
あぁ、迷惑。めっちゃ迷惑。超迷惑。
今どき何? いまだに何? 何でこんなことさせられなくちゃいけないの?
マジで意味分からねぇんだが。
と、大口の取引先であるA社から指定された紙の納品書を書きながら、毎回心の中で毒づいてしまう。
A社はウチの本社と付き合いが長く、上得意客なので、相手の要望は聞かざるを得ないのだそうだ。
そのため、取引に際してはA社が作っている紙の納品書と請求書を購入させられた上、それを相手が指定する様式で書き、取引のたびにFAXし、さらに郵送し、締日には再度1ヶ月分をまとめて郵送し直すという面倒くささ。
今どき、納品書・請求書・領収証の発行と発送など、専用ソフトを使ってメール送付するか、クラウド上の専用システムでやり取りすれば5分で終わる。
それなのに、A社に対する納品書や請求書の用意には小一時間かかってしまうのである。
私は紙ベースの仕事が苦手だ。そのせいもあるが、相手が指定する様式が複雑怪奇なこともあり、「あぁ、間違えた」「おっと、書き損じた」と何度も紙を破っては捨てることになる。
たった1枚の納品書や請求書を出すために、時間と紙と労力を無駄にしている感がハンパない。
間違えないよう正確な作業手順をきっちり覚えればいいだけなのかもしれないが、つい「もう時代は令和なんですけど、どうしてこんな昭和のやり方を覚えなくちゃいけないの?」という反発心がわいてきて、ちっとも覚える気になれない。
あぁ、また間違えた。はぁー、もう
む〜〜〜〜り〜〜〜〜〜。
だいたいね、取引先にこんな負担を押し付ける会社って、今どきホントどうなの?
デジタル化の流れに逆らって、こんな化石スタイルの事務作業をしている会社なんて、もう滅びちゃって、よくない?
大口顧客にも関わらず、A社から発注が来ると、どうしても「うわっ、また手作業か」という気持ちが先に立って、ありがたさが薄れてしまう。
A社は都会の会社だ。それなのに、なぜこのような昭和スタイルが続いているのかというと、A社の経理部長がおじいちゃんだからである。電話の声から察するに、70代だろうか。
ご高齢にも関わらずご退職されないということは、おそらく経営者の身内なのだろう。
中小企業では、経理や財務責任者を親族に任せるところが珍しくない。
「あぁ〜、ヤダヤダ! 封筒や切手も用意しないといけないし、紙のやりとりって本当に面倒くさい。
手書きってだけでも嫌なのに、このクソ暑いなか郵便を出しに行くのが無理すぎる。
だいたいさあ、AA社ってあるじゃん? A社のグループ企業なんだけど、AA社の方はとっくにデジタル化してるんだよ。
AA社との取引は電子データを専用システム上でやり取りすればいいだけになっているのに、なんでA社の方はこんなに遅れてるのよ。同じ住所の会社だってのにおかしいだろ」
と、私が書き損じた納品書をシュレッドしながら愚痴をこぼしていると、
「そりゃ、A社のグループもウチと同じだからじゃないの? ウチだって事情は全く同じじゃん」
と同僚から冷静なツッコミが入った。そうだった。
ウチでも、グループの中で最も規模が小さい弊社より、図体がでかい本社の方がデジタル化が遅れており、いまだに昭和が続いているのだ。本社の経理部には、昔ながらの紙の帳票が積み上がっている。
デジタル化に手をつけられない理由は、本社の財務責任者と経理部長がパソコンを使えないからなのだ。
財務責任者は経営者一族で、60代後半の男性だ。彼はパソコンが苦手らしく、デスクにはそもそもパソコンが設置されてない。彼にとってパソコンとは「部下が使うもの」であって、自分で触る気はないらしい。
そして、経理部長の女性は定年を間近に控えたお局様なのだが、彼女が使っているパソコンは、なんとネットに繋がっていないのである。そんなことって、ある?
ネット環境なしでどうやって仕事をしているのか不思議で仕方ないが、そのお局様は、つい先日も「仕事は紙でいい」と熱弁を振るっていた。
「私はね、ちゃんと間違えずにできているなら、パソコンを使わなくてもいいと思うの。パソコンを使ってたって、間違うことはあるじゃない?
私は若い頃からずっと今のやり方で仕事をしてきたから、紙に書いた方が速いのよね。それで仕事ができているのだから、問題ないはずよ。
税金を納めるのだって、最近じゃしつこくキャッシュレス納付を勧められるけど、手で計算して、銀行の窓口に行く方がいいわ」
などなど。
共感できるポイントがどこにもないので返事に困った。
すみませんが、私は銀行に行くまでの時間と窓口で待たされる時間が無駄すぎて嫌いです。
それにしても不思議なのは、1990年代後半にはどこのオフィスにもパソコンが普及していたはずで、その時代にはお局様もまだギリギリ20代だし、財務責任者である男性役員も30代だったはずである。
20代〜30代の若さでパソコンを使おうとしなかったことが理解できないし、「この30年間アナタ達いったい何してたんですか?」という感想しかない。
ともかく、昭和から時が止まっている人たちが事務方のトップにいるのだから、業務のデジタル化などできるはずがないのだ。
そのため、本社では若い事務員さんたちも、ため息をつきつつ昔ながらの非効率なやり方で仕事を続けている。
だいたい、弊社にしてもデジタル化したのは、つい最近のことなのだ。
私が紙ベースの仕事が嫌すぎて、3ヶ月かけてシステムを入れ替えた。過去を全否定していくスタイルの改革を実行できたのは、元々のやり方を作った人がすでに退職していたからである。
いくら強引な私でも、本社で同じことはできない。
業務のデジタル化を果たした後、これまで紙の納品書と請求書を郵送でやりとりしていた取引先に「システム変更のご案内、およびペーパーレス化にご協力のお願い」を送ったところ、郵送からメールやシステム上でのやり取りに変えられたところが大半だった。
ということは、これまではむしろ、こちらが相手にアナログなやり方を押し付け、負担をかけていたということだろう。
本社のお局様はまもなく定年を迎えるが、再雇用でもうあと5年勤め続ける気でいるらしい。
デジタル音痴な二人がまだまだ事務方のトップに居座るということは、本社のデジタル化は難しいままだ。
もたもたしているうちに、AIの進化は恐るべきスピードで進み、社会が根底から変わってしまうだろう。現時点で時代に取り残されている企業が、果たしてこれからの5年を生き残っていけるのだろうか。
「案外、小さな弊社より本社の方が先に倒れるかもしれないな」
と独り言を言いながら、またしても書き損じてしまったA社専用の納品書をシュレッダーにかけた。
この記事を書いた人
マダムユキ
ブロガー & ライター
https://note.com/flat9_yuki
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