理系女子学生の就職ニーズ拡大 職場改善はどう進んでいる?

女性にまつわる流行語の一つとして「リケジョ」という言葉が登場してから、すでに10年以上が経ちました。
当初、「リケジョ」という言葉には、理系分野で学ぶことや活躍することを、女性であるというだけで特別視するというニュアンスもありました。
しかし、「リケジョ」は一時的なブームに終わらず、理系分野を選択する女子学生は着実に増えつつあります。

一方で、理系企業では依然として男性が大半を占める職場も多く、いわゆる「男社会」の側面が残っているのも現状です。
理系女性への期待が高まる一方で、働く環境の整備や社員の意識醸成が追いついていないというアンバランスな状況にある企業も珍しくありません。

こうしたギャップを埋めるため、女性が働きやすく、長く活躍できる職場づくりに向けた取り組みが進められています。

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「リケジョ」ブームのその後 理系女性の現在地 

女子学生の理系選択者はゆるやかに増加傾向

2010年代に広まった「リケジョ」という言葉は、当時、女性技術者や研究者が珍しい存在として注目されたことを象徴する言葉ともいえます。

しかし現在では、理系分野を選択する女子学生は少しずつ増えており、技術者や研究者として活躍する女性が今後ますます増えていくことも予想されます。

文部科学省が実施した学校基本調査によると、理工系学部を選択する女子学生の割合は近年少しずつ増加しています(図1)。*1

図1:大学(学部)の理工系に占める女性の割合
出所)文部科学省「女子中高生の理工系分野への進路選択促進等の文部科学省の取組について」p.15
https://www.scj.go.jp/ja/event/pdf4/392-s-0221-s14.pdf

とくに工学部に関しては、2008年では女子の割合が10.8%であったのに対し、2025年は17.9%となり、約1.7倍も増加しています。

次世代の社会を担う理系女性への期待

経済産業省の推計では、2040年にはAI・デジタル分野をはじめとする高度な専門人材が大幅に不足するとされており、理系人材についても約120万人規模の不足が見込まれています。*2
大卒・院卒の理系人材は東京圏を含むすべての地域で不足する見込みで、工業高校や高等専門学校卒の技術人材の不足も顕著です(図2)。*2

図2:地域別ミスマッチの学歴内訳
出所)経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)について」p.6
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_s02_00.pdf

そのため、今後は性別にかかわらず、理系人材の活躍の場はより広がっていくことが予想されます。

一方で、理系の女子学生への需要が高まっているのは、単なる人材不足の解消だけが目的ではありません。
企業の国際競争力の向上や新たな価値創出を目指し、多くの企業が女性理系人材の採用・育成に意欲を見せています。

経団連が2023年に実施した調査によると、今後5年先を見据えた理工系女性の採用について、63.9%の企業が「拡大する方向」と回答しています。
その理由としては、「イノベーションを創出するうえで多様性が必要なため」(89.7%)や「事業を進めるうえで多様性が必要なため」(87.2%)、「女性の管理職・役員登用を進めるため」(82.1%)などが挙げられており、女性理系人材を組織の多様性や技術革新につながる存在として捉える企業が増えてることが窺えます。*3

理系女性のキャリアを応援する取り組み

女性が技術者や研究者として長く活躍するために、企業はどのような取り組みを進めているのでしょうか。

ものづくり産業がさかんな愛知県では、「女性が元気に働き続けられる愛知」の実現を目指し、企業や自治体が女性の活躍促進に向けたさまざまな取り組みをおこなっています
リモートワークの推進や柔軟な勤務時間の設定、メンター制度や相談窓口の設置など、女性が働き続けやすい環境整備が進められています。*4
さらに、こうした企業の取り組みを後押しするため、「女性の活躍促進宣言」や「あいち女性輝きカンパニー認証制度」などの制度を通じて、女性活躍に積極的に取り組む企業を支援しています。*4

また、技術系社員が多く在籍する大手製造業でも、女性が技術者や研究者として長く働き続けられるように、採用段階からキャリア形成までを一貫して支える取り組みが広がっています。
三菱重工業が2025年に公開した技術系職種を志望する女性向けの採用パンフレットでは、人材育成の体制やキャリア形成支援の概要、仕事と家庭の両立を支える多様な支援制度などを紹介しています。
採用プロセスや制度概要の紹介に加え、女性技術者の仕事に対する思いや、1日のスケジュールなども掲載されています。*5
就職活動の段階から、入社後の働き方やキャリアを具体的にイメージできるようサポートする取り組みです。

自動車メーカーのSUBARUでも、女性活躍の一環として、理系女子学生向けの説明会や女性リクルーターによるフォロー、女性社員との交流機会の提供などをおこなっています。
また、2015年以降の新卒採用では、技術系職種における女性比率10%を目標に掲げています。
入社後も、若手女性従業員を対象としたキャリア研修や女性リーダー研修などを実施し、一人ひとりが自身のキャリアを描きながら、長く活躍できる職場環境の整備に取り組んでいます。*6

