KDDI・神戸製鋼・TOPPANが「高輪ゲートウェイシティ」へ本社を移す なぜ「実験場」に集まるのか?入居10社の顔ぶれで読む街の性格と予想される効果は?

高輪ゲートウェイシティ全景イメージ(出典:JR東日本)
高輪ゲートウェイシティ全景イメージ(出典:JR東日本)

高輪ゲートウェイシティが、この3月に全面開業した。先に開いていたTHE LINKPILLAR 1にはKDDI・Umios・TOPPANが入り、この春に開いたTHE LINKPILLAR 2には神戸製鋼所が6月末に東京本社を移している。

JR東日本はこの街を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と呼ぶ。通信、金融、食品、印刷、建設AI、素材、生活用品、コンサルティング、SIの10社が、ここに本社を置くと決めた。

本社を1か所にまとめたい会社が、なぜ実験場と名乗る街を選ぶのか。各社がリリースに書いた移転理由を突き合わせて読んでいく。前稿「神戸製鋼所が「高輪ゲートウェイシティ THE LINKPILLAR 2」へ本社移転」の続編である。

高輪ゲートウェイシティ まちびらきから1年で全面開業

2026年3月28日 グランドオープンの様子(出典:JR東日本)
2026年3月28日 グランドオープンの様子(出典:JR東日本)

品川車両基地の跡地に、JR東日本が街を1つ作った。敷地は約9.5ha、南北に約1.3km続く。

街は4つの街区でできている。ツインタワーのTHE LINKPILLAR 1、泉岳寺駅側のTHE LINKPILLAR 2、文化施設MoN Takanawa、そして住宅棟だ。

高輪ゲートウェイ駅の乗車人員は2024年度で14,209人にとどまり、山手線で最も少ない。JR東日本は完成時に13万人を見込んでいる。

各社のリリースが挙げる所要時間は次のとおりだ。

なお、JR東日本自身の本社は代々木(新宿駅新南口)にあり、高輪への移転は2026年9月時点で公表が確認できない。

入居企業リスト 棟ごとに顔ぶれが違う

高輪ゲートウェイシティ 本社移転10社(各社の公式リリース・報道をもとに筆者作成)
高輪ゲートウェイシティ 本社移転10社(各社の公式リリース・報道をもとに筆者作成)

本社移転を公表した企業は、神戸製鋼所を含めて公表ベースで10社である。棟ごとの顔ぶれは図のとおり。各社の出典は末尾の参照に挙げた。

NORTHはKDDIとそのグループの棟で、SOUTHには食品・印刷・建設AIの会社に加えて、東京大学とスタートアップ拠点とホテルが同居する。LINKPILLAR 2に入る5社のうち3社は、拠点や関係会社を1か所にまとめる移転だ。

3つの棟はどう使われているか

KDDI新本社の共創拠点「TSUNAGU BASE」(出典:ATOMica)
KDDI新本社の共創拠点「TSUNAGU BASE」(出典:ATOMica)

NORTH KDDIの本社

地上29階のNORTHを、KDDIは本社として使う。2025年4月末に入居を始め、7月1日にグランドオープンした。コンセプトは「つなぐチカラを進化させ、ワクワクする未来を発信し続けるConnectable City」である。

KDDIは入居企業であると同時に、街の運営にも関わっている。2023年5月にJR東日本と共創を発表し、街の設備と人のデータを集める基盤「都市OS」を共同で作ってきた。その上で動くのは、来街者向けのアプリ、運営者向けのデータダッシュボード、配送・清掃・警備のロボットである。

SOUTH 大学・スタートアップ・大企業

地上30階のSOUTHは、上層にJWマリオット、中層にオフィス、9階に大学とスタートアップ拠点が入る。

9階の東京大学 GATEWAY Campusは、JR東日本と東京大学が結んだ100年間の産学協創協定の拠点で、テーマは「プラネタリーヘルス」、広さは約300坪である。開設は2025年10月だ。協定の資料には、オフィスワーカー向けの食堂で培養肉などの東大発の食材を試せる機会を作るとある。

TOPPANの高輪オフィスは、入居から5か月後の2026年9月に第39回日経ニューオフィス賞のニューオフィス推進賞の受賞が発表された。部門をまたぐ会話を起こすエリアと、ロボット配送を組み合わせた造りである。

LINKPILLAR 2 本社を集める会社

泉岳寺駅側のLINKPILLAR 2は、街で最も高い地上31階の棟だ。基準階は約1,104坪で柱がなく、天井高は2,900mmある。

神戸製鋼所は関係会社を含む21社を5フロアに入れ、コムチュアは5か所を3フロアにまとめる。日本システム技術は移転と同時に社長室を廃止し、執行役員のエリアにも間仕切りを置かず、Web会議ブースを大きく増やした。

各社は移転理由に何を書いたか

TOPPAN高輪オフィスのロボット配送(出典:TOPPANホールディングス)
TOPPAN高輪オフィスのロボット配送(出典:TOPPANホールディングス)

