節電で働きにくくなってない? エネルギーマネジメントが変えるオフィス環境

オフィスの省エネ・節電は、環境面だけでなく、光熱費などのコスト面からも重要な課題です。
一方で、「エアコンは28℃設定厳守」「21時以降はメインの照明オフ」などのルールで、空調や照明を一律に抑えるだけでは、働く人の快適性や生産性を損なう可能性もあります。

では、どこで、どのように電力が使われているのかを把握し、必要な場所に必要なエネルギーを供給するには、どうすればよいのでしょうか。

近年では、電力消費量を単に「見える化」するだけでなく、人の在席状況や動き、設備の稼働状況などを把握し、オフィス全体を最適化する技術が登場しています。

こうした技術がオフィスに導入されることで、私たちの働き方にはどんな変化が生まれるのでしょう。

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省エネと快適性はトレードオフ?

近年、オフィスの省エネや節電は、日本の企業にとって当たり前のものとなっています。
カーボンニュートラルへの対応に加え、電力需要の増加や電気料金の高騰もあり、節電・省エネは、環境面だけでなくコストの面からも、より切実なものとなっています。

オフィスビルの電力消費の内訳は、以下の図1のようになっています。*1

図1:オフィスビル電力消費の内訳
図1:オフィスビル電力消費の内訳
出所)中小機構「オフィスで行われている省エネの取り組みにはどのようなものがあるのか教えてください。」
https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/costcut/Q1501.html

夏季と冬季、どちらも空調と照明がオフィスの電力消費の約7割を占めており、空調の設定温度の適正化や照明の使用制限、LED照明への買い替えが有効であると考えられています。

一方で、設備の電力消費を抑えることは、オフィスで働く人の快適性を損なう可能性もあります。

株式会社ネオマーケティングがオフィスの施設管理者を対象に実施したアンケートによると、2025年の夏のオフィスについて、63.8%が「社員が暑いと感じていた」と回答しています。
社員から暑さに関する意見や要望があったのは61.1%、そして37.0%が暑さによる業務効率の低下を感じています。
また、空調管理の課題として「省エネや電気代高騰への配慮と快適性の両立」を挙げたのは25.0%でした。*2

省エネ・節電を実現しつつ、働きやすいオフィス環境を維持していくためには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか。

「見える化」から「最適化」へ エネルギーマネジメントシステムとは

節電・省エネに取り組むにあたって、第一のステップとも言えるのが、エネルギー消費の「見える化」です。
オフィスのどの設備がどのくらい電力を使っているのかを把握することで、設備を効率よく運用することができます。

そして、見える化によって得られた情報を活用し、分析・制御するのが、エネルギーマネジメントシステム(EMS)です。
EMSの大きな特徴は、室内環境を損なわずに省エネを実現し、環境負荷低減に貢献できるところです。

EMSでは、情報通信技術を活用し、人感センサーや温度・湿度センサー、エネルギー機器などからデータを収集・蓄積します。
集めたデータからエネルギー需要を予測したうえで、空調や照明などの設備を手動または自動で制御することができます。
EMSをオフィスに導入することによって、エネルギーの無駄を特定して設備の運用を最適化できるだけでなく、設備の劣化や不具合を早期発見することもできます。*3

資源エネルギー庁では、EMSを「見える化型」「制御型」「高度型(AI)」の3つに分類し、最大1億円の補助金を出すなど、企業への導入を支援しています。
「見える化型」は、エネルギー使用量を計測・可視化し、データを分析して改善策を提案し、「制御型」は、見える化に加えて、実際に設備を制御する機能を備えています。
そして、「高度型(AI)」は、AIが設備の稼働状況などを学習し、運転を自動で調整するタイプです。*4

東日本大震災での電力不足を背景に導入が進んだEMSは、近年のデジタル技術の発展によって、「見える化」から「自動制御」、さらに「AIによる最適化」へと進化しています。

エネルギーマネジメントで変わるオフィスの省エネ

省エネと快適性の両立に向けて、エネルギーマネジメントを活用するオフィスも増えています。

人間のバイオリズムに合わせて自動調光するオフィス

株式会社リコーが開発した「RICOH Smart MES(Managed Energy Service)」は、センシング技術とクラウド管理によって電力消費を見える化し、エリア単位でオフィスの設備を自動制御するエネルギーマネジメントシステムです。

このシステムを導入した日本設備工業株式会社では、オフィスに設置した680本のLEDライトを時間帯に合わせて自動制御しています。

始業前から午前中は照度を上げて仕事への気持ちを高め、昼休みにはリラックスできるように照度を大幅に下げます。
午後は、夕方に向かって照度を徐々に下げることで、早く帰るために仕事を効率的に進めようというモチベーションにつなげるなど、人間のバイオリズムに合わせて照明を調整しています(図2)。*5

図2:時間帯によって照明を自動制御
図2:時間帯によって照明を自動制御
出所)株式会社リコー「省エネと働きやすさの実現を目的に、オフィスフロア全体の照明を最適化 日本設備工業株式会社 様(東京都)」
https://www.ricoh.co.jp/magazines/green-transformation/casestudy/2023-nihonsetsubikogyo/

