
仕事でミスをすると、誰でも落ち込むものです。
しかし、その失敗を何日も引きずると、「また失敗するのではないか」と不安になったり集中できなくなったりといった悪循環につながりかねません。
実は、こうした状態は単なる性格の問題ではなく、職場環境が関係している可能性があります。
近年は「心理的安全性」という考え方にも注目が集まっており、ミスを安心して共有できる環境づくりの重要性が指摘されています。
そこで、この記事では仕事のミスを引きずる背景や職場環境との関係、立ち直るための工夫について医師の視点から解説します。
この音声コンテンツは、記事の文脈をAIが読み取り独自に対話を重ねて構成したものです。文章の読み上げではなく、流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。※AIで作成しているため、一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
なぜ仕事のミスを引きずってしまうのか?脳とストレスの仕組み
人はどうして仕事のミスを引きずってしまうのでしょうか。
それには、もともと人の脳に備わっている仕組みが関係しています。
人はネガティブな出来事を強く記憶しやすい
人は様々な状況において、肯定的な情報よりも否定的な情報に注意を向け、そこから学び、利用する傾向が強くみられます。
つまり、ポジティブな体験よりもネガティブな体験の方に大きな影響を受けるということです。
こうした心のあり方は、ネガティビティバイアスとも呼ばれます。*1
ネガティビティバイアスは、有害な状況を適切に回避しながら安全な環境を探索するのに役立ちます。
このような傾向は、危険を回避しながら生き延びるために、進化の過程で身についた合理的な性質とも考えられています。
現代の日常生活でも、ミスなどのネガティブな出来事は強く記憶に残りやすく、同じ失敗を繰り返さないよう何度も思い返してしまうことがあります。
これは、今後の成功のためには理にかなった仕組みともいえるでしょう。
ミスを繰り返し思い出すとストレスが続きやすくなる
一方で、ミスを何回も思い出してしまうことで長期間にわたるストレス状態につながるケースもあります。
長期間にわたり、何回も反復して心理的なストレスなどがかかると、心身ともに少しずつ負担が蓄積していきます。
このような状態は、アロスタティック負荷と呼ばれることもあります。
アロスタティック負荷が生じると、睡眠障害やいらだち、社会生活や仕事でのパフォーマンスの低下、さらには日常生活での負担が増えるような感覚が生まれるなど症状として現れるケースもみられます。*2
同じ失敗について何回も考えてしまうことは、失敗を繰り返さないためにはある程度必要な場合もあるものの、ストレスがかかった状態につながってしまう懸念もあるのです。
失敗を引きずりやすいのは個人の問題だけではない?職場環境との関係
ミスや失敗をしたあとにもずっとそのことを気にかけてしまうのは、個人の性格の問題と思われるかもしれません。
しかし、実際には職場環境とミスの引きずりやすさには密接な関係があります。
マルチタスクや過度なプレッシャーはストレスを高める
職場でのストレス要因にはさまざまなものがあります。
例えば、作業負荷や、人手不足、物理的な環境、勤務時間がきちんと管理されていないといった労働条件そのものによるものがあります。
さらに、責任の重い、要求が多い仕事、プレッシャーなどがかかる仕事もストレスが高まる要因となります。*3
コミュニケーション不足などもストレスをためやすくなる要因に
職場の人間関係にまつわる要因も、ストレスが高まる原因となりえます。
職場からのサポートが不十分だったり、不当な扱いを受けていると感じていたりする場合にもストレスがたまりやすくなります。
コミュニケーションがそもそも取りづらい、取れていないような職場では、失敗を上司や同僚などに相談することも気軽にしにくい状況になります。
そうした体制が、ミスを隠蔽するリスクを高める懸念もあります。
過度な不安は次のミスを招くこともある
仕事のミスを引きずることで、個人のパフォーマンスの低下のみならず、組織全体への影響がもたらされるリスクがあります。
一度ミスをすると、「次もまた同じような失敗をするのでは」という不安を感じることもあるでしょう。
不安な気持ちが過度になると、ネガティブな出来事が気になるようになり、集中力の低下につながるケースがあります。
結果として、仕事にも社会生活にも悪影響がもたらされる可能性があります。
このように、過度な不安は次のミスを招くこともあるのです。*4
仕事のミスから立ち直るためにできること|個人としての対策
ミスや失敗をした原因を明らかにし、再発を防止することは必要です。
しかし、引きずりすぎるとその後の仕事のパフォーマンスに影響を与えることもあるため、適度に気持ちを切り替え、立ち直るような工夫をするようにしましょう。
再発防止と自己否定を分けて考える
仕事でミスをしてしまうと、ついつい自分を責めてしまい自己嫌悪に陥るというループにはまってしまうこともあるでしょう。
しかし、長く引きずりすぎないことも、社会人として仕事をしていく上では大切なことです。
そこで、まずは事実を客観的に受け止め、振り返るようにしてみるとよいでしょう。
ここで自分の人格を否定するような反省の仕方はしないよう心がけます。
