【医師が解説】香りは空間の無言のメッセージ?職場の匂いが社員の心に与える影響とは

視覚・音・動線に比べ、オフィス設計の中で匂いが注目されることはまだ多くありません。
しかし、匂い(嗅覚)は人間の五感の中でも特に感情や記憶に直結しやすく、職場の快適性やストレスに強く影響する感覚です。
快適に感じられる匂いは「香り」、不快に感じられる匂いは「臭い」と表記されることもあります。

今回の記事では、医師の立場から「香りと自律神経」や「悪臭による不調」、「オフィスに快適な香りを取り入れるヒント」などを解説しつつ、オフィス移転・設計の際に香りをどうデザインに組み込むことができるのかを提案します。

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なぜ香りが職場環境に影響するのか

ここでは、嗅覚のメカニズムや、香りが職場環境に与える影響について解説します。

嗅覚の特徴・メカニズム

人が匂いを感じるとき、小さな匂い分子である匂い物質が鍵となります。
この匂い分子は、まず鼻の粘膜を覆っている粘液に溶け込みます。*1

次に、匂い物質は匂いを感じるセンサー(受容体)に結びつき、匂いは電気信号として脳の嗅球(きゅうきゅう)という部位に伝わります。*2

そして、さらに脳のいろいろな部分に信号が伝えられていきます。
すると、匂いによる記憶が呼び起こされたり、匂いによるイメージが作られたり、あるいは匂いによって気分が変化し、体にいろいろな作用をもたらすのです。*3

引用)*3 嗅覚の匂い受容メカニズム.2015.日耳鼻;118:1072-1075. p1075
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/118/8/118_1072/_pdf

こうしたメカニズムは、現在も研究が進められており、未解明の部分もあります。*2-3
とはいえ、現状では匂い(嗅覚)は人間の五感の中でも特に感情や記憶に結びつきやすいといえるでしょう。

また、匂いは感じ方により、呼び方が使い分けられることもあります。
「よいな」と感じるような場合には「香り」と呼び、「不快だ」と感じる場合には「臭い」と呼称されるといった具合です。*4

香りが与える心理的・生理的な作用

香りを嗅ぐことによって、人の体に生理的な影響が与えられる、つまり体調に変化がもたらされることがあります。

例えば、以下のような香りには、ストレス緩和効果が期待できることが示唆されています。*5

  • ラベンダー
  • ローズマリー
  • サフラン
  • ローズ
  • ユズ

さらに、免疫の働きを高める効果が期待されている香りもあります。

  • レモン
  • ラベンダー

また、グレープフルーツの香りには、アドレナリンを分泌させる作用があるため、脂肪の燃焼効果をもたらすということも知られています。*2

一方、そもそも、そういった香りが嫌いという方の場合にはこうした作用が当てはまらない場合もあります。*2

オフィスでの香りの効能

近年、健康経営オフィスという考え方が広まりつつあります。
この考え方は、オフィス環境を適切に整えることで、健康を保持・増進する行動を促し、従業員ひいては企業全体が活気あふれる状態に導こうとするものです。*6

そして、健康経営オフィスの構築のためには、光や音、香りを快適と感じることも大切な要素の一つとなっているのです。*7

悪臭や不快な匂いが健康に及ぼす影響

香りの良い効果がある一方で、逆に不快な匂いが職場に漂うと、健康や集中力に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
ここでは、悪臭や不快な匂いに悩まされるとき、体にはどのような影響があるのかについて説明しましょう。

不快な匂いは自律神経のバランスを乱す

人の体は、自律神経の働きによって常に一定の状態を保つようにコントロールされています。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。
交感神経は活動性を高めるような方向に働き、心拍数を上げたり唾液の分泌を減らしたりといったように作用します。

逆に、副交感神経は体をリラックスさせるように働きます。*8
しかし、強いストレスがかかる状態が続くと、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、交感神経の働きが強く出てしまうことがあるのです。

ここで、匂いと自律神経の関係についてみてみましょう。
不快と感じる匂いを嗅ぐと、交感神経系がストレスに反応した時と同じような状態になってしまうことが明らかになっています。*9

オフィス特有の匂い問題

オフィス特有の悪臭には、体臭やタバコ臭、建材臭、かび臭などがあります。*10
また、大きなビルなどではビルピット関連の悪臭が問題となることもあります。*11
なお、ビルピットは、地下部分で発生した排水を一時的にためておく排水槽のことです。*12

頭痛や吐き気、集中力低下などの症状例

オフィスで不快な匂いに悩まされている状態では、集中力が低下し、生産性も下がってしまうことが懸念されます。
また、先述したように、悪臭と感じる匂いによって自律神経の働きが乱される可能性もあります。*9

不快臭の対策の基本

職場での不快な匂いへの対策としては、まずは悪臭の発生源の特定が挙げられます。

排水による悪臭の場合には、ビルの管理が適切かどうかを見直す対策が必要となります。*12
一方で、食品臭などについては、早めにゴミを処理する、生ゴミはオフィスには捨てず持ち帰るようにするなどの対応が有効と考えられます。

体臭対策としては、体を清潔に保つように注意したり、換気を徹底したりすることが基本となるでしょう。
また、最近ではスメルハラスメントなどといった造語も生まれています。
香り付き柔軟剤の使用などに際しては周囲への配慮も怠らない、使用量を守るように啓発するなどの対策を行うようにするとよいかと考えられます。*13

