「天神ビジネスセンターⅡ」が貸せる床の約15%をサウナ付きの共用空間に なぜ天神で?狙いと入居企業に予想される効果は?

天神ビジネスセンターⅡ外観(出典:福岡地所)
天神ビジネスセンターⅡ外観(出典:福岡地所)

2026年8月、福岡・天神に「天神ビジネスセンターⅡ」が開業した。地上18階・地下2階のオフィスビルで、地下鉄天神駅と地下でつながる。

このビルは、賃借範囲の約15%にあたる約1,300坪を、入居企業の社員だけが使う共用空間にした。サウナ、ジム、仮眠室、200人が入るカンファレンスルームまである。

福岡の会社は、オフィスが小さい。福岡地所でリーシングを担う玉手啓介氏によれば、首都圏で数千坪を構える大企業でも、福岡の拠点は100坪規模になることが珍しくない。社員が休む場所や集まる場所が要ると分かっていても、その広さでは自前でつくりにくかった。

天神ビジネスセンターⅡは、その場所をビル側で用意し、入居企業に必要なものだけをつくってもらう形にした。新しいビルが次々に建ち、床が余り気味の天神で、ビル側が入居企業に何を用意して選ばれようとしているのかを見ていく。

天神ビッグバンで、想定の約2倍のビルが竣工

天神ビッグバンの対象エリアと主なプロジェクトの位置図(8が天神ビジネスセンターⅡ)(出典:福岡市)
天神ビッグバンの対象エリアと主なプロジェクトの位置図(8が天神ビジネスセンターⅡ)(出典:福岡市)

天神に新しいビルが続くのは、福岡市が2015年2月に打ち出した再開発の旗印「天神ビッグバン」による。天神交差点から半径約500m、約80haの範囲で、古い民間ビルの建て替えを促す。

それまでの天神には、築30〜40年を超えるビルが多く残っていた。福岡空港に近く、航空法でビルの高さに上限がかかるため、建て替えても床を大きくは増やせなかった。玉手氏は、オーナーが建て替えに踏み切りにくく、オフィスの更新が進みにくい状況が続いていたと振り返る。

この上限が国家戦略特区で緩められたのを機に、市は独自の上乗せを重ねた。

完成した棟数だけで、市の想定の約2倍になった。天神ビジネスセンターⅡも、このボーナスの認定を受けて2026年6月に竣工したビルだ。

新しいビルが重なり、天神の空室率は福岡で最も高い

ビルが一度に増えたことで、天神の床はいま余り気味だ。三鬼商事の調査で、2026年8月の数字は次のとおりだ。

  • 天神地区の空室率:8.94%(福岡の6地区で最も高い)
  • 博多駅前地区の空室率:2.90%
  • 福岡全体の新築ビルの空室率:25.14%(既存ビルは4.26%)

新しいビルほど空きが多い。天神では、ビル同士で入居企業の取り合いになっている。

しかし、入居企業が取り合っているのは、人だ。帝国データバンクが全国の企業に聞いた2026年7月の調査では、正社員が足りないと答えた企業が51.3%あった。福岡市は、10〜29歳の人が占める割合が政令指定都市で1位(2020年の国勢調査)で、若い人を採りたい企業が拠点を置く街でもある。

玉手氏は、多くの企業が「人への投資」の視点でオフィスを見直し、「この会社で働きたい」と思ってもらえる環境づくりに経営課題として向き合うようになったと話す。ビルが選ばれるかどうかも、入居企業の採用と定着を助けられるかどうかにかかってきた。

地下鉄に直結し、1フロアは最大約785坪

天神ビジネスセンターⅡからの交通アクセス図(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)
天神ビジネスセンターⅡからの交通アクセス図(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)

天神ビジネスセンターⅡは、福岡市役所の北別館などがあった土地に、福岡地所が九州電力・クラフティアと共同で建てた。

最小の区画は43坪だ。福岡で100坪前後の拠点を探す会社も、このビルに入れる。

ビル中央には、地下2階から地上5階まで抜けた吹き抜け「アクセラリウム」があり、トマス・サラセーノ氏の作品が置かれる。1階には飲食店が並び、2〜3階には、2001年からこの敷地にあり、2020年にいったん移っていたジュンク堂書店が戻ってきた。

共用空間「Reboot!」は、入居企業のオフィスの延長として使う

Reboot!の地下2階のスパ・サウナのイメージ(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)
Reboot!の地下2階のスパ・サウナのイメージ(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)

