オフィスを「借りて作る」以外の選択肢 なぜ今サービスオフィスなのか?広がる使われ方と予想される効果は?

東京23区のフレキシブルオフィスは、2020年1月の569件から2025年12月の1,964件へ、6年で約3.4倍に増えた。面積は約34.2万坪、東京23区のオフィスストック1,323万坪の約2.6%にあたる。

数字だけ見ると「働き方が変わったから増えた」という話に見える。ただ、実際に動いているのはもっと即物的な事情だ。借りる床がない。作る費用が上がっている。それでも人はオフィスに戻っている。

この3つが同時に起きたとき、企業の選択肢に何が起きるのか。公開されている統計だけで読み解いていく。

まず、呼び方を整理する

この分野は、名前が定まっていない。同じような施設が、レンタルオフィス、シェアオフィス、サービスオフィス、サテライトオフィス、コワーキングと呼び分けられている。

ザイマックス総研も、早稲田大学との共同研究の冒頭で同じことを書いている。

市場が急成長すると同時に、サービス内容の多様化・細分化が進み、事業者によって「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」などさまざまな呼称が使用されており、フレキシブルオフィスについての分類や共通言語の整理ができていないのが実情だ

同レポートは、この分野を「フレキシブルオフィス」と総称したうえで、こう定義している。

一般的なオフィスの賃貸借契約によらず、利用契約・定期建物賃貸借契約などさまざまな契約形態で、事業者が主に法人および個人事業主に提供するワークプレイスサービス

そのうえで「レンタルオフィス」と「サービスオフィス」の違いを、次のように書き分けている。

レンタルオフィス

自宅とは別に仕事の拠点を設ける、一等地に事務所を構えて信頼を得る、といった使い方。「大企業であっても、短期のプロジェクト用にオフィスが必要な場合や、人数変化等により自社オフィスに面積が足りなくなった場合などに、必要な分だけ契約する使われ方もある」

サービスオフィス

「レンタルオフィスと同様の機能を持つが、入居者共有の会議室や備え付けの什器、有人受付や秘書サービスをはじめとした付加サービスがより充実していることが多い」

つまり分かれ目はサービスが付いているかどうかで、面積や規模ではない。この記事では、公開データがフレキシブルオフィス全体で取られている場面ではその言葉を使い、有人受付や秘書サービスが付く上位グレードを指すときにサービスオフィスと呼ぶ。

なお、ザイマックス総研の拠点数には1人用の個室ボックスが含まれる。「1,964拠点のサービスオフィスがある」という読み方は正確ではない。

6年で3.4倍。ただし1拠点は小さくなっている

拠点数の推移を、調査7回分すべて並べるとこうなる。

  • 2020年1月:569件/約16万坪/ストック比 約1.2%
  • 2021年1月:762件/19.4万坪/約1.5%
  • 2022年1月:1,080拠点/約21.4万坪/約1.6%
  • 2022年10〜12月:1,260拠点/約23.9万坪/約1.8%
  • 2023年11月〜2024年1月:1,437件/約25.5万坪/約1.9%
  • 2024年12月:1,777件/約30.8万坪/約2.3%
  • 2025年10〜12月:1,964件/約34.2万坪/約2.6%

ただし単純な連続成長として読むのは危険で、原典も注意書きを付けている。2022年1月までの調査は開業予定の拠点を含み、2022年10〜12月の調査からは営業中のみを対象にしている。2024年12月の調査からは貸会議室が対象に加わり、その前年から調査地域も広がった。定義が途中で変わっている。

そのうえで、拠点数と面積の伸び方の違いには意味がある。拠点数は約3.4倍になったが、面積は約2.1倍にとどまる。1拠点あたりの平均面積を割り算すると、約281坪から約174坪へ小さくなっている計算だ。

首都圏では「複数拠点型」がいずれの地域でも9割前後を占め、都心5区では「貸会議室タイプ」の割合が8.8%と最も高い。小さい拠点をネットワークで広げる方向に、市場全体が動いている。

