オフィスをつくるためには、消防法・建築基準法・労働安全衛生法などの法律を理解し、遵守する必要があります。そこで、オフィスづくりで守らなければいけない法律の全容を把握できるようにご説明します。
オフィスづくりに必要な法知識
オフィスづくりにはさまざまな法律が関連しており、すべてを遵守しなければなりません。万が一、法律を守れていない場合には、災害時に従業員が命を落とす危険や、劣悪な労働環境が従業員の心身に悪影響を及ぼす恐れがあります。また、火災が発生して近隣に燃え広がった場合などに、大規模な賠償金を請求される可能性もあります。
そこで今回は、オフィスづくりに関わる重要な3つの法律である、消防法、建築基準法、労働安全衛生法、事務所衛生基準規則について解説します。
なお、オフィスに関連する法律はあまりにも多岐にわたるため、この記事内ですべての法律を網羅することはできません。しかし、概要や違反しやすいポイントを抑えておくことで、法律面をクリアできているかのチェックを行いやすくなります。今回は、その点に絞って解説をしていきます。
※特殊建築物は割愛しています
法人が使う建物の用途の種類は「事務所」と「店舗(不特定多数の利用客が利用)」が多くを占めますが、店舗の場合「特殊建築物」として扱われます。今回の記事では、オフィスに焦点を絞っているため、特殊建築物については割愛しています。
特殊建築物のほうが規制が多いため、事務所を店舗に変更する場合には、建築確認申請が必要になる点には注意が必要です。
オフィス工事前に必要な申請
オフィス移転・リニューアル前には、まず工事に関する申請書を提出する必要があります。オフィス移転を行う前に、オフィス移転会社やビルの管理会社に確認するとよいでしょう。
工事前には、以下の書類を消防局へ提出します。
- 防火対象物工事等計画届出書(内装工事を行う場合)
- 防火対象物使用開始届出書
- 防火管理者選任(解任)届出書/防火管理に係る消防計画書(従業員50名以上の場合)
オフィスに関連する建築基準法の規定
建築基準法は、地震や火災などの災害による被害を最小限に抑え、街のインフラや景観を守るために定められた重要な法律です。建築基準法が適用されるのは主に建築時であり、ビルの一室を借りてオフィスを運営している場合には、直接の影響は少ないでしょう。一方で、ビルのフロア全体を借りてオフィスを設ける場合には、建築基準法が定める通路幅などの基準を満たす必要があります。これは、避難経路や安全な移動を確保するために重要です。
なお、建築基準法が定める基準はあくまで最低限の安全基準だという点には注意しなければなりません。快適で機能的なオフィスをつくるためには、この基準に加え、さらに余裕を持った設計を行うことが求められます。
建築基準法の中で、オフィスに関わる代表的なチェックポイントは以下になります。
1.廊下・通路のチェック
建築基準法では、オフィスの廊下や通路に関する規定があります。
廊下(通路)幅に関する規定
- 片側に居室がある場合は1.2m以上の幅が必要
- 両側に居室がある場合は1.6m以上の幅が必要
また、避難時の直通階段までの距離に関する規定もあります。
フロアのどこにいても、規定の距離以内に直通階段に到着できる間取りにする必要があります。この距離のことを歩行距離といいます。
さらに、2つ以上の直通階段がある場合には、それぞれの部屋からの階段までの経路で重複する通路の距離にも規定があります。これを重複距離といいます。
この歩行距離・重複距離は階数や構造の材質などにより異なるため、下記は一例です。実際の歩行距離や重複距離は、オフィス移転会社や工事を行う業者と確認する必要があります。無窓の居室の場合、さらに短い距離にしなくてはならないことになっています。
直通階段までの距離に関する規定
(1000㎡以上の建築物・準耐火構造・不燃材料・準不燃)
居室のあるフロア | 歩行距離 | 重複距離 |
---|---|---|
14階以下(避難階を除く) | 60m(無窓の居室:40m) | 30m(無窓の居室:20m) |
15階以上 | 50m(無窓の居室:30m) | 25m(無窓の居室:15m) |
2.消防隊侵入口の窓の設置・運用
消防隊侵入口は建物を建てる際に各フロアに設けられますが、什器などで塞いでしまっている場合があります。オフィス移転・リニューアルの際だけではなく、日々オフィスを運用する中で、什器や備品を置いて塞がないよう周知する必要があります。