筆者も医師として働くなかで、これまでいろいろな失敗をして、上司から叱責を受けることもありました。
失敗の多くは「これくらいなら良いだろう」などといったわずかな油断からくるものでした。
特に研修医の頃は、失敗をしてしまうたびに「私はなんて役立たずで、だめな医師だろう」と落ち込むことも多かったと記憶しています。
もちろん、筆者の医師としての職業の性質上、ミスはあってはならないものであり反省・分析することは必要不可欠です。
しかし、自分の人格否定をするとその後の仕事を続けることも辛くなってしまいます。
失敗を乗り越えるため、筆者自身も、失敗した事実と自己否定は別物だと考えるように考え方の工夫を行ってきました。
経験を重ねた現在では以前より大きな失敗は減りましたが、今でもうっかり忘れたり思い込みをしたりして反省することはあります。
このようなときには心の整理をするため、メモなどに自分の考え方や気持ち、ミスが起こった背景などを書き出すようにしています。
もし参考になれば試してみてくださいね。
睡眠や休息を軽視しない
疲労はミスに直結します。
そのため、脳の回復やストレス軽減のため、睡眠や休息をしっかりととるようにします。
職場で相談できる相手を持つ
上司や同僚などと普段から積極的にコミュニケーションを取り、相談できる相手を作ることも大切です。
もし難しければ、企業の保健師などのスタッフに相談することや、外部の相談窓口の活用も検討するとよいでしょう。
仕事のミスから立ち直るためにできること|職場としての対策
次に、職場全体として、従業員がミスから立ち直りやすくなる取り組みのヒントを紹介します。
心理的安全性の高い職場を作る
個人がミスをしたときに周囲に相談しづらいような職場は、全体としての生産性が低くなるリスクが生じます。
一方で、近年では職場の環境作りの重要な概念として心理的安全性という要素に注目が集まっています。
心理的安全性とは、失敗や疑問、不安などを率直に伝えても、否定されたり不利益を受けたりしないとメンバーが感じられる状態のことです。*5
つまり、「わからない」「困っている」「ミスをしてしまった」といったことを安心して共有できる職場環境ともいえます。*6
また、職場で周囲との信頼関係が築かれていると心理的安全性が高まり、従業員が組織への帰属意識を持ちやすくなり、離職率の低下につながる可能性が指摘されています。*7
心理的安全性の高い職場を作ることで、ミスをしても予防策を講じやすくなり、職場への従業員の定着にもつながる効果が期待できます。
組織として取り組める工夫の例
心理的安全性が高い職場には、話しやすさ・助け合う雰囲気がある・挑戦しやすい・新しいことや珍しいことを喜んで受け入れやすいという特徴があります。*8
そうした雰囲気作りのため、コミュニケーションをとる機会を増やす、カジュアルミーティングでアイディアを活発に出す場を設けるなどの方法が役立ちます。加えて活気ある職場を作るため、上司が自分の失敗談を率直に部下など周囲の人に話すこともよいですね。*9
誰でも失敗の経験があります。
「自分の上司も同じようにミスをしてきたのか」と感じられる機会を持つことで、従業員の心の負担が軽くなることもあるのではないでしょうか。
心理的安全性向上への取り組みが進んでいる企業の例
心理的安全性を感じながらコミュニケーションを取りやすく活躍しやすい職場環境の整備に注力している情報通信業の会社もあります。
相談しやすい環境づくりを目的とし、上司が部下の話を聞くミーティングを週1回実施する、組織の幸福度や心理的安全性などを可視化するサーベイランスを実施するなどの施策がとられています。*10
心理的安全性を高めるためにABWEが役立つ可能性
近年では、さまざまな仕事内容に適した環境を用意する、ABWE(activity-based work environment)という考え方にも注目が集まっています。*11
これは、個人が集中して仕事を行うことができるブースを用意したり、打ち合わせに適した場所を用意したりといったものです。 国内の研究では、ABWEによって心理的安全性が高まり、従業員がより前向きに仕事へ取り組みやすくなる可能性が報告されています。*12
パーテーションなどで集中スペースやコミュニケーションスペースのほか、1対1で話ができる空間を設けるなどの工夫によって、心理的安全性をより高めることができる可能性があります。
できる範囲で、仕事に合わせた場所を用意できるとよいですね。
まとめ
ミスを引きずるのは珍しいことではありません。
しかし、それが長く続く場合には自分だけを責めるのではなく、ストレスや環境にも目を向けることが大切です。
ミスをしたときには再発防止を考えることも大切ですが、必要以上に自分を責め続ける必要はありません。
今回の記事が、ミスを引きずりすぎないようにするためのヒントになれば幸いです。
この記事を書いた人

木村 香菜
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医、日本人間ドック・予防医療学会認定医。
資料一覧
