
リスキリングとリカレント教育は、いずれも「学び直し」として語られますが、なにか違いがあるのでしょうか。
あるとしたら、どのような違いでしょうか。
それらの違いを整理したうえで、筆者が教員としてリカレント教育に関わった経験も交えながら、学びがどのように個人のキャリアや意識の変化につながるのかを考えます。
10年後の自分をみすえ、どのような学びを選ぶべきでしょうか。
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リスキリングとは
まず、リスキングの定義と注目されるようになった背景、国の支援などをみていきましょう。
リスキリングの定義
リスキリングとは、「新しい環境に適応するために必要なスキルを習得すること」を指します。*1
リスキリングには、企業が主体となって、従業員に対してスキルの再開発、再教育をすることを指す場合と、個人が主体となって取り組む活動を指す場合がありますが、日本では業務との関連で語られることが多いようです。
リスキリングは世界の潮流
現在のように変化の激しい時代において、人の価値を高めることは、国の経済力を保ち、企業が成長し続けるために欠かせない要素です。*2
人の力を生かして変革を進めるには、新しい知識やスキルを学び直すリスキリングが重要になります。
最近は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によって、リスキリングへの関心が世界的に高まってきました。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、働き方の多様化とデジタル化が急速に進み、リスキリングは「あるとよいもの」から「なくてはならないもの」へと変わっています。
2020年、世界経済フォーラムは、2030年までによりよい教育、スキル、仕事を10億人に提供するためのイニシアチブ「リスキリング革命」を発表しました。
それ以降、欧米を中心にリスキリングが世界的潮流となりました。*1
日本でも加速する推進
三菱総合研究所は、2030年には、これまで日本の労働人口の多くを占めていた生産職や事務職の人材が210万人過剰になり、専門技術職は170万人不足すると推計しています。*2
デジタルスキルを持つ人材を中心としたこの需給ギャップの拡大を食い止めるには、余剰となることが見込まれている人材へのリスキリングが重要なカギとなります。
そうした変化に対応していく必要性から、日本政府によるリスキリングへの取り組みも加速しています。*1
政府は2022年、リスキリング支援に今後5年間で1兆円を投じる方針を打ち出しました。
これを受けて経済産業省は2023年、企業や産業の間で人材が円滑に移動できる環境を整えるとともに、デジタル分野などの学び直しへの投資を進めるため、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を創設しました。
この事業の目的は、リスキリングの推進と円滑な労働移動の実現を目的に、在職者が民間の専門家にキャリアを相談できる「キャリア相談」、その内容を踏まえて学び直しを行う「リスキリング講座の提供」、さらにその成果を活かした「転職支援」までを一体的に実施する体制を整備しています(図1)。*3

出所)経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業「次はどんな自分になろう。ジブン アップデート」(2025年8月1日)
https://careerup.reskilling.go.jp/worker/
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、リスキリング講座の受講費用の負担が軽減されます。
まず、講座を最後まで受講すると、受講料の半分(最大40万円)が補助されます。
さらに、その講座を活かして転職し、1年間働き続けた場合は、追加で受講料の5分の1(最大16万円)が補助されます。
2025年版「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太方針」)でも、幅広い労働者を対象に、実効性の高いリスキリング支援を進めていく方針を示しています。*4
具体的には、AIを含むデジタル分野のスキルを学べる講座を対象に、教育訓練給付金の対象を広げるほか、非正規雇用で働く人などが全国どこからでもオンラインで職業訓練を受けられる環境を整備することが盛り込まれています。
教育訓練給付金とは、労働者の主体的なスキルアップを支援するため、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了すると、その費用の一部が支給される制度です。*5
