「タバコ休憩はずるい」議論に潜む、オフィスの空気感の問題を紐解いてみよう

タバコを吸う人が減っているなか、業務時間中に喫煙者がタバコを吸うために席を外すのはずるい、不公平ではないかーー
そんな議論が広がっています。

これに対する100%の回答はおそらくないことでしょう。
ただ不公平、不平等といった感情を持ちながら、あるいは持たれているという思いをしながら働くのは非喫煙者、喫煙者ともに心地よいことではありません。

そこで自社なりの考え方や、なんらかのルールがあったほうが良いのは事実です。

タバコ休憩をどう捉えるか。ここで一緒に考えていければと思います。

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タバコ休憩に関するアンケート

まず、マイナビスカウティングが今年2月に実施したタバコ休憩についてのアンケート結果からご紹介します。

タバコを吸う人の割合は、「吸う」という人が41.6%、「吸わない」という人が58.4%でした。*1

そしてタバコ休憩をする社員は不快かどうかという質問についての回答は下のようになっています。

タバコ休憩は不快かどうか
(出所:マイナビスカウティング「タバコ休憩をする社員が思われていること【アンケート】」)
https://scouting.mynavi.jp/contents/questionnaire/1797/

47.5%が「不快」、52.5%が「なんとも思わない」という結果です。

そして不快だと思う理由については下のようになっています。

タバコ休憩に納得がいかない理由
(出所:マイナビスカウティング「タバコ休憩をする社員が思われていること【アンケート】」)
https://scouting.mynavi.jp/contents/questionnaire/1797/

「タバコの臭い」は物理的な問題として、後には

・タバコ休憩が許されていること
・給与に差がないこと

という、感覚的な理由が続いています。「給与に差がない」つまりタバコ休憩をしない人より休憩時間が長いのならその分を給料から差し引け、ということですが、そこまで言われてしまうと、喫煙者である筆者は勤務先の選択肢がかなり減りそうです。
吸う理由も少しだけ弁解したいと思います。

喫煙者の事情も少し聞いてほしい

「そもそもタバコなんて百害あって一利なしなんだから、吸わなきゃみんなが平和で健康にもいいじゃん」という完全に合理的な話を突きつけられてしまえばそれまでですが、ここで喫煙者の話も少しだけ聞いてもらえればな、と思います。

筆者はTBSにいた頃は、完全にタバコに救われてきたところがあります。単なる依存症と言われてしまえばそこまでですが、喫煙者にとってタバコは、短時間で気持ちの切り替えができる大事なアイテムなのです。野球選手にとってのガムを噛んでいる時間のようなものでしょうか。

特に筆者の場合、考えに行き詰まったりしたときに「一旦席を立って考えたほうが早い」という考えを現実にしてくれるアイテムで、集中しすぎて頭が疲れた時にリセットしてくれるものでした。
分単位で時間に追われている報道の現場では特に、残業して業務量をこなせば良いという考え方はありません。
どんな状況だろうと、決まった時間までに決まったものを、それも分単位で完成させなければならないわけです。それができなければ放送事故が起きてしまいます。

そんな環境でも「急がば回れ」と一旦気持ちを緩めてくれ、短時間で立て直すことができるのです。

そして、これは吸わない人には理解しづらいことかもしれませんが、独特の人間関係が生まれるのは事実です。むしろ喫煙者の肩身が狭くなればなるほど、喫煙所での喫煙者同士の不思議な仲間意識は濃くなっていることと思います。

筆者の先輩社員は、ある外交交渉の同行取材中、当局の官僚と喫煙所で2人きりになったときに交渉結果をコッソリ知り、大スクープを打ったことがあります。
喫煙者にとって喫煙所とは、取材相手や他部署の人と話す良いきっかけになっているのです。人間関係のスタートラインが少し変わるのは事実です。

不毛な議論に陥るのは避けるべき

もちろん喫煙者が感じているこうした生産性は、非喫煙者にどれだけ語っても伝わるとは思いませんし、なんならタバコを吸いに席を立つのに罪悪感を感じている人も多いだろうと思います。
ただ喫煙者にとってみれば、かつては自席で自由に吸えていたものが、変わったのは本人ではなくて周囲だという感覚もあります。
もっとも、体にとっては悪いだけのものですから、周囲の変化に合わせて止めることができればそれは幸いなことです。しかし全員がそうはいきません。コーヒーを飲むのと同じような感覚だからです。

