禁煙のコツは「皆が得をすること」非喫煙率99.9%、ロート製薬の事例に学ぶ企業の禁煙対策

受動喫煙防止や健康経営の観点から、社内の禁煙対策に取り組む企業は増えています。しかし、進め方を誤ると従業員間で不満や不公平感が高まるおそれがあります。

例えば、喫煙所を廃止する・喫煙者に何らかのペナルティを科すといった「制限」中心の施策では、喫煙する従業員に「自由を奪われた」という反発が生まれがちです。一方で、禁煙外来の受診費をサポートする・卒煙者に褒賞を与えるといった施策では、喫煙しない従業員に不公平感が残ります。結果として、喫煙者と非喫煙者の間に、見えない溝ができてしまうこともあるでしょう。

図:施策が一方向の場合に生じやすい不満
図:施策が一方向の場合に生じやすい不満

喫煙者、非喫煙者の双方に不満が生じないよう配慮しつつ、健康経営にもつながるのが「片方だけを優遇しない」制度設計です。本稿では、両者にメリットがある取り組みを実践している2社の事例を紹介します。

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実例に見る「公平な卒煙支援」への取り組み

さっそく、「従業員全員が得をする」制度設計を実践している株式会社サンセイランディック*1とロート製薬*2の禁煙・卒煙支援策を見ていきましょう。両社に共通するのは「非喫煙者への還元」と「喫煙者への前向きな支援」がセットになっている点です。

出所)株式会社サンセイランディック「お知らせ>「従業員一人一人を考える」サンセイランディックが2025年1月より「非喫煙者向け時間休」を導入します。」*1
https://www.sansei-l.co.jp/news/22031/
ロート製薬「ニュース>ニュースリリース>2020年>喫煙をしていない従業員99.9%に到達」*2
https://www.rohto.co.jp/news/release/2020/0512_01/
を参考に筆者作成

サンセイランディック:非喫煙者にも喫煙者にもメリットがある制度*1

株式会社サンセイランディックは、2025年1月1日から「非喫煙者向け時間休」制度を導入しました。非喫煙者には毎月4時間の時間休が付与され、原則として月に4日、勤務時間を1時間短縮できる仕組みです。これは「喫煙者はたばこ休憩があって不公平だ」という不満を解消する取り組みといえます。

同社では、喫煙者が禁煙外来を受診する場合、その費用を上限2万円まで企業が負担する制度も併せて設けています。
つまり、「吸わない人には時間の還元を、吸う人には卒煙の後押しを」という、双方にメリットのある制度設計になっているのです。

ロート製薬:卒煙を応援し合う仕組みと、がんばった人が報われる制度*2

ロート製薬は、20年以上前から受動喫煙対策に取り組んできた企業のひとつです。2007年には事業所内の喫煙所を全廃し、2018年には「2020年4月までに全従業員の喫煙率ゼロを達成する」という目標を掲げました。

その過程で生まれたユニークな取り組みが「卒煙ダービー」です。これは社内公募から生まれた企画で、卒煙を目指す従業員がエントリーし、3ヵ月間かけて禁煙に取り組みます。特徴的なのが、エントリーしていない従業員も「卒煙サポーター」として参加者を1人選び、期間中励まし続ける点です。周囲のサポートを得ながら禁煙に取り組めるため、挫折を防ぎやすい制度といえます。

さらに2019年からは、健康的な生活習慣によってコインが貯まる社内通貨「ARUCO(アルコ)」を導入。喫煙していない従業員には毎月500コイン(年間6,000コイン)が「ノースモーキング手当」として付与され、卒煙に成功した従業員には1回限定で10,000コインの「卒煙ボーナス」が支給されます。

こうした取り組みを続けた結果、ロート製薬は2020年4月30日時点で、喫煙していない従業員の割合が99.9%に到達したと発表しています。同社の取り組みを時系列で見ると、長期的に施策を積み重ねてきたことがわかります。

