自ら問いを立て、仲間とともに学びを深める──湘南白百合学園小学校の多目的ICTルームができるまで

一人1台端末が当たり前になったいま、「パソコン教室」は何のためにあるのか。
固定された机とキーボードの練習だけでは、子どもたちが向き合い、教え合い、探究を深める場にはなりにくい——そんな問いから、湘南白百合学園小学校様は従来のパソコン教室を多目的ICTルームへと生まれ変わらせました。

部屋の名は「ヴェリタス*」。ラテン語で「真理」を意味する言葉です。児童が自ら考え、多様な考えをもつ仲間と対話しながら協働できる空間を目指したプロジェクトの背景と、これからヴェリタスをどう使い込んでいくかの模索を、校長の野村隆治様に伺いました。

湘南白百合学園小学校

校長 野村 隆治 様

事業内容:私立小学校
所在地:神奈川県藤沢市片瀬海岸2-2-30
実施内容:パソコン教室の多目的ICTルーム化
HP:https://syougakkou.shonan-shirayuri.ac.jp/

株式会社内田洋行 教育ICT事業部 東日本第1営業部 営業1課 川嶋 大樹 様
パワープレイス株式会社 プレイスデザインセンター
 教育公共ソーシャルデザイン部 デザイナー 武野 楓 様
株式会社ウチダシステムズ 公共事業部 文教営業部 岩堀 裕太

※2025年完成当時

パソコン教室の役割が終わったとき、何を育てたいかから考えた

ーパソコン教室を変えようと思われたきっかけから教えてください。

野村様:教育環境の話になりますが、子どもたちを取り巻く社会や教育は、どんどん変化しています。将来の予測が難しく、正解が一つでない時代にもなってきています。AIをはじめとする技術革新も急速に進み、子どもたちが大人になる頃には、現在は存在しない仕事についたり、今からは想像もできない課題に向き合ったりすることも考えられます。

本校では「これからの時代を生き抜く子どもたちに本当に必要な力は何か」を考え、さまざまな取組みを行っていて、今回のパソコン教室を多目的ICTルームにする計画もそのうちの一つです。

ー変化の激しい時代のなかで、学校に求められる力も変わってきている、と。

野村様:そのような時代だからこそ、学校では知識や技能だけを身につけるのではなく、それらを活用しながら自ら課題を見つけ、考え、判断し、多様な人々と協働して新たな価値を作り出す力を育てることが必要だと考えています。

答えのある問題を解くだけでなく、答えのない問いにも挑戦し、自分なりの考えを形にしていく力。それがこれからの子どもたちに必要だと思っています。

ーその力を育むうえで、合言葉の「Be Proactive!」も重要になってくるわけですね。

野村様:「Be Proactive!」は、自ら考え、主体的に行動することを目標とした、本校における教育活動全体の合言葉です。ただ、主体性は「主体的になりなさい」と言われただけでは身につきません。いろいろな活動を通じて挑戦し、自分の考えを表現し、友達との対話を通して学びを深め、時には失敗から学ぶ。そうした経験の積み重ねが主体性を育む、と考えています。

そのためには授業の内容だけでなく、学ぶ環境そのものも重要です。教師が前に立って行う一斉授業も大切ですが、それだけでは足りません。子どもたち同士が自然に向き合い、対話し、協働しながら学べる空間が必要だという考え方が、今回のプロジェクトの出発点です。

ー空間そのものが、主体性を支える、ということですね。

野村様:そうですね。本校でもiPadを導入し、一人1台端末の環境整備が進んでいました。ICTは「パソコン教室で使うもの」ではなく、日常の授業で当たり前に活用するものへと、大きく変化しています。

ここはもともと従来のパソコン教室でしたが、その役割はもう終わり、新しい学びを支える空間に変わるタイミングではないかと考えていました。どのような機器を導入するかよりも、どのような子どもを育てたいのかを大切にしながら、この多目的ICTルームの整備を進めることにしたのです。

ー従来のパソコン教室に対しての課題感はどのようなものでしたか

野村様:改修前のパソコン教室は、パソコンの操作を学ぶ場でした。iPadの導入が進んでからは、最終的にキーボード練習のためだけに使われる場所になっていましたね。一人1台タブレットが配られた以上、使われなくなったのは仕方ない、という感覚もありました。
一方で、子どもたちがお互いに学び合うスペースがないのではないか、という問題意識もありました。

ーヴェリタスはどのような使い方をすることが多いのでしょうか。

野村様:9面に投影できますから、授業のなかで、各グループが自分たちの考えを画面に映し、共有しながら話し合うといった活動が一番多いと思います。本校はグループ活動が多く、学習発表会もグループ発表です。

ヴェリタスを最初に使ったのは6年生でした。2クラスが集まって8グループに分かれ、お互いの発表を見て、よかった点やアドバイスなどを伝え合う姿が見られました。こういった使い方が今は多いですね。