参考までに、CBREは東京のフレキシブルオフィス市場を26.7万坪(2024年末時点)、2015年比3.5倍と算出している。ザイマックス総研の34.2万坪とは定義も時点も対象地域も違うので、この2つを並べて増減を論じることはできない。この分野は、市場規模の数字ですら比較できない状態にある。

借りようとしても、中規模の床が出てこない

「なぜ今か」の1つ目は、供給側にある。

三鬼商事の2026年6月時点の調査では、東京ビジネス地区(都心5区)の平均空室率は1.99%で、2020年6月以来の1%台に入った。平均賃料は坪22,993円、前年同月比で10.14%上がっている。CBREの2026年第1四半期調査では、東京グレードAの空室率0.7%、想定成約賃料は坪43,250円で前年同期比15.5%上昇。

ここまでは知られた話だ。効いてくるのはこの先で、ザイマックス総研の新規供給予測が規模別の内訳を出している。

  • 延床3,000坪以上10,000坪未満の中規模物件:2026〜2029年の年平均供給量は1.2万坪。過去10年平均の2.2万坪を下回る
  • 延床10,000坪以上の大規模物件:年平均15.0万坪。過去10年平均14.3万坪を上回る
  • 東京23区全体:2026〜2029年で64.5万坪、うち都心5区が87%

大規模ビルは平均を超えて建つのに、中規模ビルは供給が約半分に落ちる。

これが何を意味するか。100人前後の組織が欲しがるのは、300坪から500坪くらいの床である。大規模ビルの基準階は1,000坪を超えるものが多く、1社で借りるには大きすぎる。かといって中規模ビルからは新しい床が出てこない。探している規模の帯だけが、市場から細っていく。

作る費用も、上がり続けている

「なぜ今か」の2つ目は、内装費だ。

建設物価調査会の建築費指数では、事務所(S造)の工事原価指数は2026年6月時点で143.8(2015年=100)、前年同月比4.3%上昇。前年同月比への寄与を細目で見ると、上位に「上記以外の建築細目」「電線・ケーブル」「電気機器」「軽鉄軸組」が並ぶ。内装工事に直結する項目が押し上げている。

もう少し長い時間軸では、日本建設業連合会が2026年5月時点でこう公表している

建設資材物価は、2021年1月と比較して39%上昇しています。

材料費割合を50~60%、労務費率30%と仮定すると、この62か月で、建設資材の高騰・労務費の上昇の影響により、仮設費・経費などを含めた全建設コスト(平均)は、28~32%上昇

2026年3月から適用になっている公共工事設計労務単価は、2021年1月当時と比べ、全国全職種単純平均で27.8%上昇

後段の28〜32%は、日建連が材料費割合と労務費率に仮定を置いて算出した試算値である。実測ではない点は原典も明記している。ただし資材物価39%と労務単価27.8%は実数だ。

CBREも、フレキシブルオフィスが選ばれる理由の筆頭にこれを挙げている。

入居工事費の高騰と工事期間が長期化する中で、初期費用を抑えられる点や契約形態が柔軟である

ただし、これらは建物の新築工事費と建設コスト全体の指数だ。オフィス内装工事(B工事・C工事)そのものの坪単価は、目的や作り込みの度合いで大きく変わるため、そもそも一律の相場が成立しにくい。調査手法と母数が明示された公開データも見つけられなかった。

そこで、借りる側のコストのほうを見る。こちらは、はっきりした数字が出ている。

三井不動産の2026年3月期 決算ハイライトは、同社の主要開発エリアの募集賃料を2010年比で示している。

  • 八重洲・日本橋・京橋:185%(2026年4月時点 51,412円/坪)。東京主要エリアで最も高い水準
  • 日本橋本町・室町:175%(同 39,600円/坪)
  • 同社首都圏(単体)のオフィス空室率:1.6%(2026年3月末時点。都心5区の市場平均2.2%を下回る)
  • オフィス賃貸収益:2019年度3,602億円 → 2025年度4,865億円(6年間で約1.4倍)

そして2029年1月竣工予定の八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業について、同資料はこう書いている。

