ツムラが「日比谷フォートタワー」へ本社移転 なぜ西新橋?狙いとオフィス移転で予想される効果は?

日比谷フォートタワー外観(出典:三井物産都市開発)
日比谷フォートタワー外観(出典:三井物産都市開発)

ツムラの本社移転が、2026年11月に迫っている。移転先は、港区西新橋の「日比谷フォートタワー」だ。

いまの赤坂の本社は、7フロアに分かれている。そのため、組織を横断するコミュニケーションの場をつくることが課題だった。

契約期間満了を迎えるのを機に、本社を1つのフロアにまとめる。同社は移転の目的として、次の3つを挙げている。

  • 組織間のコミュニケーションと連携を強める
  • 出社と在宅勤務を組み合わせるハイブリッドワークに、より合った環境を整える
  • 業務を効率化し、成果を高める

ツムラは移転先になぜ西新橋を選んだのか。理由は公表されていないが、このビルの特徴である、使える駅の多さと1フロアの広さを中心に考察していく。

日比谷・霞が関・虎ノ門・新橋の真ん中にある西新橋

「HIBIYA CROSSPARK」完成イメージ(出典:三井不動産ほか9社)
「HIBIYA CROSSPARK」完成イメージ(出典:三井不動産ほか9社)

西新橋一丁目は、新橋・日比谷・霞が関・虎ノ門の4つの街の真ん中にある。官庁の集まる霞が関と、オフィスの多い新橋・虎ノ門の間だ。

ビルが建つのは、江戸城の外堀があった場所だ。ビル名の「フォート」は、砦を意味する。

このあたりは1965年の町名の整理で、芝田村町の西半分などをまとめて西新橋になった。ビル1階の洋菓子店「田村町木村屋」は、いまも古い町名を名乗っている。

まわりの街は、これからも変わる。日比谷公園のとなりの内幸町一丁目では、延床面積が約110万㎡ある「HIBIYA CROSSPARK」の開発が進む。

最寄り駅が2つから4つに増える立地

日比谷フォートタワー周辺のアクセスマップ(出典:日比谷フォートタワー公式サイト)
日比谷フォートタワー周辺のアクセスマップ(出典:日比谷フォートタワー公式サイト)

最寄り駅は、2駅から4駅に増える。新旧の本社を並べると、次のとおりだ。

赤坂の本社新しい本社
所在地港区赤坂二丁目港区西新橋一丁目(日比谷フォートタワー)
最寄り駅溜池山王駅 徒歩4分、赤坂駅 徒歩6分霞ケ関駅 徒歩2分、内幸町駅・虎ノ門駅 徒歩3分、新橋駅 徒歩7分
フロア数7フロア1フロア

ビルの案内には、使える路線の多さと、雨の日の歩きやすさが書かれている。

基準階の広さは最大約772坪

11階のスカイロビー(出典:日比谷フォートタワー公式サイト)
11階のスカイロビー(出典:日比谷フォートタワー公式サイト)

日比谷フォートタワーは1フロアが広いビルだ。
ビルの標準的な階の広さを「基準階」といい、新しい本社の広さは、CBREの実績紹介によると約760坪だ。

漢方のツムラ。偶然だろうが、1階の日比バルには、店名に「やくぜん」を掲げるカレー店「旧ヤム邸やくぜん堂」が入っている。

先に移転した3社は、働き方の見直しを目的に移転

ビジネスブレイン太田昭和のコラボエリア(出典:ビジネスブレイン太田昭和)
ビジネスブレイン太田昭和のコラボエリア(出典:ビジネスブレイン太田昭和)

このビルには、竣工した2021年から翌年にかけて、本社を移す会社が続いた。最初の年には、三井食品が7月26日に八重洲から本社を移している。

そのうち次の3社は、移転のお知らせで働き方に触れている。

このうちビジネスブレイン太田昭和は、移転後のオフィスを公開している。同社は、本社が専用に使う面積を、それまでのオフィスから4割減らした。

そのうえで、同社の言う「テレワーク前提の新しい働き方」に合わせてオフィスを作っている。

  • 仕事をする場所はフリーアドレス。カウンター席、ソファ席、仕切りのある集中ブースから、その都度選ぶ
  • 部門や役職の垣根なく話し合える「コラボエリア」を整備

