
「ブラック校則」。この言葉を聞いて、髪の色やくせ毛を理由に不当な扱いを受けた、あるいは理不尽な校則に疑問を感じたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
生まれつきの髪を証明する「地毛証明書」の提出を求められたり、地毛なのに黒く染めることを強制されたり。
そうした問題が、あるブランドのキャンペーンをきっかけに署名運動につながり、ついには東京都の教育委員会が指導撤廃を宣言するという、大きな社会現象へと発展した事例があります。
その成功の裏側には、単なる広告を超えた、緻密な戦略が隠されていました。
キーワードは2つ。
人々が企業やブランドをどう認識するかという「パーセプション」と、その創出を産み出す「ナラティブ(物語)」です。
それらを機能させることによって、企業は社会を動かす力を持つ。
そして、この戦略は、オフィス空間の設計にも応用できるものなのです。
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※AIで作成しているため、読み上げ内容に一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」
まず、冒頭でふれた事例、パンテーンのキャンペーンについてみていきましょう。
P&Gのブランド「パンテーン」は、2018年からブランドメッセージ「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」を掲げています。
パンテーンは無言の強制ともいえる同調圧力に抗うために、数々のキャンペーンを展開し、大きな成果を上げてきました。*1
「#この髪どうしてダメですか?」
現在は、1人ひとりの個性、つまり多様性が尊重される時代です。
ところが、髪をめぐる状況は、そこから大きく乖離しています。
生まれつき茶髪の女子高生が、学校からの度重なる黒染め強要に精神的苦痛を受けたとして訴訟を起こし、それが海外メディアからも注目されたほど。*2
しかし、その後も「髪型校則」を依然として続ける学校が多かったのです。
そこでパンテーンは、全国の現役中高生・卒業生・教師の男女合計1,000人を対象に、「髪型校則へのホンネ調査」を実施しました。*3
すると、教師の87%が「時代に合わせて、髪型校則も変わっていくべきだと思う」と回答しました。一方、現役中高生・卒業生の91%が「髪型校則の理由を先生に聞いたことがない」と答えたのです。
こうした調査結果をうけ、パンテーンは2019年3月、「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンを、新聞広告やSNS、ラジオを通して展開し始めました。

出所)PRTIMES P&Gジャパン合同会社「全国合計1000人の中高生、卒業生、先生の“髪型校則へのホンネ”を徹底調査 パンテーン 『#この髪どうしてダメですか』」(2019年3月18日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000042936.html
キャンペーンは大きな反響を呼び、Twitterは約18万件の関連ツイート、Webムービー約1,000万回再生、さらに数多くのTV番組をはじめとする主要メディアで取り上げられました。
こうした動向を受けたNPO「フローレンス」は、【#この髪どうしてダメですか? 地毛の黒染め指導はやめてください 署名キャンペーン】をインターネット上で立ち上げました。*4
すると、2か月あまりで約2万名の署名が集まり、2019年7月には署名運動の代表者が東京都教育委員会に署名を提出。その結果、同教育委員会は「地毛の黒染め指導」を撤廃するという方針を公表しました。
こうした一連の取り組みは社会的にも高い評価を受け、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が主宰する「PRアワードグランプリ2019」でゴールドを獲得しています。*5
「#就活をもっと自由に」「#令和の就活ヘアをもっと自由に」
パンテーンは「#この髪どうしてダメですか?」キャンペーンの前年、「#1000人の就活生のホンネ」プロジェクトを立上げ、関連する広告や動画を公開しました。*6
日本の就職活動は画一的で、その象徴ともいえるのが、「黒髪・リクルートスーツ」です。
全国の就職活動経験者に対する「就職活動に関する調査」では、「企業にあわせて自分を偽ったことがある」という回答が81%に上りました。
そこで、パンテーンは「就活生が、ありのままの姿で、自分らしく就職活動ができること」をコンセプトに、「#就活をもっと自由に」というハッシュタグを掲げ、キャンペーンを展開しました。
このキャンペーンはメディアやSNSを通じて、就活生の個性の尊重について、さまざまな議論を呼びました。*7