10社の公式リリースから移転理由を抜き出すと、3つに分かれる。

JR東日本の街のコンセプトを引用した4社

共創を理由に挙げた4社

採用・人材・組織の課題を理由に挙げた3社

街のコンセプトと共創を挙げた会社はSOUTHとNORTHに多く、採用や組織の課題を挙げた会社はLINKPILLAR 2に多い。ただし1社の中でも混じる。クラシエは街のコンセプトを引きながら本文の中心は「グループの綜合力」で、日本システム技術は街のコンセプトと採用とBCPを1本のリリースに並べている。

本社をまとめたい会社が、なぜ実験場を選べるのか。私は、実験の主体が街の側にあるからだと考える。都市OSと人流データはJR東日本とKDDIが、食と健康の研究は東京大学が担い、水素エネルギーもJR東日本のグループ経営ビジョンに入っている。入居する会社は、自分で実験装置を持ち込まなくてよい。

だから神戸製鋼所は人材と3駅徒歩圏で決め、コムチュアは5か所の統合で決められる。柱のない広い基準階と羽田まで約15分の立地は、本社機能を集めるのに向いた条件でもある。

移転支援の現場で見えること

THE LINKPILLAR 2 外観イメージ(出典:日立コンサルティング/画像提供:JR東日本)
THE LINKPILLAR 2 外観イメージ(出典:日立コンサルティング/画像提供:JR東日本)

本社をまとめて移す相談で、最初に出てくるのは席の配置の話ではない。何から検討すればいいのか分からない、という話である。

望む立地に、望む広さの物件がそもそもあるのか。あったとして、移転までにどれくらいの期間がかかり、費用は全部でいくらになるのか。拠点をまとめるほど規模は大きくなり、ここが想像できないところから始まる会社が多い。

巻き込む部署も増える。オフィスの移転は担当者が仕事人生で一度経験するかどうかの出来事で、チームの全員が初めてという状況も珍しくない。取りまとめ役の総務部や管理部の方は、どう進めればいいのかという不安を抱えている。

移転と同時にフリーアドレスにした会社では、社員の反応がはっきり分かれる。「なかなかいい」という人もいれば、「自分の席がないと落ち着かない」という人もいる。

それでも移転の後、お客様から「意外といいという声が多くて安心した」と聞くことが多い。社員が本当に使いこなしてくれるかは、目で見るまで不安だったという。

一方で、結局いつも同じ席に座る人も早々に出てくる。そこは運用の中で改善していきたい、という会社が多い。神戸製鋼所のABWと完全フリーアドレスも、手がかかるのは移転の日よりその後の運用だろう。

2020年3月から2028年度まで

日本システム技術 新オフィスの少人数WEB会議ブース(出典:日本システム技術)
日本システム技術 新オフィスの少人数WEB会議ブース(出典:日本システム技術)
  • 2020年3月14日 : 高輪ゲートウェイ駅が暫定開業
  • 2020年12月 : JR東日本とKDDIが基本合意書を締結。2023年5月に共創を発表
  • 2023年 : JR東日本と東京大学が100年間の産学協創協定
  • 2025年3月27日 : まちびらき。7月1日にKDDI新本社グランドオープン、10月21日に東京大学 GATEWAY Campus開設
  • 2026年2〜4月 : Umios移転(2月)、全面開業(3月28日)、TOPPAN・KK Generation(3〜4月)
  • 2026年6〜7月 : 神戸製鋼所(6月末)、日本システム技術(7月21日)
  • 2027〜2028年度 : クラシエ(2027年6月)、日立コンサルティング(2027年11月)、コムチュア(2028年度中)
  • 床が足りない市場での動きである。三鬼商事の2026年8月時点の調査では次のとおり。
  • 東京ビジネス地区(都心5区)の平均空室率 : 1.87%(前月比0.08ポイント低下)
  • 平均賃料 : 坪23,647円。1年前の21,027円から12%上がった
  • 港区 : 空室率2.07%、賃料23,849円

空室が2%を切り、賃料が1年で1割以上上がる市場で、5社が先々の床をこの棟に決めた。

まとめ

KDDI新本社のオフィス内で稼働するロボットのイメージ(出典:KDDI)
KDDI新本社のオフィス内で稼働するロボットのイメージ(出典:KDDI)

高輪ゲートウェイシティに集まった10社は、業種で見るとばらばらだが、棟で見ると分かれる。NORTHはKDDIが1社で使い、SOUTHは大学とスタートアップと大企業が混ざり、LINKPILLAR 2には本社を集約する会社が並ぶ。

移転先を説明する言葉は、JR東日本が先に用意していた。4社はそれをそのまま自社のリリースに書き、集約や採用という自社の理由を持つ会社も、その言葉に矛盾なく乗れた。実験は街が引き受け、会社は自分の宿題を片づける。前稿で神戸製鋼所について書いた見方は、10社に広げても変わらなかった。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参照

街・駅(JR東日本)

建物

入居企業

市況データ

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