LINEヤフーが「原則週3出社」へ なぜ先に赤坂で1万6000坪を借りたのか?受け皿から始める出社回帰で予想されること

LINEヤフー 赤坂オフィスの来客ラウンジ(出典:LINEヤフー 採用情報「働く環境」)
LINEヤフー 赤坂オフィスの来客ラウンジ(出典:LINEヤフー 採用情報「働く環境」)

LINEヤフーが出社を「原則週3回」に引き上げる。4月1日、同社はこの方針と同時に、新しい事業拠点「赤坂オフィス」の開設を発表した。場所は赤坂トラストタワーで、東京メトロの溜池山王駅と国会議事堂前駅に直結する。全フロアのオープンは5月11日だ。

旧ヤフーは2020年9月、採用アカウントで「この先コロナが終息しても、ずっとリモートワーク」と投稿した会社である。その会社が、5年半後に週3回の出社へ戻る。同じ年には、GMOインターネットグループが在宅勤務を完全に廃止した。

出社に戻す会社は増えている。戻すときに何を先に用意するのか。LINEヤフーが踏んだ順番をたどっていく。

6年で4回書き換わった働き方の約束

旧ヤフーは、「どこでもオフィス」の回数制限を2020年10月に撤廃した。それまでは月5回が上限だった。当時の社内調査では95%が在宅で働き、92.6%が「パフォーマンスに影響なし、または向上」と答えていた。

2022年4月には居住地の制限をなくし、飛行機や特急での通勤も認めた。同じ年の8月には130名以上が飛行機・新幹線の通勤圏へ転居していた。

この制度は採用の武器でもあった。全国居住を認めた年、中途採用の応募者数は前年比1.6倍になり、首都圏外からの応募は6月には35%を占めた。

統合相手の旧LINEも、2021年に出社前提の就業規則を変え、部署ごとに在宅のみ、あるいは月末や定例時のみ出社といった運用にしていた。

2024年12月の改定で同社が挙げた理由は、「さらに新しいプロダクトを生み出すためには、コミュニケーションの質を強化することが必要」だった。リモートワークの良さは残し、対面の良さを今まで以上に取り入れる、と続く。週1回の次は全員毎日ではなく、週3回である。

社内告知・床の確保・社外発表の順番

赤坂オフィスの執務エリア(出典:LINEヤフー 採用情報「働く環境」)
赤坂オフィスの執務エリア(出典:LINEヤフー 採用情報「働く環境」)

LINEヤフーは、週3回を社外に発表するおよそ1年前に、オフィスの契約を済ませていた。

同社の人事総務部門の坂口卓氏は、Business Insider Japanの取材にこう答えている。「2024年12月に、週3出社に向けて出社頻度を上げていくという社内アナウンスがありました。LINEもヤフーも、コロナ禍でオフィススペースをかなり縮小していたので、週3出社に耐えられるオフィススペースを改めて確保する必要がある」。

同じ月、OpenWorkには「2026年からのRTOルールについて」という社員への質問が立っている。社内では、次の段階が週3回であることが、この時点で告知されていた。

床の量も、週3回に合わせてある。日本経済新聞によれば、赤坂オフィスは約5万㎡で、都内の主要拠点の床面積は約2倍になる。日本経済新聞は、その狙いを「対面でのコミュニケーションを重視し、人工知能(AI)の普及・進化がもたらす働き方や事業構造の変革へ素早く対応できるようにする」と書いている。

出澤剛社長は、今年を「既存のものを自ら壊して新しいものをつくり、No.1を目指すフェーズ」と位置づけ、「スピードこそが競争力」と語っている。

GMOの場合は、代表のX投稿で廃止が世に出て、7日後に表現を謝罪した。方針の中身の是非は別として、発表までの手順は2社で違っている。

赤坂オフィスはどんな造りか

東京ワールドゲート赤坂の位置と駅からのアクセス(出典:森トラスト)
東京ワールドゲート赤坂の位置と駅からのアクセス(出典:森トラスト)

赤坂トラストタワーが建つ「東京ワールドゲート赤坂」は、森トラストが開発した複合街区で、官庁街と赤坂の飲食街に挟まれた場所にオフィス・ホテル・商業と約5,000㎡の庭園がある。街区については、連載の伊藤忠商事の仮移転の記事で書いた。2026年8月からは伊藤忠商事の東京本社も同じビルに入る。

赤坂オフィスの規模と使い方は次のとおりである。

執務フロアの中身は、公式リリースが名前つきで説明している。

コンセプトは「Stay Closer, Go Further」で、コーポレートロゴと同じ言葉を使っている。ロゴの「62度」の角度をサインや空間の細部に反映させたという。

作り方も公開されている。各組織の代表者による分科会とワークショップを3回開き、LINEの「シンプルなレイアウト」とヤフーの「自由な選択肢」を混ぜたという。出澤社長からの注文は、「イケてるオフィスにしてほしい」の一言だったそうだ。

食事は、13階と21階のダイニングで朝食のおにぎりと野菜たっぷりの汁物が無料で、夕食のビュッフェもある。一部メニューの注文はLINEミニアプリで済む。1食は500〜1,000円ほどだ。

デザイン側の佐藤晋平氏は、Business Insider Japanにこう話している。「ホテルに泊まることと、家で寝ること。寝るという行為は同じでも、体験としては全然違う」。在宅でもできる仕事をわざわざ来てやる理由を、体験の側で作ろうとしている。

