企業の枠を超えて支える 女性活躍に向けた「クロスメンタリング」の新潮流

キャリアの分岐点に立つ女性たちを支える仕組みとして、最近「クロスカンパニーメンタリング」(以下、「クロスメンタリング」)が注目を集めています。

社内では話しづらい悩みや将来像を、経験豊富な第三者に相談できるこの制度は、働く女性が自らの可能性を再発見する契機となります。
特に管理職登用前後の転機では、客観的な助言やロールモデルとの対話がキャリア継続のエンパワーメントとなります。
それは企業にとっても人材定着と成長を両立させる重要な施策です。

クロスメンタリングの最新情報を提供します。

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クロスメンタリングはなぜ女性のキャリア支援なのか

まず、クロスメンタリングと女性のキャリア支援の関連性についてみていきます。

政府目標に届かない女性の参画

あらゆる分野の意思決定層に参画する女性を増やすことを目指して、「第5次男女共同参画基本計画」では、さまざまな政府目標が掲げられています。

では、その進捗はどうでしょうか。

たとえば、プライム市場上場企業における女性役員割合を2025年時点で19%、2030年までに30%以上とする目標が掲げられていますが、2024年は15.6%でした。*1

民間企業の管理職に関する2025年の目標値は、部長級が12%、課長級が18%、係長級が30%ですが、2024年時点ではそれぞれ、9.8%、15.9%、24.4%でした(図1)。*2

図1 民間企業 管理職相当の女性割合の推移
出所)「女性版骨太の方針2025(女性活躍・男女共同参画の重点方針2025)説明資料」p.3
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/sokushin/jyuten2025_setsumei.pdf

図1をみると、最近は全体として上昇傾向にありますが、2025年の目標値が達成できるかどうかは微妙といったところでしょうか。

「クロスカンパニーメンタリングプログラム」の効果

「第5次男女共同参画基本計画」では、取り組みの進捗が遅れている理由の1つとして、女性を採用してから管理職や役員へと育成・登用していく仕組み(パイプライン)が十分に整っていない点が指摘されています。*3

この課題を受け、経済産業省は2022年に調査事業を実施し、解決策の検討を行いました。
その結果、日本企業では、女性が役員や取締役を目指すための意欲やスキルを高める機会が不足していることに加え、経営トップや現場の管理職の理解が十分でないことが、パイプライン構築を妨げる主な要因であることが明らかになりました。

また、海外の事例分析からは、日本ではメンタリング制度や役員候補を推薦する仕組みが十分に整備されていないことも、女性の登用が進まない要因の一つである可能性が示されています。

こうした課題への対応策として、欧米で成果を上げている「クロスカンパニーメンタリングプログラム」に着目し、その有効性が調査・分析されました。
「クロスカンパニーメンタリング(「クロスメンタリング」と同義)」とは、メンター(支援者、助言者)とメンティ(支援・助言を受ける立場)が他企業同士となる組み合わせで行う、企業横断型のキャリア形成支援の取り組みです。*4

経済産業省が行ったこの試行プログラムにはさまざまな企業が参加し、目指すコースを、取締役と部長役に分け、メンタリングが実施されました(図2)。*5

図2 「クロスメンタリングプログラム」の概要
出所)経済産業省「企業における女性の採用・育成強化に関する経済産業省の施策」(2024年1月)p.6
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka32-5.pdf

企業の枠を超えたメンターとメンティーの対話を通じて、昇進を望む女性は、実施前の3割弱から実施後は7割超へと大きく増加しました。*5

また、メンター側でも、女性活躍に対する理解が深まるといった効果が確認され、日本企業においても有効な取り組みであることが示唆されました。*3

クロスメンタリングはどうやって実施するのか

経産省は上述の試行プログラムの成果をもとに、さまざまな企業がクロスメンタリングを実施できるように、ノウハウを整理した「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」(以下、「PLAYBOOK」)を公表しています。
「PLAYBOOK」などを基にその実施方法をみていきましょう。

