見過ごされていた「公平性(エクイティ)」がオフィスを変革し、組織の多様性を拓く

オフィスではさまざまな人が働いています。
そのオフィスづくりにおいて、「多様性」への配慮は必要不可欠な要素です。

でも残念ながら、そもそも「不便な思いをしている人がいる」という事実に気づくのさえ、実は簡単なことではありません。
たとえば、左利きの人はどうでしょうか。

これを読んでくださっている方のオフィスでは、什器やレイアウトに、左利きの従業員への配慮がみられるでしょうか。
それは、彼らの生産性だけでなく、企業が多様な従業員を尊重しようとしているかどうかを示す試金石ともいえます。

そんなふうに考えると、単に全員に同じものを提供する「平等」な環境が、真の働きやすさやパフォーマンス向上につながるとは限らないことに気づきます。
それより、個々の特性やニーズに合わせて適切なサポートを行う「公平性」の視点こそが重要ではないか―これが本コラムのテーマです。

企業では、DEI(多様性、公平性、包摂性)を価値創造の重要な手段として位置づける動きが進んでいます。しかし、海外に目を向けると、これまで推奨されてきたDEI施策とは逆行する動きもみられます。

そうした最近の動向もふまえながら、公平性の意義や、公平性が組織にもたらす価値と効果を探り、そうした価値観を体現する空間としてのオフィスづくりについて考えます。

公平性は平等とどう違うのか

公平性とは、どのようなものか、考えてみましょう。

現実と平等と公平性と公正性

ボストン大学のウェブサイトには、次のようなイラストが載っています。*1

図1 REALITY・EQUALITY・EQUALIT・JUSTICE
出所)ボストン大学「Inequity, Equality, Equity, and Justice」
https://www.bu.edu/diversity/resource-toolkit/inequity-equality-equity-and-justice/

このイラストは「現実(Reality)」「平等(Equality)」「公平性(Equity)」「公正性(Justice)」の違いを表しています。

  • 現実:一方は必要以上のものが得られるが、もう片方は必要なものが十分に得られない。こうして巨大な格差が生まれている。
  • 平等:どの人も同じサポートによって恩恵が受けられる。それが平等な扱いとみなされる。
  • 公平性:誰もが必要としているサポートが受けられ、それが公平性を産みだす。
  • 公正性:不公平な原因が解消されたため、3人ともサポートや調整なしで試合を観戦できる。社会構造的な障壁が取り除かれている。

公平性と平等は違う

公平性と平等の違いをもう少し詳しくみていきましょう。
MARIN HHS(カリフォルニア州マリン郡保健社会サービス部)は、リンゴの木のイラストとともに、以下のように説明しています。*2

平等とは皆に同じものを与えること。一方、公平性は皆が同じ目標に到達できるように、個々の状況に合わせて必要なものを与えることです。

図2 平等(上図)と公平性(下図)
出所)MARIN HHS(カリフォルニア州マリン郡保健社会サービス部)「Equity vs. Equality: What’s the Difference?」
https://www.marinhhs.org/sites/default/files/boards/general/equality_v._equity_04_05_2021.pdf

上のイラストのように、全員に同じ高さの脚立を与える、それが平等です。でも、それでは背の低い人は脚立に乗ってもリンゴに手が届きません。
つまり、同じ機会や資源を与えても、結果的に平等にならないことがあるのです。

では、下のイラストのように、背の低い人には高い脚立を、背の高い人には低い脚立を与えたらどうでしょう。これが公平性です。こうすれば、全員が同じようにリンゴを取れるようになります。

つまり、公平性とは、個々の状況を認識した上で、それぞれに必要な支援を与えることによって、最終的に皆が同じ成果を得られることを目指します(表1)。

表1 平等と公平性

参考)MARIN HHS(カリフォルニア州マリン郡保健社会サービス部)「Equity vs. Equality: What’s the Difference?」p.2を基に、筆者作成
https://www.marinhhs.org/sites/default/files/boards/general/equality_v._equity_04_05_2021.pdf

アンチの動きもあるDEIをどう捉える?