オフィスにおける香り導入の科学的根拠と実証実験

さて、ここで2025年6月、ウチダシステムズ東京本社で2週間、6カ所にアロマディフューザー設置を行った実験結果をご紹介しましょう。
この研究は、香り成分の種類ごとにもたらす効果を調査し、それぞれの香りの適切な使用場所について検討したものです。*14

この研究では、シダーウッドやミントなどからなる香りとシトラス系の香りを空間ごとに使い分け、53名が5項目(気分・積極性・集中・リラックス・落ち着き)を7段階評価しました。
シダーウッドやミントなどからなる香りは会議室、シトラス系の香りはオープンスペースに設置されました。

主な結果

香りについての評価は、空間ごとに以下のようになりました。

・オープンスペース
気分が明るくなった・リラックスできた・落ち着きを感じられたとして高評価を得られました。

・会議室
積極性をもたらす点は評価されましたが、香りを強く感じられる傾向がみられました。

こうした意見からは、香りの強さ調整と場所選びが重要であると考えられました。

自由記述の傾向と結論

自由記載の傾向は以下のようになりました。

  • 好意的意見:気分転換になる、会話のきっかけが生まれる、空間の印象改善につながる
  • 懸念点:香りの強さ、嗅覚過敏・体調への配慮

また、改善提案として、空間別の強度設定、時間帯や季節による切替えが挙げられていました。

総じて、広い空間や休憩室など一時的に滞在する場所から香りの導入を始めることで、利用者の感じ方の違いにも柔軟に対応できると結論づけられました。

香り環境を整えるための実践ステップ

最後に、香りを職場に取り入れるためのステップについて提案していきます。

ステップ1:現状の匂い環境を把握

社員アンケートやにおいマップなどを作成し、現状ではどのような場所で不快な匂いがあるのか、などについてを把握しましょう。

ステップ2:課題に応じた対策をとる

課題を把握したら、それぞれに対応していきましょう。
悪臭が感じられる場所については、換気をまずは徹底しましょう。*15 
生ごみが悪臭を発している場合には、早めに捨てるようにするなど、臭いの元を素早く取り除くようにしましょう。

ステップ3:香りの試験運用で効果と課題を確認

香りを試しに使い、従業員の意見を集めましょう。
まず、従業員が集まって作業する空間に、リフレッシュ効果のあるようなアロマを取り入れることも良いでしょう。*16
しかし、その際には香りの感じ方はそれぞれ異なる点には注意が必要かと考えられます。

そこで、例えば休憩所など特定の場所で、香りを楽しむことができる空間を用意するなどすると良いかもしれません。
ちょっとした香りが漂うだけでも、気持ちが和らぎ、頭もすっきりと切り替わる効果が期待できるでしょう。
こうしたお試しの香り体験を、まずは1〜2週間程度行ってみるとよいのではないでしょうか。

ステップ4:フィードバックを反映して本格導入

実験から得られた知見を反映させ、本格的に導入するかどうか、検討しましょう。
香り強度や、時間帯切替などについても詳細に決めていくとよいですね。

まとめ

心地よいと感じられる匂い、すなわち香りは、健康経営オフィス設計にも欠かせないものです。
まずは悪臭を取り除き、その上で従業員が快適と感じられるような香りをオフィスに取り入れていけると良いでしょう。
小さく始めて効果を確かめながら、自社に合った香り環境を育てていくことが、快適で生産性の高いオフィスづくりの近道となります。

この記事を書いた人

木村 香菜

行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医、日本人間ドック・予防医療学会認定医。

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資料一覧

*1 嗅覚の匂い受容メカニズム.2015.日耳鼻;118:1072-1075. p1073
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/118/8/118_1072/_pdf

*2 嗅覚の匂い受容メカニズム.2015.日耳鼻;118:1072-1075. p1074
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/118/8/118_1072/_pdf

*3 嗅覚の匂い受容メカニズム.2015.日耳鼻;118:1072-1075. p1075
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/118/8/118_1072/_pdf

*4 香り、匂い、臭い ―化粧品と香料 日本化粧品工業会
https://www.jcia.org/user/public/knowledge/explain/perfume

*5 嗅覚とホルモン・免疫系.におい・かおり環境学会誌.2015;46(4):273-275. p273
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/46/4/46_273/_pdf

*6 健康経営 オフィス レポート p3
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

*7 健康経営 オフィス レポート p4
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

*8 ストレスとは | 専門家コラム | 働く女性の心とからだの応援サイト-厚生労働省
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/column-3.html

*9 匂いは不快度次第でストレスになる | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00127.html

*10 ヒトと生活環境のにおい.J Mass Spectrom.Soc.2018;66(2):92-96. p95
https://www.jstage.jst.go.jp/article/massspec/66/2/66_S18-19/_pdf

*11 におい対策・かおり環境について | 大気環境・自動車対策 | 環境省
https://www.env.go.jp/air/akushu/akushu.html

PDF;臭気対策行政ガイドブック 環境省 p57
https://www.env.go.jp/content/900397294.pdf

*12 ビルピット排水対策について|宅地内の下水道(排水設備)|東京都下水道局
https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/living/takuchi/in0010

*13 家屋内でのにおい問題.におい・かおり環境学会誌:47(4);296-300. p300
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/47/4/47_296/_pdf

*14 ウチダシステムズ社調査「香り成分の種類とその効果に基づいたオフィス環境改善研究」より

*15 室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0107/h0724-1d.html

*16 かおりによる快適空間の演出「環境芳香」とこれからのかおり環境について.におい・かおり環境学会誌:51(2);116-123. p120
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/51/2/51_116/_pdf


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