新卒の採用面接で「どうぞ遠慮なく落として下さい」とケンカを売った時の話

「10年後、どんな自分になっていたいですか?」
新卒の採用面接で、若手社員が学生に投げかけたそんな質問にとても驚いたことがある。

「あなたにとって働くとは、どういうことでしょうか」
別の社員も続けて、そんな質問を投げかける。

もうずいぶんと昔、ある中堅企業で経営企画の責任者をしていた時のことだ。
採用に違和感を持ち、部屋の後ろから面接を覗いていた際の出来事である。

その会社では、1次面接は30歳までの若手が2人で、2次面接は課長クラスの中堅が2名、最終の役員面接を私が担当していた。
しかし最終まで残る学生は皆、人柄も考え方も希望する仕事もまちまちで一貫性がない。

それそのものは全く問題無いし、むしろ多様なタレントが集まることはもちろん素晴らしいことである。
しかしこれは意図した結果なのか、どんな過程を経ればこんな多様な結果になるんだ?と疑問を持ち、ある年に面接をイチから覗こうとしたというような経緯だ。
そんなこともあり、1次面接の合否が全て出た後、担当した2人にこんな質問をする。

「10年後になっていたい自分っていう質問をしてましたね。質問の目的と、知りたかったことを教えて下さい」
「ウチでのキャリアパスを真剣に考えて、当社を志望したかどうかを知りたいと思いました」
「働くことの意味についてはどうですか?」
「仕事に真剣に取り組む意思があるかを確認したいと思いました。いい加減な気持ちで入社して欲しくありませんので」

それぞれの質問をした社員が、キッパリと答える。
なるほど、とても大事な意味があるように聞こえるが、本気で言っているとはとても思えない。
そのため、採用面接での質問にタブーはあっても正解はないこと。今から話すことは否定ではないことを前置きして、質問を重ねた。

「もし私が学生なら、10年後の理想はスキルを積んで、ウチの会社を卒業していることと答えます。働く意味は、生活とお金のためです。私は不採用でしょうか」

“あの時は、本当に運が良かったんです”

「あなたは運がいい人ですか?」
採用面接での質問といえば、故・松下幸之助氏のそんなフレーズが、とても有名だ。

「はい、運が良いです」
そう答えたからといって直ちに採用するわけではないが、運が悪いと答えた人は残念ながらそれだけで採用を控えたという話である。

この有名な話、かなり独り歩きしてしまい、全国紙や有名雑誌でもおかしな解釈や解説がまかり通っている。
そんなこともあり、AIはもちろんGoogle検索でも、幸之助の真意にたどり着くことは難しい。

1次資料に近い情報といえばおそらく、幸之助が設立したPHP研究所の出版物かリリースだろう。
そのため同所の資料から引用すると、幸之助は採用に関し、要旨こんな言葉を残している。

「知識のある無しは、試験でわかる。人柄も性質も、だいたいはわかる。しかし、運の良し悪しだけはちょっとやそっとではわからない」
参照:PHPオンライン「松下幸之助はなぜ、運が強い人を採用したのか」

その上で同研究所は、幸之助の言葉をこのように補足する。
「自分の人生は運に恵まれていたと言う人がいれば、そういう人をねたみ、うらやみ、自分の人生がいかに不遇であったかと語る人もいます」

運の良し悪しなどというものは実際のところ、本人がどう感じるかという主観に過ぎない。
人の意思決定の及ばないところ、例えば雷に撃たれるとか、宝くじで1等に当たるといったイベントなら確かに、多少なりとも“運”という概念で語れることもあるだろう。
しかしそれですら、2回、3回と続いて初めて、目に見えない何かを意識する程度の話でしかない。
では幸之助は、何を聞きたくて「あなたは運がいい人ですか?」などと質問したのだろうか。

きっとそれは、「自責として人生を引き受けている人か」を知りたかったのではないだろうか。

「運が悪い」と感じるのは言うまでもなく、良くないことが連続している時だ。
もしくは、頑張っているのに努力が報われない時などに、その原因を自分以外に求めてしまう心の防衛本能である。
しかし多くの場合、物事がうまくいかない原因に気が付いていないのは、本人だけである。
仕事やプロジェクトなどは特にそうだが、はたから見れば失敗は、多くの人が予測すらしている。
にもかかわらず当人は、「自分は運が悪い」と、失敗の原因を自責として分析しない。

その一方で「自分は運がいい」という人は、どうか。
実はそういう人も、往々にして自分の事が見えていない。
人のために時間も手間暇も惜しみなく投じ、人の喜びを自分ごとのように喜び、人の悲しみを自分ごとのように悲しむ。
そんな人こそ、こんなことを言う。

