
「人は見た目で判断される」のがリアルであるように、企業もまた、見た目で判断される。
筆者は身をもって体験した。古く、暗く、雑然としたオフィスでは、事業内容が魅力的でも、人は集まらないことを。とくに中小企業ほど、その傾向が強いのが現実だった。
採用に苦戦している企業の多くは、給与や福利厚生に目を向けているのではないだろうか。だが、求職者が最終的な判断を下す際、意外なほど重視しているのがオフィス環境だ。
採用に苦戦していた当時のオフィス環境
当時のオフィスは、築30年のビルの4階にあった。事業は順調に拡大していたが、採用活動だけは苦戦を強いられていた。
ギシギシと音を立てるエレベーターを降りると、薄暗い廊下が続く。オフィスのドアを開けると、そこに広がるのは雑然とした業務スペースだ。グレーのパーティションで区切られたデスク、こだわりなく買い集められたオフィスチェア、蛍光灯の白い光。どこにでもある、とりたてて工夫のないオフィスだった。
面接に来た候補者の表情が、オフィスに入った瞬間に曇るのを目撃したこともある。明らかに失望している──。
面接では会社のビジョンや事業内容に興味を示してくれたのに、最後のコミュニケーションは内定辞退のお知らせだ。
「難関を突破した特別な社員たち」という不思議な誇り
いっぽう、“華々しさから程遠い、無骨なオフィスを目撃してなお入社した古参メンバーたち” が、ハイパフォーマーとして無双していたことも、事態を複雑にした。
「オフィス環境も福利厚生も充実していない状況からコミットしたメンバーだからこそ、結果を出している」という不思議な誇りが、メンバー自身にも経営陣にもあった。「普通なら、エレベーターのドアが開いた瞬間に、『あ、間違えた』って帰りますよね」というのは、鉄板の笑い話だ。
「重要なのは理念への共感であり、仕事の中身であり、オフィスの見た目ではない」と皆が思っていた。客観的に見れば時代遅れであるし、合理性もさほどないのだが、 “中” にいるとわからなくなることは、往々にしてある。
言葉は悪いが、「見た目につられてやってくる奴なんて、ろくなもんじゃない」と思っていた節さえある。会社が急成長するなか、“勝ち馬に乗りたいだけの奴” に対する警戒心が強くなっていた時期でもあった。
それは「あなたたちは敵」というメッセージだった
だが、さらなる事業拡大を目指していた私たちにとって、その考え方こそが甘かった。
求職者の視点に立てば、オフィス環境は会社の姿勢やカルチャーを映す鏡である。内装が古く、暗く、雑然としている空間からは、「従業員を大切にしていない」「投資すべきところに投資していない」というメッセージが伝わってしまう。優秀な人材ほど、そうした会社を選ばない。
そして実際、「新しい仲間に来てほしい」と口では言いながら、未来の仲間を大切にしようとする態度に欠けていたのも事実だ。
独特の関門を通過した者だけを仲間として認めようとする、閉鎖的で防衛的な雰囲気が、たしかにあった。仲間どころか、まるで敵を選別するようなまなざしで、ふるいにかけようとしている。
オフィス環境は、そうした目に見えないものを表出する装置だったのだ。
「ここで長く働くイメージが持てない」
転機となったのは、ある候補者からの率直なフィードバックだった。最終面接まで進んだものの辞退した応募者が、こう言い残したのだ。
「御社の事業内容には魅力を感じましたが、正直に言うとオフィス環境が気になりました。ここで長く働くイメージが持てなかったんです」
──相手が、“ここで長く働くイメージ” を、持てるか否か。シンプルで当然のことながら、そのための努力をしてこなかったことを痛感した。
採用力を高めるには、給与や福利厚生の改善だけでは不十分だ。オフィス環境そのものを、求職者が「ここで働きたい」と思える空間に変える必要がある。そう判断し、内装の全面的な改修を行うことになった。
オフィスの内装変更で取り組んだこと
まず取り組んだのは、照明の変更である。蛍光灯をすべて撤去し、自然光に近い色温度のLED照明に切り替えた。この変更だけで、オフィス全体の印象が劇的に改善された。照明ひとつで、空間の質はここまで変わる。
次に着手したのは、レイアウトの見直しだ。従来のパーティションで区切られた島型配置を部分的に撤廃し、外出の多い営業チームにはフリーアドレス制を導入した。中央エリアにはコミュニケーションを促進するオープンなテーブル席を配置した。
