
病気ではないものの、心身が健康とはいえない状態を「未病」といいます。言い換えると、未病とは健康と病気の間にある「グレーゾーン」であり、放置すれば悪化するおそれがある一方で、早めに対処すれば回復も見込める状態といえます*1,2。
こうした不調は個人の問題にとどまらず、組織においては生産性や離職率にも影響するものです。実際、未病の状態が続くと作業効率が低下し、プレゼンティーイズム(出勤しているにもかかわらず十分に力を発揮できていない状態)につながることもあります*3。
図:パフォーマンス低下度による損失額算定評価【仕事の量と質を掛け合わせる方法】
(従業員1人あたりのパフォーマンス低下による損失額(3か月間・症状別))

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf
他方、経済産業省の調査では、オフィス環境の整備がプレゼンティーイズムやアブセンティーズム(健康問題による欠勤)の抑制につながることが示されています*4。
すなわち、空間設計や設備などの工夫で、働く人のコンディションを支えることが可能になるのです。
そこでこの記事では、オフィス空間に潜む未病リスクの具体例を挙げながら、職場を「単なる作業空間」から「従業員の健康を支える快適な空間」へと進化させるための視点と工夫を紹介します。
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※AIで作成しているため、読み上げ内容に一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
オフィス空間と未病|コンディションを整え生産性を高める空間設計
オフィスの空気環境は、従業員の体調と密接に関係しています。例えば、換気が不十分な空間では二酸化炭素濃度が上昇し、頭痛や倦怠感、集中力の低下などを引き起こすことがあります。
こうしたリスクを避けるためには、二酸化炭素濃度を測定・管理するだけではなく、空気の流れや部屋ごとの在室人数にまでこだわったオフィス設計が求められます*5。
また、冬季は湿度が低下しやすく、肌荒れや目の乾き、のどの不快感などを訴える人も少なくありません。
これらの不調は、適切な温度設定や風向きの調整、調湿機能付空調設備の導入、加湿器の併用などで緩和できます*6。
パソコン本体など放熱する機器類の配置を見直すことで、温度の上昇や空気の乾燥を防ぐ工夫も有効です。
照明もまた、見過ごしてはいけない要素の一つです。強すぎる光や蛍光灯のちらつきなどは眼精疲労や頭痛の原因となり、作業効率を下げる要因になります。
室内の照度は窓の大きさや時間帯によって変化することもあるため、室内全体の照明の配置を工夫し、机上で使用する個別照明については調光機能のあるものを選ぶとよいでしょう。パーティション等を設置する場合は、照明や自然光を遮らない高さや配置にするなどの配慮も必要です*7。
さらに、音環境も従業員の精神的ストレスに直結する要素です。騒音や残響が多い空間では集中力が妨げられ、イライラや疲労感が蓄積されやすくなります。逆に、静かすぎる空間では会話がしづらく、かえって緊張や気まずさを感じることもあります。
このような音によるストレスを軽減するには、吸音材の設置や業務内容に応じたゾーニング、サウンドマスキング技術の導入などが有効です*8,9。
音の「質」と「量」が適切にコントロールされれば職場の快適性が高まり、生産性の向上にもつながるでしょう。
表:オフィス環境と健康|要因別改善策(例)
| 環境要因 | 健康への影響 | 改善策(設備・設計例など) |
|---|---|---|
| 空気 (換気) | 頭痛、倦怠感、集中力低下など | CO2センサーによるモニタリング・2方向に窓を設置・サーキュレーターによる換気・在室人数の制限など |
| 空気 (湿度) | 肌荒れ、目の乾き、喉の不快感など | 調湿機能付空調の導入・放熱機器の配置の見直し・観葉植物による調湿など |
| 照明 | 眼精疲労、頭痛など | 調光可能なLED照明の導入・自然光を活かす窓配置やブラインド設計・個別照明の設置・パーティションの高さや配置の工夫など |
| 音 | イラつき、疲労感など | 吸音材の導入・静音ゾーンの設置や業務内容に応じたゾーニング・サウンドマスキングシステムの活用・会議室等の残響対策など |
身体的ストレスと未病|疲労の蓄積を防ぎ集中力を高める作業環境
オフィスの空間設計だけでなく、日々の業務そのものがもたらす身体的な負荷も、未病リスクを高める要因となります。
実際、長時間の座位や不自然な姿勢、目の酷使などが続くと、肩こりや腰痛、眼精疲労といった不調があらわれやすくなります。日本人の平均座位時間は世界最長ともいわれており、座りすぎが健康リスクを高めることも指摘されています*10。
こうした身体的ストレスを軽減するには、オフィス内の動線設計や什器の選定に配慮が必要です。
例えば、スタンディングデスクを導入して座位時間を短くする・パーティションの配置を見直してあえて動線を長くする、といった取り組みは、比較的容易にできる環境改善といえるでしょう。階段の利用を促すために、踊り場や壁面にイラストや広報を掲示するなど、思わず階段を使いたくなる仕掛けも有用です。
こうした取り組みは、職場全体の雰囲気を明るくし、従業員の健康意識の向上にもつながります。
また、長時間のパソコン作業による眼精疲労や肩こりなども、作業環境の見直しによって改善が期待できます。モニターの高さや角度の調整、画面の輝度やコントラストの最適化、机上の照度の見直し、十分な作業スペースの確保など、意外と簡単なことで身体的負担を軽減することができます。
厚生労働省のガイドラインでも、情報機器作業における労働衛生管理の重要性が強調されており、テレワーク環境においても同様の配慮が求められています*11。
これらの取り組みで身体的ストレスが軽減されると、業務に集中しやすくなって作業効率が高まり、仕事への満足度も向上すると考えられます。
表:オフィス環境における身体的ストレス|要因別改善策(例)
| おもな要因 | 健康への影響 | 改善策(設備・設計例など) |
|---|---|---|
| 長時間の座位や動きの少ない環境 | 血流障害、肩こり、腰痛、倦怠感など | スタンディングデスクの導入・パーティション配置の見直し・フロアごとの機能分け(例:1F会議フロア・2F休憩フロア・3F作業フロア、など)・階段の利用を促す仕掛けなど |
| 不自然な姿勢や姿勢の固定 | 腰痛、首のこりなど | 椅子や机の高さの調整・作業姿勢に配慮した什器の選定・定期的なストレッチの推奨など |
| 長時間のパソコン作業や目の酷使 | 眼精疲労、肩こり、頭痛、集中力の低下など | 眼精疲労、肩こり、頭痛、集中力の低下など モニターの高さや角度の調整・画面の輝度やコントラストの最適化・机上照度の見直し・作業台の広さ確保と機器の適正配置など |
快適なオフィス空間づくりが従業員の健康を支える
従業員の健康は、組織全体のいわば「財産」です。そして、オフィスの移転や改装は、従業員の健康に投資する絶好のチャンスであると同時に、思いやりを表現する場面でもあります。
経営者が積極的に未病対策に取り組むことで、オフィス空間は単なる作業空間から従業員の健康を支える快適空間へと進化するでしょう。空気、光、音、姿勢、動線などそれぞれの要素に配慮することで働く人の体調が整い、生産性や満足度の向上にもつながります。
企業の持続可能性を高めるためにも、これからのオフィスづくりは「働きやすさ」だけでなく、「不調になりにくい空間」という観点から見直すことが必要でしょう。
この記事を書いた人

