算で、事務の働き手は確かに集めやすい。ところが同じ統計で建設・採掘は3.33倍、専門・技術は1.32倍。足りない職種は、札幌でもまったく足りていない。

さらに、この前提は足元から動いている。千歳市のラピダスだ。ラピダス求人の平均月給は2023年1月の27.1万円から2025年5月には48.6万円へ上昇したワークポートが千歳支社を新設しエン・ジャパンが札幌に北海道オフィスを開設パーソルテンプスタッフも千歳へ拠点を移した2027年度後半の量産開始に向け、人材の争奪はこれからが本番だ。「札幌なら採れる」は、職種と時期を選んで初めて成り立つ話になっている。

AIが、拠点の設計図を変え始めた

もうひとつ、より大きな変化がある。事務の仕事そのものを、AIが引き受け始めたことだ。米ベンチャーキャピタルのa16zは「Unbundling the BPO」と題したレポートで、約3,000億ドル規模のBPO産業(人が定型業務を大量に処理する産業)をAIエージェントが置き換えていくと論じた。

国内では当事者が先に動いている。札幌に第2本社を置くベルシステム24は、AI企業AVILENとの合弁会社「BA Intelligence」を設立し、2026年4月に営業を開始。掲げたのはAIエージェント実装型のBPOモデルへの転換だ。海外ではSalesforceのCEOが、AIエージェント導入によりカスタマーサポートを約9,000人から約5,000人に減らしたと明言している国内コンタクトセンターの生成AI活用も、検証段階を含めると2024年の約19%から2025年には63%へ一気に広がった。

つまり「人を大量に集めて事務を処理する拠点」という従来の設計図は、そのままでは描けなくなりつつある。これは札幌の逆風に見えて、実はそうではない。設計図を描き直す側の企業にとって、新しい床と制度がまとめて手に入る札幌は、描き直しの適地になり得るからだ。

それでも残る拠点、4つのかたち

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AIを織り込んで「何を切り出すか」を考えたとき、地方拠点として成立し続けるかたちは4つある。

4つに共通するのは、人数の多さではなく役割の明確さで拠点を定義していることだ。人を増やす移転から、人を再定義する移転へ。札幌に拠点を置く意味は、この4類型に当てはめると輪郭がはっきりする。

補助金はどこまで背中を押すか

そのうえで、札幌市の補助制度は厚い。本社移転なら最大2億円。ゼロカーボン推進ビルに入居する場合は賃料補助が最大で年間賃料の100%(上限5,000万円)×2年間となり、市も「実質、2年間賃料無料となる可能性あり」とうたっている

補助金は移転の理由にはならないが、決めた企業の背中は確実に押す。先に4類型のどれで行くかを決め、制度は最後の一押しとして使う。この順番で検討するのがよい。

札幌駅前、これからの時間割

大札新が動き出してからの時間軸を並べると、企業側に残された準備期間が見えてくる。

西2丁目街区の竣工まで約4年、西1丁目街区まで約8年。拠点の設計図をAI前提で描き直すには、十分な時間割が公式に示されたことになる。

まとめ

世の中の事務組織は、AIを織り込んだ作り直しの入り口にいる。札幌はその受け皿として、新しい床と、特例子会社まで届く補助制度と、アクサ生命やベルシステム24という実例の顔ぶれを揃えつつある。新幹線は遅れるが、ビルは先に建つ。この時間差は、急いで埋めるべき空白ではなく、じっくり設計してから入るための準備期間と読み替えられる。

東京から1時間の長野が「本社の置き方」を問い直す誘致だとすれば、札幌は「機能の置き方」を問い直す誘致だ。拠点進出を検討する経営者にとって、問うべきは「札幌なら人が採れるか」ではない。「AI時代の拠点を、どのかたちで札幌に置くか」。大札新は、その問いに制度と床をまとめて差し出した誘致として、見ていきたい。

この記事を書いた人

吉田 学

ウチダシステムズのスタッフを中心に、組織作りや場づくりについて議論を交わしています。業務の中で実際に役に立ったことなどを紹介していきます。

参考資料

大札新・札幌市の誘致

札幌の街

再開発・新幹線

本社誘致・進出企業

労働市場

AIと事務組織

補助制度


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そしきLab編集部

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