【医師が解説】「仕事の人間関係に疲れた」そんな時、ストレスとどう向き合うべき？

「職場の人間関係に疲れてしまった」と感じたことがある人は少なくないでしょう。
実際に、仕事に関する悩みとして、人間関係のストレスは見過ごせないものです。
人間関係の悩みは精神的な不調だけでなく、疲労や集中力の低下、身体の不調にもつながりかねません。

そこで、今回の記事では、人間関係のストレスに対する対処法について解説します。

「人間関係の疲れ」がもたらす影響

まずは、人間関係による疲れにどれくらいの人が悩まされているのかや、身体にどのような影響を与えるのかをみていきましょう。

仕事のストレスのなかでも対人関係は上位

令和5年の厚生労働省の調査によると、セクハラやパワハラを含む対人関係は、仕事に関連する不安や悩み、ストレスの原因として上位に挙がっています。^*1
また、転職を決めた理由として人間関係の悪さが原因だったと回答した方が、男女ともに10％程度であるという報告もあります。^*2

このように、ストレスなく仕事を続けるにあたって、人間関係は軽視できない要素といえるでしょう。

ストレスを感じた際に起こる脳の反応

ストレスを感じたときに人間の脳で起こる反応について説明しましょう。

ストレスを受けると、脳はまず「危険がある」と判断し、扁桃体が素早く反応します。
すると、視床下部‐下垂体‐副腎（HPA）軸が働き、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。
このメカニズムには、短時間であれば集中力を高める効果があります。
しかし、慢性的に続くと前頭前野（判断力・感情コントロールを担う）が働きにくくなり、注意力の低下やイライラへとつながります。

また、海馬にはもともと経験や環境の変化に応じて、構造や機能を柔軟に変化させる能力があります。

その一方で、ストレスを慢性的に感じる状態が続くと、この能力が損なわれ記憶力の低下や疲れやすさを感じやすくなることも分かっています。
つまり、ストレスは単なる気持ちの問題ではなく、脳の構造や働きに影響する生物学的反応なのです。^*3

仕事にまつわるストレスが身体に与える影響

仕事に関連するストレスは、さまざまなストレス要因（ストレッサー）によってもたらされます。
仕事にまつわるストレス要因には、差別やハラスメントなどの人間関係のほか、仕事に求められる要求が高いこと、雇用の不安定さといった要素が挙げられます。

ストレスがかかる状態が長く続くと、疲労感が増し、さらには心臓や脳の病気、バーンアウト（燃え尽き症候群）、さらにはうつ病などの精神の病気のリスクが高まります。
また、仕事に対するモチベーションが低下し、仕事のパフォーマンスが低下し、離職にもつながる場合があります。^*4

最新研究でわかった「人間関係のストレスが強まる本当の理由」

職場では、上司と部下との関係や、同期との横のつながりなど、さまざまな人間関係があります。
人間関係にまつわるストレスを軽減するためには、「皆が仲良くすれば良いのではないか？」と思われるかもしれません。

確かに、一見、職場に「気の合う仲間」がいることは大きな安心材料のように思えます。
実際に、職場での友人関係には、職場への帰属意識をもたらし、従業員の幸福度の向上や、協力、創造性、職場の革新性の向上、組織機能の効率化など、さまざまなメリットがあることが知られています。
しかし、近年では、職場の友人関係には副作用があることも指摘されています。

職場には「公平・効率・役割」を重視するルールがあります。
一方、友情は「好き」や、「助けたい」、「ひいきしたい」といった感情に基づくルールで動きます。
本来まったく違う、これらの相反するルールを同じ相手に適用すると、心の中で「友人」として求める期待と、「同僚」として求める期待がぶつかり、過剰な負担が生じる場合があります。

このような負担が続くと、心に余裕がなくなり、返事がそっけなくなる、距離をおいてしまうなどの行動が出やすくなることも報告されています。
また、こうした行動によってチーム同士のすれ違いが起こり、職場の雰囲気が悪化し、結果として離職率の上昇につながることもあります。^*5

つまり、仲の良さはメリットである一方で、過度に依存したり、境界が曖昧になることで、むしろストレス源になる可能性があるのです。

「人間関係に疲れた」と感じたときの対処法

職場での人間関係に疲れてしまったときには、以下のような対処法を試してみましょう。

3つのRを実行する

まずは、自分の状態を把握することから始めましょう。
そのうえで、人間関係に疲れたと感じている場合は、深呼吸やストレッチなどで心身をゆるめる「Relax（リラックス）」、睡眠や短い休息でしっかり「Rest（休む）」、運動や旅行などでの気晴らしをする「Recreation（レクリエーション）」を意識しましょう。^*6

3つのRは、ストレスが高まったときに心と身体を立て直すための基本のステップです。

生活習慣の見直し

人間関係のストレスが強いときほど、睡眠・食事・運動といった基本的な生活リズムが乱れやすくなります。
例えば、ストレスを感じるとつい食べ過ぎてしまうという行動をとってしまう可能性が高いことが指摘されています。^*7