社員は「約束が違う」と受け取ったのか

執務席までの動線上に置いたラウンジ「CONNECT STREET」(出典:LINEヤフー)
執務席までの動線上に置いたラウンジ「CONNECT STREET」(出典:LINEヤフー)

発表直後のXでは、2020年9月の投稿が掘り起こされた。「今日はオフラインの世界最後の日。明日からヤフーは仕事環境をオンラインに引っ越します。この先コロナが終息しても、ずっとリモートワーク」。まとめサイトには、採用への影響を心配する声や「言っていたことと違う」という声が並ぶ。

OpenWorkの質問には、在籍20年以上の社員が「原則、現在の居住地に関係なく、業務の拠点となるオフィスへの出社が必須」と答えていた。東洋経済は、沖縄や北海道へ移った社員には週1回でも長距離の通勤になると指摘した。

人事コンサルタントの曽和利光氏は、この判断を「共創」と「育成」を取りにいく強い経営意思と評したうえで、「採用ブランドや心理的契約という『見えにくい資産』に影響を及ぼし得る、繊細な経営判断」と書いている。私の見方もこれに近い。

一方で、制度を畳んでも、手当と交通費は残している。

月15万円の交通費上限は、2022年に全国居住を認めたときの数字と同じである。飛行機通勤圏に転居した社員が週3回通えるかどうかは別問題だが、遠くに住んだ人を切る形にはしていない。

曽和氏は別の論考で、経営と人事が働く場所を決めるための8つの判断基準を挙げている。「暗黙知と観察学習はどの程度必要か」「社員の負担は誰に集中するか」「制度を実験として扱えるか」。週1回から週3回へという刻み方は、この最後の基準に近い。

オフィスの相談を受ける側から言うと、「出社回帰にしたいが、どう舵を切ればいいか」という相談はまず来ない。出社を増やすかどうかは、経営トップが決めることが圧倒的に多いからだ。GMOもそうだった。

来るのは、その先の相談である。コロナ禍にライトサイジング(出社率に合わせた面積の最適化)で床を縮めたが、出社を戻すと床が足りないので移転を検討したい、という相談だ。坂口氏の言葉は、この順番そのものである。

会議室を増やさずに予約が減った

赤坂トラストタワーのエントランス(出典:森トラスト)
赤坂トラストタワーのエントランス(出典:森トラスト)

出社を増やした会社が最初にぶつかるのは、会議室である。ザイマックス不動産総合研究所の大都市圏オフィス需要調査2025秋では、メインオフィスの課題のトップが「会議室やリモート会議用スペースなどが不足している」で、57.7%にのぼる。

LINEヤフーは、会議室を増やさなかった。HOWHEREの取材によれば、執務エリアの中央に置いた可動式の「CONNECT HUB」は50〜60人規模の朝会にも対応する。そしてCONNECT STREETやオープンスペースを使った立ち話やチームミーティングが自然に増え、会議室の予約数が目に見えて減ったという。

動線上のラウンジ「CONNECT STREET」は、フロアごとに4種類のデザインで展開し、初日から棚やベンチが使われ始めた。佐藤氏はそれを見て「なんて頼もしい社員なのだ」と思ったと話している。

社員の反応について佐藤氏は、「Slackでやり取りして1時間かかる話が、顔を合わせれば5秒で終わる」といった経験があるから、出社が実用として受け止められていると説明する。

前の記事でも書いたが、私はセミナーで、いまのオフィスは最も集中しづらい場所になっている、と話している。赤坂オフィスは、動線に会話を集めた分、囲われたSTUDY ROOMを別に用意した。話す場所と黙る場所を分ける造りは、当社がお客様に提案している形と同じである。

2020年9月30日と2026年5月11日

「ずっとリモートワーク」の投稿から、全フロアのオープンまで、5年7か月である。

市場の側は、この間ずっと逆風だった。東京のオフィス空室率は、今年の第1四半期でオールグレード1.5%である。CBREによれば、東京の賃料は同じ四半期に全てのグレードで上昇が加速し、グレードAとグレードAマイナスはともに四半期ベースで過去2番目に高い上昇率となり、第2四半期についても需要は旺盛だが受け皿となる空室が不足していると書いている。

賃料が上がり続ける市場で、LINEヤフーは2025年春にこの面積を押さえた。1年待っていたら、同じ条件の床は取れなかった可能性が高い。

まとめ

打ち合わせスペース「CONNECT HUB」(出典:LINEヤフー)
打ち合わせスペース「CONNECT HUB」(出典:LINEヤフー)

LINEヤフーの週3出社は、2020年の「ずっとリモートワーク」から見れば方針の転換である。ただし一気には戻していない。週1回の期間を挟み、床を先に確保し、社内に前もって告知してから、社外に発表した。

出社を増やすと決めた会社にまず起きるのは、席と会議室の不足である。LINEヤフーは会議室を増やさず、予約のいらない場所と無料の朝食で来る理由を作った。人を戻す判断と同じ重さで、戻った人が何をする場所なのかを先に決めておきたい。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参照

来客エリア「RECEPTION」(出典:LINEヤフー)
来客エリア「RECEPTION」(出典:LINEヤフー)

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