
リモートワークの普及をきっかけに郊外へ転居したという話はよく聞くものです。
筆者が住んでいる湘南エリアでも、「コロナで東京からたくさん人が引っ越してきた」と地元で商売をされている人は口を揃えて言います。
新宿駅や東京駅まで1時間ほどの距離です。通勤時間の電車は混みますが、週に2、3日の出勤ならば耐えられるというところでしょうか。
ただ、それは通勤を前提にした転居です。
そうではなく、完全に遠く離れた山里に、様々な企業のサテライトオフィスを集積させている町があります。
外資系企業も進出しているその町の魅力はどこにあるのでしょうか。
メリット、デメリットを見ていきましょう。
この音声コンテンツは、そしきlabに掲載された記事の文脈をAIが読み取り、独自に対話を重ねて構成したものです。文章の単なる読み上げではなく、内容の流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。
※AIで作成しているため、読み上げ内容に一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
広がるオフィスへの回帰
新型コロナが感染症法上の5類に移行して1年以上が過ぎ、会社員のオフィス回帰が進んでいます。
アマゾン・ジャパンはことしに入ってから原則週5の出社を義務化、サントリーHDは昨年4月から在宅勤務手当を廃止、パナソニックコネクトは23年7月から原則週3日以上の出社を要請するなど、大企業でも体制を戻しつつあります。*1
ことし1月からの週5出社を義務付けた米アマゾン・ドット・コムのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は9月、従業員向けに「過去5年を振り返っても、オフィスで一緒に働くことの利点は大きいと確信している」と発信しています。*2
さらにグローバルアドバイザリー企業であるKPMGインターナショナルが昨年8月に世界の大企業トップ約1300人を対象に実施した調査によると、3年以内に「従業員がオフィス勤務に完全復帰する」との回答が前年比19ポイント増の83%にのぼりました。
オフィス回帰はあまり歓迎されていない?
在宅という働き方については、当初は環境が追いつかず抵抗があったものの次第に定着していきました。「この方が良い」と郊外に転居した人もいるくらいです。
しかしあまりに長引いた今となっては孤独を感じたり、運動不足になったりするという課題が浮き上がっています。
実際、出社回数の現実と理想は、少しかけ離れているようです。
このような調査結果があります。

(出所:三菱UFJ銀行「働きたいオフィス・働きたい街ランキングに関する生活者調査」)
https://www.tr.mufg.jp/houjin/fudousan/dokuji/pdf/dprime_rep01.pdf p12
また、コロナ前から「地方暮らし」への関心は高い状態でした。下のグラフはコロナの影響が深刻化する前の2020年1月に、20代~50代の人を対象に実施された調査の結果です。

(出所:内閣府「いいかも地方暮らし」)
https://www.chisou.go.jp/iikamo/column/column01.html
全体の5割近くが地方暮らしに関心を持っています。
また、コロナ禍にかかわらず「地方暮らし」で多くのメリットを受けられそうな事例もあります。
「完全地方勤務」のサテライトオフィスで発展した町
徳島県神山町は大阪からバスを乗り継いで3時間以上かかる場所に位置していますが、ワークスタイルについて大きな話題をもたらした町です。

(出所:神山町「神山への移住」)
https://www.town.kamiyama.lg.jp/immigration/
平成16(2004)年に四国で初めて全戸に光ファイバーを導入し、IP電話もケーブルテレビも利用できるというネット環境と自然環境からIT系ベンチャー企業がサテライトオフィスを開設し始めたのです。

