
日本人は働き者というイメージを持っている人も多いでしょう。
一方で、働き方改革の浸透により、残業時間の管理や有給休暇の取得促進も進んでいます。
今回は、日本の労働時間の変化を確認しながら、なぜ働きすぎが起きてしまうのかを考察します。
この音声コンテンツは、記事の文脈をAIが読み取り独自に対話を重ねて構成したものです。文章の読み上げではなく、流れや意図を汲み取った自然な音声体験をお届けします。※AIで作成しているため、一部誤りや不自然な表現が含まれる場合があります。
昔より働きやすくなったって本当?
20年ほど前、筆者はよく夜の12時を過ぎても会社に残っていました。業務に追われ、気づけば日付が変わっている。そんな日が珍しくありませんでした。休日出勤する同僚もたくさんいましたし、それを特に気の毒がる空気もなかったように思います。
筆者は車通勤だったこともあり、電車の終電を気にする必要がありませんでした。そのぶん、いつまででも会社に居座れてしまう環境であったとも言えます。今思えば、それが余計に残業を長引かせていた面もある気がします。
有給休暇にいたっては、消化するというより捨てるのが当たり前でした。付与された分をほとんど使わないまま失効させることに、当時は誰も疑問を持っていなかったように思います。
ところが、退職する数年前から、会社全体の空気は少しずつ変わっていきました。20時までに退社する人がすっかり珍しくなくなり、筆者自身も有給休暇を個人的に消化するようになりましたし、役職が上の人が休みを取ることも、以前ほど珍しくなくなっていきました。かつては、ほとんどの人がめったに休まなかったのに、です。
この変化を目の当たりにして、「働き方改革」という言葉がここ数年でずいぶん浸透したのだと実感していました。以前は「有給を取りたい」と言い出すこと自体に少し勇気がいる空気があったのに、退職する頃には、役職の上の人が「来週休みます」と当たり前のように言うようになっていました。むしろ、休みを取らない人のほうが「大丈夫かな」と気にかけられるくらいでした。
ただ、それが在籍していた職場だけのたまたまの変化なのか、それとも日本全体でも本当に「働きすぎ」が減っているのか、あらためて調べてみることにしました。
厚労省データで見る、労働時間のいま
実際のデータを見ると、この実感は思い込みではなかったようです。事業所規模30人以上の常用労働者について、年間の総実労働時間は1990年には2,052時間でしたが、2024年には1,714時間まで減っています。*1
単純計算でも、年間で300時間以上、月あたりに直すと20時間以上、労働時間が短くなっている計算になります。1日1時間の残業だとしても、月20日換算で20時間ですから、体感としてもかなり大きな差のはずです(図1)。

出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査 年平均結果の推移(2025年分結果速報)」P.13から筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/25cp/dl/sankou25cp.pdf
有給休暇の取得率にも、同じような変化が表れています。令和6年の取得率は66.9%となり、昭和59年に調査が始まって以降、もっとも高い水準になっています。
数十年単位で見ると、平成のある時期には40%台まで落ち込んでいた時期もあったようですが、そこを底に、ここ10年ほどは一貫して上昇を続けています(図2)。*2

出所)厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査の概況」P.8
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf
筆者の実感は、日本全体の傾向とも重なっていたということです。20年前と比べて、労働時間は着実に短くなり、有給休暇も以前よりずっと消化されるようになっています。
それでも「働きすぎ」が起きてしまう理由
とはいえ、「もう働きすぎの問題はすっかり解消した」と言い切ってしまうのも、少し早計かもしれません。
図3は令和3年度から7年度までの過労死等に関する支給決定数の推移です。*3

出所)厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html
過労死等に関する支給決定件数は、令和3年度の803件から令和7年度には1,310件へと増え、この5年間で最も多くなっています。脳・心臓疾患、精神障害のどちらもこの5年間で一貫して増え続け、過去最多となっています。*3
労働時間が平均では減ってきているのとは、まったく対照的な動きです。
労働時間は短くなっているのに、なぜ心を病んでしまう人は増えているのでしょうか。ここで、精神障害の労災が「何をきっかけに認められたのか」という内訳を見てみると、ヒントがありそうです。
令和7年度に支給が決定した事案を出来事別に見ると、多い順に、パワーハラスメント(222件)、セクシュアルハラスメント(127件)、顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(127件)、仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった(113件)と続きます。一方、「1か月に80時間以上の時間外労働」を単独の理由とするものは40件でした。*4
数字だけを並べると淡々として見えますが、一つひとつは、追い詰められた誰かの現実です。上位に並ぶのは、長く机に向かった時間ではなく、人間関係や、急に背負わされた責任の重さでした。
つまり、精神面での働きすぎは、必ずしも長時間労働だけが原因ではない、ということです。ハラスメントや、急な仕事量の変化といった心理的な負荷が、大きな比重を占めています。残業時間という「量」をいくら減らしても、そこには届きません。むしろ、早く帰れるようになったぶん見えにくくなった負荷が、静かに積もっている職場もあるのかもしれません。
時間だけでは測れない働きすぎ
振り返ってみると、筆者が深夜まで会社に残っていた頃の「働きすぎ」は、わかりやすく時間の長さで表れるものでした。だからこそ、労働時間を管理し、有給を取らせるという働き方改革は、その部分には確かに効いてきたのだと思います。データを見ても、労働時間は減り、有給の取得率は上がっています。
ですが、労災の件数は、それとは逆の方向を指しています。とりわけ精神障害の労災が増え続け、その引き金の多くがハラスメントや仕事量の急な変化だという事実は、「働きすぎ」という言葉が、時間だけでは測りきれないものになってきていることを教えてくれます。
思い返せば、筆者が深夜まで残っていた頃も、しんどさの正体は労働時間そのものだけではありませんでした。断りづらい空気、頼まれれば引き受けてしまう性分、帰る人から順に評価が下がっていくような無言の圧力など、時計では測れないものが、体を会社に縛りつけていたように思います。労働時間が短くなった今も、その種の重さは、形を変えて残り続けているのかもしれません。
もし今の職場で、時間の上では早く帰れているのに、なぜか疲れが抜けない、しんどいと感じることがあるなら、それは気のせいではないのかもしれません。まずは自分がどんな負荷を抱えているのかを、時間だけでなく、心のほうにも目を向けて確かめてみる必要がありそうです。

この記事を書いた人
田中ぱん
学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。
参考資料
*1
出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査 年平均結果の推移(2025年分結果速報)」P.13
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/25cp/dl/sankou25cp.pdf
*2
出所)厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査の概況」P.8
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf
*3
出所)厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html
*4
出所)厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」(業務災害に係る精神障害)P.27
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001723467.pdf
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