【医師が解説】「居場所がない、職場に疲れた…」と感じることは決して”弱さ”ではない 会社や経営者のやるべきことは?

職場で「自分には居場所がない」「毎日会社へ行くのがつらい」と感じた経験がある方もいるのではないでしょうか。
職場で自分の居場所があると感じられるかどうかには、仕事に対する評価や職場への適応状況など、組織や職場環境が大きく影響している場合があります。

この記事では、「職場に居場所がない」と感じる背景や心身への影響を医師の視点から解説するとともに、会社・経営者・オフィスが取り組める対策について紹介します。

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「職場に居場所がない」と感じるのは珍しいことではない

まずは、職場に居場所がないとはどのようなことを指すのかなどについてみていきましょう。

「居場所がない」と感じることは弱さではない

キャリアカウンセリングなどの現場で、「この会社には自分の居場所がない」「ここは自分の居場所ではない」と嘆く会社員は少なくありません。*1

心理的な安心感を得られ、心のよりどころとなる場や人間関係は、こころの居場所と表現されることがあります。
また、職業の場において、居場所は単なる物理的な場所でなく、自分の役割や人間関係、仕事への思いなどを含めた本人の認識や心理状態を表す言葉として使われます。*2

働く人のメンタルヘルス対策の重要性は高まっていますが、仕事や職業生活に関することで強い不安や悩み、ストレスを抱える方は約半数という報告もあります。*2
そのため、自分の居場所を含め、働くなかでのこころの健康向上を考えていく必要性は高いといえるでしょう。

孤独感の背景として職場の環境・出来事も見逃せない

内閣府の調査では、学生や生徒、失業中の方だけでなく、正規の職員・従業員にも、孤独感をしばしば、またはつねに感じる人が一定数みられました。*3

また、孤独感に影響を与える出来事として、いじめやハラスメントを含む重大なトラブルや、仕事上(職場)での重大なトラブルも挙げられています。*4

このように、多くの従業員に囲まれている職場環境であっても、心理的な孤独感を抱えるようなケースも少なくないと考えられます。

「居場所がない」と感じる背景には職場環境も関係している

居場所があることは仲がよい同僚がいることと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実は「ここは自分の居場所だ」と感じるためには、居心地のよさのほか、人から頼りにされている・必要とされているなどの実感をもつことも重要であることが明らかになっています。

「仕事に対する評価」は居場所役割感に影響する

近年の研究では、仕事をするなかで「ここは自分の居場所だ」と感じるためには、人から頼りにされている、自分にしかできない役割があるなど、自分がほかの人のために役立っていると思える感覚である「居場所役割感」が重要であることが示されています。*5

この感覚には、仕事の評価や職場への適応が影響を与えています。
具体的には、自分は仕事ができていると感じ、また周りからも評価されることで、職場で役に立っていると実感することができます。
また、職場の雰囲気に馴染み、自分の意見を自由に発信できることも、自分の存在が認められ、必要とされているという感覚につながります。*5

「職場への適応」も居場所感につながる

職場に自分の居場所があると感じられるためには、居心地のよさを感じたり、落ち着いた気持ちでいられる感覚も大切です。
これは、「居場所安心感」とも呼ばれます。*5
居場所安心感に影響を与える要因には、職場への適応が挙げられます。
例えば、会社や仕事に愛着を感じ、社内の人と安定した関係ができていることで、安心し、落ち着いた気持ちで過ごすことができます。*5

「仕事のやりがい」も居場所感のカギになる

職場での自分の居場所感を得るためには、自分を見失わず、自分らしく振る舞い、「ありのままの自分でよい」と感じられる、「居場所本来感」も欠かせません。
この感覚には、職場への適応のほか、仕事にやりがいを感じているかどうかも影響を与えます。

職場の雰囲気に馴染め、自分の意見が自由に言えることで自分を見失わず、ありのままの自分でよいと感じることが可能となります。
そして、自分がやりたい仕事や、強み・得意分野を活かせる仕事に取り組むことで、これは自分だと実感し、安定した自己認識を持ちやすくなります。*5

「居場所がない職場」は企業にも大きな影響を及ぼす

居場所がないと従業員が感じることは、個人の問題だけでなく企業組織全体にも影響を与えます。

生産性やワークエンゲージメントにも影響する可能性

職場における本来感は、個人のウェルビーイングや生産性の高さと関連することが報告されています。
また、職場で本来感を得られることは、「やらされている」という感覚を減らし、「自分の意思で働いている」という主体的な意欲(自律的動機)を高める可能性も報告されています。*6
なお、ウェルビーイングとは、心身の健康や社会的な充足感が満たされた状態を指す言葉です。*7
逆に、従業員が本来感を得にくい職場では、生産性や主体的に行動する意欲が低下する懸念があります。