図:ロート製薬 禁煙・卒煙推進の歩み

図:ロート製薬 禁煙・卒煙推進の歩み
出所)ロート製薬「ニュース>ニュースリリース>2020年>喫煙をしていない従業員99.9%に到達」*2を参考に筆者作成
https://www.rohto.co.jp/news/release/2020/0512_01/

2社に共通する2つの原則と、ロート製薬に見るもう一つの工夫

サンセイランディックとロート製薬は業種も企業規模も異なりますが、両社の取り組みを比べると共通する原則が見えてきます。

一つ目は、非喫煙者にも明確な見返りがあることです。時間休にせよ、社内通貨の手当にせよ、「吸わないことが評価される」仕組みがあることで、非喫煙者側の不公平感をやわらげています。

二つ目は、喫煙者への支援が「罰」ではなく「後押し」として設計されていることです。両者に共通する禁煙外来の費用補助制度は、喫煙者に対して「禁煙しなさい」と迫るのではなく、「禁煙を目指す従業員に寄り添う」姿勢の表れといえます。

表:両社に共通する2つの原則

この2原則だけでも、従業員間の不公平感はやわらぎやすくなります。
そのうえで、ロート製薬は「個人の禁煙」を「みんなの取り組み」に変える仕掛けを加えています。それが「卒煙ダービー」です。
エントリーしていない従業員が、卒煙を目指す従業員の中から1人を選び、サポーターとして3ヵ月間励まし続けるこの仕組みは、禁煙を当事者だけの問題にしない工夫であり、非喫煙者と喫煙者の分断を避けるための仕掛けとしても機能しています。

喫煙による経済的な損失はどれくらいの規模なのか

喫煙による経済的損失は、個々の企業で具体的な数値を算出するのは難しいものの、社会全体に及ぼす経済的な影響を把握しておくことは、禁煙支援の意義を考えるうえで重要です。

厚生労働科学研究「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」(2019年8月公開)によると、2015年時点でのたばこに関連する超過コストは2兆500億円と推計されています。その内訳は、能動喫煙による超過医療費が1兆3,594億円、受動喫煙による超過医療費が3,295億円で、残りの約3,611億円は介護費用や火災による損失など医療費以外の費用です。

このデータは社会全体で見た場合の推計値であり、個々の企業の損益をそのまま示すものではありません。しかし、喫煙が個人の健康問題にとどまらず、医療費や労働力といった経済的な側面にも影響を及ぼし得ることがうかがえます。
それを踏まえると、企業による禁煙支援は単なる「福利厚生の一項目」にとどまらず、社会全体のコスト構造にも関わる投資といえるでしょう。

図:たばこに関連する超過コスト2兆500億円の内訳(2015年時点)

図:たばこに関連する超過コスト2兆500億円の内訳(2015年時点)
出所)厚生労働科学研究成果データベース「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」*3を参考に筆者作成
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27090

まとめ|禁煙対策で大切なのは、我慢させることではなく公平に得をさせること

企業における禁煙対策というと、抑圧的な制度改革をイメージしがちです。しかし、「禁煙外来の費用補助」や「非喫煙者への時間的な還元」など、公平で、従業員に我慢を強いることのない制度を設計することは可能です。重要なのは、施策を設計する際に「喫煙者・非喫煙者の双方にとって納得できる内容か」を問い直すことです。

サンセイランディックとロート製薬の事例が示すように、「我慢させる」のではなく「みんなが得をする」仕組みをつくることこそが、結果として高い成功率につながります。禁煙対策を見直す際は、両社の取り組みをぜひ参考にしてみてください。

この記事を書いた人

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

参照

*1
出所)株式会社サンセイランディック「お知らせ>「従業員一人一人を考える」サンセイランディックが2025年1月より「非喫煙者向け時間休」を導入します。」
https://www.sansei-l.co.jp/news/22031/
*2
出所)ロート製薬「ニュース>ニュースリリース>2020年>喫煙をしていない従業員99.9%に到達」
https://www.rohto.co.jp/news/release/2020/0512_01/
*3
出所)厚生労働科学研究成果データベース「受動喫煙防止等のたばこ対策の推進に関する研究」
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27090


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