「小1の壁」で退職して後悔しないために 子育て世代のために会社ができる支援とは

仕事と育児の両立を目指す子育て世代には、子どもの成長に伴ってさまざまな「壁」が立ちはだかります。

これまで育児においては、3歳児以降の継続的な保育サービスの確保が難しいという「3歳の壁」が課題として知られていました。
しかし近年では、小学校への進学を機に仕事と育児の両立が難しくなる「小1の壁」にも注目が集まっています。

小学校に入学すると、保育園・幼稚園時代とは生活が一変します。
下校時間が早くなり、生活面でのフォローも必要になる一方で、多くの企業で時短勤務が終了することで、キャリアを断念してしまうケースも少なくありません。

子育てと仕事を無理なく両立していくために、企業にはどのような支援が求められているのでしょうか。

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SNSでも話題? 注目が集まる「小1の壁」

「お子さん、もう小学生ですか。子育てもきっと楽になりますね」

こんな言葉をかけられた経験がある方もいるのではないでしょうか。

一方で、SNSでは、「むしろ小学生になってからの方が大変」「宿題や翌日の準備のフォローに追われて毎晩ヘトヘト」「保育園のときより親が対応することが増えたのに、上司にはなかなか理解されない」などという声も見られます。

小学校入学で仕事と子育ての両立が楽になると期待される反面、実際には学習面や精神面のフォローに追われる「小1の壁」に直面する保護者は少なくありません。
その結果として、キャリアの断念や停滞を余儀なくされるケースも生じています。

「小1の壁」には、主に学童保育・学校生活・学校文化の3つの壁があります。
保育園よりも預かり時間が短くなる学童保育への対応に加え、学校生活に順応するために、家庭での学習・生活面のフォローも欠かせません。
個人面談や引き取り訓練など、休むことが難しい学校行事は平日の昼間におこなわれることが多いうえに、地域の見守りなど、学校文化の一環ともいえるPTA活動への協力も求められます。*1
このように、仕事の合間を縫って対応すべき事柄が多方面からどっと押し寄せることが、親にとって大きな負担となります。

子どもの小学校入学を機に、親子の生活リズムが大きく変化することは、私自身も経験しました。
とくに入学当初の4月は、懇談会や参観日などの行事が続き、給食が始まるまでは11時下校、さらに、最初の1週間は決められた場所へのお迎えも必要でした。
学校の準備や宿題も、1人でできるようになるまではかなりの時間がかかったことを覚えており、なにより子どもが慣れない環境で疲弊しているなと感じていました。
また、周囲の保護者からは、環境の変化による「行き渋り」から登下校の付き添いや仕事のシフト調整に追われたという声もよく耳にしました。

このように、小学校入学後に子どもが新しい環境や生活リズムに慣れるまでには、保護者によるさまざまなサポートが必要です。
これは単なる預け場所の確保だけでなく、学習や生活習慣の定着を家庭で粘り強く支えることも含まれます。
学校生活で疲れた子どもの気持ちを受け止めるなど、家庭でのあたたかなフォローも含めた、子ども自身に寄り添う「ソフト面」でのサポートも重要なのではないかと考えます。

「小1の壁」で退職を選ぶケースも

「小1の壁」は、決して一部の家庭が抱えている問題ではありません。

株式会社OKANが2025年に実施した調査によれば、小学校低学年の子どもを持つ働く女性の64.5%が、「小1の壁」を感じたことがあると回答しています。*2

さらに、SOMPOインスティチュート・プラスが2024年に実施した調査では、共働き家庭の20.6%が、子どもの小学校入学を機に就業形態を変更していました。
この割合は、「小学生の子どもに未就学のきょうだいがいる家庭」に限定すると、半数近い46.2%まで上昇します。
さらに、そのうち12.9%は「退職し、専業主婦・専業主夫になった」と回答しており、小学校入学を機に退職するケースも決して少なくないことがわかります。
入学後の生活の変化に、さらに未就学児の世話が加わると、働き方を変えるだけでは対応しきれない家庭が多いことが窺える結果です。*3

「小1の壁」における大きな課題の一つが、放課後の子どもの居場所の確保です。
学童保育の利用ニーズは高まり続けており、こども家庭庁によると、2025年5月時点で約1.6万人の待機児童が生じています。*4

