西武台高等学校は、社会変化に対応し、生徒が未来を切り拓く力を育成するためにSTEAM(スティーム)*コースを新設し、革新的なアクティブラーニング教室を導入しました。この新たな取り組みがもたらす学びの場について、西武台高等学校 山下様、ウチダシステムズ 文教営業部の南波氏、パワープレイス デザイナー 墨岡氏、シービーエヌ ICT設備コーディネーター 西山氏にお話を伺いました。
*STEAM=科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の5つの分野を統合的に学ぶ教育のこと。
プロフィール
学校法人武陽学園 西武台新座中学校・西武台高等学校
副校長 山下 伸雄 様(右から2番目)
パワープレイス株式会社 教育公共ソーシャルデザイン部 デザイナー 墨岡ももこ様(右から3番目)
株式会社シービーエヌ 営業部 部長 西山康一様(一番左)
株式会社ウチダシステムズ 公共営業部 南波正太郎(一番右)
15年後の未来を描く—STEAMコース設立の背景と展望
- 生徒が主体的に考え行動する力を育む、探究型の「STEAMコース」を新設
- デザインとICT設備が一体となったアクティブラーニング教室だからこそできる、STEAMコースでの新しい学び
- 夏休みを活用した短期間での工事と、誰でも使えるICT設備
- 「教育のゴール」を明確にしたアクティブラーニング教室づくり
Q. STEAMコースの設立に際して、教育理念として最も重要視されたことは何でしょうか?
山下様:STEAMコースは、生徒が“世の中のあれこれを自分ごととして捉える”ことを目的とした探究型学習のコースです。従来の受け身の学びを超えて、自分自身で調べ、考え、意見を持って行動できる力を育てたいという思いが強くあります。自分の人生も、世の中のことも当事者意識をもって切り開いていける、15年後社会で活躍できる自立した人材を育てるために、特に“主体的な学び”を重視しています。
―少人数制であることがSTEAMコースの特徴のひとつですが、少人数での指導にはどのような利点があるとお感じでしょうか?
山下様:現在、1年生は18人、2年生は15人で、非常にきめ細かい指導ができています。生徒の目標や学びの内容を個別に確認できるので、それぞれの将来の目標に合わせたサポートができ、保護者の方からの信頼も得ています。1クラスの人数が多くなると授業や校外学習に自分事として参加しづらくなりますから、規模を大きくすると同じ教育の質を保つのは難しくなります。
―STEAMコースでは、1年生から3年生までの各学年ごとに異なる学びの場が設けられていると伺いましたが、それぞれの役割について教えていただけますか?
山下様:STEAMコースの教室は“STELA*1”が1年生、“STELA2”が2年生、“STELA3”が3年生と学年ごとに分かれており、それぞれ異なる学びのステップに合わせた役割を持っています。1年生はとにかくインプット重視の時期ですので、情報を多く吸収し基礎的な知識を養ってもらいます。教室には3Dプリンターやレーザーカッターも備えてあり、インプットしたものを物づくりで表現するなど、体験を通じて学びを深めます。
2年生になると、アウトプットの練習に力を入れていきます。例えば、プレゼンテーションの機会を設け、自分の考えを相手に伝える力を養うなど、インプットした知識を表現する段階に入ります。学年が進むにつれ、“学ぶ”から“伝える”へのステップアップが求められるのです。
*STELA(ステラ)=西武台高等学校で新設したアクティブラーニング教室の名称。Science Technology Laboratoryの略で、ラテン語の「星」という意味もかけている。
-3年生に進級した生徒は、さらに実践的な学びを経験されるということですね。
山下様:そうです。3年生では、いよいよプロジェクトベースの学習に挑みます。各自が取り組むテーマを設定し、その成果を発表したり、社会で役立つスキルを身につけたりする時期です。特に、日本の少子高齢化など、これから直面する社会課題にも目を向けてもらい、自分の将来をより現実的に考えられるようにしています。
生徒の学びをデザインする—アクティブラーニング教室の空間と工夫
Q. STEAMコースを立ち上げて、アクティブラーニング教室を作ろうと思った理由や経緯を教えてください。
山下様:普通の教室でやれないわけじゃないと思います。でも、子ども達の自主性を促すためにはアクティブラーニング教室という空間が必要だと思いました。また、新しいコースをつくるにあたってキャッチ―なものも欲しいなと思って。
-STEAM教育という概念を可視化したということですね。教室のデザインや空間づくりのこだわりはありますか?