まずは、毎日同じ時間に寝起きする、軽い運動を取り入れる、バランスの良い食事を心がけるなど、生活習慣を整えることが重要です。^*8
生活の土台が安定すると、心の余裕が生まれ、職場の人間関係による疲れにも対処しやすくなるでしょう。

職場の同僚との関係を見直す

職場に友人がいること自体には良い面も多くあります。
しかし、時にはえこひいきなどの原因となり、ストレスを感じる元凶となるリスクをはらんでいます。

そこで、従業員同志の職業上の交流については、ある程度の期待値を設定するとよいでしょう。
たとえば、「会議では意見をぶつけ合うのが仕事」と割り切っておくと、「友人の気持ちを傷つけるのではないか」という不安が減ります。

また、友人だからといって、勤務中にいつ声をかけても良いわけではありません。
「仕事中は基本的にお互い集中、話すのはお昼や休憩時間に」といったゆるいルールを共有しておくと楽になります。
先にランチやコーヒーの時間を決めておけば、友人からの頻繁な声かけや雑談で作業が止まってしまうといったストレスも減らせるでしょう。^*5

「役割ストレス」を感じている場合は上司に相談する

仕事をするうえでの人間関係に関する悩みで、見過ごせないものの一つが役割ストレスと呼ばれるものです。

役割ストレスは、何らかの役割を果たそうとしている人が、その役割に対して否定的な感情を持つことと定義されています。^*9
例えば、2つの矛盾したことを果たさないといけない状況や、自分の責任や果たすべき目標などが明確でない曖昧な状況では、役割ストレスを感じやすくなります。

こうした役割ストレスを軽減するためには、上司や同僚に相談し、業務内容を明確にする、整理することなどが効果的と考えられます。

家族や職場・医療スタッフに相談する

人間関係のストレスによって、心身ともに疲れてしまった場合には、信頼できる友人や家族からの助けを受け入れることも大切です。

職場によっては、従業員支援プログラムなどを通じて、オンライン情報、カウンセリング、必要に応じてメンタルヘルス専門家への紹介など、ストレス管理のためのリソースを提供している場合もあるでしょう。
仕事のストレスが続くような場合は、専門の医療機関で心理士などに相談することもよいですね。
こうした専門スタッフは、ストレス管理を改善し、不健康な行動を変えるためにサポートしてくれるでしょう。^*10

まとめ

今回の記事では、人間関係のストレスにどのように対処すればよいのかについて解説しました。

「人間関係のストレス」は脳と身体への負担が大きいものです。
職場での人間関係をうまく構築していくためには、同僚などとの適切な距離の取り方、役割の整理などが効果的です。

また、ストレスへの対処法としては、生活習慣の見直しが有効な場合もあります。
つらい時は無理をせず、家族や職場の上司、あるいは専門家に相談をするようにしましょう。
自分の悩みを抱え込まないようにすることが何よりも大切です。

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資料一覧

*1　令和５年「労働安全衛生調査（実態調査）」の概況-厚生労働省　p16
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r05-46-50_gaikyo.pdf

*2　－令和６年雇用動向調査結果の概況－　厚生労働省　p15
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/gaikyou.pdf

*3　McEwen BS, Bowles NP, Gray JD, Hill MN, Hunter RG, Karatsoreos IN, Nasca C. Mechanisms of stress in the brain. Nat Neurosci. 2015 Oct;18(10):1353-63. doi: 10.1038/nn.4086. Epub 2015 Sep 25. PMID: 26404710; PMCID: PMC4933289.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4933289/

*4　職場におけるストレッサーの分類に関する研究-労働安全衛生総合研究所
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2021/157-column-1.html

*5　Ulrike Fasbender, et al.Managing the risks and side effects of workplace friendships: The moderating role of workplace friendship self-efficacy.Journal of Vocational Behavior.2023;
143:103875.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0001879123000350

*6　第4回 「ストレスの対処」ってどんなこと？：うさぎ商事の休憩室-こころの耳|厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/usagi/ug004/

*7　ストレス対処行動の組み合わせと夕食の食べ過ぎ.栄養学雑誌.2015;73(6):221-229. p222
https://www.jstage.jst.go.jp/article/eiyogakuzashi/73/6/73_221/_pdf

*8　ストレス対処法としての生活習慣 － 食う・寝る・遊ぶの充電法｜こころの耳|厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/lifestyle/

*9　看護管理職の役割ストレス・労働負荷とバーンアウトとの関連.日本看護研究学会雑誌.2020;43(2):189-198. p191
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/43/2/43_20200107078/_pdf/-char/ja

*10　Coping with stress at work. American Psychological Association.
https://www.apa.org/topics/healthy-workplaces/work-stress

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