湘南白百合学園小学校 校長 野村 隆治 様

学校改革のなかで描いた「多目的ICTルーム」

ープロジェクトの要望書をつくる過程についても教えてください。

野村様:前段の話になりますが、2023年12月に「これからの時代にふさわしい学校へ進化するために、学校そのものを見直す必要がある」という共通認識のもと、学校改革プロジェクトが始まりました。

教育内容や教育環境の見直しと、本校の魅力をよりわかりやすく発信することを目的に、広報、カリキュラム、アフタースクール、保護者向け施策、ICTなど複数のチームを設置し、それぞれのテーマで検討を進めています。その内容をもとに、今回の要望書も作成させていただきました。

単に最新のICT機器を導入するのではなく、子どもたちが自ら考え、仲間と対話しながら協働し、探究を深められる空間を実現すること。必要な機能・設備を整理し、新しい教室のコンセプトをまとめていった、というのが経緯です。

ー複数社の提案のなかで、最終的な決め手は何でしたか。

野村様:グループごとに大きな画面を活用しながら協働的に学べる環境や、映像を効果的に活用した新しい学習環境を構想していました。目指していた多目的ICTルームの姿を、具体的かつ実現性の高い形で示していただいたのが御社のご提案でした。

壁と床を活用した没入型空間や、最大9面で同時に画面共有できる環境などの提案もあり、先進的でありながら直感的に操作でき、安全性・保守性・将来的な拡張性まで考慮していただいていたと評価しています。

9面投影のイメージ

ー提案のなかで「よくわかっている」と感じた点はありますか。

野村様:操作性の部分ですね。ICTが得意な先生ばかりではないので、codemari(コデマリ)*を使った直観的な操作になっているのは助かっています。
以前からICT環境の整備などで継続的にお付き合いがあり、本校の教育活動やICT環境についてもご理解いただいたうえでのご提案だったとも思います。

ウチダシステムズ岩堀(以下USS岩堀):パソコン教室が使われなくなったことは以前から伺っており、iPadをどのように使えばいいかわからないという声もあったので、ICTが苦手な先生でも使いやすい、というところは意識していました。

パワープレイス武野(以下PWP武野):児童の皆さんが夢中になって学べるような空間にしたい、という思いもずっと念頭にありましたね。

株式会社ウチダシステムズ 公共事業部 文教営業部 岩堀 裕太

*codemari (コデマリ):プロジェクター、照明、スピーカーなどの会議室や教室のAV機器をiPadなどのタブレットで一括制御できるAV制御システム。直感的な操作と自動化が特徴的。

湘南の海と温かみ──デザインとICTを一つにまとめる

ー完成までに印象に残っていること、大変だったことはありますか。

野村様:結果的にできあがってみると、プロジェクションマッピングの機能には「ここまでできるのか」と驚きました。ただ、最初はうまく映らなかったんです。

USS岩堀:遮光ブラインドがあったのですが、想定以上に西日が強く、映しても何も見えないところからのスタートでした。暗幕を追加で付けるなど、追加対応が発生したことは想定外でした。

内田洋行 川嶋(以下UCD川嶋):お部屋マッパー*の投影用カーテンは、提案当時は手動で動かす想定でした。ただ、遮光性があり重量もあるので、小学生が開け閉めするには重い。電動にしたり、カーテンをどこに集めるかなど、先生や児童が扱うことを考え、操作性の観点で工夫しました。

*お部屋マッパー:プロジェクターの光を鏡で反射させ、壁3面+床1面への投影を1台のプロジェクターで実現する仕組み。コンテンツも1つの映像・画像を用意するだけでよく、360度カメラで撮った映像や平面映像の投影にも対応。

プロジェクターを鏡に反射させ、計4面に投影するイマーシブ空間を創出

ーデザイン面についても教えてください。

PWP武野:先生方から「地中海の海を感じさせるような、近未来だけど温かみもあるデザイン」といったイメージをいただきましたので、お互いのイメージをすり合わせる作業を丁寧に行いました。壁面の白色1つとっても、サンプルを見ながら合わせていきました。壁3面にはグラフィックデザインを施し、湘南らしい爽やかな海沿いの雰囲気をつくっています。

野村様:湘南の海を思わせる青を基調として、先進的な空間でありながら、白木を取り入れることで温かみも感じられるデザインにしていただきました。

ーイマーシブ空間を表現するうえで、ICTとデザインの擦り合わせは難しかったのではないですか。

PWP武野:機能とデザインのすり合わせは、何度もやりました。例えば廊下側の壁面にプロジェクターを投影したいとなったのですが、投影するにはフラットな投影面が必要です。もともと柱がありフラットな面が取れないので、手前に壁を新しく立てる手法を取りました。フラットな投影面を確保しつつ、裏はバックヤードとして使える、といった機能もご提案しています。