3.排煙設備の設置
以下のようなオフィスの場合、排煙設備が必要になります。排煙設備は、パーティションなどで遮断されないように設置する必要があります。
- 3階建て以上で延べ面積が500平米をこえるもの
- 延べ面積が1,000平米を超えるオフィスの200平米以上の居室
- 排煙上の無窓居室
※1と2に関しては、高さが31メートル以下の部分(目安8階程度)で、100平米以内ごとに防煙壁や防炎垂壁で区画された居室の場合は、設置が免除されます。
排煙の方法は、機械排煙と自然排煙の2種類に分かれます。法規はもとより、レイアウトにも影響を及ぼす可能性があるため、どちらの排煙方法なのかも確認しておきましょう。
【機械排煙】
ファンや排気装置などの機械設備を使って強制的に煙を外部に排出する方法。排煙ボタンを押すと、排煙口や排煙スリットからダクトを通って屋外へ排出される仕組みです。ビル建築時に設置されています。
【自然排煙】
煙排出用の窓を天井付近に設け、煙が上にのぼる性質を利用して屋外に排出する方法。自然排煙はオフィス設計会社による排煙計算と施工が必要になります。
オフィスに関連する消防法の規定
消防法は、火災などの災害を防ぐために必要な法律であり、災害が発生した場合でも被害を最小限に抑え、消防隊が迅速かつ効果的に消火活動を行えるよう規定されています。
以下に、消防法の中で、オフィスに関わる代表的なチェックポイントは以下になります。
1.設備の設置
消防法では、消火や避難に関連する設備に規定を設けています。設備の必要個数などは、オフィスの規模や構造により異なります。
以下の表は、必要な設備の例です。
項目 | 設備の具体例 |
---|---|
消火設備 | 消化器、スプリンクラーなど |
警報設備 | 自動火災報知器、非常放送設備など |
避難設備 | 誘導灯、非常階段など |
消防活動用設備 | 排煙設備、連結送水管など |
2.防火管理者の選任
一定以上の収容人数の建物では、防火管理者を選任する必要があります。防火管理者は、防火管理講習を修了した人か、防火管理者に必要な学識経験を持つと認定された人に付与できます。
飲食店、店舗などの特定用途の防火対象物:収容人数30人以上に1人
共同住宅、事務所など非特定用途の防火対象物:収容人数50人以上に1人
※飲食店とオフィスが両方入居している複合施設は、飲食店の基準が採用されます。
【防火管理者の業務】
- 消防計画の作成、届け出
- 避難訓練の実施
- 消防用設備の点検、整備
3.消防計画の作成
火災の防止や、火災時の避難・消火をスムーズにすることを目的として、防災計画を立てる必要があります。
【消防計画の主な内容】
- 放火防止対策
- 防災教育
- 消防訓練
- 消防設備の点検、整備
- 営業時間外の防火管理体制
オフィスに関連する内装制限(消防法・建築基準法)
オフィスは消防法と建築基準法により、内装制限が定められています。内装制限には「大規模建築物」「火気使用室」「無窓居室」などがあり、それぞれ必要な要件が定められています。内装制限がかかるかどうかはオフィスの規模や設備、利用用途などによります。
1.大規模建築物
大規模建築物に該当する建物には、内装制限がかかります。
以下のいずれかに該当するものが大規模建築物とされます。
- 3階建て以上で延べ面積が500平方メートル超
- 2階建てで延べ面積が1,000平方メートル超
- 1階建て(平屋建て)で延べ面積が3,000平方メートル超
大規模建築物の内装に必要な条件
- 居室の天井と壁(床から1.2m以下の部分は除く)に難燃以上の素材を使用すること
- 通路や階段の天井と壁に準不燃以上の素材を使用すること
2.火気使用室
火気使用室に該当する部屋には、内装制限がかかります。火気使用室は、ガスコンロ(IHは除く)が設置された給湯室や簡易キッチンなどが該当します。ただし、主要構造が耐火構造である場合は対象外となり、内装制限がかかりません。
火気使用室の内装に必要な条件
- 天井と壁に準不燃以上の素材を使用すること
3.無窓居室
1,2を踏まえた上で、無窓居室に該当する部屋は内装制限が厳しくなります。単に窓のない部屋がすべて無窓居室とされるわけではありません。
以下のすべてに該当する部屋が無窓居室となります。
- 天井の高さが6m以下
- 居室の床面積が50㎡以上かつ開口部(窓など)の面積が床面積の1/50未満