クロスメンタリングの概要

まず、概要をみていきましょう。*5

目的:企業を超えて、多様なモデル(役員)からの学びや刺激が得られる場を提供すること
メンティ:意識づけをしていきたい、女性リーダー層
メンター:男性も含む各社役員

期待される効果

  1. 業務や自分のキャリア形成に向き合うこと。これまでの前提や枠組みに囚われないマインドセットを得ること。
  2. 多様なロールモデルとの出会いから多様な気づきを得ること。
  3. 自社を越えた横のネットワーキングが構築されること。

クロスメンタリングの実施体制は以下の図3のようなものです。*6

図3 クロスメンタリングの実施図
出所)経済産業省「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」p.19
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/R4playbook.pdf

メンターが相談したい話題

上述の試行プログラムでは、メンティがメンターに相談したい話題は以下のようなものでした(図4)。

図4 メンターに相談したい話題
出所)経済産業省「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」p.25
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/R4playbook.pdf

クロスメンタリングのパートナー企業の選び方

メンタリングはどのような企業で実施するのがいいのでしょうか。
「PLAYBOOK」では、以下のようなポイントが示されています。

  • 業種:業界横断的に参加者を募ることで、参加者にとって視野の広がりやバイアスのないメンタリングが実施できる。
  • DEIへの理解度:経営者が女性活躍・多様性の推進を経営課題として認識し、コミットメントがある企業と協働することで、参加者の意識や効果が高まり、プログラムで得た学びを自分が所属する企業に持ち帰り活用しやすくなる。
  • 企業規模:規模やステージが近い企業なら、参加する管理職が抱える悩み・課題に共通点がある可能性が高く、メンタリング・アドバイスの効率が高まる。ただし、規模が違う場合には、新たな視点を得られる可能性もある。

ちなみに、現在は、プロフェッショナルなメンターを派遣し、メンタリングを支援するサービスもあります。*7, *8

実践事例「出光興産×東京海上日動」

上述の試行プログラムをきっかけとして、その後も取り組みが続いているクロスメンタリングの実践事例を見ていきましょう。

「出光興産×東京海上日動×帝人×リコー」の取り組み

出光興産と東京海上日動は、2023年に共同でクロスメンタリングを開始し、プログラムの開発やメンティ同士のネットワークづくりに取り組んできました。*4

2024年度は参加企業を4社に増やしてプログラムの拡充を図りました。
3年目の2025年度は、次年度以降の参加企業拡大を視野に入れ、これまでのノウハウを活用してプログラムのバージョンアップに取り組んでいます。

図5 クロスメンタリングの様子
出所)出光興産「女性管理職の自律的キャリア形成およびジェンダーギャップ解消に向けた企業横断型「クロスメンタリング」を実施 出光興産×東京海上日動×帝人×リコーの 4社でキックオフを開催」(2025年6月3日)p.1
https://www.idemitsu.com/jp/news/2025/250603.pdf

2025年5月29日から2025年12月5日まで行われたプログラムの概要は以下のとおりです。

参加企業:出光興産、東京海上日動、帝人、リコー
 *出光興産の枠で、三井住友信託銀行からメンター・メンティ各1名がトライアル参加

参加者:各社メンティ 7 名・メンター7 名、計 56 名(28 組)

実施内容

 ・集合研修3回、メンタリング3回

 ・メンティネットワーク(研修や交流会)

 ・メンターネットワーク(意見交換会や懇親会)

 ・4社共創企画

図6 クロスメンタリングの実施内容
出所)出光興産「女性管理職の自律的キャリア形成およびジェンダーギャップ解消に向けた企業横断型クロスメンタリングを実施 出光興産×東京海上日動×帝人×リコーの 4社でキックオフを開催」(2025年6月3日)p.2
https://www.idemitsu.com/jp/news/2025/250603.pdf