さらに、企業側の制度も「小1の壁」を生む要因の一つとなっています。
厚生労働省の調査によると、短時間勤務制度を導入している事業所のうち、小学校入学後も短時間勤務を利用できるのは45.4%にとどまり、半数に届いていません。*5

このように、「小1の壁」を乗り越え、子育て世代がキャリアを諦めずに働き続けるために、行政と企業の双方による支援が求められています。

「小1の壁」を乗り越えるために 企業ができる支援とは

社会的な課題として認識されつつある「小1の壁」を背景に、企業独自の取り組みも始まっています。

「小1の4月」を乗り切るための柔軟な勤務制度

香川県で介護事業を展開する株式会社シニアライフアシストでは、働き方改革の一環として「小1の壁に対応した時短シフト」を導入しています。
これは、子どもが小学校に入学した年の4月に限り、1日「最小2時間」の勤務を認める制度です。
小学校1年生の4月は、給食が始まるまでは昼前に帰宅するため、勤務時間を調整しなければならないケースがあります。
この制度を利用すれば、子どもを朝送り出した後に2時間働き、その後帰宅して子どもの昼食を用意するといった働き方が可能です。
制度開始後、小学校に入学した子どもを持つ女性従業員全員がこの制度を利用しており、好評を得ています。

人材の定着が課題となっている介護業界において、多様な働き方を提示し、離職率の低下にもつなげている、注目すべき取り組みといえるでしょう。*6

小学校入学後も柔軟に働き方を選べる仕組み

人材サービスを展開するパーソルキャリア株式会社では、社員自身が勤務日数・時間・場所・休暇・休職を選択できる人事制度「FLASH(フラッシュ)」を導入しています。

この制度が導入されるきっかけの一つとなったのが、小学校入学後に仕事との両立が難しくなったという育児中の社員から寄せられた声です。

「FLASH」では、小学生の子どもを持つ社員が、週30時間を下限とする時短勤務を最長1年間利用でき、更新も可能です。
この制度を利用することで、小学校入学に伴う生活の急激な変化にも対応することができます。
また、フルタイム勤務へ戻るタイミングも自分で決められ、フレックスタイムの利用による中抜けや在宅勤務も選択できるため、段階的な復帰が可能です。

こうした柔軟な働き方を可能にしたこの制度は、離職防止だけでなく、人材確保にもつながっており、「FLASHを利用できることが入社を決めた理由の一つ」という声もあります。*7

おわりに

子育てのサポート体制や家庭の事情には、もちろん個人差があります。
そのため、職種や働き方、家庭環境によって「小1の壁」の感じ方はそれぞれ異なるでしょう。

それでも、多くの人が「小1の壁」を実感していることからも、決して個々の家庭だけで解決すべき問題とはいえません。

実際に、小学校入学以降の子育てを支援する企業独自の取り組みも始まっています。
こうした取り組みは、子育て世代が働き続けやすい環境をつくるだけでなく、企業にとっても人材の確保や定着につながる重要な取り組みとなるでしょう。

「小1の壁」を個人の努力で乗り越えるべき課題として片付けないために、企業や行政にもできることはまだまだあるはずです。

子育てと仕事を無理なく両立できる環境を、企業や行政が支え、家庭だけに負担を集中させないことが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。

この記事を書いた人

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

参照

*1
出所)杉並区「「小1の壁」って何? 子どもの教育と地域社会を創るのは親の重要な役割」
https://www.city.suginami.tokyo.jp/s053/3750.html

*2
出所)株式会社OKAN「【調査レポート】 働く女性と「小一の壁」に関する市場調査」
https://okan.co.jp/news/20250325-shoichinokabe

*3
出所)SOMPOインスティチュート・プラス「いまだ高い「小1の壁」~量と質の両面で放課後児童クラブの拡充を~」
https://www.sompo-ri.co.jp/2024/07/12/12900/

*4
出所)こども家庭庁「「放課後児童対策パッケージ 2026」について(通知)」p.1
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/69799c33-85cb-44f6-8c70-08ed3a292ab5/d9486cbb/20251225_policies_kosodateshien_houkago-jidou_82.pdf

*5
出所)厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査 事業所調査 結果概要」p.9
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/03.pdf

*6
出所)パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社「「働き方改革」で、離職率の低下と採用力の向上を実現」
https://lokatsu-company.mhlw.go.jp/case/case017/

*7
出所)厚生労働省 多様な働き方実現応援サイト「パーソルキャリア株式会社」
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/cases/case_0158/?utm_source=chatgpt.com


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