ビジネスブレイン太田昭和は、本社の面積を減らしたうえで、部門をまたいで話せる場を設けた。ツムラも、本社をコンパクトにしたうえで、組織間のコミュニケーションと連携を強めることを移転の目的に挙げている。

ツムラは部門を生薬に見立てて組織を育てている

ツムラは、1893年に生まれた漢方薬の会社だ。医療用漢方製剤の国内シェアは84.4%ある(2026年3月時点・同社集計)。

組織についての考え方は独特だ。同社は、生薬を人や部門に、漢方製剤を会社や部門に見立てている。部門という生薬がうまく組み合わさり、力を合わせることで大きな成果を生む。これを「漢方薬的組織」と呼ぶ。

加藤照和社長は、目的と価値について話し合う文化を、経営を動かすエンジンと呼んでいる。いまの第2期中期経営計画(2025〜2027年度)にも、この考え方が入っている。

  • 5つの戦略課題の1つが「漢方薬的組織の開発推進」
  • 別の戦略課題の施策として、データの一元化と生成AIの活用で、組織間の知識共有と連携を進める

移転のお知らせの副題は「長期経営ビジョン実現に向け、効率的で質の高い働き方への転換を図る」だ。その具体先の一つが移転であり、「組織間のコミュニケーションと連携」が生みたい効果だろう

統合報告書2025をみると、組織と人の数字も公表している。

  • 理念浸透サーベイ(30項目の平均・5点満点):2024年度は4.04
  • 女性管理職比率(単体・各年度4月1日時点):2020年度の5.9%から、2024年度は10.1%に上がった

2025年度には、人事を受け持つHR本部の中に「組織開発部」をつくった。それぞれの組織が漢方薬的組織としてチームの力を出し切れるよう、手を貸す部署だ。

1つのフロアにまとめる効果は、集まる日の決め方にも左右される

7フロアを1つにまとめると、何が変わるのか。手がかりになる研究が2つある。

人の歩く道筋と、共同研究の始まりやすさの関係を調べたのが、米ミシガン大学の研究チームが2014年に発表した論文だ。対象は、2つの研究棟で働く研究者である。

エレベーターや階段、トイレへ向かう道筋が重なる人同士ほど、新しい共同研究を始めやすく、一緒に申請した研究費も通りやすかったという。

同じ論文では、同じ階にいる研究者同士ほど共同研究を始めやすい、という結果も出ており、1フロアへの集約は、部署の違う人と同じ通路を歩く場面を多く生むだろう。

もう1本の米マイクロソフトの研究者らが2021年に発表した論文は、在宅勤務が社員同士のつながりをどう変えたかを調べている。同社の米国の社員61,182人について、メールや会議の記録を分析している。

こちらでは、全社で在宅勤務に切り替えると、離れたグループ同士を結ぶつながりが減った。同じフロアに席があっても、同じ日に出社していなければ触れ合う機会は生まれない。

どちらの研究も、1フロア化やハイブリッドワークそのものを調べたものではないが、部署の違う社員が1つのフロアで行き会う場面が増えるかどうかは、部署をまたいで出社する日と集まる場所を会社がどう決めるかにもよる、と示唆を与えてくれる。

赤坂から西新橋に移るまでの変遷

赤坂の本社は、2007年から19年使ってきた。移転までの流れは次のとおりだ。

まとめ

ツムラは、赤坂の本社の契約満了をきっかけに、本社を1フロアにまとめる。

ただ、1つのフロアにまとめても、部署の違う社員が顔を合わせるのは、同じ日に出社したときだけだ。西新橋は4駅12路線が使えるので、集まる日を決めれば社員は来やすい。11階には、大人数で集まれる会議室もある。

目的と価値について話し合う文化を経営のエンジンと呼ぶツムラの新しい本社は、違う部署の社員が同じ日に出社すれば、1つのフロアで顔を合わせられる場所になる。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参照

ツムラ

日比谷フォートタワー・西新橋

同じビルに移った会社

研究・市況データ


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