日東電工が「TOFROM YAESU TOWER」へ東京本社移転 なぜ八重洲?狙いとオフィス移転で予想される効果は?

TOFROM YAESU TOWER 低層部イメージ(出典:東京建物)
TOFROM YAESU TOWER 低層部イメージ(出典:東京建物)

日東電工の東京本社・東京支店の移転が、2026年8月17日に完了した。
移転先は「TOFROM YAESU TOWER」の50階。JR東京駅から八重洲地下街を通って、地下でそのままつながる場所だ。

この会社の本社は大阪にある。グランフロント大阪 タワーA の33階だ。大阪の会社が、東京駅の真ん前に東京の拠点を構え直したことになる。

公表されている移転の狙いは、顧客や取引先の利便性を高めること。あわせて、次の3つが動いている。

  • 東京本社の床面積が1割広がる
  • 粘着クリーナー「コロコロ」のニトムズなど、一部グループ会社の東京拠点を新しい東京本社に集める
  • 東京のイノベーションセンターを、<inovas TOKYO>として2026年10月1日にリニューアルオープンする

なぜ八重洲なのか。今回のオフィス移転の本当の狙いと、そこから期待できる効果を読み解いていく。

八重洲 どんな街?

昭和28年(1953年)当時の八重洲周辺(出典:東京建物百年史)
昭和28年(1953年)当時の八重洲周辺(出典:東京建物百年史)

東京駅の東側、丸の内の反対側の一帯が八重洲だ。

地名はオランダ人の名前から来ている。1600年にリーフデ号で漂着したヤン・ヨーステンが徳川家康に召し抱えられ、屋敷のまわりが彼の日本名「耶揚子(やよす)」にちなんで「やよす河岸」と呼ばれ、のちに「八代洲河岸」と書かれた。それが縮まって、いまの町名になった。八重洲地下街には記念像がある。

いまこの街を性格づけているのは、東京駅前で並走する3つの再開発だ。北から順に、八重洲一丁目東地区(TOFROM YAESU)、東京ミッドタウン八重洲八重洲二丁目中地区が並ぶ。

  • 東京ミッドタウン八重洲:2023年3月10日グランドオープン。地上45階・地下4階、延床面積約283,900㎡。バスターミナル東京八重洲の第1期エリアと区立小学校を内包
  • TOFROM YAESU:2026年2月28日にTOWER(B地区)が竣工、9月10日開業。THE FRONT(A地区)は地上10階・延床約12,220㎡
  • 八重洲二丁目中地区:敷地面積約2ha・延床面積約39万㎡、2029年1月完成予定。オフィス、商業、劇場、サービスアパートメント、インターナショナルスクールが入る

3棟がそろうと、東京ミッドタウン八重洲・八重洲地下街・京橋エドグランが地下でつながる。東京駅から銀座線の京橋駅まで、地上に出ずに歩けるようになる。

つまり八重洲は、「東京駅の裏」から、地下で歩き通せるオフィス街に変わる途中にある。

東京駅から地下でつながる立地

バスターミナル東京八重洲 第2期エリア(出典:東京建物)
バスターミナル東京八重洲 第2期エリア(出典:東京建物)

日東電工がリリースに書いた最寄り駅は、東京駅と日本橋駅の2つだけだ。

ただし、東京駅で乗れる路線と、足元のバスターミナルを足すと、この立地の意味は変わってくる。

この動線は、全国に工場と研究所を持つ会社にはありがたい話だ。大阪の本社から新幹線で来た役員も、地方の拠点から高速バスで来た社員も、雨に濡れずに50階まで上がれるからだ。海外グループ会社を70社抱えているので、海外からのお客様も同じ動線に乗る。

品川から移って失うものがあるとすれば、羽田への近さだろう。ただし、バスターミナルからは空港路線も出る。

東京駅の改札から自席まで、地上を歩くところがない。それが今回の移転で、いちばん変わったことだ。

このビルを選んだのはどんな会社か

オフィスロビー(出典:東京建物)
オフィスロビー(出典:東京建物)

公表されている入居企業のうち、本社機能を移す4社には、業種のちがいを超えて、ひとつ共通することがある(このほかにリバスタが2027年秋に35階へ本社を移すと発表している)。

51階建てのオフィス階に、紙の商社もクラウドの会社も縦に並んでいる。目を引くのは、開発した東京建物自身が入居者になっていることだ。

紙の専門商社、クラウドのシステム会社、化学メーカー、そして不動産デベロッパー。共通点は業種ではない。

この4社はいずれも、いくつかの場所に分かれていた東京の拠点を、1か所にまとめている。東京建物は3棟のビルから、日東電工はグループ会社の東京拠点から、それぞれ人を寄せてくる。

同じビルに本社機能を移す4社が、そろって「散らばっていたものを集める」ために動いた。

入居するビルはどんな造りか

檜物町スクエア(出典:東京建物)
檜物町スクエア(出典:東京建物)

このビルで最も語られているのは、上のオフィスではなく足元の作りだ。

再開発では、細い路地と小さな店が真っ先に消える。TOFROM YAESU TOWERはその逆をやった。店の多くを路面ぞいに置き、いくつもの通路で外の道とつないでいる。約1,200㎡の屋内広場「檜物町スクエア」も、通り抜けを前提にした作りだ。

店は68創業170年超の「割烹 嶋村」が装いを新たに再開業し、ミシュラン一つ星の天ぷら「天よこた 明日へ」、焼鳥「おみ乃 雫」が並ぶ。同じ施設に松屋、小諸そば、スターバックスもある。