山下様:アクティブラーニング教室は、通常の教室とはまったく異なる雰囲気です。教室に入った瞬間から、生徒に“ここで何か新しいことが始まる”と感じてもらいたい。特に、天井や床に色を取り入れて、カラフルでポップな空間にしました。教室全体が、まるで自宅のインテリアにこだわるように、細部までデザインにこだわり抜いています。
-デザインのインパクトが、学びの意欲を引き出す効果に繋がっているんですね。
山下様:その通りです。実際、生徒が教室に入るたびに『なんだかワクワクする』といった反応を見せてくれます。この空間デザインは、彼らの学びを後押しする大切な要素になっています。伝統的な“いわゆる教室”という空間からの脱却を目指し、学びの場を特別なものに変えたいと考えました。
PWP墨岡様:デザインは“派手に、ポップに”というご要望がありましたので、カラフルで明るい空間を意識しました。また、部屋ごとに色合いも変えているので、入った瞬間から違いを感じてもらえるようになっています。
山下様:STELA1、STELA2、STELA3と学年ごとに分かれていますが、どの教室もそれぞれに特色があります。例えば、STELA1はメインカラーとして赤を基調としています。次に進むSTELA2では異なる色合いを使い、学年ごとの“成長の場”として変化を楽しめるようにしました。
PWP墨岡様:また、教室に曲線を取り入れたのも自由な発想を促すためです。カーペットのグレーのラインは隣の教室と繋がっていて、相談や学びが共有できるような雰囲気づくりをしています。アクティブラーニング教室は、単なる“学ぶ場所”ではなく、発想を広げるクリエイティブな空間です。
ICTで広がる学びの可能性—STEAM教育のサポート体制
Q. 教室の設備についても教えてください。
USS南波:アクティブラーニング教室には、大型ホワイトボードや、連結可能なプロジェクターを設置しています。通常プロジェクターはそれぞれの映像が映るだけですが、2台の画面を1つにまとめて表示することができるので、大きな資料を使ったプレゼンテーションや、縦長や横長といった資料の投影もできるようになっています。
山下様:プロジェクターを活用することで、視覚的に理解しやすい授業が展開できるのはとてもありがたいですね。
USS南波:各生徒のタブレットから直接画面に無線で投影できる機能もあるので、発表やディスカッションもスムーズです。生徒が自分の考えを即座に全員に見せられるのは、意見の共有がスピーディになり、活発な交流に繋がっています。
-ICT機器は設置だけでなく、利用者が使いやすい工夫も求められると思いますが、何か工夫したことはありますか?
USS南波:アクティブラーニング教室を作る上での課題として、複数の機器の電源を入れる手間があります。私たちが設計段階から意識していたのは、誰でも直感的に操作できるような環境を整えることでした。そこで今回は、「マルチプレゼンテーションセーブボックス」というシステムを導入し、ブラウザ上で教室内の機器を一括管理できるようにしたことで、授業開始前の準備時間を大幅に短縮しています。
-操作の複雑さを軽減することで、利用する先生方にも負担が少なくなるのですね。実際、教員の方々からの反応はいかがでしょうか?
山下様:特に普段ICT機器に慣れていない先生方でも、ボタン一つで操作が完結するという点には好評です。以前は、機器ごとに電源を入れて設定を調整する必要があったのですが、今ではシンプルな操作で全て準備できます。授業をスムーズに進められるので、先生方からも使いやすいと感じてもらえています。
CBN西山様:各教室の違いだと、STELA1の投影方法は無線だけなのですが、たまに使う先生方が操作方法に慣れておらず、音や映像が思うように流れないというお声もあり、STELA2では有線も入れてより使いやすいように構築しました。
USS南波:また、定期的な研修を通じて、先生方が機器の操作に慣れるようサポートしています。機器の新しい使い方やトラブル対応についても事前にお伝えすることで、現場での戸惑いを最小限に抑える工夫をしています。
-ICT設備とそのサポート体制が整うことで、生徒たちの学びも加速しそうですね。STEAM教育の基盤として非常に効果的な環境になっているのが伝わってきます。
山下様:はい、ICT設備の充実は、STEAM教育を推進する上で欠かせない要素です。この教室を通じて、生徒たちが自由に発想を膨らませ、個々のスキルを実際に表現できることを非常に嬉しく感じています。
