伊藤忠商事が「赤坂トラストタワー」へ本社移転 なぜ”仮住まい”に1万坪?狙いとオフィス移転で予想される効果は?

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伊藤忠商事の東京本社移転が、いよいよ2026年8月24日に迫っている。移転先は、「赤坂トラストタワー」。最寄り駅は、銀座線・南北線の溜池山王駅に直結だ。

今回の移転の骨子は、以下の3点である。

つまりこれは、いずれ青山へ帰るための「仮住まい」だ。それなのに伊藤忠商事は、仮の住まいに約1万坪を確保した。数年で出ていく場所に、なぜそこまでやるのか。今回のオフィス移転から透けて見える狙いと期待できる効果を、読み解いていく。

赤坂・溜池山王 どんな街?

移転先の赤坂トラストタワーが建つ「東京ワールドゲート赤坂」は、森トラストなどが開発した大規模複合街区である。官庁街と赤坂の飲食街に挟まれた立地に、オフィス・ホテル・商業と約5,000㎡の庭園をまとめて持ち込んだ。都心のど真ん中で「緑の中で働く」を成立させに来ている街区だ。

街区には、サステナビリティ重視の米国発ラグジュアリーホテル「1 Hotel Tokyo」が日本初進出する。仮住まいの数年間、来客を街区内のホテルでもてなせる環境が最初から付いてくる。

赤坂トラストタワーはどんなビル?

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竣工から2年の新しいビルに、駅直結でまとまった床。仮移転先の条件として、これ以上を望むのは難しい組み合わせである。

「仮住まい」に1万坪——伊藤忠は何を捨てなかったのか

仮移転のオフィスづくりは、通常の移転と意思決定の構造が違う。数年で出ていく前提だから、投資はどこかで割り切る必要がある。内装に金をかけるか、什器を持っていくか、部門の配置をどこまで作り込むか——「どうせ仮だから」と「仮でも毎日ここで働くのだから」の綱引きが、あらゆる項目で発生する。

その綱引きの中で伊藤忠商事が捨てなかったものが、面積と立地である。都心5区のオフィス空室率は1.11%(2026年6月・三幸エステート調べ)、平均募集賃料は8ヶ月連続で上昇している。借りたくても床がない市場で、駅直結の新築ビルに約1万坪を確保するのは、仮住まいとしては破格の選択だ。

私が現場でお客様から聞くのは「借りたいけれど高くて借りられない」「移転したいけれど床がない」という声ばかりである。出社率の低下を理由に床を減らしたいという相談は、実のところ一件も出ていない。その市場環境で、仮住まいにこの面積を張れる会社は多くない。

青山45年に「ありがとう」を言う会社

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移転を前に、伊藤忠商事は「伊藤忠ビル感謝展」を開いた。青山の本社ビルと過ごした45年を、社員と街に向けて振り返る展示である。

オフィスの引っ越しで、ビルに感謝する展覧会を開く会社は珍しい。この会社にとって本社ビルは賃借面積の集合ではなく、社員の記憶が積もった場所として扱われている。仮住まいに1万坪を張る判断と、去るビルに感謝展を開く判断は、同じ思想から出ている。

復活した「ひとつ屋根の下」——寮という場への投資

その思想が最もはっきり見えるのが、社員寮である。伊藤忠商事は2018年、首都圏4ヶ所に分散していた男子独身寮を統合し、一棟あたり業界最大規模・約360戸の統合独身寮を横浜・日吉に新設した。掲げた狙いは「次代を担う若手社員の早期育成・強い一体感の醸成」。年代や部署を越えたコミュニケーションのための場だと、リリースに明記している。

伊藤忠商事自身、独身寮をいったん手放し、18年ぶりに復活させた経緯を持つ。サウナ付大浴場も快眠マットレスも、福利厚生の豪華さ自慢ではない。「同じ釜の飯を食う」時間を制度として復元するための装置だ。オフィスだけでなく、住まいまで含めて「社員が一緒にいる場」に投資している。

伊藤忠はいま、何を目指しているのか

伊藤忠商事は経営方針「The Brand-new Deal」を掲げる。その中で一貫して手を打ってきたのが、社員の働き方の設計だ。代表例が、2013年に導入した朝型勤務だ。

朝型勤務は「働く時間」の設計であり、寮は「住む場所」の設計であり、本社移転は「働く場所」の設計である。この会社は、人的資本経営を制度のリストではなく、時間と場所の具体的な設計で実行してきた。

仮住まい・寮・朝型——場に一貫する思想

三つを並べると、共通項が見える。伊藤忠商事は「社員が同じ時間に、同じ場所に、共にいること」に一貫して投資している。朝に時間を揃え、寮で屋根を揃え、仮住まいでも床を割らずに一箇所へまとめる。

だから今回の仮移転は、単なる建て替えの中継ぎとして読むべきではない。分散移転でコストを絞る選択肢もあったはずの局面で、駅直結・新築・約1万坪に社員を集めた。仮住まいの数年間ですら、社員が顔を合わせる密度を落とさないという意思決定である。

45年前と2026年8月

都心5区の空室率1.11%という記録的な床不足の中での、この動きである。数年後、建て替わった青山に戻るとき、仮住まいの赤坂で作られた働き方が新本社の設計図に反映されるはずだ。

まとめ

伊藤忠商事の赤坂移転は、建て替えのための仮住まいである。だが仮住まいの床の広さ、去るビルへの感謝展、復活させた社員寮を並べて読むと、この会社が「社員が共にいる場」を経営の道具として一貫して扱ってきたことが分かる。

企業がその場所を選ぶ理由は、利便性やコストだけではない。「この場所にいる意味」の意思表示としても読める。

仮の住まいにすら意味を持たせる会社が、帰るために建てる新しい青山の本社。その設計に何が盛り込まれるのか、いまから注目に値する。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参考資料

伊藤忠商事

街・ビル

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