「なんか知らないけど、ピンチの時にあいつが助けてくれたんだよ」
「人生の岐路で、親身になってくれた上司に救われたんです」
そんな思い出話と共に、おもしろいくらいにこの言葉をいう。

“あの時は、本当に運が良かったんです”
大きな組織で上に行く人ほど、いい意味で自分が見えていない。

「いやいや、それは運ではありません。親身になってくれる上司を引き寄せるお力に加え、その助言を素直に受け入れることができたからでは?」
そんなふうに客観的な意見を言っても、キョトンとしている。

結局のところ、“運の悪さ”とは「他責にしたい心の防衛本能」で、“運の良さ”とは「周囲への感謝」なのだろう。
だからこそ、“運”という言葉を幸之助は、こんなことを推し量る物差しにしたのではないだろうか。
「自責として人生を引き受けているか」
「周囲への感謝を自然体で持っているか」

なお件の幸之助は、「運の良さ」を本人に問う質問の意味について、こう締めくくっている。
「だから人を採用するにしても、登用するにしてもそういうことを加味して考えることが大切だと思う」

模範解答など要らない

話は冒頭の、面接を担当してくれた若手社員についてだ。
「もし私が学生なら、10年後の理想はスキルを積んで、ウチの会社を卒業していることと答えます。働く意味は、生活とお金のためです。私は不採用でしょうか」
「いや、桃野さんは特別ですよ。役員じゃないですか」
「お二人に聞いて欲しい話があります。就職氷河期の大底だった私は新卒の時、金融機関の採用試験を多く受けました。その際、証券最大手の2次面接で、『上手に志望動機をアピールできたら、次に通してあげてもいいよ?』と、上から目線で言われたことがあります」

そして、そんなムカつく質問の仕方に反発を覚え、御社に入りたい積極的な志望動機なんか一切ないこと。
夢だったパイロットの試験に落ちたので、仕方なく就職活動をしていること。
おべんちゃらを言うつもりは全くないのでどうぞ落として下さいと答えたことを話した。

さらにその勢いのまま翌日には、大和証券の最終面接で志望動機を聞かれた際にも、積極的な志望動機などないと答えたこと。
パイロットになれなかったので、手探りで将来を探していること。
加えて、“5年後になっていたい自分”を質問された際には、ヘッドハンティングされ会社の枠を超えるような人材になっていたいと答えたことを話す。

それを聞いた大和証券の面接担当者は、なぜパイロットになりたかったのか。その過程で得たことと、失敗の原因をどう考えているか。
その経験を今後の人生にどう生かしていきたいと思っているかなどを、深堀りしてくる。

(こんなに気持ちよく、本音で話してもいい大人がいるんだ…)
そんなことに感動した私は夢中になって、聞かれるがままに素直な想いを引き出され続けてしまった。
そして半ば涙ぐみながら、学生時代の夢と挫折を話す。
結果、証券最大手は私を落とし、大和証券は私に内定をくれた。
そんな思い出を、若手社員に赤裸々に話した。

「その上でですが、10年後にもウチで骨を埋(うず)めるような“覚悟”って、本当に必要でしょうか。同じ条件と仕事で倍のお金をくれる会社からスカウトされたら、むしろ転職すべきです。私だってそうします。役員や上司を甘やかさないでください」
「…」
「働くことの意味もそうです。趣味を楽しむことや家族との時間を過ごす手段として働く人生だって、決していい加減な選択ではないはずです。むしろその想いこそ真剣だと思います」

そんなことを前置きしたうえで、松下幸之助の“あなたは運がいい人ですか?”の質問について、自分の解釈を説明する。

「自責で人生を背負う覚悟がある人は、安易な迎合などしません。その意味でお二人の質問は、期待している答えが丸見えな気がします」
「どういうことでしょう」
「模範解答があるということです。学生だってバカではないので “こう言って欲しいんですよね?”を見抜いています。お二人とも学生の時、その質問をされたら簡単に意図を見抜いたはずです」

そして、採用面接では“化かしあい”など必要なく、もっと本音で学生と向き合っていいこと。
自分ですら本音では思っていないことを模範解答として求めたら、会社の評価を落とすだけということ。
1次面接なんて、おかしなヤツを含め気の合う学生をどんどん通して構わないと伝え、話を切り上げた。

思うに採用面接ほど、企業文化や働く人の心の余裕、懐の深さを感じられるものはない。
そして学生こそ、その本質を見抜いている。
学生時代、私を通してくれた大和証券の人事課長のこと、30年以上経った今も忘れがたい思い出になっており、思い出すたびに目頭が熱くなる。
本当に私は、運が良かった。

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この記事を書いた人

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)など
X(旧Twitter) :@ momod1997
facebook :桃野泰徳

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この記事を書いた人

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そしきLab編集部

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