対象となる教育訓練は、そのレベルなどに応じて給付率が異なり、最大で受講費用の80%(年間上限64万円)、最大で受講費用の50%(上限25万円)、受講費用の20%(上限10万円)の3種類があります。
「骨太方針」では、中高年層のセカンドキャリアも見据えた学び直しやキャリア設計の支援を行うとともに、産学連携によるリスキリングプログラムを拡充し、毎年およそ3,000人が受講できる体制を整えていくことが明記されています。*4
さらに、「就職氷河期世代」を対象にした就労・処遇改善の一環として、リスキリング支援の充実を図ることも記されています。
リカレント教育とは
次に、リカレント教育についてみていきましょう。
リカレント教育の定義とリスキリングとの違い
リカレント教育は、元来は「いつでも学び直しができるシステム」という広い意味を持ちます。就職してからも、生涯にわたって教育と、仕事や余暇など他の活動を交互に行なうといった概念です。*6
「第11期中央教育審議会生涯学習分科会」での議論の整理では、リカレント教育を以下のように定義しています。
キャリアチェンジを伴わずに現在の職務を遂行する上で求められる能力・スキルを追加的に身に付けること(アップスキリング)や、現在の職務の延長線上では身に付けることが困難な時代のニーズに即した能力・スキルを身に付けること(リスキリング)の双方を含むとともに、職業とは直接的には結びつかない技術や教養等に関する学び直しも含む広義の意味で使用する。
図2 「第11期中央教育審議会生涯学習分科会」での議論の整理をふまえたイメージ図
出所)文部科学省「第12期中央教育審議会生涯学習分科会 参考資料・データ集」p.14
https://www.mext.go.jp/content/240418-mxt_syogai03-000035550_7.pdf
したがって、リスキリングはリカレント教育の一部であり、一方リカレント教育は、リスキリングを含むより広い概念ということになります。
リカレント教育の認知と重要性
1970年に経済協力開発機構(OECD)はリカレント教育を公式に採用し、1973年に「リカレント教育 -生涯学習のための戦略-」報告書が公表されました。
このことによって、リカレント教育は国際的に広く認知されることになりました。
文部科学省は、リカレント教育の目的として、以下の2点を挙げています。*7
- 社会の変化に対応し人生100年時代を豊かに生きるため
- 主体的なキャリア形成を図るため
最近、リカレント教育が注目されている背景の一つに、「人生100年時代」の到来があります。平均寿命が延び、長く生きることが当たり前になる中で、これまでのようなライフプランやキャリアプランでは対応しきれなくなってきています。
さらに日本では、技術革新によって社会のあり方が大きく変わる「Society5.0」の実現が進められています。
こうした変化の大きい時代をよりよく生きるためには、必要に応じて学び直しを行い、柔軟に対応できる力を身につけることが重要です。
そこで、学校教育を終えた後も、それぞれのライフステージに応じて学び直しを行い、仕事と学びを繰り返し、循環させることによって能力の向上を目指すことが重要な意味をもつようになってきました。
リカレント教育の課題と推進
社会人が大学などで学習しやすくするためには、以下のような取り組みが必要だと指摘されています。
- 費用の支援
- 時間の配慮
- 情報を得る機会の拡充
- 実践的かつオンライン活用など受講しやすいプログラムの拡充
- 企業の評価・環境整備
そこで、文部科学省は、厚生労働省や経済産業省と連携して、リカレント教育を推進するための施策に取り組んでいます。
文部科学省は、大学・専門学校等でのプログラムの開発や充実、地域単位のプラットフォーム構築など、学習基盤整備に取り組んでいます。
厚生労働省は、働く人や離職者に向けた職業訓練を行うとともに、教育訓練給付金による受講費の補助や、人材育成に取り組む企業への助成金などを通じて、学びやすい環境づくりを支援しています。
また、経済産業省では、デジタル人材の育成に向けた仕組みづくりを進めるとともに、上述のような、リスキリングとキャリアアップを一体的に支援する取り組みを行っています。
こうした施策を通じて、デジタル分野やグリーン分野といった成長領域で活躍できる人材を育て、日本全体の競争力を高めていくことを目指しています。
10年後の自分をみすえた学びとは
筆者はかつて、大学におけるリカレント教育の現場に教員として関わった経験があります。
