
「どうしてこんな大事な報告をしてこなかったんだ!」
会社のあちこちで日々、何度も繰り返されるそんなやりとりに、うんざりしている人も多いだろう。
失敗を言い出しにくかった、どうしていいかわからなかったなどと下を向く若手。
座り込み、頭を抱える上司というようなありふれたトラブルである。
そんなわかりやすいケースであれば、対策もまだ立てやすい。
しかし問題は、こんな場合だ。
「どうしてこんな大事な報告をしてこなかったんだ!」
「部長、それは1週間以上も前にメールで報告しています」
「…え?」
こんなケースも、よくあるだろうか。
「どうしてこんな大事な報告をしてこなかったんだ!」
「課長、それは電話で報告済みです。来週の予定とまとめて報告したじゃないですか」
「…」
このような場合、どちらが“悪い”のだろうか。
報告が上がってこなかった、あるいは報告が機能しなかったことそのものは、何をどう解釈したところで上司の責任でしかない。
「失敗を言い出しづらかった」と部下が言うのであれば、失敗を言い出しづらい空気を上司が作っていただけの話だ。
リーダーとして、もっともタチが悪いと言ってもいいだろう。
では、部下がメールや電話で報告済みだと言っているケースではどうだろうか。
部下は報告を上げている。
ならば上司こそが、目を皿のようにしてメールを読むべきなのか。
あるいは電話でも、一言一句を聞き漏らさないようにすべきなのか。
しかしそんな対策は精神論であり、また同じ失敗をやらかすのは目に見えている。
このような場合、リーダーとして採るべき再発防止策について何をすべきか、明確に答えられる人がどれだけいるだろう。
「全ての報告に目を通してなどいない!」
私自身、正解がわからないまま人生の大半を過ごしてきた。
そんなある日、その疑問を陸上自衛隊で最大の戦力、北部方面隊を率いた元総監・陸将にぶつけてみたことがある。
「部下からのメールや報告書、取引先や株主といったステークホルダーからの連絡は、まともに向き合えばそれだけで1日が終わってしまいます。800人ほどの組織でNo.2だった時ですらそうでした。3万人を超える巨大組織では、どうされてたのですか?」
「桃野さん、どんな組織でもそうだと思いますが、リーダーにはいろいろなタイプがいます。私がたどり着いたやり方でよろしければ、お話します」
そういうと元陸将は少し考えながら、ジョッキを握り直し枝豆をつまむと、ゆったりとした空気を作る。
沈黙に意味を含ませ、メッセージを込める間の取り方は、いつもながら痺れる。
「指揮官には大きく2つのタイプがあると思っています。全ての報告と連絡に自ら目を通す人と、担当幕僚(スタッフ)に任せて報告を待つ人です」
少しばかり、話の前提に必要な陸上自衛隊の組織について説明したい。
職種(兵科)により異なるが、陸自では基本的に以下のような階層で組織が編成されている。
方面隊‐師団(旅団・団)‐連隊‐大隊‐中隊‐小隊
例えば、方面隊の下には4つの師(旅)団があり、1つの師団の下には7つの連隊があるという感じだ。
民間企業で言えば、本部‐部‐課‐係などという階層になっていることと同じである。
大きな違いは、最高幹部に昇るような自衛官は原則として、指揮官と幕僚(スタッフ)の役割を交互に経験することだろうか。
一例をあげると、方面隊の幕僚長(スタッフの長)を経験し成績優秀であれば、その下級組織である師団の指揮官(師団長)に着任する。
民間で言えば、経理部次長(部長のスタッフ)を経験し、成績優秀であれば経理課の課長(下級組織の責任者)になるという形だ。
「上級部隊の指揮官になればなるほど、読むべき報告書は膨大になります。そのため私は、各担当幕僚(スタッフ)に任せて報告を待つスタイルでした」
「全ての情報に目を通すのを良しとしなかったということですね。しかし幕僚任せにしたら、下級部隊の指揮官から『それはすでに報告済みです』ということになりませんか?」
その質問を待っていたと言わんばかりに、微かな笑顔を見せる元陸将。
「もちろん、仰るようなことは十分あり得ます。下級部隊の指揮官の中には、上級部隊の指揮官に『報告を上げること』そのものが仕事であると勘違いする者も一定数います。幕僚(スタッフ)同士で報告が済んでいるので、報告を済ませたと考えるものもいます」
「幕僚に仕事を任せた上で自分に報告が上がってこないのであれば、それは自身の責任とはならないのですか?」
ここでもまた、今日イチの笑顔を浮かべ元陸将は微笑む。
きっと、同じ問題に悩み抜いたからこそなのだろう。
「報告とは、機能してこそのコミュニケーションです。そのため私が指揮官に上番した際には最初に、部下の指揮官を集めこのように訓示しました」
“私が全ての報告に目を通していると思ったら大間違いである!”
