働き方改革は休み方改革から ゆっくり自分を振り返る「サバティカル休暇」とは?事例を紹介

社会情勢がコロコロと変わり、技術の進歩に追いつくために新しいことをどんどん覚えなければならない環境の中で、日本人の「休み下手」が目立つようになっています。

有給休暇でさえ「周囲の目が気になってなんとなく取りにくい」という空気があり、自分の生活や将来、やりたいことなどについてゆっくり考える時間がなく、気がつけば職場と家の往復でいっぱいいっぱい、そんな人も多いことでしょう。

しかし社会人生活を長く続ける中で、時々「自分の現在地をゆっくり確認する」ことは欠かせない作業です。ライフステージに応じて考え方や生活を変化させていくことも重要です。

そこで、理由を問わずに1ヶ月や半年、1年などの長期休暇を取得できる企業が出てきています。「サバティカル休暇」と呼ばれ、海外でも広く導入されている制度です。

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日本の有給取得率はワースト

グローバル旅行サイトのエクスペディアが、世界11地域を対象に有給休暇に関する調査を実施しています。

それによると、2023年の世界の有給休暇の取得率は下のようになっています。

(出所:エクスペディア「エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表」)
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2024/

日本は63%で、調査対象地域では最下位という結果です。

その理由の上位は、

  1. 人手不足など仕事の都合上難しいから:32%
  2. 緊急時に取っておくため:31%
  3. 忙しすぎて、休暇の計画を立てたり、行く暇がなかったため:20%

となっています。*1

みなさん共感するところはあるでしょうか。

しかし興味深いことに、日本で働く人は調査対象地域の中で、最も「休み不足を感じていない」のです。

(出所:エクスペディア「エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表」)
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2024/

しかも、「毎月有給休暇を取得している」人の割合も、「直近の休暇でリフレッシュできた」と回答している人の割合も日本がトップです。*1
一体どういうことでしょうか。

エクスペディアはその理由を、「休暇を定期的に短期間取ることで、休み不足を感じていないのかもしれない」と推測しています。*2

しかし筆者としてはちょっと首をひねってしまいます。

定期的な短期間の休暇というのは、心身にとってはせいぜい日頃のダメージを回復させる程度の効果しかないのではないかということです。あるいは家族の都合(子育てや介護など)で休まざるを得ない、ということであればそれは完全な休暇とは言いづらいのではないでしょうか。

理由を問わない長期の「サバティカル休暇」とは

一方でリスキリングなどを迫られ常に「追われている」のが現代の働き方になってしまっています。
そこで、取得理由を問わない長期休暇(サバティカル休暇)を設定する動きが広がりつつあります。

サバティカル(sabbatical)は、旧約聖書に登場する「安息日」の意味のラテン語に由来します。サバティカル休暇は1880年にアメリカのハーバード大学で始まった研究のための有給休暇が起源とされ、1990年代に離職対策としてヨーロッパ諸国で広まったといわれています。*3

現在、欧米諸国では以下のようなサバティカル休暇の事例があります。

(出所:SOMPOインスティチュート・プラス「「働き方」の変化が促す「休み方」の多様化~取得理由を問わない長期休暇(サバティカル休暇)の現代的意義~」
https://www.sompo-ri.co.jp/2023/08/31/9118/

最長1年程度の休暇取得が可能になっているほか、スウェーデンやベルギーでは休暇中の賃金の一部を公的負担してくれるという制度になっています。無給という国でも何らかの形で積み立てなどが可能になっており、計画的に考えて半年や1年休むことが可能になっているのです。

こうした長期休暇は「キャリアブレイク」という考え方に基づいています。*4

半年間休学して旅をしてみたら

余談ですが、筆者も学生時代に、半年間の休学届を出して旅に出たことがあります。留年が決まった時に「卒業するのに1年はいらない、半分で残りの単位を取れるし、面白い体験は就職で役に立つはず」という若干腹黒い考えですが、当時自転車を趣味にしていたので自転車で日本一周をするという過ごし方をしてみました。

結果、貴重な体験だけでなくさらに多くのものを手に入れたと思っています。

自分は47都道府県を回ったというちょっとした自慢もそうですが、いろんな地域のいろんな事情を知り、いろんな価値観で生きている人に出会いました。
もっと言えば「留年は就職に不利」と考えてしまっていましたが決してそんなことはなく、なんならもう1年くらい留年してゆっくり旅すればよかったと思っているくらいです。怖いものが減った気がします。

日本企業での導入事例

余談はさておき、サバティカル休暇を導入する日本企業も出ています。*4

丸井グループは趣味の探求やキャリアの見つめ直しの機会として活用できる6か月(留学など自己啓発の場合は2年6か月まで)の「ステップアップ休暇」を導入しています。

またデジタルマーケティング支援会社のトライバルメディアハウスは一定期間勤続した社員に有休とは別に約1か月の休暇の権利を付与する制度を導入しています。制度の名前も「浮世離れ休暇」とユニークなものです。申請しやすそうな名前です。

他には、このような導入事例があります。

(出所:SOMPOインスティチュート・プラス「「働き方」の変化が促す「休み方」の多様化~取得理由を問わない長期休暇(サバティカル休暇)の現代的意義~」
https://www.sompo-ri.co.jp/2023/08/31/9118/

条件はさまざまですが、有給休暇を退職後に消化するのではなく、欲しい時に長期間取れる休暇は「会社都合で取らされる休暇」とは意味合いが異なります。

組織の質が問われる

さて、サバティカル休暇を設定できる企業には、ひとつの条件があると筆者は考えます。

それは「属人的業務に頼りきっていない」ということです。

ひとりが休んでしまったら代理がきかない、緊急時に困る…
そのようなあり方は、組織の硬直化を招きます。人はいつ怪我や病気をするかわかりません。ではひとりがいなくなったら回らなくなるというのは、組織にとっては非常に大きな脆弱性であるということです。
もっと言えば、その人にとっても特定のスキルしか身につかないという弊害が生まれます。

変化に富む時代に必要なのは組織の柔軟性です。

DeNA会長の南場智子氏の言葉で、筆者が非常に気に入っているものがあります。

毎週、私自ら何人かの社員に「雑談しない?」とSlackでメッセージを送り、時間を合わせて1対1で近況や将来について雑談をします。そして様子を見て、「そろそろ起業しない?」と持ちかけます。
(中略)
まさに大活躍中の人材をそそのかすので、既存事業部に短期的には恨まれることもあります(笑)。でも大黒柱を意図的に抜くのは創業期からずっとやってきたことで、後悔したことがありません。必ず次のリーダーが生まれ、組織のみずみずしい動的平衡につながります。*5

何があってもすぐに立て直すことができる組織かどうか。

それが、企業の真の強さを試す尺度になるでしょう。

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。
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参考資料

*1
エクスペディア「エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表」
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2024/

*2
日本経済新聞「日本の有休取得率、世界最低の63% エクスペディア調査」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC203OG0Q4A620C2000000/

*3
SOMPOインスティチュート・プラス「「働き方」の変化が促す「休み方」の多様化~取得理由を問わない長期休暇(サバティカル休暇)の現代的意義~」
https://www.sompo-ri.co.jp/2023/08/31/9118/

*4
日本経済新聞「趣味のため休職もOK「キャリアブレイク」広がる 企業も歓迎」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD228BZ0S5A820C2000000/

*5
日経ビジネス「組織の大黒柱はあえて引っこ抜き、起業を後押ししよう」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00343/090100004/


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そしきLab編集部

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