午後8時以降は基本的に全エリアを消灯しますが、残業時には人がいるエリアだけを点灯し、人感センサーによる自動オン・オフも実施することでエネルギーの無駄を省いています。

この照明の自動制御の導入により、オフィスの電力消費量は、前年同期比で平均50.9%削減されました。
単に照明の使用を制限するのではなく、時間帯や人の動きに合わせて空間単位で照明を調整することで、働きやすいオフィス環境の実現にもつなげています。*5

AIで空調を最適化し省エネと快適性を両立

ダイキン工業株式会社では、AIを活用して空調機の運転を遠隔・自動で最適化する「遠隔自動省エネ制御」を開発しています。

この技術では、運転データや気候データ、過去のトレンドなどから空間ごとの熱負荷を高精度に予測し、その予測をもとに、最適な空調能力を先回りして自動ニューニングします(図3)。*6

図3:熱負荷モデルを搭載した「遠隔自動省エネ制御」
図3:熱負荷モデルを搭載した「遠隔自動省エネ制御」
出所)ダイキン工業株式会社「人工知能(AI)による空調の省エネを実現|熱負荷予測を活用した自動エネルギーチューニング)」
https://www.daikin.co.jp/tic/topics/feature/2025/20250507

熱負荷には、窓から入る太陽光の熱や、室温と外気温の差や隙間風、換気装置などによって出入りする熱、さらには人やオフィス機器が発する熱なども考慮されています。

このシステムを試験的に導入したヤマハ株式会社の本社オフィスでは、年間の消費電力を21%削減しました。
さらに、技術導入によって、暑さや寒さなどの変化は感じられなかったという報告もあり、快適性を維持できていることも確認されています。

空調メーカーとして培ってきた技術を生かし、AIによって熱負荷と空調能力のバランスを最適化することで、省エネと快適性の両立につなげています。*6

建物全体の設備を自動制御する次世代オフィス

プライム・スター株式会社は、2025年12月に港区赤坂へオフィスを移転し、新オフィス内に「Energy Loop Experience(エネルギーループ・エクスペリエンス)」ショールームをオープンしました。

このショールームでは、照明や発電、蓄電、オフィスの自動制御、建物制御システムなど、建物のエネルギーと環境制御がどのように連携しているのかを、実際のオフィス空間で体験することができます。

建物内のエネルギーの流れはリアルタイムで表示され、太陽光発電の発電量や蓄電池の充放電状況、オフィスの消費電力などをモニターで確認できます。*7

また、業務時間に合わせた照明・空調の制御、太陽の位置や時間に応じたブラインドの自動調整、人感センサーによるON/OFF制御なども取り入れ、さまざまな設備を連携させてオフィス内の環境を最適化しています(図4)。*8

図4:オフィスにおける設備の自動制御の事例
図4:オフィスにおける設備の自動制御の事例
出所)プライム・スター株式会社「PRIME STAR SHOWROOM GUIDE」p.5
https://primestar.co.jp/pdf/SHOWROOM_GUIDE_A5_60701F2.pdf

照明や空調だけでなく、ブラインドや発電、蓄電など、建物内の設備を連携させてオフィス全体を管理することで、エネルギーの効率的な利用につなげています。

おわりに

省エネはどの企業にとっても避けては通れない課題でありながら、働く人の快適性を犠牲にすることはできません。

オフィスのエネルギー消費を最適化するエネルギーマネジメントシステムは進化し続けており、AIも台頭し始めています。
空調や照明を個人の動きや時間帯に合わせて自動制御するなど、省エネと快適性を両立する未来のオフィスが、少しずつ実現し始めています。

この記事を書いた人

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

参照

*1
出所)中小機構「オフィスで行われている省エネの取り組みにはどのようなものがあるのか教えてください。」
https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/costcut/Q1501.html

*2
出所)PR TIMES「昨夏のオフィス、約6割が暑さを実感|企業の暑さ対策に関する実態調査レポート」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000688.000003149.html

*3
出所)パナソニック株式会社「エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは?導入のメリットや重要性」
https://solution-cloud.hvac.panasonic.com/hc_blog/energy-management-system

*4
出所)経済産業省「デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き(概要版)」p.50
https://www.meti.go.jp/files/900017141.pdf

*5
出所)株式会社リコー「省エネと働きやすさの実現を目的に、オフィスフロア全体の照明を最適化 日本設備工業株式会社 様(東京都)」
https://www.ricoh.co.jp/magazines/green-transformation/casestudy/2023-nihonsetsubikogyo/

*6
出所)ダイキン工業株式会社「人工知能(AI)による空調の省エネを実現|熱負荷予測を活用した自動エネルギーチューニング)」
https://www.daikin.co.jp/tic/topics/feature/2025/20250507

*7
出所)プライム・スター株式会社「次世代オフィスのエネルギーループ体験|照明制御や建物制御インターフェースなどが体感できるショールームを赤坂にオープン」
https://primestar.co.jp/elcolumn/e-loop_next-generation01/

*8
出所)プライム・スター株式会社「PRIME STAR SHOWROOM GUIDE」p.5
https://primestar.co.jp/pdf/SHOWROOM_GUIDE_A5_60701F2.pdf


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