よくオフィスの形容詞として「開放感」の語句が使われるが、開放感が出ると、オフィスの印象もずいぶん変わってくる。
エントランスと応接スペースの改修にも力を入れた。来訪者が最初に目にする場所だからこそ、会社の印象を左右する重要なエリアである。受付カウンターを木目調の温かみのある素材に変更し、壁面には事業内容を視覚的に伝えるグラフィックを配した。
応接スペースには、ゆったりとしたソファと観葉植物を置き、リラックスして会話できる空間を演出した。
既存メンバーの雰囲気が柔らかく変化していく
百戦錬磨の古参メンバーたちは、かならずしもオフィス改修に賛成ではなかった。
「そんな予算使うなら、新商品の広告費を増やしてほしい」とか、「そのお金でパソコンのスペック上げたほうが費用対効果がいい」とか、自分のコミットしている仕事に直結する使い方を望んでいたからだ。
だが、経営陣は「オフィス環境への投資は、採用への投資である」という認識を貫いた。“このまま人が入らなければ仕事が回らない状況” はたしかであったので、議論は落ち着いていった。
そしておもしろいことには、改修後のオフィスでは、ギラギラ・ピリピリしていた既存メンバーたちの雰囲気も、柔らかく変化していったのだ。
ライフスタイルの話でよく「ていねいに暮らす」「自分に手間をかける」「セルフケアをする」といった概念がある。オフィスにお金と手間をかけることは、自分たちを大切にすることでもあったのだ。「採用への投資」という名目ではあったが、既存メンバーにとっても、たしかに価値ある投資であった。
「オフィスがきれいですね」
内装を変更してから、採用活動の変化は、求職者の反応に現れた。面接に訪れた候補者の表情が明るく見える。
面接の最後に、「弊社の印象はいかがでしたか?」と質問すると、「オフィスがきれいですね」という感想が出るようになった。以前は絶対に見られなかった反応である。この変化だけでも、内装変更の価値があったといえる。
応募数も大幅に増加した。求人媒体に掲載するオフィスの写真を変えただけで、印象が大きく変わったのだ。
そして顕著だったのは、内定承諾率の向上である。以前は内定を出しても辞退されるケースが多かったが、内装変更後は承諾率が倍増した。優秀な候補者ほど複数の企業から内定を得ているが、最終的に当社を選んでくれる確率が上がったのである。
「オフィスの内装を変えただけで?」と思うかもしれない。より厳密にいえば、オフィスの改修をきっかけとして、既存メンバーの雰囲気に変化が生じたことも大きいだろう。
候補者に対する好戦的なまなざしや、入社した社員を「お手並み拝見」とばかりに上から目線で見る雰囲気が消え、「仲間」として協働できるようになったのだ。
内装の変更と「そこにいる人たち」も含めたオフィス環境が、採用活動を後押ししてくれたと思っている。
良いオフィスが良い会社を作ってくれる
最後に、オフィス環境が採用力に影響を与える理由について、まとめておきたい。
第一に、オフィス環境は会社の価値観を可視化する装置である。どのような空間を用意しているかは、従業員をどう扱っているかを雄弁に語る。良いオフィスは、「この会社は従業員を大切にしている」というメッセージを発する。逆に、悪いオフィスは、「従業員への投資を惜しんでいる」という印象を与えてしまう。求職者は、そのメッセージを敏感に読み取る。
第二に、オフィス環境は働き方の質を決める。求職者は、そこで自分がどのように働くかを具体的にイメージする。良いオフィスなら「ここでなら良い仕事ができる」と感じ、そうでなければ「ここでは自分の力を発揮できない」と判断する。オフィス環境は、パフォーマンスに直結する要素なのだ。
第三に、オフィス環境はチームの雰囲気を醸成する。人は「今いる場所」次第で、振る舞いが変わる生き物だ。快適なオフィスなら、リラックスして表情も柔らかくなるだろう。お互いを仲間と認識し、協力し合う雰囲気が、自然と生まれていく。
オフィス環境への投資は、会社づくりそのものである。良いオフィスは良い会社を作ってくれる。

この記事を書いた人

三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
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