次に、DEIについて、最近の動向もふくめてみていきましょう。

DEIのコンセプトとは

DEIとは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字を取ったものです。*3
経済産業省は、企業の競争力強化の視点から、この3つの要素を次のように説明しています。*4

  • 多様性:性別、年齢、人種などの属性や価値観、キャリア、働き方の意向などを限定せず、経営戦略の実現に必要と考えられる多様な人材によって組織を構成すること。
  • 公平性:1人ひとりが違うスタートラインに立っているという前提のもと、多様な人材が能力を十分発揮できるよう、制度や業務プロセスなどで阻害される要因があればそれを是正し、適切な機会を提供して支援すること。
  • 包括性:1人ひとりが、組織に帰属感を持ち、本人ならではの強みを十分に発揮して組織に貢献できていると実感している状態をつくること。

このうち、公平性に関しては、それぞれの企業によって、必要となる職場環境や事業活動の進め方が異なることに注意が必要だと指摘されています。

DEIをめぐる動向

最近のDEIをめぐる動向について、簡単に押さえておきましょう。

DEIは、もともと白人男性が不公平に引き立てられて採用されるという米国社会で、多様性・包括性を図ることを目的に推進されてきました。*5
同じような資格や業績を持つ全ての人々に、平等な雇用機会を提供することを目指していたのです。

ところが、その対象となる人々の属性は次第に拡大されてきました。
1960年代当初は人種的・民族的マイノリティと女性だったものが、1980年代からは性的マイノリティ(LGBTQ+)も含まれるようになりました。

このように、恩恵を受ける対象者が拡大されるにつれ、対象から外れた「異性愛者の白人男性」に対する逆差別につながっていると解釈する動きが出始めます。
こうした状況の下、2023年6月に最高裁が大学でマイノリティの入学枠を設ける施策は違憲だと判断しました。

そして、2025年1月には、連邦政府がDEIを禁止する大統領令を出し、全ての省庁に対して、民間企業のDEIに基づく取り組みの撲滅にも働きかけるよう指示しました。*6
現在はそれに同調する州もあれば、逆の姿勢を取っている州政府もあります。

また、企業の中には、これまでにDEI方針を縮小する決断に至ったところもあれば、引き続きDEIへの取り組みを進めている企業も見られます。*7

ただ、取り組みを縮小・撤退した企業からも「多様性を重視する姿勢は変わらない」といった声が挙がっており、EDIを重視する流れは世界的に大きくは変わらないだろうという見方もあります。

日本企業にとってDEIが必要な理由

ランスタッド社が実施したグローバル調査「ワークモニター2025:世界の働く意識調査」の結果をみてみましょう。

「職場で判断や差別を恐れることなく自分の意見や立場を共有することができなかったため、仕事をやめたことがある」と答えた人の割合を地域的にみると、アジア太平洋地域では30%に上り、ラテンアメリカの32%に次いで多くなっています。

EDIに積極的に取り組んでいるかどうかは、働き手にとって、その企業で働くかどうかを判断する重要な要素になりつつあるのです。

ましてや日本では、今後、人手不足がさらに加速すると推計されています。
そのため、日本企業はEDIの視点でより多様な働き手を迎え入れ、それぞれが自分らしく活躍できる働き方を通して生産性を向上させていくことが必要だと指摘されています。

公平性を実現するオフィスづくり

多くの研究では、より多様で多文化的な従業員のために、よりよいワークプレイスを提供することで、より迅速なイノベーションやより良いアイデアが生まれることが示唆されています。*8
では、公平性を実現するオフィスは、どのようにつくっていったらいいのでしょうか。

エクイタブルデザイン(公平なデザイン)とは

エクイタブルデザインに似たものに、ユニバーサルデザインがあります。*9
ユニバーサルデザインとは、「ワンサイズ・ワンフィット」つまり、誰にとっても使いやすいように、最初からすべての人が使える1つのデザインで対応することを目指します。

一方、エクイタブルデザインとは、過去に見過ごされてきた人々のニーズを満たすことに焦点を当て、社会的に公平な仕組みを築くことを目指します(図3)。

図3 ユニバーサルデザインとエクイタブルデザイン
出所)Midium “What happens when equitable design isn’t at the forefront of UX”(2021年4月30日)
https://emdoesux.medium.com/what-happens-when-equitable-design-isnt-at-the-forefront-of-ux-92fc30da18a4