約1,300坪の共用空間は「Reboot!(リブート)」という。吹き抜けに面した4〜5階と地下2階にあり、使えるのは入居企業とその社員に限られる。中身は、休む・働く・交わるの3つに分かれる。

玉手氏は内覧に来た企業に、「このビルの共用部は、皆さんのオフィスの延長上にあります」と伝えているという。小さな区画で入った会社も、1フロアを借りた会社も、同じサウナとカンファレンスルームを使える。玉手氏は、それが「採用面での訴求力にもつながり」、浮いた費用を別の投資に回せると話す。

共用を同じビルの会社が使うことで、会社同士の出会いも生まれる。玉手氏は、大企業が数十社集まるこのビルで、業界や業種の垣根を越えた偶発的な会話や出会いが生まれることにも価値があると見ている。

福岡地所にとって、Reboot!は2棟目だ。1棟目の天神住友生命FJビジネスセンター(2025年9月開業)では、約1,000坪の共用空間に、当初に狙ったIT系だけでなく、メーカーや金融、人材系の企業からも関心が集まった。

区画は仕上げずに渡し、入居企業が必要なものだけをつくる

ハッカブルオフィスの引き渡し時のイメージ(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)
ハッカブルオフィスの引き渡し時のイメージ(出典:天神ビジネスセンターⅡ公式サイト)

共用空間に機能を持たせた分、区画の渡し方も変えた。

賃貸オフィスは、床・壁・天井を「事務所仕様」に仕上げて貸すのが一般的だ。ところが入居企業の多くは、入居後にその内装を壊して自社の仕様につくり直し、退去するときには元の状態に戻す原状回復を求められる。つくっては壊し、戻してはまた壊すことになる。

福岡地所が、2021年に竣工した隣の天神ビジネスセンターで入居企業を調べると、ビル側が最初に敷いたタイルカーペットの約40%が、使われないまま捨てられていた。内装工事と原状回復の費用が、入居を決めるときの重荷になっていることも分かった。

そこで天神ビジネスセンターⅡでは、事務所仕様のフロアを1つに絞った。残りのフロアは、すぐ入れる区画と、仕上げずに渡す区画にした。

玉手氏は、共用部に質の高い機能があれば、企業は専有部を必要な機能に絞れると話す。会議室もラウンジも仮眠室もビルにあるなら、区画の中に同じものをつくらずに済み、そのぶんの費用を自社らしい空間に回せる。天井を張らないことを否定的に受け取られる不安もあったが、「まさにこういうオフィスが欲しかった」という声を想像以上に受けたという。

知財の窓口、オフィス家具メーカー、ディープテックの拠点が入った

Fukuoka Innovation Lab. Tenjinのイメージ(出典:福岡地所)
Fukuoka Innovation Lab. Tenjinのイメージ(出典:福岡地所)

入居を公表している主な顔ぶれは、次の3つだ。

知財を相談できる窓口と、知財が要る創業期の会社が、同じビルに入った。

2026年12月に、天神ビッグバンボーナスの竣工期限を迎える

天神ビッグバンと、このビルにかかわる出来事を並べると、次のとおりだ。

ボーナスの竣工期限は、当初の2024年末から、感染症対策に取り組むビルについて2026年12月末まで延ばされた。複数の街区にまたがって段階的に建て替える計画の期限は、市が個別に判断する。期限のあとも、天神では新しいビルの完成が続く。

まとめ

天神ビジネスセンターⅡは、区画の小さな福岡の会社が自前ではつくりにくかった休む場所と集まる場所を、ビルの側で用意した。貸せる床の約15%を入居企業の社員だけが使う共用空間にし、区画は仕上げずに渡して、入居企業が必要なものだけをつくる形にした。

背景には、天神ビッグバンで新しいビルが重なり、天神の空室率が福岡で最も高くなったことがある。ビルは入居企業を取り合い、入居企業は人を取り合っている。福岡地所は、入居企業の採用と定着を助けるものを、ビルの共用部として用意した。

天神で拠点を探す会社は、賃料と広さに加えて、ビルの共用部で足りるものと、区画の中に自前でつくるものを分けて比べられる。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参照

天神ビジネスセンターⅡ(事業者)

天神ビッグバン(福岡市)

福岡の街

入居企業・施設

市況・労働市場

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