
仕事を抱え込んでしまう人は自分のことを「能力が低いのではないか」と責めてしまうことがあります。
しかし、実際には責任感の強さや真面目さ、周囲への配慮などが背景にあるケースも少なくありません。
近年の職業性ストレス研究では、業務量や責任などの「仕事の要求度」だけでなく、上司や同僚からの支援、相談のしやすさといった「仕事の資源」の重要性が指摘されています。
仕事の資源が不足すると、目標達成のためにさらに業務を抱え込み、ストレスや燃え尽きにつながる可能性があります。
この記事では、仕事を抱え込んでしまう人の特徴や心身への影響を医師の視点から解説するとともに、個人の工夫だけでなく、組織やオフィス環境としてどのような対策ができるのかについても紹介します。
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仕事を抱え込んでしまう人が必ずしも無能とは限らない
「仕事を抱え込む人は無能だから仕事が遅い」と考えられがちですが、必ずしもそうとはいえません。
むしろ責任感や真面目さから仕事を引き受けすぎてしまうケースもあります。
「仕事を抱え込む=能力不足」ではない
「抱え込むこと」と「能力」は必ずしも一致しません。
仕事をこなす能力や同じ仕事に要する時間には、個人差があります。
しかし、能力や時間の差だけが仕事を抱え込むことにつながるわけではありません。
例えば、あまりに多くの仕事を依頼されてしまうと、処理するスピードと仕事の量のアンマッチが生じ、結果として抱え込むという状態になることもあります。
また、同僚や上司などからのサポートが得づらい場合には、必然的に仕事を抱え込まざるを得ない状況に陥ってしまうこともあるでしょう。
このように、仕事を抱え込む背景には、個人の能力だけでなく、職場環境や業務量、周囲からの支援体制などさまざまな要因が関係していると考えられます。
仕事を抱え込みやすい人にみられる特徴
仕事を抱え込みやすい人のなかには、まじめで責任感が強く、争いごとを避けようとする人もいます。
特に管理職やリーダーなど責任ある立場では、その傾向が強まることがあります。
こうした方は仕事の能力が高く、上司からの評価も高く他者への配慮もできる場合も多いため、同僚や部下からの人望が厚いことが少なくありません。
しかし、責任を果たそうとがんばった結果、仕事を抱え込んでしまうケースもみられます。*1
仕事を抱え込んでしまう背景には「仕事の要求度」と「仕事の資源」のバランスがある
仕事を抱え込む背景を考える際には、仕事の要求度と仕事の資源という概念について理解しておくとよいでしょう。
Job Demands Resources (JD-R)モデルを知っておこう
近年、従業員の働きがいや労働意欲向上につながる概念として、ワークエンゲージメントが注目されています。*2
ワークエンゲージメントに影響を与えるメカニズムを説明する理論として、仕事の要求度-資源(Job Demands Resources;JD-R)モデルが知られています。
このモデルは、仕事の資源や仕事の要求度、個人の資源という3つの主な要素で構成されています。
具体的には、以下のようなモデルです。*3