それは、文部科学省による「社会人のための学び直しプロジェクト」(当時)の一環で、半年から1年という短期間で、大学の正規の日本語教員課程を修了できるプログラムでした。
この講座には、多くの社会人から応募があり、選考には頭を悩ませました。
受講生の年齢層は20代から70代と幅広く、最短の期間での修了を目指して昼間と夜間の授業を掛け持ちして履修する人もいましたし、仕事を終えた後、夜間授業のみに通う人もいました。
忙しい日常の中で時間をやりくりしながら学びに向き合う姿は非常に印象的で、「学び直したい」という強い意思が感じられるものでした。
その学びは単なる知識の習得にとどまりませんでした。
修了後には、日本語教師として新たなキャリアを歩み始めた人や、国際協力機構のプログラムに参加し、海外で活躍するようになった人もいます。
また、日本語教育には直接かかわらずに、その知見を活かして国際協力に尽力している人もいます。
中には、修了後すぐに新たな仕事に就くなど、比較的短期間でキャリアの転換を実現した人もいました。
このように、学び直しは必ずしも長期的な準備にとどまらず、状況によっては迅速なキャリアの変化にもつながり得ます。
このプロジェクトを通じ、学び直しが、その人の選択肢を広げ、人生の方向性そのものを変えていく様子を数多く目にしてきました。
一方で、こうした将来の選択肢を広げる学びと同時に、目の前の環境変化に対応するためのリスキリングも欠かせません。
デジタル化や業務の高度化が進む中では、現在の仕事に直結するスキルを更新し続けることが、キャリアを維持・発展させる基盤となります。
現在のような変化の激しい時代においては、「将来の可能性を広げる学び直し」と「今の仕事に対応するリスキリング」を組み合わせていくことが重要ではないでしょうか。
今の延長線だけで将来を考えるのではなく、「別の自分になる可能性」と「今の自分を磨く視点」の両方を意識して学びを選ぶことが、これからますます求められていくでしょう。
おわりに
リスキリングは、リカレント教育という広い枠組みの中に位置づけられる学びの一つです。
目の前の業務や環境変化に対応するためのスキル習得がリスキリングである一方、リカレント教育はそれを含め、人生全体を通じて学び続ける姿勢そのものを指します。
したがって、両者は対立するものではありません。
日々の仕事に直結する学びと、将来の可能性を広げる学び。その両方を意識して積み重ねていくことが、変化の激しい時代を生き抜く力となるでしょう。
10年後の自分をみすえ、いま必要な学びを見極めながら、長期的な視点で自分の成長を設計してみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
資料一覧
*1
野村総合研究所「用語解説 リスキリング」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/reskilling.html
*2
出所)世界経済フォーラム「リスキリングで、人を中心に据えた変革を」(2023年1月19日)
https://jp.weforum.org/stories/2023/01/jp-reskilling-japan-future-of-work-davos-2023/
*3
出所)経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業「次はどんな自分になろう。ジブン アップデート」(2025年8月1日)
https://careerup.reskilling.go.jp/worker/
*4
出所)内閣府 「経済財政運営と改革の基本方針 2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」(2026年6月13日)p.8, 35
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf
*5
出所)厚生労働省「キャリアアップ・キャリアチェンジを目指す労働者の皆さまへ 教育訓練給付金のご案内」p.1
https://www.mhlw.go.jp/content/001155029.pdf
*6
出所)文部科学省「第12期中央教育審議会生涯学習分科会 参考資料・データ集」p.14
https://www.mext.go.jp/content/240418-mxt_syogai03-000035550_7.pdf
*7
出所)文部科学省 マナパス「リカレント教育って?」
https://manapass.mext.go.jp/recurrent/necessity/
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