左図は、図1でみた「平等」と、右図は「公平性」と符合します。

公平性を体現するオフィスをつくるために

現在ではより包括的な職場環境を実現するために、世界中の組織がワークプレイスを再考し始めていると、ザイマックス総研は指摘しています。*8

テクノロジー会社MRIとワークテック・アカデミーの共同レポートでは、オフィスデザインにおける4つのアプローチを提唱しています。

  • バリアフリーのワークプレイス:すべての従業員が平等にアクセスできるように設計されたワークプレイスは、企業にとって選択肢の1つではなく、もはや必要不可欠なものです。
    たとえば、廊下や通路の幅を広くとることで、車いす利用者が同僚と並んで移動できるようにし、デスクはすべて車いす利用者のために高さ調節が可能なオフィスもあります。
  • ニューロダイバーシティのあるワークスペース:環境に対して過敏な人とそうではない人の両方のニーズに対応できるように設計されたワークプレイス。
    ニューロダイバーシティとは、従来「発達障害」と呼ばれていたものに由来するさまざまな特性の違いを多様性と捉え、相互に尊重して、それらの違いを社会の中で活かしていこうとする考え方です。10 たとえば、独立した各スペースが、異なる作業環境を提供するオフィスもあります。こうしたアプローチによって、さまざまな感覚をもつ従業員が、自身に適したスペースを見つけることができます。8
  • 階層のないオフィス:職位や給与に関係なくスペースが平等に共有されるオフィスです。
    たとえば、木製の長いデスクを1つだけ設置したオフィスもあります。そこではインターンと社長が同じデスクを共有し、誰もが対等な立場でミーティングスペースやその他のアメニティにアクセスできます。
  • コミュニティ・ベースのオフィス:特定のアイデンティティや関心、慣習を基盤としたワークプレイスです。
    たとえば、女性とノンバイナリーの人々のために特別に設計されたコワーキングスペースでは、自然光や高い天井、ピンク色の床、目を引く壁画など、従来のオフィスデザインよりも女性らしいアプローチがなされています。

おわりに

多様性は組織の強みです。
オフィスづくりにおける「公平性」の視点は、マイノリティへの配慮に留まらず、組織全体の多様な個性を活かすための重要な鍵です。

1人ひとりのニーズに応える環境こそが、真の働きやすさを実現し、最高のパフォーマンスを引き出します。

これまで見過ごされてきた「公平性」を体現するオフィスを創造することは、すべての従業員が尊重される組織文化を育み、企業価値を高めるのに不可欠な戦略となるでしょう。

この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
X:よこうちみほこ Facebook:よこうちみほこ

メルマガ限定で配信中

プロが教える“オフィス移転の成功ポイント”

  • 組織づくり・ワークプレイスのトレンドを素早くキャッチ
  • セミナーやイベント情報をいち早くお届け
  • 無料相談会やオフィス診断サービスを優先的にご案内!
無料でメルマガを登録する

資料一覧

*1 出所)ボストン大学「Inequity, Equality, Equity, and Justice」
https://www.bu.edu/diversity/resource-toolkit/inequity-equality-equity-and-justice/

*2 出所)MARIN HHS(カリフォルニア州マリン郡保健社会サービス部)「Equity vs. Equality: What’s the Difference?」p.1, 2
https://www.marinhhs.org/sites/default/files/boards/general/equality_v._equity_04_05_2021.pdf

*3 出所)経済産業省 METIジャーナル「知っておきたい経済用語 DEIってなに?」https://journal.meti.go.jp/p/39780/

*4 出所)経済産業省「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」(2025年4月)p.6
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversityreportr2.pdf

*5 出所)日本貿易振興機構JETRO「目的と対象者拡大の経緯 トランプ米大統領のDEI廃止の影響(前編)」(2025年4月14日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/78ef6474cd6b9ad2.html

*6 出所)日本貿易振興機構JETRO「社会的背景・事例・展望 トランプ米大統領のDEI廃止の影響(後編)」(2025年4月14日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/29fb0dd86796c3dd.html

*7 出所)ランスタッド「米国の反DEIの流れで改めて問われるビジネスにおけるED&Iの重要性と覚悟」(2025年2月17日)
https://services.randstad.co.jp/blog/hrhub20250216

*8 出所)ザイマックス総研 「オフィスに焦点をあてる:オフィス回帰を阻む6つの壁とその対処法」
https://soken.xymax.co.jp/hatarakikataoffice/viewpoint/worktrend/column44.html

*9 出所)Midium “What happens when equitable design isn’t at the forefront of UX”(2021年4月30日)
https://emdoesux.medium.com/what-happens-when-equitable-design-isnt-at-the-forefront-of-ux-92fc30da18a4

*10 出所)経済産業省「ニューロダイバーシティの推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversity.html


組織力の強化や組織文化が根付くオフィス作りをお考えなら、ウチダシステムズにご相談ください。

企画コンサルティングから設計、構築、運用までトータルな製品・サービス・システムをご提供しています。お客様の課題に寄り添った提案が得意です。

この記事を書いた人

アバター

そしきLab編集部

【この記事は生成AIを利用し、世界のオフィスづくりや働き方に関するニュースをキュレーションしています】