出所)「#1000人の就活生のホンネ」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2018
さらに、2019年には「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」キャンペーン第4弾として、賛同企業139社とともに「#令和の就活ヘアをもっと自由に」というプロジェクトへと発展していきます。*8
同年10月1日には、令和初の内定式に合わせて、就活生が「自分らしい髪」で就職活動に挑むことを応援するTV広告・動画を公開しました。

出所)出所)パンテーン「#令和の就活ヘアをもっと自由に」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2019
「#PrideHair」「#PrideHair サロン」
パンテーンの取り組みをもう1つみてみましょう。
2020年秋から始まった「#PrideHair」プロジェクトです。*1
テーマは、「自分らしさを表現できる就職活動について考える」。LGBTQ+の当事者として就職活動を経験した人の声から生まれたプロジェクトです。
「女性らしく、髪の毛をまとめましょう」
「男性らしく、髪を短くしましょう」
そんな言葉の代わりに、たとえば「自分らしい髪で、一緒に働きましょう」と、1人ひとりの個性を尊重する。そんな方向性で、トランスジェンダーの元就活生が登場するムービーを展開しました。
このプロジェクトはさらに「#PrideHair サロン」プロジェクトに発展します。*9
コンセプトは、「ヘアサロンをLGBTQ+フレンドリーな場所へ」。
「ヘアサロン向けLGBTQ+フレンドリーマニュアル」を作成し、配布活動を行うとともに、ダイバーシティに取り組むサロンの体験・紹介動画をSNSで発信しました。
その結果、2021年6月時点で、ヘアサロンを展開する全国40の企業がプロジェクトに賛同しています。
企業を支える「パーセプション」
ここまでパンテーンの取り組みをみてきましたが、パンテーンに対するイメージは、このコラムを読んでいただく前と今とで変わったでしょうか。
もし変わったとすれば、それはなぜでしょうか。
パーセプションとは
マーケティングと経営戦略を専門とする研究者の井原久光氏は、パーセプションとは「知らず知らずのうちに “そういうものだ” と思い込んでしまっていること」で、人々が「重要と考えていない」からこそマーケターにとって重要である、と指摘しています。*10
「ナラティブ作家」を自認するPRストラテジスト(PR戦略家)の本田哲也氏は、パーセプションとは「ものごとの見え方、捉え方」であると述べています。*11
多くのマーケターや広報担当者は、消費者の意識をどう変えるか、ブランドや商品に好意的なイメージをもってもらうにはどうしたらいいかについて考える。
それが、パーセプションと呼ばれるものだというのです。
パーセプションが重要なのは、その変容がそのまま行動の変容に結びつくからです。
以下の図4は、グローバルのPR業界を中心に提唱されている「PRのピラミッド」と呼ばれるものです。