また、席に座っている=成果、ではないと筆者も考えます。

リフレッシュの方法は人それぞれです。タバコやコーヒーもそうですが、ガムで眠気を解消する、実際に短時間の仮眠を取る、おやつタイムに甘いものを摂るのを1日の楽しみにする、スマホをいじる、それぞれあって良いと思います。

ただ、「それで何分消費したんだからその分給料を引け」という議論は少し違うのではないかということです。
すると、あなたはタバコ休憩には行かないけれどスマホを自分よりも何分長くいじっているじゃないか、いや、でもあなたは私たちと同じように昼休みを取ってプラスアルファでタバコ休憩をしているじゃないですか…そんな議論ほど不毛なものはないのでしょうか。
それを言い出すと、業務中にトイレに行く回数までもカウントしなければならなくなります。

ならば全員ストップウォッチをつけて細かい休憩時間を計測するのか?となってしまいます。それは物理的に不可能なことです。

不公平感の源をさぐる

さて、先ほどご紹介したマイナビスカウティングのアンケート調査によると、喫煙者が1日の業務でタバコ休憩を取る時間は下のようになっています。

1日の業務中にタバコ休憩をする時間
(出所:マイナビスカウティング「タバコ休憩をする社員が思われていること【アンケート】」)
https://scouting.mynavi.jp/contents/questionnaire/1797/

最も多いのが「30分未満」という回答です。8時間勤務であればそんなものだろうな、と筆者も理解できる数字です。1時間以上というのは喫煙者の筆者でもちょっとやりすぎかなあと感じます。

そして吸わない人も、同じように堂々と席を立ってのコーヒー休憩やおやつ休憩を取りやすいようにすれば良いのではないかなと筆者は思います。席を立って少し歩くのは体にも良いことです。
ストレスの源として最も大きいのは「席を外せないこと」ではないかと思います。常に「見られている」感覚が抜けないためでしょう。
座っている時間が業務量に直結するわけでもありません。

1日の間に30分程度。連絡さえ取れれば多少席を外しても問題ないかと思います。
それよりも、「自席に座っていないとサボっているように思われる」という根拠のない圧迫感と性悪説が蔓延している空気のほうに問題があるように筆者は思います。
まずその空気を改善しなければ、細かいルールを作っても重箱の隅をつつく議論が永遠に続くだけです。タバコ以外の環境についても、なにかにつけてキリのない不満足感を生み出す土壌は排したいものです。

物理的な課題解消には可能性も

さて最後に、物理的な問題としての「臭い」「受動喫煙」といったことについては、物理的な解消が可能な部分があるでしょう。

臭いや受動喫煙については、筆者も周囲に「申し訳ないなあ」と思うところがあります。吸わない人は自分よりもはるかに臭いを感じることもわかっています。
加熱式タバコに変えてから多少マシにはなったかなと思いつつも、それはそれで別の独特の臭いがすることにも気づきました。

この点は、例えばフリーアドレスで吸う人・吸わない人に分られるような仕組みづくりなどができるかと思います。空気清浄機の配置も変えると良いでしょう。
また、消臭剤など個人でも気を付けることがある程度はできるかと思います。

「タバコなんて誰も吸わなければいいのに」
それは正論中の正論です。

しかし喫煙にもそれなりの理由や効果があるのは事実で、ですから喫煙者にはなるべく本数を控えるよう呼びかけ、非喫煙者にはもっと自由に小休憩をとっても良いという柔軟性があることが大事でしょう。

そして最も重要なのは「座っているべきか席を少々外しても良いか」という自己判断力です。座っているべきタイミングなのか多少席を立っても大丈夫なのか、という業務の効率性に対する判断が自分でできない従業員が多いとすれば、それは会社としてかなり深刻な状況です。

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。
X(旧Twitter):清水 沙矢香 FaceBook:清水 沙矢香

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参考資料

*1 マイナビスカウティング「タバコ休憩をする社員が思われていること【アンケート】」
https://scouting.mynavi.jp/contents/questionnaire/1797/


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そしきLab編集部

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