当社のリーシング力、様々なハード・ソフトサービスの企画・提供力等により、複数の「10万円/月・坪」のテナント契約が実現。

坪10万円という水準は、少し前まで想定されていなかった価格帯だ。これが一等地の新築で成立している。

新築だけの話でもない。同社の2026年3月期 プレゼンテーション資料は、既存オフィスについて「希少性の高い都心物件を中心に数十%の増賃を前提として」「当期は、全国平均+2桁%での増賃改定を実現する方針」と書いている。三菱地所も2026年3月期のIRプレゼンテーションで、既存ビルの賃料改定を含めて「総じて好調」とし、丸の内の空室率を0.55%(2026年3月末時点)としている。

つまり、作る費用も、借りる床の賃料も、両方が上がっている。床が出てこないうえに、出てきた床は以前より高く、そこに入れる内装も以前より高い。この3つが重なったとき、「セットアップ済みの床を、必要な期間だけ借りる」という選択肢の相対的な価値が上がる。

出社は戻っている。ただし在宅は消えていない

「なぜ今か」の3つ目は、需要の形が変わったことだ。ここは物語が先行しやすい領域なので、一次調査で確認しておく。

まず「出社回帰でテレワークが消えた」という理解は、統計と合わない。国土交通省の令和7年度テレワーク人口実態調査(2025年10月24日〜11月4日実施、有効サンプル40,000人)はこう書いている。

コロナ禍後は、減少が継続していたが、令和7年度調査において増加に転じ、安定基調で推移。

  • 直近1年間のテレワーク実施率(全国):16.8%(前年度比 +1.2ポイント)
  • 雇用型テレワーカーの割合(全国):25.2%(+0.6ポイント)
  • 首都圏の雇用型就業者は「令和2年度以降は3割超の水準を維持」

企業側の実態も同じ方向を指す。ザイマックス総研の大都市圏オフィス需要調査2025秋(2025年11〜12月調査、有効回答1,555件)では、平均出社率71.0%。「100%完全出社」は22.3%にとどまり、出社率60〜99%のハイブリッドが47.0%と約半数を占める。1年前と比べて「変わらない」が77.2%、今後も「変えない」が64.6%。

  • 平均出社率:全国71.0%/東京23区66.2%/福岡市81.8%
  • 在宅勤務制度の導入率:45.1%(2021秋の61.3%をピークに低下し4割台で推移)
  • 過去1年のオフィス面積:拡張12.9% > 縮小6.2%
  • 今後2〜3年:拡張したい18.0% > 縮小したい5.5%
  • オフィスが「狭い」と感じる企業32.4% >「広い」13.3%
  • メインオフィスの課題1位:「会議室やリモート会議用スペースなどが不足している」57.7%(2位の24.2%を大きく引き離す)

縮小の時代は終わっていて、いま起きているのは「足りない」である。しかも足りないものの中身が変わった。増設・新設したいスペースの上位は「リモート会議用ブース・個室」16.9%、「会議室(個室)」15.6%。ハイブリッドで会議をする前提が、必要な部屋数を押し上げている。

唯一、意向が実態を上回っている施策

同じ調査に、この記事でいちばん重要な数字がある。

  • 在宅勤務制度:実態 45.1% / 今後導入したい 34.4%
  • サテライトオフィス:実態 29.7% / 今後導入したい 35.9%

在宅勤務は、実態のほうが意向より11ポイント高い。すでに入れた会社のうち一定数が、これ以上は広げないと考えている。

サテライトオフィスだけが逆を向いている。実態29.7%に対して意向35.9%。原典もこの点を明記している。

> サテライトオフィスの導入意向は35.9%と、実態(29.7%)よりも高く、また、「在宅勤務制度」の導入意向よりも高い結果となった

在宅は伸びしろがマイナス、分散拠点はプラス。この非対称が、フレキシブルオフィス市場の直接の追い風になっている。

ひとつ注意がある。この調査の対象には、サテライトオフィスサービスの契約先が含まれている。導入率29.7%は一般企業全体より高めに出ている可能性がある。ただし意向と実態の差の向きは、母集団バイアスでは説明しにくい。実態が高めに出る母集団で、なお意向がそれを上回っているからだ。

