地方に安住している保守的な若者は、20代でも老害になる

うちの会社が、販売管理にクラウドシステムを導入してペーパーレス化し、会計ソフトもスタンドアロン型からクラウドに移行したのは、今年の7月のことだ。

紙の伝票や帳簿を一枚ずつめくり、これまでのデータを手入力で移行した。気が遠くなる作業だったが、幸い今はAIがある。
AIに手伝ってもらいながら、休日も返上して3ヶ月休まずに作業を続け、どうにか一人でやり遂げた。

もしも世にAIが登場する前の時代にこの仕事を任されたら、絶対に一人では無理だったと思う。なので、
SaaS素晴らしい! AIありがとう!! 最新のテクノロジーばんざーい!!!
という気分である。

「デジタル化と効率化はどんどん進めてよし!」
という社長の言葉を後ろ盾に、私は「ガンガン行こうぜ!」の精神で、次々に業務フローを変えていった。
ついでに、経費決済用のクレジットカードも、会計ソフトと連携できるものに変更した。
以前使っていたカードは会計ソフトとの連携ができず、紙の利用明細が届くまで、誰が何に使ったのか分からなかったからだ。そのため、うっかり私用の買い物を会社のカードで決済してしまう社員もいれば、わざと社長の許可を取らずにカード決済を済ませ、「経費で落とさせてもらった」と事後報告で済ませる、たちの悪い社員もいた。

新しいカードは、決済された直後に会計ソフトに明細が取り込まれる仕組みだ。
そもそも、私に届く認証コードを入力しないと決済できないため、これまでのように社員が勝手にカードを利用することはできない。
以前は、利用明細が届いてから誰が何に使ったのかを聞いてまわり、領収証をかき集める作業が大変だったが、カードを変えたおかげで記帳と入出金の管理が格段に楽になった。社長も不正を防止できるようになって喜んでいる。

時代遅れな会社のシステムをアップデートして効率化することは、感謝されこそすれ、誰からも文句を言われないはずだ。と、信じていた。

それなのに、思いがけない横槍が入った。
年に数回ほどだが、人手が足りない時に本社から手伝いに来てくれる田村くんからだ。
彼は本社の営業マンで、20代後半だが最年少の社員だ。田舎の中小企業にそもそも若者は少ないので、たいへん貴重な若手である。
田村くんはお調子者で、誰にでも愛想が良く、愛嬌がある反面、いいかげんさとだらしなさも目立つ。正直なところ、社内での評価は決して高くない。
けれど、私は「まあまあ、彼はまだ若いのだから大目に見ようよ」と、なにかにつけて彼を庇ってきた。

出張先では食事を奢ったし、彼が事務所に顔を出せば、必ずお菓子とお茶を出すので、周りからは「田村くんのママ」と揶揄されるほどだった。
そんな風に彼を甘やかす理由は、私自身が若い頃には至らない人間であったためだ。若い私のダメっぷりを周りの大人たちが許し、手助けしてくれたことに感謝しているので、今度は自分が若者の至らなさを受け入れる番だと心得ている。

その田村くんが、新しいクレジットカードで出張のチケットを取ろうとした時、なんの前触れもなく怒り出した。
「この新しいカード、何なんですか?! バーチャルカードって不便ですよ。いちいちユキさんのパソコンを見ないとカード番号も分からないし、認証コードもユキさんに聞かないと分からないんですか? これだとユキさんがいなかったら使えないじゃないですか!」
声を荒げ、イライラした様子で、舌打ちをしながら、
「あぁ〜、ったく、めんっどい! マジでめんどい! ほんっと使いにくい!」と繰り返すのだ。

私は事前に、クレジットカードを会計ソフトと連携できるカードに変えたと説明していたし、デジタル化にともなって業務の運用も変わったと話していた。
その時は「へぇ、すごいですね」と言っていたはずなのに。

「めんどい!」「使いにくい!」と、大きな声で何度も何度も繰り返されるうち、私も次第にムカッ腹が立ってきた。

「ああ、そう。そんなに面倒なら自分のクレカを使えばいいでしょ? 領収書を出してくれたら現金で精算しますよ」
冷たい声でピシャリと言い返すと、
「個人で立て替えるなら、会社のカードがある意味ないじゃないですか?!」
と、余計に尊大な態度になったので、私もつられるように声のボリュームが増してしまう。