心理的安全性の低下は離職やパフォーマンスにも影響する

居場所安心感と関連して考えたい概念の一つが、心理的安全性です。
心理的安全とは、自分の考えや疑問、懸念などを、対人関係上の不利益を過度に恐れず発言できる職場の状態や雰囲気を指します。*6
心理的安全性が高い職場では、ワークエンゲージメントや従業員のパフォーマンスが高まり、離職意図も低下する可能性が示されています。*8
一方、心理的な安全性が低い職場では離職を考える従業員が増えたり、仕事効率が低下したりする可能性もあると考えられます。

会社や経営者にできること

ここまで、職場での心理的な居場所感の重要性について解説しました。
そこで、以下では会社や経営者が従業員の居場所感を高めるにはどうすればよいかのヒントを提示します。

「評価されている」と実感できる仕組みをつくる

従業員が仕事において評価されていると感じることで、自分の居場所があると実感することが可能になると考えられます。*5
そこで、仕事の成果や貢献を適切に認めることや、従業員の一人ひとりがその能力を発揮できるような適切な配置にすることなどが方法として挙げられます。

評価されていると感じられるような方法として、職業能力評価シートなどを用いて、求められる能力や本人の強み、現在の到達状況を可視化する方法があります。*9
また、定期的な1on1ミーティングなどで、従業員の強みや改善点などについて丁寧に話す機会を作るということもあるでしょう。

意見や悩みを伝えられる組織風土をつくる

職場の人間関係が良好であるだけでは、心理的な居場所感を十分に得られない可能性があります。*10
一方で、周囲からの協力や支援が得られることや安定した人間関係などは「居場所がある」と感じられるために重要な要素です。*5
また、居場所があると感じられるためには自分の意見を自由に言えることも欠かせません。*5
上司が定期的に声をかけ、小さな悩みや違和感の段階から相談できる雰囲気をつくることが大切です。

働き方を支えるオフィス環境を整える

従業員が安心して働き、必要に応じて他者と交流できるようにするには、組織風土だけでなく、働き方に合ったオフィス環境を整えることも効果的と考えられます。

例えば、一人で集中する仕事をするために集中エリアや集中ブース、個室などを設けることがあるでしょう。
また、複数の従業員が一緒に作業したり会議をしたりするために、ミーティングスペースやプロジェクトルームを設置することも挙げられます。
一人で集中できる場所、少人数で安心して話せる場所、複数人で協働できる場所など、業務内容や状況に応じて働く場所を選べる環境を整えることも重要です。*11

相談窓口を設置し、必要な支援につなげる

従業員の孤立を防ぎ、心身の健康を保つための方法としては、相談窓口を設けることも挙げられます。
社内だけでなく、外部の相談窓口などを周知することも方法の一つです。
産業医や保健師、人事部門など複数の相談先を用意し、利用方法やプライバシーの取り扱いを明確に周知することが重要です。
窓口を設けるだけでなく、相談後に必要な支援につなげられる体制を整えましょう。

まとめ

今回の記事では、職場で居場所があると感じられるためにはどのような方法があるのかについて解説しました。
職場に居場所がないと感じることは、本人の弱さやコミュニケーション能力だけに原因があるわけではありません。
仕事への評価や職場への適応、仕事のやりがいなど、組織や職場環境も心理的な居場所感に影響します。

仕事における居場所感を育てるには、自分が役立っているという実感に加え、安心して過ごせることや、自分らしく働けることも重要です。
会社や経営者は、従業員個人の問題として片付けず、組織全体で居場所を育てる仕組みづくりに取り組むとよいでしょう。

この記事を書いた人

木村 香菜

行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

参考資料

*1 企業で働く人の職業生活における心理的居場所感に関する研究.産業・組織心理学研究.2016 ;30(1):45-58. p45
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/30/1/30_45/_pdf/-char/ja

*2 企業で働く人の職業生活における心理的居場所感に関する研究.産業・組織心理学研究.2016 ;30(1):45-58. p46
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/30/1/30_45/_pdf/-char/ja

*3 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年実施) – 内閣府
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5.html
PDF:調査結果のポイント p6
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5/pdf/tyosakekka_point.pdf

*4 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年実施) – 内閣府
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5.html
PDF:調査結果のポイント p4
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5/pdf/tyosakekka_point.pdf

*5 企業で働く人の職業生活における心理的居場所感に関する研究.産業・組織心理学研究.2016 ;30(1):45-58. p56
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/30/1/30_45/_pdf/-char/ja

*6 職場における心理的居場所感が知識獲得行動に与える影響.経営情報学会2019年春季全国研究発表大会 p289
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/201906/0/201906_288/_pdf/-char/ja

*7 ウェルビーイングとは?|産総研マガジン(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20250226.html

*8 オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討1).産業・組織心理学研究.2021;34:179-193 p183
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/34/2/34_179/_pdf/-char/ja

*9 職業能力評価シートについて|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html

*10 企業で働く人の職業生活における心理的居場所感に関する研究.産業・組織心理学研究.2016 ;30(1):45-58. p57
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/30/1/30_45/_pdf/-char/ja

*11 オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討1).産業・組織心理学研究.2021;34:179-193 p187
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/34/2/34_179/_pdf/-char/ja


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