どう使われているか

では実際に何に使われているのか。公表されている導入事例から、使い方の型が見える。以下は三井不動産ワークスタイリングの公式導入事例に実名で掲載されているものだ。

  • リニューアル工事中の仮拠点 ── エムエム建材:本社リニューアル工事の期間中、会議や採用面接に活用。「延べ450人以上が利用」
  • 移転までのつなぎ ── Facilo:「わずか1ヵ月、”最速最短”で移転完了」
  • 支店の移転 ── トーラク:神戸本社の食品メーカーが東京支店の移転で利用
  • 日本法人設立時の拠点 ── FitesaCNC Japan:「決め手は”1人から始められる”柔軟さ」/Meinhardt Japan:日本法人設立を機に導入
  • 本社機能の一部 ── あおぞら銀行:「ワークスタイリングを活用して銀行の窓口業務を行う」
  • 企業間の接点 ── NTTデータとAGC:「業種の異なる2社が出会い、働き方改革のためのプロジェクトを推進」

並べてみると、性格がはっきりする。多くが「本設備が整うまでの間」か「本体とは別に立てる小さな拠点」である。メインオフィスを丸ごと置き換える使い方は、公表事例のなかでは少ない。

CBREも匿名の事例分析で、メインオフィスとして選ぶ理由を5点挙げている。好立地・ハイグレードビルでも借りやすい、スピード感のある入居が可能、コストパフォーマンスに優れる場合も、契約期間に柔軟性がある、全国各地で系列オフィスの利用が可能。そのうえで「フレキシブルオフィスは入退去時のコストを抑えられる反面、月額固定費が一般的なオフィスの賃貸借契約と比べて割高になるケースが多い」とも書いている。割高だと自ら書いている点が正直だ。

損益分岐点は、だいたい3年

最後に費用の話をする。ここは唯一、通常の賃貸オフィスと比較したシミュレーションが公開されている。

CBREが100人規模・3年で試算した前提条件は次のとおりだ。

通常賃貸オフィス

  • 賃貸面積300坪/月額賃料30,000円/坪
  • 入居工事費675,000円/坪
  • 原状回復費140,000円/坪
  • 二重賃料期間2ヶ月(18,000,000円)
  • ランニングコスト3,000円/坪・月

フレキシブルオフィス

  • 収容人数100人/月額席料10,000円/人
  • 初期登録料20,000円/人
  • コピー代50,000円/月
  • 会議室(4人用)3,000円/時間

そしてCBREの結論はこうだ。

一般的には3年程度を目安として考えるケースが多い

3年より短く使うなら借りたほうが安く、長く使うなら自分で作ったほうが安い。逆に言えば、3年先の人数が読めない組織にとっては、初期投資を回収できる保証がないということでもある。

ここで前の章に戻る。中規模の床は供給が半分になり、建設コストは5年で3割上がった。この2つは、自分で作る側の初期投資と回収期間の両方を悪化させる。3年という分岐点が、以前より後ろにずれているということだ。

まとめ

サービスオフィスが増えている理由は、働き方が変わったからだけではない。

借りたい規模の床が市場から細り、それを作り込む費用が上がり、それでも人はオフィスに戻ってきて「狭い」「会議室が足りない」と言っている。この3つが同時に起きたとき、セットアップ済みの床を必要な期間だけ借りるという選択肢が、消去法で浮上する。

そして企業がその場所を選ぶ理由は、コストの比較だけではない。日本法人を立ち上げる、支店を移す、工事中の450人を受け止める——いずれも「この時期にこの場所にいる必要がある」という判断だ。所有か賃借かではなく、必要な期間だけその場所にいるという三つ目の持ち方が、選択肢として定着しつつある。

では、実際にどう選ぶのか。次回は17ブランドを横断し、登記して構える・工事中の仮拠点・外資の日本進出・沿線の分散サテライト・出島という5つの状況別に、候補を3〜5つへ絞る早見表を作る。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参考資料

市場データ

建設コスト

働き方

使われ方・費用比較


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