つまり、取引先を連れて出る昼も、ひとりで15分で済ませる昼も、エレベーターを降りた場所で足りる。

オフィス階はどうか。基準階は760坪で、柱がない。部門を分けずに、一枚の床へ並べられる広さだ。

日東電工は床面積を1割広げた。人を増やすためではない。集約するグループ会社の東京拠点を、同じ床に載せるためだ。

日東電工はいま、何を目指しているのか

移転の2か月半前に、この会社は新しい中期経営計画を出している。「Nitto RISE 2028」だ。

掲げているのは2030年の姿で、言葉は「なくてはならないESGニッチトップ企業」。移転リリースの結びにも、同じ言葉が置かれている。

  • 対象期間:2026年度から2028年度までの3年間
  • 重点取組み:「ダブル認定による新しい成長の実現」。PlanetFlags™/HumanFlags™と、Global Niche Top™/Area Niche Top™の双方の認定基準を満たす製品・サービスを増やす
  • これを支える3つの施策:人的資本経営、デジタル利活用、脱炭素経営
  • 財務目標:2028年度に営業利益2,200億円・営業利益率20%・ROE14%、2030年度に営業利益2,400億円以上・営業利益率20%以上・ROE15%以上
  • 会社の規模:連結売上高10,282億円(2026年3月期)、連結従業員28,006名、グループ会社は国内18社・海外70社

経営陣も代わったばかりだ。赤木達哉氏が社長COOに就いたのは2026年4月1日。12年ぶりの社長交代となった。

髙﨑秀雄氏は会長CEOに回っている。赤木社長は社長交代の発表会見で「私が社長になってもニッチトップ戦略を変えるつもりはない」と述べた。

新しい社長が最初に出した中計と、その2か月半後の東京本社移転が、同じ年に並んだ。

会社の目標と社員の実感が重なる場所

この中計は、財務の目標と並べて、人の目標も置いている。

同社が「未財務目標」と呼ぶ8つの指標だ。いまはまだ業績の数字になっていないが、いずれ業績に変わっていくもの、という意味である。人にかかわるものは、そのうち2つ。

  • エンゲージメントスコア:2028年度84、2030年度85以上。従業員の「帰属意識・貢献意欲」「生産的な職場環境」「心身の健康・活力」の3要素で測る
  • チャレンジ比率:2028年度70%、2030年度85%以上。新たな価値創造に向けて自分の経験や可能性を拡げるチャレンジをした従業員の割合

チャレンジ比率のように、自社だけの指標を置く会社はほかにもある。先に同じ考え方をとってきたのが丸井グループだ。

丸井は「自ら手を挙げる」公募制をとっている。グループ横断の会議もプロジェクトも、参加者を公募で決める。2023年3月期に手を挙げた社員は4,359名。グループ全社員の約91%にあたる。

会議ひとつで見ると、規模はこうなる。中期経営推進会議は2016年1月に、幹部だけの場から手を挙げた社員へ開かれた。ほぼ毎月ひらき、毎回1,000名前後が応募して、選ばれたメンバーが対話する。

つまり、9割の社員がその年に何かしら手を挙げている。そのうえで、月に一度の会議には毎回1,000人が名乗りを上げる。

丸井はこの「手挙げの文化」と「グループ間異動の比率」を、自社の独自KPIとして開示している。人的資本経営を研究する田中弦氏は、比較できる指標だけでは自社の経営は語れず、独自の指標を立てて課題まで出すことが要ると話している。

日東電工のチャレンジ比率も、同じ性質の指標だ。ほかの会社と横に並べるためではなく、目指す姿と現実との差を自分で測るために置かれている。

丸井が2016年から積み上げてきたことを思えば、この種の指標は据えた翌年に動くものではない。

では、社員の側から見えている現在地はどうか。

Openworkの社員による会社評価スコアは3.61。回答者は428人で、同サイトの表示では上位3%に入る。

  • 高い項目:法令順守意識4.6、待遇面の満足度4.1
  • 低い項目:人材の長期育成2.6、社員の士気2.9
  • 残業時間は月21.8時間、有給休暇消化率は68.0%

会社は「チャレンジ比率」という指標をわざわざ置いた。社員がいちばん低くつけたのは「人材の長期育成」だった。

この2つは矛盾していない。会社が伸ばしたい項目と、社員が足りないと感じている項目が、同じ場所を指している。挑戦する社員を85%まで増やすなら、まず育つ環境を変える必要がある。

東京本社の床を1割広げ、グループ会社の拠点を同じ床に集めたのは、その第一歩と見てよい。人が同じ場所にいれば、育てる側と育つ側の距離は縮まるからだ。

まとめ

大阪に本社を置く会社が、東京の拠点を「集める場所」にした。グループ会社の東京拠点を同じ床に載せ、床を1割広げている。

集約は、席を寄せることではない。会う回数を増やすことだ。取引先と営業、育てる側と育つ側が顔を合わせる頻度が、同じフロアにいるだけで変わる。

企業がその場所を選ぶ理由は、社員の働きやすさだけではない。「この場所にいる意味」を、自分たちと取引先の両方に示す行為でもある。

この記事を書いた人

吉田 学

オフィスづくりの現場に12年。起業直後のマンションの一室から4,000坪超の本社移転まで、100件を超えるプロジェクトで経営者や総務・人事の方々と対話してきました。その経験を物差しに、公開情報から企業の「場づくり」の意図を読み解きます。

参照

日東電工

TOFROM YAESU/八重洲

同一ビル・周辺再開発

人的資本の比較(丸井グループ)


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