プロジェクト成功の鍵—進行管理とチームワークの重要性
Q. アクティブラーニング教室の導入には、限られた期間での施工やさまざまな調整が必要だったと思いますが、プロジェクトを進める上でどのような点に気を配られましたか?
USS南波:まず重要だったのは、学校様の希望や目指す教育内容を細かくヒアリングし、それに基づいた設計を行うことです。はじめに“どういう教室を作りたいのか”、“どんな学びを実現したいのか”といったビジョンを明確にしていただいたことで、私たちの設計チームも具体的なイメージを持って進行できました。
山下様:そうですね。私たちも“これからの時代にふさわしい学びを実現するためには、どんな空間が必要か”ということをしっかり考えました。教室のデザインや設備の細部にまで要望を出させてもらい、そのたびにウチダシステムズさんから提案を返していただく形で、理想の教室に近づけていきました。
USS南波:工程管理にも細心の注意を払い、工程ごとに進捗を確認して調整を重ねました。夏休みという限られた工期の中で、内装から設備の取り付け、ICT機器の設定までを終わらせなければならなかったので、スケジュール管理には特に気を配りました。
-なるほど、限られた期間での工事が前提だったのですね。スケジュール調整に関して、特に苦労された点はありますか?
USS南波:やはり、夏休み期間のような学校行事が少ない時期に合わせる必要があったため、工期が短く、機器の調達や内装工事、さらにその後の設定までスムーズに流れを持たせることが難しかったですね。黒板やプロジェクターなど、特注品や納期がかかるものもありましたので、それらが工事に間に合うよう綿密に計画を立てて進めました。
山下様:実際、私たちの授業に影響を与えないよう配慮いただき、とてもありがたかったです。スムーズに引き渡しが完了したおかげで、授業に支障をきたすことなく新しい学びの場での授業をスタートできましたし、ウチダシステムズさんが教育の現場の視点に立って進めてくださったおかげで、私たちの理想を形にできたと感じています。
パートナーシップで描く理想の教室—ウチダシステムズを選んだ理由
Q. アクティブラーニング教室導入に際して、他社の提案もあった中でウチダシステムズを選んでいただいたと伺いました。選定の決め手となったポイントを教えていただけますか?
山下様:最初に提案を受けた時点で、デザインや機能が私たちのイメージに合致していたのが大きかったですね。通常の“教室らしさ”を超えた、開放的で、なおかつ学びに対するワクワク感を引き出すデザインを求めていましたが、ウチダシステムズさんの提案はまさにそのイメージ通りでした。
-ありがとうございます。ご選定後、継続して連携を続けさせていただいておりますが、同じパートナーとして長期的に関わり続けることの利点をどのようにお感じですか?
山下様:一貫したコンセプトのもとで進行できることが非常に大きいですね。アクティブラーニング教室の導入は始まりに過ぎず、将来的にはさらなる機能追加や教室の拡張も視野に入れています。パートナーが変わると、そのたびにゼロから話を始めることになりますが、ウチダシステムズさんとはすでに同じビジョンを共有しているので、新しい提案が出てもすぐに話が進みます。
USS南波:継続的な連携を通じて、お互いの理解が深まり、より細かな対応が可能になっているのもメリットです。日々の利用状況や課題を常に把握させていただいているので、必要なサポートを迅速に提供できる体制が整っています。
学びの効果を可視化する—未来に向けた教育評価とビジョン
Q. アクティブラーニング教室とSTEAMコースの導入により、生徒の学びの質が大きく向上したことと思いますが、その教育効果はどのように測定されているのでしょうか?
山下様:教育効果の測定には、いくつかの方法を導入しています。たとえば、生徒のコンピテンシー(能力)を数値化するツールを用いて、生徒たちの思考力や表現力、協働力の変化を定期的に確認しています。新入生の時点で基礎のレベルを把握し、1年間、2年間と経過するごとに評価し、彼らがどのように成長しているかを追跡しています。
-実際に数値化されたデータから、生徒の成長が見えてくると、教育の効果がより明確になりますね。STEAM教室やアクティブラーニング教室をつくる前後で変化は実感されていますか?