8社合同のクロスメンタリング

次の事例は、8社によるクロスメンタリングです。*9
2023年にアデコ、パナソニック コネクト、ルネサンスの3社で開催されたクロスメンタリングでは、メンター・メンティーともに学びが多く、満足度の高い結果が得られました。

そこで、2024年は5社、2025年は8社に拡大し、アデコ×イオン×エスエス製薬×シチズン時計×TOPPAN HD×パナソニック コネクト×明治HD×ルネサンスで、約7か月間のクロスメンタリングに取り組んでいます。*9

2025年6月から2026年1月までのメンタリングの概要は以下のとおりです。

参加者:メンター(部長クラス以上の女性)、メンティー(課長クラスの女性)各社2名(8社計32名)

実施内容:期間中は1on1を原則対面で3回行い、中間共有会では、メンティー同士での学びの共有やロールモデル講演を予定。

図7 クロスメンタリングのスケジュール
出所)パナソニックグループ「女性のキャリア開発支援のため、8社合同で「クロスメンタリン
グ」の取組を推進 アデコ×イオン×エスエス製薬×シチズン時計×TOPPAN HD×パナソニック コネクト×明治HD×ルネサンス」(2025年8月7日)
https://news.panasonic.com/jp/press/jn250807-2
図8 キックオフミーティングの様子
出所)パナソニックグループ「女性のキャリア開発支援のため、8社合同で「クロスメンタリン
グ」の取組を推進 アデコ×イオン×エスエス製薬×シチズン時計×TOPPAN HD×パナソニック コネクト×明治HD×ルネサンス」(2025年8月7日)
https://news.panasonic.com/jp/press/jn250807-2

おわりに

女性のキャリア形成を取り巻く課題は、個人の努力だけでは解決できません。
企業の枠を超えたクロスメンタリングは、メンター・メンティ双方に新たな視点を与えると同時に、組織側の意識変革も促します。

多様なロールモデルとつながり、柔軟なマインドセットを育むことは、女性活躍を企業と社会の成長につなげる重要な取り組みです。

この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
X:よこうちみほこ Facebook:よこうちみほこ

資料一覧

*1
男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画における成果目標の動向」(2025年4月30日)p.3
https://www.gender.go.jp/about_danjo/seika_shihyo/pdf/numerical_targets_r070521.pdf

*2
男女共同参画局「女性版骨太の方針2025(女性活躍・男女共同参画の重点方針2025)説明資
料」p.3
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/sokushin/jyuten2025_setsumei.pdf

*3
出所)経済産業省「女性リーダー確保のためのクロスカンパニーメンタリングの実施環境整備に向けた課題調査事業最終報告書」(2023年3月)p.2
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000555.pdf

*4
出所)出光興産「女性管理職の自律的キャリア形成およびジェンダーギャップ解消に向けた
企業横断型「クロスメンタリング」を実施 出光興産×東京海上日動×帝人×リコーの 4社でキックオフを開催」(2025年6月3日)p.1, 2
https://www.idemitsu.com/jp/news/2025/250603.pdf

*5
出所)経済産業省「企業における女性の採用・育成強化に関する経済産業省の施策」(2024年1月)p.6, 9
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka32-5.pdf

*6
出所)経済産業省「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」p.17, 19, 25
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/R4playbook.pdf

*7
出所)パソナ「12,000名のプロフェッショナル人材による次世代経営者育成支援サービス
パソナJOB HUB『プロシェアメンター』5月29日開始」(2025年5月29日)
https://www.pasonagroup.co.jp/news/index112.html?itemid=5445&dispmid=798

*8
出所)Mentor For「Mentor Forとは」
https://mentorfor.jp/?utm_term=%E3%

*9
出所)パナソニックグループ「女性のキャリア開発支援のため、8社合同で「クロスメンタリング」の取組を推進 アデコ×イオン×エスエス製薬×シチズン時計×TOPPAN HD×パナソニック コネクト×明治HD×ルネサンス」(2025年8月7日)
https://news.panasonic.com/jp/press/jn250807-2


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