無窓居室の内装に必要な要件
- 居室の天井と壁に準不燃以上の素材を使用すること
- 通路や階段の天井と壁に準不燃以上の素材を使用すること
4.地盤面からの高さが31mを超えるフロア
地盤面からの高さが31mを超える高層のフロアには、内装制限がかかります。高層のフロアの内装は避難時に燃え広がりにくいように、高い防炎性能が必要です。
地盤面からの高さが31mを超えるフロアに必要な要件
- 床に防炎性能のある素材を使用すること(カーテンやロールスクリーンなどにも注意)
オフィスに関連する労働安全衛生法・事務所衛生基準規則
労働安全衛生法と事務所衛生基準規則は、従業員が健やかに労働するために必要な法律です。
オフィスが健やかに労働できる環境でなければ、業務効率も下がります。労働安全衛生法・事務所衛生基準規則にはオフィスの明るさや広さの規定がありますが、法律で定められているのは最低限の基準です。快適に業務を遂行するためには、法的に定められた数値よりもさらに余裕を持った設計が必要になります。
労働安全衛生法・事務所衛生基準規則で定められているオフィスに必要な要件の、代表的なものは以下になります。
1.照明
業務の内容により、定められている明るさの規定が異なります。
- 一般的な事務作業(PC作業など)をするエリアは300ルクス以上
- 付随的な事務作業をするエリアは150ルクス以上
2.気積(きせき)
従業員の数によって、必要なオフィスの広さが定められています。その広さは人数×気積(床面積×高さ)で換算されます。
- 気積は常時就業する従業員ひとりあたり10㎥以上
3.必要設備
従業員の数によって、休養室やトイレなどの設置義務や大きさの規定が生じます。
- 休養室:常時50人以上または常時女性30人以上の従業員がいるとき、床することのできる休養室または休憩所を男性用と女性用に区別して設ける
- トイレ:男女別に設け、従業員の数によって大便所と小便所を規定の数設置する
▼トイレについて詳しくはこちらの記事もご覧ください
オフィス工事に関連するアスベスト調査と申請
新しい建築物にアスベストを使うことは禁止されていますが、古い建物ではアスベストが使われている場合があります。アスベストは健康を害するため、工事の前に建物にアスベストが使われているかの調査と申請が必要です。
調査報告の義務化
令和5年10月1日以降、建築物の解体・改修工事の際にアスベスト(石綿)の有無に関する事前調査を、有資格者(一般建築物石綿建材調査者)が行うことが義務付けられました。オフィスの工事をする際には、必ず調査の手配をしておかなければいけません。また、調査費用や工事の際の対策などは施主費用となることが多く、注意が必要です。
調査と報告は、有資格者に依頼して、以下の流れで行います。
1:書面調査
施工図や設計図書などからアスベスト使用の記載がないか確認します。2006年以降アスベスト使用が規制されているため、建築年次を見て確認できる場合もあります。
2:目視調査
書面調査でわからない場合には、目視調査を行います。
3:分析
書面調査・目視調査でアスベストが使用されているかわからなかった場合、建材をサンプリングし、分析会社に分析を依頼します。分析の結果、アスベストが含まれている場合には、工事の際の養生や防護服の準備が必要になります。
4:報告書作成・申請
工事を行う前に、労働基準監督署と地方公共団体へ報告書を提出します。
オフィスづくりに関連する法律を守るためには?
オフィスづくりにはさまざまな法律が関わってきます。オフィスの規模や設備、業務などによって守らなければいけない要件が異なるため、それらを調べるだけでも手間がかかります。
もしオフィス移転・リニューアルをすべて自社内で行いたいという場合は、法律を読み込んでひとつひとつ確認していく必要があります。工事や調査をそれぞれの業者に依頼して、抜け漏れがないようにしなくてはいけません。
オフィス移転・リニューアルに慣れていないのであれば、オフィスづくりをトータルで任せることのできるコンサル会社に依頼することをオススメします。コンサル費用のコストが気になるようであれば、業者の手配や法的なチェックだけを依頼するのもよいでしょう。
オフィスの消防法・建築基準法・労働安全衛生法についてご相談ください
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