出所)本田哲也(2021)「ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力」東洋経済新報社(電子版)p.114
情報が世に出ると、それに触れた人々のパーセプションが変化し、その結果、それまでの行動が変化するのです。
パーセプションをつくるのは「ナラティブ」
では、何らかの価値観に基づいてパーセプションをつくるためには、どうしたらいいのでしょうか。
それを実現させるのが、ナラティブです。
本田哲也氏は、ナラティブを「物語的構造」と定義しています。
この構造の中で、企業活動、特に情報発信活動が遂行される。
いいかえると、意味のあるナラティブのために、あらゆる発信活動が総動員される、というのです。
ナラティブには以下のような特徴があります。
- 主人公は生活者、消費者。企業ブランドはその一部にすぎない。
- 終わりがなく、常に現在進行形。
- 舞台は、社会全体。
- 起点は、創業者や企業の強い思い
つまり、ナラティブとは、企業の一方通行のストーリーではなく、企業がステークホルダーとともに共創するものなのです。
パンテーンのプロジェクトやキャンペーンを振り返ってみると、どれもが上の特徴に当てはまっていることがわかります。
一連のナラティブを通して、パンテーンはそのパーセプションを「なじみのある、ちょっと古いヘアケアブランド」から「自分らしさや多様性を尊重し、社会を変革するブランド」へと鮮やかに変容させたといえるでしょう。
オフィスづくりにおけるパーセプションとは
では、オフィスづくりの文脈では、パーセプションをどう捉え、どう活用していったらいいのでしょうか。
オフィスはパーセプションそのもの
たとえば、オフィスツアーのシーンで考えてみましょう。
エントランスに足を踏み入れると、社員同士が自然に交わす挨拶や、オープンスペースで交わされるアイデアのやり取りが耳に入ってきます。
来訪者は、その光景を「この会社は風通しがよく、創造的な文化を持っている」と感じるかもしれません。
つまり、オフィス空間そのものが「企業はどんな存在か」というパーセプションを語っているのです。
インテリアやレイアウトといった物理的な要素はもちろん、そこに集う人たちのふるまいや日常の営みまで、すべてが企業のナラティブを紡いでいます。
「オーセンティシティ(自分らしさ)」の重要性
パーセプションづくりにおいて欠かせないのが、オーセンティシティ。「裏表なく、自分たちらしさを表現している状態」です。
たとえば、環境に配慮した働き方を掲げる企業が、再生素材を用いた家具やペーパーレスな仕組みをオフィスに取り入れていれば、その姿勢は空間を通して自然に伝わります。
逆に、表向きはサステナビリティを強調しながら、オフィスの実態がそれと矛盾していれば、ステークホルダーは違和感を覚えるでしょう。
上で取り上げたパンテーンのキャンペーンにしても、決して付け焼刃ではありません。
その背景には、P&G社が1992年から30年以上にもわたって培ってきた「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用」)という理念の熟成と、先進的な実践の積み重ねがあります。
その確かな基盤がすべての取り組みに通底しているのです。
だからこそ、オフィスづくりでは、
「私たちが大切にしている価値観は何か」
「それを空間や日々の行動でどう表現するか」
という問いに、真摯に向き合う必要があります。
オフィスは単なる職場ではなく、企業がステークホルダーや社会に語りかけるナラティブの舞台の1つです。
その物語にオーセンティシティが伴うとき、パーセプションは表面的な印象を超え、信頼や共感へとつながっていくでしょう。
この記事を書いた人

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資料一覧
*1 出所)パンテーン「#Pride hair」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/pride-hair
*2 出所)日本経済新聞「「髪黒染め」校則は適法、府に一部賠償命令 大阪地裁」(2021年2月16日 18:23更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHC10AFC0Q1A210C2000000/
*3 出所)PRTIMES P&Gジャパン合同会社「全国合計1000人の中高生、卒業生、先生の“髪型校則へのホンネ”を徹底調査 パンテーン 『#この髪どうしてダメですか』」(2019年3月18日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000042936.html
*4 出所)フローレンス「【署名を東京都教育庁に提出!】#この髪どうしてダメですか? 地毛の黒染め指導はやめてください」
https://florence.or.jp/news/33655/
*5 出所)公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が主宰する「『PRアワードグランプリ2019』が決定」
https://prsj.or.jp/association/wp-content/uploads/2019/12/praw2019_open.pdf
*6 出所)PRTIMES P&Gジャパン合同会社「パンテーン ~#就活をもっと自由に~ “1,000人の就職活動のホンネ”から生まれたキャンペーン 始動!就活生の81%が「企業にあわせて自分の気持ちを偽ったことがある」と答えました。」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000008115.html
*7 出所)「#1000人の就活生のホンネ」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2018
*8 出所)パンテーン「#令和の就活ヘアをもっと自由に」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2019
*9 出所)パンテーン「#PrideHair サロン」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/pride-hair/pride-hair-salon
*10 出所)株式会社東レ研究所(井原久光)「リ・ポジショニングとパーセプション —シ-ブリーズの事例から—」p.45
https://www.tbr.co.jp/report/sensor/pdf/sensor_20180801_05.pdf
*11 出所)本田哲也(2021)「ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力」東洋経済新報社(電子版)pp.27-30, 107-108, 113-114
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