山下様:実際に生徒たちのコンピテンシー評価では、入学当初と比べて表現力や協働力において成長が見られます。もちろん個々の成長の度合いには差がありますし、STEAMコースも始まったばかりなので実績値としてはこれからですが、できるだけエビデンスのある説明をしたいと思っています。こういった数値を保護者や生徒本人にもフィードバックすることで、教育の方向性に納得してもらえるよう努めています。
-親御さんからの理解も重要な部分ですよね。
山下様:そうですね。実績はまだこれからなので、子どもをSTEAMコースに入学させるのは「賭けです」と言われることもあります(笑)我々も緊張感を持ってやっていますけれども、頻繁に面談をしたり、数値化したりすることで結果に結びつけることを意識しています。
経営的な部分でいうと、他の生徒から羨ましがられるコースにしたいというのは計画当初から考えていました。STEAMコースの存在が外にも広がることで、受験生やその親御さんへの魅力付けにしたいと思っています。
アクティブラーニング教室の成功の秘訣—導入のポイント
Q. これからアクティブラーニング教室の導入を検討している学校や教育関係者も多いと思いますが、成功のために意識すべきポイントは何でしょうか?
山下様:私がまず伝えたいのは、“教育のゴール”をはっきりさせることです。私たちの場合、『15年後の未来で生徒がどのような人材になっていてほしいか』を軸に、STEAMコースを構想しアクティブラーニング教室の構築を具体化しました。ゴールが曖昧だと、どのような教室や設備が必要かも定まらなくなるので、まずは何を目指すかをしっかりと明確にしてほしいです。
-確かに、目指すべき教育の方向性が見えていれば、それに応じた空間設計も進めやすくなりますね。
山下様:そうですね。また、アクティブラーニング教室は、デザインや設備の“見た目”だけではなく、実際に“どのように学びの場を活用するか”という視点が大事です。私たちは教室の活用方法についても細かく考え、先生方とも話し合いを重ねました。空間と学び方が一体となることで、生徒が自然と能動的に学ぶようになるのです。
-ちなみにアクティブラーニング教室をつくるのは先行投資になると思いますが、答申や学校内での進め方で苦労されたところはありますか?
山下様:正直「これは絶対必要なんです」としか言えないです(笑)これだけの投資が確かな成果を生むという前例がないので、比較対象がない分、説得には苦労しました。最後は理事長に根負けしてもらった感じです。
USS南波:私が内田洋行のFuture Class Room®*に理事長をお連れできていればもっと話は早かったのかなと今さらながら思います(苦笑)
* Future Class Room®= 学習者が主体的・能動的に学習に取り組む新しい教育・学習スタイル(アクティブラーニング)を実現するため、先端のICT環境、フレキシブルなファニチュア、多拠点との連携設備などを備えた、未来の学習空間
地域と未来に繋がる学校へ—西武台高等学校の目標と展望
Q. 今後さらに発展させていくための目標やビジョンについてお聞かせいただけますか?
山下様:将来的には、より多くの生徒がこの教育を受けられるように、教室の規模を少しずつ拡充していくことも考えています。ただし、まずは生徒数が増えないことには考えられません。旧来の教育方法も残っていくとは思いますが、アクティブラーニングと両方存在していくはずなので、このコースが地域での総本山となるような存在にしていきたいと思っています。
USS南波:アクティブラーニングはこれからどんどん増えていく一方で、黒板を使った授業や紙の教科書など、従来の教育手法も残り続けると私も思います。その上で、私が特に嬉しく思うのは、今まで1つしか選べなかった学び方に、新しい選択肢が加わっていくということです。子どもたち一人一人に合った学び方が選べる――これって、すごく素敵なことですよね。
山下様:そうですね。いままでの「学歴(学校歴)」が「学問歴」になっていくと思います。それを高校時代に早く見つけられる人材を育てたいと思っています。
-本日は貴重なお話をありがとうございました。未来をつくる教育を拡げていくことと、足元の学校経営の基盤づくりの両輪を大切にされる、西武台高等学校のさらなる発展を楽しみにしております。
事業内容:私立中学校・高等学校
所在地:埼玉県新座市中野2丁目9-1
導入商品:アクティブラーニング教室(Future Class Room®)
導入年月:2024年