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/19/backdata/2-3-08.html
このモデルにおける仕事の資源とは、仕事を円滑に進めるための支援や環境のことです。
相談できる上司や同僚、裁量をもって仕事を進められること、適切なフィードバックなどが含まれます。
また、仕事の要求度には納期のプレッシャーや精神的負担、責任の重さなどが含まれます。
さらに、個人の資源とは、自分なら困難な状況にも対処できるという心理的な力を指します。
例えば、自己効力感や楽観性、課題に積極的に取り組む姿勢などが挙げられます。*4
仕事を抱え込んでしまう背景を考える際にも、この3つの要素のバランスを理解することが重要です。
仕事の要求度と仕事の資源のバランスが重要
仕事の資源が豊富にあるときには、仕事の要求度(プレッシャーや精神的・肉体的負担など)の高さに関わらずワークエンゲージメントが高まることが指摘されています。*3
つまり、仕事による負荷が多少高くても、仕事に対する活力や熱意が高まり、没頭して作業に取り組むことができ、やりがいも感じやすくなるということです。
一方、仕事の資源が不足している場合、仕事の目標達成のためにより多くの仕事の要求を抱え込むことになってしまいます。*5
仕事が多い場合だけでなく、仕事のプレッシャーや精神的・肉体的な負担などが多くかかるような状況に陥ると、仕事を抱え込んでしまう方も少なくないのではないかと考えられます。
仕事の資源が不足している場合とは、例えば以下のようなケースが考えられます。*3
- 仕事の量をコントロールできない
- 仕事のパフォーマンスに対するフィードバックがない
- 上司によるコーチングが乏しい
- 社会的な支援がない
さらに、仕事の要求度が高い状態で仕事の資源が不足すると、ストレスが高まり、仕事を抱え込む悪循環に陥りやすくなると考えられます。
仕事のやりがいが失われ、仕事のパフォーマンスの低下や離職につながることも予想されます。
仕事を抱え込まないためにオフィスや組織ができる対策
それでは、ここからは従業員が仕事を抱え込まないようにするための対策について、オフィスや組織が取り組みやすいものを紹介します。
仕事を一人で抱えない仕組みを作る
社員が抱え込まないような仕組みづくりにとっては、それぞれの従業員に仕事がついているスタイルから、業務を「見える化」し、ほかの社員と仕事を分担したり標準化したりすることも有効です。*6
具体的には、従業員の業務時間の測定や仕事の量などの可視化があります。
見える化によって業務量にムリやムダ、ムラがあることが分かった際には、解消するための取り組みを行うこともできます。*7
こうした取り組みは、一人ひとりが過剰な仕事量を抱え込まないようにする一助となるでしょう。
ここで、筆者自身が効果的と感じた取り組みとして、大学病院での事例を紹介します。
筆者は医師であり、専門医としての知識のアップデートなどのため、月に1回ほど大学病院で研修を行っています。
医療はチームで行うものですが、医師ごとの業務量を正確に把握することは難しく、負担に偏りが生じることもあります。
実際に、筆者も特に経験が浅い頃にはいろいろな仕事を抱え込み、ついついオーバーワークになってしまうことがありました。
一方で、現在の大学病院の現場ではそうした業務の偏りを減らすための取り組みが行われています。
朝一のミーティングで依頼された患者さんのリストアップを行います。
そして、患者さんごとに担当医師を決め、治療方針やその日のうちに進める業務を明確にしています。
このような取り組みによって、それぞれの仕事の見える化ができ、かつ特定の医師に仕事が偏ることも防ぐことができるようになっています。
こうした仕組み作りなども、個人が仕事を抱え込まないようにするための方法としてとても有効かと感じます。
仕事の資源に着目した対策をとる
従業員の仕事の抱え込みを防ぎ、やりがいをもって働くことができる職場作りのためには、仕事の資源に着目した対策をとることも大切です。
仕事の資源としては、仕事に対するフィードバックや裁量、ソーシャル・サポートなどがあります。*2,3
なお、ソーシャル・サポートは、特に家族や友人、上司、同僚、部下などの人的支援を意味することが多いです。*8
例えば、「困ったときに相談できる上司がいる」「チームで情報共有がしやすい」「自分の裁量で仕事を進められる」「成果に対して適切なフィードバックが得られる」といった職場環境は、仕事の資源が豊富だといえます。
こうした職場環境を実現するための方法として、TeamsやSlackなどでこまめにコミュニケーションをとる、定期的に上司との気軽なミーティングをするなどの方法が考えられます。
オフィス環境を整えることも重要
ソーシャル・サポートは、人と人とのコミュニケーションの中で生まれます。
そのため、相談や情報共有がしやすいオフィスレイアウトや共有スペースを整備することも、仕事を抱え込まない職場づくりにつながります。
職場内のコミュニケーションの促進によって、従業員の負担感を減らし、労働の質の改善や従業員の働きがいの向上が期待できます。*9
例えば、従業員同士が自然に集まるような場所を設けることで、コミュニケーションをとることが可能となるでしょう。
オフィスの中央に共有スペースやロッカー、パントリー、文房具置き場などを配置すると、社員が自然に立ち寄る機会が増えます。
こうした場所では、ちょっとした会話や情報交換が生まれやすく、相談しやすい職場づくりにもつながります。*10
このように、オフィス環境の整備は、従業員同士のコミュニケーションを促進し、ソーシャル・サポートを得やすくすることにつながります。
ひいては、仕事を抱え込みにくい組織づくりにも役立つことが期待されます。
まとめ
仕事を抱え込んでしまう背景には、個人の性格や能力だけでなく、仕事の要求度と仕事の資源のバランスも関係しています。
仕事を抱え込む人のなかには、責任感が強く、高い能力を持っている人も少なくありません。
このような人のワークエンゲイジメントを高めることは、組織にとっても有意義です。
そのため、従業員一人ひとりの努力だけに任せるのではなく、相談しやすい職場づくりや情報共有しやすいオフィス環境を整え、仕事を抱え込みにくい組織づくりを進めていくことが大切です。

この記事を書いた人

木村 香菜
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医、日本人間ドック・予防医療学会認定医。
資料一覧
*1 プロジェクトリーダー昇格後に過重労働と責任感からうつ病になり自殺未遂に至った事例-働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳 厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/630/
*2 仕事の量的管理と質的管理が ワークエンゲージメントに与える影響について. 日本情報経営学会誌.2025;44(2):25-36. p26
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsim/44/2/44_25/_pdf/-char/ja
*3 第2-(3)-8図 仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて-厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/19/backdata/2-3-08.html
*4 仕事の量的管理と質的管理が ワークエンゲージメントに与える影響について. 日本情報経営学会誌.2025;44(2):25-36. p27
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsim/44/2/44_25/_pdf/-char/ja
*5 仕事の量的管理と質的管理が ワークエンゲージメントに与える影響について. 日本情報経営学会誌.2025;44(2):25-36. p28
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsim/44/2/44_25/_pdf/-char/ja
*6 関係法令等に関するパンフレットなど | 働き方・休み方改善ポータルサイト-厚生労働省
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/category1.php
PDF:働き方・休み方改善指標(パンフレット)(H28.9) p31
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category1/0102006.pdf
*7 介護分野における生産性向上の取組の進め方|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-elearning.html
*8 ソーシャルサポート:用語解説|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1639/
*9 産業医の職務としての長時間労働等の対策.産業医学ジャーナル.2009;32(2):12-20. p16
https://kokoro.mhlw.go.jp/paper/files/01-j32-2-horie-cyoujikan.pdf
*10 内閣人事局におけるオフィス改革の取組
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/officereform.html
PDF:令和3年度 内閣人事局の執務環境整備に関する調査業務 調査報告書 p35
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/pdf/01_220331.pdf
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