(出所:神山町「神山への移住」)
https://www.town.kamiyama.lg.jp/immigration/
外国人アーティストなどクリエイティブ職につく人も誘致し、その後も古民家などを活用したワークスペースを相次いで設置していきました。その結果2010年には、クラウド名刺管理サービスのSansanが第一号サテライトオフィス「Sansan神山ラボ」を開設しています。
同社では既成概念にとらわれない新しい働き方を模索した取り組みを進めており、その試みの一環だといいます。*3
通勤時間10秒。子育て中の社員にも優しく、田舎暮らしをしながら東京と同じ仕事ができるようになった、ともしています。
競争心下がる懸念も?
一方でSansanでは、このようなこともありました。2013年に2人の営業担当を常駐させたときのことです。*4
都内のオフィスに窮屈さを感じていた男性プロダクトマネージャーは、上司からの許可を即取り付け、家を引き払って神山に移住しました。
午前9時に始業し、午後6時に東京の上司に電話で仕事の進捗を報告して終業。東京時代とほぼ同じ勤務時間で営業成績は上がりました。オンライン営業は顧客回りの移動時間が省け、商談できる件数が増えたためです。
しかし神山への移住から約4か月後、社長と事業部長がオンライン営業の進捗を確かめにやってきた後、すぐさまほどなくして「東京に戻ってこい」との辞令が出たのです。
「営業は周りと切磋琢磨して案件を取る闘争心が必要。のどかな環境に長く身を置くと戦闘能力が薄れてしまう」というのがその理由です。
実際、移住したこの男性も、周囲ののどかすぎる環境から、徐々に仕事を先送りするようなこともあった、と話しています。
社員のモチベーション維持にはある程度の管理が必要かもしれません。あるいは短期滞在、という使い方が考えられそうです。
マイクロソフトも佐賀にワーキングスペースを提供
とはいえ地方への関心が薄れているわけではありません。
積極的に企業のサテライトを誘致している地域に、佐賀県があります。伊万里焼で有名な伊万里市や、温泉街として知られる嬉野市などがそれぞれの特徴をいかしてオフィス施設を整えています。*5
またマイクロソフトは、佐賀駅のほど近くに「マイクロソフトAI&イノベーションセンターSAGA」を立ち上げ、IT産業人材の育成拠点としています。*6
実際には貸し出す形ですが、定期的にセミナーも実施し、利用者同士の交流も深まることでしょう。
地方で都市部と同じように働くメリット・デメリット
神山町の試みは大胆なものでしたが今は功を奏し、Sansanの協力などで全寮制の「神山まるごと高専」が設立されるまでになりました。
自然に恵まれた環境はアイデアを膨らませやすいと考え、起業家の講師との交流も定期的に実施しています。*7
若い年齢で感受性が育つ環境は非常に良いものでしょう。また、地域への営業拡大のチャンスにもなります。
一方で先述のように、ビジネスパーソンの場合「のんびりしすぎてしまう」という部分もあります。
しかし日本人はなにかとせかせかしすぎ、とも言われるくらいですから、「のんびりする」ことがどの程度からどこまで悪なのか?についても考えてみる良いきっかけになるかもしれません。
この記事を書いた人

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。

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参考資料
*1 日本経済新聞「サントリーなど日本企業も出社回帰 オフィス需要復調」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC031SF0T01C24A0000000/
*2 日本経済新聞「オフィス人流、コロナ前の8割に 商船三井は食堂で交流」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC089760Y4A001C2000000/
*3 SanSan「サテライトオフィス『Sansan神山ラボ』に新しいワークスペースを開設しました~”通勤10秒、都会と田舎の良いとこどり”サテライトオフィスで家族と一緒に田舎暮らし~」
https://jp.corp-sansan.com/news/2013/130116_2712.html
*4 日本経済新聞「サテライトオフィス 営業、薄れる闘争心」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO11832320Y7A110C1X13000/
*5 総務省「おためしサテライトオフィス 取り組み団体の事例」
https://www.soumu.go.jp/satellite-office/group/saga/imari.html
https://www.soumu.go.jp/satellite-office/group/saga/ureshino.html
*6 地方創生テレワーク「マイクロソフトAI&イノベーションセンターSAGA」
https://www.chisou.go.jp/chitele/shisaku/office/1260.html
*7 神山まるごと高専「学生の1日」
https://kamiyama.ac.jp/school-life/oneday/
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