このように、技術系・事務系などの職種を問わず、女性活躍推進は幅広い分野で進んでおり、その一環として、技術職や研究職で働く理系女性のキャリア形成を支える環境づくりも広がっています。

制度だけではない「理系女性の働きやすさ」を支えるものとは

これまで紹介してきたように、女性技術者・研究者のキャリア形成に向けて、多くの企業が働き続けやすい職場づくりを進めています。

一方で、いくら支援が充実していても「周囲の理解が得られない」「制度を利用しにくい雰囲気がある」といった職場環境であれば、制度を十分に活用できず、キャリア継続が難しくなってしまうかもしれません。
理系女性の活躍を促すには、支援や制度の充実はもちろんのこと、社員の意識醸成や組織風土の改善といったソフト面の取り組みも重要になるのではないでしょうか。

個人の意識というパーソナルな部分に焦点を当て、さまざまな気づきを促すために、近年注目を集めているのが「アンコンシャス・バイアス」です。

アンコンシャス・バイアスとは、日本語で「無意識の思い込み」と訳され、自分自身では気づいていない「ものの見方や捉え方の偏り」を指します。
たとえば、「女性に高い学歴やキャリアは必要ない」「女性は感情的になりやすい」「女性社員の昇格や管理職への登用のための教育・訓練は必要ない」といった考え方も、アンコンシャス・バイアスの一例です。*7
そもそも、日本で理系の女子学生が少ない要因としても、「女子に理系の進路は向いていない」といったアンコンシャス・バイアスが影響していると考えられています。*8

このようにアンコンシャス・バイアスは、性別役割分担を固定化させ、男女共同参画社会の推進を阻む存在であるともいえます。
そこで、自身の無意識の偏見や思い込みを振り返り、行動変容を促す取り組みとして、多くの企業がアンコンシャス・バイアスへの対策を講じています。

たとえば、日立製作所では新入社員向けにアンコンシャス・バイアス研修を実施し、社会人のスタート地点で多様な価値観を尊重する重要性を学ぶ機会を設けています。*9
先ほど紹介したSUBARUでも、女性の活躍を促進する風土づくりを目指し、アンコンシャス・バイアス研修を導入しています。*6

また、厚生労働省では、企業向けにアンコンシャス・バイアスの研修用動画やチェックリストを無料で公開しています。
セミナー動画は、人事労務担当者向け、管理職向け、経営者層向けに分かれており、職場における理解促進や、多様な人材が活躍できる職場づくりを支援しています。*10

おわりに

理系女性が働きやすい職場を実現するためには、家庭と仕事の両立やキャリア形成を支援する制度の充実に加え、性別に関わらず挑戦できる職場風土づくりも求められています。

理系女性を「特別な存在」として、ある意味「例外」のように捉えるのではなく、当たり前にともに働く仲間として、それぞれの個性や専門性を互いに認め合える環境が、これからの職場には必要とされているのかもしれません。

ひとりひとりの個性や強みを活かせる組織は、理系女性の活躍を後押しするだけでなく、企業の持続的な成長にも貢献するでしょう。

この記事を書いた人

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

【参考資料】

*1
出所)文部科学省「女子中高生の理工系分野への進路選択促進等の文部科学省の取組について」p.15
https://www.scj.go.jp/ja/event/pdf4/392-s-0221-s14.pdf

*2
出所)経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)について」p.2, p.6
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/030_s02_00.pdf

*3
出所)一般社団法人 日本経済団体連合会「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に関するアンケート結果」p.29
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/015_kekka.pdf

*4
出所)愛知県「女性活躍はじめの一歩」p.3, p.15
https://jokatsu.pref.aichi.jp/initiative/files/pdf/84f6e8366a5c9f6186391b03dd65b9a0be2e3d1b.pdf

*5
出所)三菱重工「技術系職種を志望する女性向けの採用パンフレット「World, Future & MHI Women in Engineering」発行 女性技術者の活躍やキャリアアップ支援制度を紹介」
https://www.mhi.com/jp/news/251111.html

*6
出所)SUBARU「SUBARUの女性活躍」
https://www.subaru.co.jp/recruit/guide/style/women/?utm_source=chatgpt.com

*7
出所)内閣府男女共同参画局「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けて」p.1, p.2, p.3
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/movie_r05.pdf

*8
出所)文部科学省「教育分野における女性の理工系人材の育成及びアンコンシャス・バイアス解消に向けた取組について」p.8
https://www.mext.go.jp/content/20260210-mext_kyoiku01-000047278_03.pdf

*9
出所)株式会社日立コンサルティング「日立コンサルティングが独自に開発した「DEIゲーム」を、日立製作所の新入社員研修に提供~約400名がアンコンシャス・バイアスへの気付きを体験~」
https://www.hitachiconsulting.co.jp/news/2024/240927.html

*10
出所)厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html


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