「前のカードはブラウザに記憶させておけばいつでも使えたのに!新しくなって、めっちゃ不便になったじゃないですか! システムやツールを変えるのはいいけど、こっちのこと考えてないでしょ? 手間が増えて面倒になりましたよ!」
「だから? 私と社長はカードを変えて便利になりました。
経理は業務の効率が格段に上がったし、社長はお金の動きがリアルタイムで見えるようになったし、不正を防止できるようにもなったって喜んでるけど?」
「自分勝手にどんどんシステムを変えて、管理する自分重視じゃないですか。カードを利用する他の社員のことを全く考えてませんよね? 」
「あなただって自分中心で、管理する側のことを考えてないじゃないの?」
年甲斐もなく若者と口論になりながら「ん?」 と思った。

カードが変わって面倒だとこぼすのは分かる。けれど、年に数回しかカードを使わない彼の「面倒」と、日々すべての入出金を管理する私の「効率」を天秤にかけたら、どちらを優先すべきか答えは決まっているではないか。

「最近はAIを使ったサイバー攻撃やフィッシングメールも激増してるから、どこのクレジットカード会社もセキュリティーレベルを上げているんだよ。前に使ってたカードだって、ちょっと前に2次認証が必要な仕様になったから、カードを変えなくても手間はほとんど同じだよ?」
と説明すると、彼は最終的に「それなら仕方ないです」と一応は引き下がったが、
「ただね、今回のことに限らず、経理の都合だけで勝手に従来のやり方を変えるのは揉めますよ」
と、最後まで私が悪いと言わんばかりの態度を変えなかった。

心外だ。社内システムのデジタル化と業務の効率化は社長の希望でもあり、私が勝手に進めているのではない。だいたい、効率化することで楽になるのは経理の仕事だけではないのだ。
年配の社員が変化に反対するなら分かるが、なぜ、社内で一番若い彼が、こんなに強く反発するのだろうか。

田村くんの不機嫌さに、心当たりがあった。恐らく前日のやりとりが、このような言いがかりの原因になったのだろう。

田村くんは近々出張の予定があったが、直前になって「滞在を一日延ばすために飛行機のチケットを取り直したい」と言い出した。
私には「金曜の夜に得意先を接待することになったので、土曜日に帰りたい」と説明していたのに、社長には別の説明をしており、辻褄の合わなさに気づいた社長から「お前はただ週末まで滞在を延ばして、プライベートで遊んでから帰りたいだけだろう。チケットを取り直すなら15,000円のキャンセル料は自分で払え」と突っぱねられていたのだ。
そのとき、私は彼を庇わなかった。職務上、不正に加担するわけにはいかないからだ。
それでもチケットを取り直すと言う田村くんに、「では、キャンセル料は日当と相殺しますね」と私が事務的に返事をしたことに、きっとムカついていたのだろう。

これまで私が母親のような態度で接していたために、すっかり図に乗っていたに違いない。自分の嘘も庇ってくれる。キャンセル料の件についても、目を瞑ってくれるはずだと、甘く考えていたのかもしれない。

先日、日経のコラムでこんな一文を読んだ。
「老害とは加齢や性格ではなく、再び初心者になるコストを払うことを拒否した人の別称だ」
田村くんはまだ26歳だが、立派な老害である。そもそも超保守的だからこそ、人生で一度も地元から外に出ようとしないのだろう。

田村くんとの口論に疲れた私は彼の言い分を一部認め、「事前にもっと丁寧な説明が必要でした」と伝えて、この件には幕を引いた。
しかし、言い分を認めたことと、無礼な態度を許すこととは別の話だ。
若者の失敗や無知は、いくらでも許せる。だけど、カンチガイした無礼なガキは嫌いだね。

私はお前のママじゃねぇんだよ。つけあがんな。明日からは茶が飲みたきゃ自分で淹れな。

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この記事を書いた人

マダムユキ

ブロガー & ライター
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