重大な健康被害をもたらす「アスベスト」に注意 古いビルの場合は一度検査を

1990年ごろまで建築物のあらゆるところに欠かせなかった「アスベスト(石綿)」は、その後多数の健康被害が報告され肺疾患の原因物質となっていることがわかりました。
その後2006年から輸入、製造、使用などが全面禁止されています。

ただ、それ以前に完成している建築物の場合、アスベストが使用されたままの状態となっている可能性があります。

そこで、テナントビルの築年数によってはアスベスト調査を考える必要があります。
ここでは、アスベストとはどういうものか、調査や改修工事にあたっての注意点などを解説していきます。オフィスで働く従業員の健康を守るための参考にしてください。

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アスベストと健康被害

アスベストは天然の鉱石で「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれます。

(出所:国土交通省「建築物のアスベスト対策」)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/07/070425_2/01.pdf p2

耐火性、断熱性、防音性、絶縁性など多様な機能を持っていること、さらにセメントとの親和性が高く混ぜて使える、安価であるという特徴から建築現場で幅広く使われてきました。*1

ビルの場合をみると、まさに「あらゆるところ」で利用されてきたことがわかります。

(出所:国土交通省「目で見るアスベスト建材」)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/01/010331_7/01.pdf p6-7

しかし非常に便利な建材である一方、人体に悪影響を及ぼすことがわかってきました。

アスベストが原因の重大疾患

浮遊するアスベストを吸い込むことで発生することがわかった深刻な疾患は以下のようなものです。

アスベストを原因とする主な疾患
(出所:国土交通省「建築物のアスベスト対策」)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/07/070425_2/01.pdf p4

いずれの疾患も発症までの期間が10年~20年と長いため、アスベストと健康被害の関係は発覚しにくかったと考えられます。*2

2006年から全面禁止

こうした健康被害の実態を受け、アスベストの使用は2006年に全面禁止されました。*3

しかし、それ以前に完成している建築物については、アスベストが使用されたままになっている可能性が高いと考えられます。

厚生労働省のQ&Aによれば、

  1. 建築物においては、
    ・耐火被覆材等として吹き付けアスベストが
    ・ 屋根材、壁材、天井材等としてアスベストを含んだセメント等を板状に固めたスレートボード等が使用されている可能性がある
  2. 吹きつけアスベストが使用されている場合、劣化等によりその繊維が飛散するおそれがある。
  3. 石綿障害予防規則において、吹き付けられたアスベストが劣化等により粉じんを発散させ、労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは、除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じなければならないこととされている

との見解が示されています。

よってオフィスでアスベストの空気中の浮遊が認められた場合には、事業主は何らかの対策をしなければなりません。

なお、2007年時点で、民間の大規模建築物のうち、吹付けなどの形でアスベストが利用されている割合と、対処をした建築物の数は下のようになっています。

(出所:国土交通省「建築物のアスベスト対策」)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/07/070425_2/01.pdf p2

対応できている建築物の割合が圧倒的に少ないことがわかります。

オフィスのアスベスト危険度の検査方法はある?

なお「労働安全衛生法」に基づく「石綿障害予防規則」では、すべての事業者に労働者の石綿ばく露防止対策が義務づけられています。*4
建築物を借りている場合であっても、貸与者や管理者に確認し、石綿含有建材の使用状況、調査状況、点検状況などを確認しなければなりません。

ただ、これは自力では難しいことでしょう。よってテナントビルの場合は契約前にオーナーに確認したいところです。場合によってはアスベストの除去や封じ込め作業が必要になります。その目安は空気中のアスベストの割合が0.1%以下かどうかです。

(出所:国土交通省「建築物のアスベスト対策」)
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/07/070425_2/01.pdf p2

測定や工事は、専門業者に任せるのが良いでしょう。

しかし、業者選びにはコツがあります。

調査・除去の際の業者の選択方法

というのはアスベストに関する調査や除去作業を行うにあたっては、各種資格が設定されているからです。*5

  • 石綿作業主任者
  • 工作物石綿事前調査者
  • 建築物石綿含有物建材調査者
  • 船舶石綿含有資材調査者

よって業者にアスベストの除去などを依頼する場合は、これらの有資格者が在籍している業者を選ぶのが良いでしょう。

(h3)アスベスト調査、除去には助成も

なお、アスベストの調査や除去については補助制度があります。補助対象になるのは、「吹付けアスベスト」「アスベスト含有吹付けロックウール」です。*6

まず調査の段階では、以下の場合に地方公共団体において補助金を受けることができます。

  1. 対象建築物:吹付けアスベスト等が施工されているおそれのある住宅・建築物
  2. 補助内容:吹付け建材中のアスベストの有無を調べるための調査に要する費用
  3. 国の補助額:限度額は原則として25万円/棟(民間事業者等が実施する場合は地方公共団体を経由)

そして除去工事をする場合の補助制度は下のようになっています。

  1. 対象建築物:吹付けアスベスト等が施工されている住宅・建築物
  2. 対象とする費用内容:対象建築物の所有者等が行う吹付けアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みに要する費用(建築物の解体・除去を行う場合にあってはアスベスト除去に要する費用相当分)
  3. 国の補助率: 地方公共団体の補助額の1/2以内(かつ全体の1/3以内)

ただ、制度を導入していない地方公共団体もあるので確認しましょう。

テナント選びの際に注意したいこと

先にも述べたようにアスベストによる重大疾患は、発症までに時間がかかるために発覚しにくいことでしょう。しかし、遡って診断できる場合もあるでしょうし、最近すでに徐々に労災認定は積み上がっています。

令和5年度以前でも、

建設業以外の事業場の一覧表:5,777事業場
建設業の事業場の一覧表:9,947事業場

にのぼっています。*7

建設業以外の事業所でも労災認定が広がっていることには注意が必要です。

まずは移転を検討している建物について、オーナーにアスベストの検査や除去工事を実施したかどうかを確認し、そうでなくても検査を求める、検査の結果、除去工事が必要になった場合の料金負担についてのやりとりは欠かさないのがベストでしょう。

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。
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参考資料

*1
独立行政法人環境再生保全機構「アスベスト(石綿)とは?」
https://www.erca.go.jp/asbestos/what/whats/basyo.html

*2
厚生労働省「アスベスト(石綿)に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html

*3
厚生労働省リーフレット「アスベスト全面禁止」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou22-1c.pdf

*4
厚生労働省「事業主の方々へ(アスベスト)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/other/index_00003.html

*5
厚生労働省石綿情報ポータルサイト「講習会情報」
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/course/

*6
厚生労働省石綿情報ポータルサイト「補助金制度」
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/subsidy-system/

*7
厚生労働省「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表(令和5年度以前認定分)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35324.html


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そしきLab編集部

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