中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

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【関連記事】
参考資料
*1
出所)日本未病学会「未病とは」
https://www.j-mibyou.or.jp/mibyotowa.htm
*2
出所)厚生労働省「政策について>審議会・研究会等>老健局が実施する検討会等>一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会>第8回一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会(ペーパーレス)資料>参考資料2>未病指標について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08126.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000572154.pdf P.2図3
*3
出所)経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」p.28
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf 図23
*4
出所)経済産業省「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業 健康経営に貢献するオフィス環境の調査事業 健康経営オフィスレポート」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf P.7
*5
出所)厚生労働省「商業施設等の管理権原者の皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf
*6
出所)独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所「刊行物・報告書等>安衛研ニュース>安衛研ニュースNo. 75 (2014-12-05)>冬季のオフィス環境における低湿度の実態と対策について」
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2014/75-column-2.html
*7
出所)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000905329.pdf P.2
*8
出所)DAIKEN「建材製品情報> 防音建材・音響製品> SOUND DESIGN for PUBLIC>施設における防音(遮音・吸音)対策の考え方」
https://www.daiken.jp/buildingmaterials/sound/public/topics04.html
*9
出所)パナソニック「電気・建築設備>パナソニックの空間ソリューション>ワークプレイス向けソリューション>環境音ソリューション」
https://www2.panasonic.biz/jp/solution/office/genre/environmentalsounds/
*10
出所)スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE>数字で見るスポーツの価値>「日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは…」
https://sports.go.jp/special/value-sports/7.html
*11
出所)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf P.3-4
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