パワープレイス株式会社 プレイスデザインセンター
教育公共ソーシャルデザイン部 デザイナー 武野 楓 様

ー9台のプロジェクターは、どのように使えますか。

野村様:1クラスは35人から40人前後ですから、4人グループをつくって使用するのにちょうどよい構成です。

UCD川嶋:1面あたり約120インチで、リアルサイズで物を映し出すことも可能です。各プロジェクターには無線投影機wivia*を搭載し、子どもたちのiPadからプロジェクターへミラーリングして映すこともできます。4分割して最大36画面までの共有にも対応する構成です。先生は、一人ひとりのタブレットを覗きに行かなくても、この空間であればひと目で状況を把握することができます。

*wivia(ワイビア):会議室、教室、ミーティングスペースなどに幅広く展開可能なネットワーク接続型ワイヤレスプレゼンテーションシステム。ネットワークと表示装置に接続することで、パソコン・タブレット端末・スマートフォンの映像を無線でミラーリングする装置です。ケーブルの取り回しにとらわれず、会議や授業などをスムーズに進行できます。

教え合いが目の前で見える教室へ

グループ活動のイメージ

ー児童や先生の反応で、印象的なエピソードはありますか。

野村様:算数の授業で9面を全部使い、それぞれ別々の問題を出して、児童が自分で解いていく。解けた子は電子黒板にヒントを書き込み、まだ解けていない子に教えてあげる、という使い方が印象的でした。「分からない人に教えてあげましょう」というのは、もともと授業のなかでも行っていますが、それがみんなの前ではっきり見えるようになったことが大きいです。

とはいえ、9面を使うグループ発表の使い方がいちばん使いやすいとみんなが思っているようで、今のところその使い方に寄りがちです。この教室を使うのも特定の先生に限られていて、どう横展開していくかがこれからの課題です。

UCD川嶋:360度カメラも納めさせていただいているので、学習の旅先で360°カメラで撮影し、「ここで追体験しましょう」といった使い方をしていただくのも面白いと思います。現地に行かない人にも臨場感を伝えられる空間として使えるはずです。

株式会社内田洋行 教育ICT事業部 東日本第1営業部 営業1課 川嶋 大樹 様

ヴェリタスを使い込み、「こんな使い方がしたい」が出てくるまで

ー空間完成後、「ヴェリタス」と名付けられた由来を教えてください。

野村様:カトリックの学校ですから、ステラマリスなど宗教にちなんだ名前を部屋につける伝統があります。マ・スール(シスター)にも相談し、「いい名前はないか」と議論しながら進めました。

結果的にラテン語で「真理」という意味をもつ「ヴェリタス」に決まりました。子どもたちが自ら問いを立て、仲間との対話を通して真理を探究していく。そのような学びの場にしたいという思いを込めました。本校が目指す学びを象徴する名前として、この教室にふさわしい名前だと思っています。

ー名前がつくと、愛着が湧きますね。では今後、ヴェリタスをどのように使っていきたいですか。

野村様:本校は書くことにこだわってきた学校で、それはそれでよいことです。一方で、iPadでの配信など、この世の中でやっていかなければならないこととのバランスをどう取るか、と考えていました。ヴェリタスをつくったことはよかったと思うと同時に、もっと使っていかなければならないとも感じています。

いまは教員が中心になって使う段階ですが、将来は子どもたちの発想や興味が新しい方向へ向かうように使えたら、と思っています。「こんなふうに使いたいんだけど」と子どもたちから言ってもらえるようになれば、本当にいいですね。

ー同じ悩みを持つ学校の先生に、進めるならどんな言葉をかけますか。

野村様:従来のパソコン教室がこれだけ大きく変わったので、本当にやってよかったと思っています。これは普段から話していることですが、変わらない理由を述べるのは簡単です。いいと思ったら、どうやってやれるかを考えるのが大切。子どもたちがこれから育っていく未来を考えれば、私たちもどんどん変わるべきだという発想で、挑戦していただければと思います。

ーまさにBe Proactive!ですね。これからの支援として我々に期待したいことはありますか。

野村様:操作性がよく使いやすいというのはメリットですが、その反面、裏側はブラックボックスなので、トラブルが起きたときのご支援などはこれからも引き続きお願いしたいです。まだ使えていないカメラの使い方や活用方法なども、お手伝いいただけると助かります。

UCD川嶋:操作性がよくなるように構築したので、使いやすさを感じていただけて嬉しいです。一方で、UIを使いやすくするほど内部で動くものは増え、ブラックボックスになりやすい。トラブル対応や、新たなリクエストにも応えられるよう、ご支援できればと思っています。

PWP武野:今後は当時想定していなかった使われ方も出てくると思います。現場の声や子どもたちの反応を先生方からキャッチしながら、よりよい空間づくりを今後もご支援できたらと思っています。

USS岩堀:先進的で素晴らしい空間ができたと思っているので、しっかりご活用いただけるよう、引き続きサポートさせていただきます。

先生方への説明会の様子

この記事を書いた人

そしきLab編集部

ウチダシステムズのスタッフを中心に、組織作りや場づくりについて議論を交わしています。業務の中で実際に役に立ったことなどを紹介していきます。


この記事を書いた人

アバター

そしきLab編集部

【この記事は生成AIを利用し、世界のオフィスづくりや働き方に関するニュースをキュレーションしています】