*1 Vaish A, Grossmann T, Woodward A. Not all emotions are created equal: the negativity bias in social-emotional development. Psychol Bull. 2008 May;134(3):383-403.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3652533/
*2 Pfaltz MC, Schnyder U. Allostatic Load and Allostatic Overload: Preventive and Clinical Implications. Psychother Psychosom. 2023;92(5):279-282.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10716872/
*3 Bhui K, Dinos S, Galant-Miecznikowska M, de Jongh B, Stansfeld S. Perceptions of work stress causes and effective interventions in employees working in public, private and non-governmental organisations: a qualitative study. BJPsych Bull. 2016 Dec;40(6):318-325.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5353523/
*4 Robinson OJ, Vytal K, Cornwell BR, Grillon C. The impact of anxiety upon cognition: perspectives from human threat of shock studies. Front Hum Neurosci. 2013 May 17;7:203.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3656338/
*5 心理的安全性を高める職場づくりの実践例.産業ストレス研究.2025;32(4):321-327. p321
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajsr/32/4/32_321/_pdf/-char/en
*6 Mogård EV, Rørstad OB, Bang H. The Relationship between Psychological Safety and Management Team Effectiveness: The Mediating Role of Behavioral Integration. Int J Environ Res Public Health. 2022 Dec 27;20(1):406.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9819141/
*7 心理的安全性と産業保健における意義.産業医学レビュー.2025;38(1):53-77 p55
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ohpfrev/38/1/38_53/_pdf/-char/ja
*8 心理的安全性を高める職場づくりの実践例.産業ストレス研究.2025;32(4):321-327. p322
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajsr/32/4/32_321/_pdf/-char/en
*9 心理的安全性を高める職場づくりの実践例.産業ストレス研究.2025;32(4):321-327. p323
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajsr/32/4/32_321/_pdf/-char/en
*10 企業取組事例 株式会社PHONE APPLI|厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/phoneappli.html
*11 オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討.産業・組織心理学研究.2021;34(2):179-193. p181
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/34/2/34_179/_pdf/-char/ja
*12 オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討.産業・組織心理学研究.2021;34(2):179-193. p188
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/34/2/34_179/_pdf/-char/ja
組織力の強化や組織文化が根付くオフィス作りをお考えなら、ウチダシステムズにご相談ください。
企画コンサルティングから設計、構築、運用までトータルな製品・サービス・システムをご提供しています。お客様の課題に寄り添った提案が得意です。