そして要旨、大事な報告は幕僚(スタッフ)を通さず、必ず自分に直接報告すること。
方法は、対面、電話、メールのどれでも良いこと。
内容の重大さや時間的余裕などを考えて、最適の方法を選び行動すること。
そして最後に、こう付け加えたと話す。
“私はこれにより、諸官のセンスを見ている!”
「報告を上げること」そのものを目的化させず、言い訳の材料にもさせないということだ。
上級組織の幕僚(スタッフ)に言っても伝わらないと判断すれば、自ら動くことも求めている。
民間で言えば、次長に言っても伝わらないと判断すれば、部長である私のところに直接来いと、課長に求めている形である。
“次長にちゃんと報告しました”という言い訳など許さない、という宣言である。
「このやり方には、3つの利点がありました。1つ目は、重要な報告のみ自ら聞くことができることです。2つ目は、下級部隊の指揮官が人任せにしなくなり、自分ごととして考え行動するようになることです。そして3つ目ですが、何かわかりますか?」
「想像もつきません…」
「おそらくこれが、民間でも一番役に立てていただける知見だと思います」
そう前置きすると元陸将は、要旨以下のような説明をする。
担当幕僚(スタッフ)は、下級部隊の幕僚から報告が上がってくると、それを指揮官に伝達する。
しかしその内容が悪いものである場合、そのまま報告すると厳しい指導を受けてしまうことがある。
そのため幕僚同士で、本質から外れた“調整”を始め、無駄な手間暇がかかるようになってしまうのだという。
すると下級部隊の幕僚たちは面倒になり、上級部隊の幕僚に悪い情報を上げなくなってしまうのが常だと。
「このような幕僚と、大事な問題を自ら報告しない指揮官がセットになると目も当てられません。そしてどうしようもないほどに事態が悪化して初めて状況に気がつき、上級部隊の指揮官はこう叫ぶのです」
“どうしてこんな大事な報告をしてこなかったんだ!”
「私はアホである!」
改めて、冒頭のお話についてだ。
「部長、それは1週間以上も前にメールで報告しています」
「課長、それは電話でまとめて報告済みです」
この場合、“悪い”のは上司なのか部下なのか。
繰り返すが、コミュニケーションが成立していなかった“責任”の全ては上司にある。
その上で、原因をどこに求め、どう再発を防止するのかという話だ。
“私が全ての報告に目を通していると思ったら大間違いである!”
元陸将のこの方針は、大きな組織を率いているリーダーの本音だろう。
重要な報告も、急ぎでない報告も、全てメール1通で投げ込まれたところで同じ粒度で読んでいるわけがない。読めるわけがない。
大事な報告とどうでもいい報告をごちゃまぜに電話で報告されても、脳は正しく理解できない。
リーダーには、全ての責任を取る覚悟が求められるのは当然だ。
だからこそ、部下に対してこう要求することもまた、当然ということである。
「機能する形で、俺をうまく使え!」
それこそが、元陸将が部下に訓示した言葉の本質である。
だからこそリーダーは、「私はアホである!」と予め、部下に宣言しなければならない。
できることとできないことをつまびらかに公開し、何をして欲しいのかを部下にお願いしなければならない。
そこまでしてやっと、部下はこう考えてくれるようになる。
「しかたないな、あのオッサン。組織が機能するように自分が責任を持たないと」
このようにして、次のリーダーが生まれていく。
これが「アホのふりが上手いリーダー」の強みと魅力であり、ひいては組織が成長する原動力なのだと確信している。
“私が全ての報告に目を通していると思ったら大間違いである!”
このセリフは、それをカッコよく言っているにすぎない。
実際、人の能力と時間は有限であり、できないものは絶対にできない。
だからこそ、無限に有能であるかのように振る舞うバカなプライドなど、リーダーのポジションに就いた人は最初に投げ捨てなければならない。
言い方は、それぞれのキャラに合わせて言っても構わない。
ぜひ、参考にして欲しいと願っている。
余談だが、元陸将はメールのやり取りでも、1通のメールに複数の用件を絶対に入れない。
まとめれば10行程度で済むような場合でも、筋の違う内容は必ず2つに分け、送信される。
巨大組織を率いたリーダーから学べるコミュニケーション技術は、余りにも多い。

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この記事を書いた人
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)など
元陸将を”アホのふり”などと書いてしまいました・・・。
このコラムが元陸将の目に留まりませんように…。
X(旧Twitter) :@ momod1997
facebook :桃野泰徳
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